孤独な闇魔法使いに聖騎士の溺愛

天城

文字の大きさ
17 / 34

六話 呪いの子②




 これは研究者による検閲みたいなもので、悪用されそうな魔法は規制がかかるんだろう。闇魔法は特に理から外れた魔法が多いからな。
 これは皇宮に滞在していたって同じだけ待つことになったと思う。

「ゼファーの再呼び出しがあるまでここにいるしかないか……」

 手紙の暗号文を読み解いて、オレしか分からない内容をライオネルにも必要な部分だけ読み聞かせる。そして用が済んだら畳んで暖炉に放った。ボワッと一瞬で燃え尽きた手紙には、燃えやすい特殊加工がされている。ゼファーの得意な工作だ。
 オレは寝室のベッドに寝っ転がりながらため息をついた。

「そうか、良かった。――バージル! 仕立て屋を呼んでくれ」
「おい、要らないって言ってるだろ」
「できれば皇宮へ行く時の服だけでも。ずっと私の服を貸しているわけにもいかないだろう? 大きさも合わないだろうし……」
「……嫌味か?」

 先日オレが着た服は、ライオネルが子供の頃着ていた服らしい。体格の良いライオネルは成長期にすぐ服が合わなくなり、新しく仕立てる羽目になっていたという。それでゆとりのある形の似たような服がいくつもあった。その中のひとつが先日借りたアレだ。
 今もライオネルが子供の頃の普段着を借りている。
 子供の頃って……何歳の頃かは聞きたくねぇな。

「身体に合った服を着るのが一番良い、と私は思う」

 不意に手首を掴まれ、嫌な予感がした。しまった、ベッドに転がってると逃げ場がない。
 ライオネルはオレの左手を両手で包み、ベッドに乗り上げるようにして迫ってきた。待て待て、と片手で胸を押し返すがびくともしない。
 あの馬車の一件から、遠慮がなくなったのかライオネルとの距離が近くなった。無駄にその綺麗な顔を近付けるな! と叫びたくなるほどだ。オレが渋るとぐいぐい近寄ってきて返事を迫るようになったのは本当にダメな傾向だった。
 いつでも押し切れると思うなよてめぇ。

 今日もオレが頷くまで退かない気だなと奥歯を噛み締めて睨み上げるが、ライオネルは目を細めて笑っていた。その嬉しそうな顔が余計にムカついた。

「なんだよ」
「い、いや。ネロはもうしばらくここにいるんだ。いるんだから、服は、仕立てて良いだろう? 一度寸法さえ測ればいくつでも作れるから、面倒なのは一回だけだ。それ以上の手間はかけさせないから」

 いつもはハキハキと喋るライオネルの様子が、ちょっと変だ。気が急いているのか妙に早口だし、オレに口を挟む隙を与えない。いつもはこっちの発言を待つ余裕くらいあるのにな。

「何着作る気だよ」
「あっ、そういう意味ではなく!」

 思わず突っ込んだら、また慌てたようにオレの肩を掴んで言い訳をしてくる。
 本当に落ち着きがないな。どうしたんだ、何にそんな浮かれてるんだ? 散歩前の犬みたいなんだが。
 オレはというと、ライオネルにベッドに押し倒されて完全に乗っかられてる状態だ。こいつ、自分の姿勢がどうなってるか分かっていないらしいな。
 メイドが運悪く目撃したら真っ青になりそうな光景だ。
 オレはライオネルがアタフタしている隙に、軸にしている手を払いくるりと身体の位置を入れ替えた。相手をベッドにうつ伏せにさせ、ニヤリと唇の端を上げて見下ろしてやる。
 今度はオレがその背に乗っかって、悠々と頬杖をついてやった。柔らかそうな銀髪がベッドにふわりと広がる様子は、どこか艶っぽい。
 オレなんかにしてやられて恥ずかしいのか、ライオネルの耳は薄赤く染まっていた。

「寝技でオレに勝とうと思うなよ?」
「ネ、ネロ……」
「書斎借りるからな。夕飯まで誰も入ってくるな」

 ベッドから降りてそのまま廊下に向かうと、後ろで『分かった』と律儀に返事をするのが聞こえた。少し残念そうに聞こえたのは気のせいだろうか。いや、本物の犬じゃないんだから散歩はしないだろ?

 この屋敷の中で、ライオネルが主に使っているのは執務室だ。書斎は、書庫のような扱いを受けている。蔵書がしまわれているだけでほとんど人の出入りがないらしい。
 そこで先日、初級の魔術書をはじめ歴史書、教科書類などが積まれているのを発見した。おそらく昔ライオネルが学習に使ったものだろう。
 ここにある本は自由に読んでいいと言われているから、これからちょっとお勉強の時間だ。

 あの皇室の庭園で、皇帝や騎士団長たちと話していてオレが痛感したのは、己の知識不足だった。
 何しろオレの教育は田舎の村に住む子ども、しかも五歳程度で止まっている。一般常識なんか教えてくれる奴は誰一人いなかった。
 ゼファーは最低限の文字の読み書きと計算、魔法の基礎しか教えてくれなかったしな。仕事に必要だったからだろうし、その他には報復方法を仕込まれたくらいだ。
 あとは実地で学んできたものばかり。教養としての知識が必要なら今からでも手に入れるしかない。これから国を出ることになっても絶対役に立つものだ。しかも自分の金は一銭もかけず学んでいけるなら、できるだけ吸収していこうと思った。幸い辞書もあったので分からない単語は調べながら読める。

「さて、今日は歴史書からいくか……」

 分厚い本を開き昨日リボンを挟んでおいたページまで進む。
 栞代わりの銀色のリボンを横に置き、そこから視線で文字を追いはじめた。辞書を片手に、オレは時間も忘れて読書に没頭した。


感想 6

あなたにおすすめの小説

学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました

すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。 第二話「兄と呼べない理由」 セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。 第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。 躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。 そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。 第四話「誘惑」 セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。 愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。 第五話「月夜の口づけ」 セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

既読無視の年下幼馴染みの部屋に行ったら、アイドルグッズだらけだった。しかも推しは俺

スノウマン(ユッキー)
BL
国民的アイドルの朝比奈 春人(あさひな はると)はいつもラインを既読無視する年下の幼馴染、三上 直(みかみ なお)の部屋をとある理由で訪れる。すると部屋の中はアイドルのグッズだらけだった、しかも全部春人の。 『幼馴染の弟ポジジョン×国民的アイドルのお兄さん』になる前のドタバタコメディです。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。 貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。 一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。 そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。   ・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め ・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。 ・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。 ・CP固定・ご都合主義・ハピエン ・他サイト掲載予定あり