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六話 呪いの子②
これは研究者による検閲みたいなもので、悪用されそうな魔法は規制がかかるんだろう。闇魔法は特に理から外れた魔法が多いからな。
これは皇宮に滞在していたって同じだけ待つことになったと思う。
「ゼファーの再呼び出しがあるまでここにいるしかないか……」
手紙の暗号文を読み解いて、オレしか分からない内容をライオネルにも必要な部分だけ読み聞かせる。そして用が済んだら畳んで暖炉に放った。ボワッと一瞬で燃え尽きた手紙には、燃えやすい特殊加工がされている。ゼファーの得意な工作だ。
オレは寝室のベッドに寝っ転がりながらため息をついた。
「そうか、良かった。――バージル! 仕立て屋を呼んでくれ」
「おい、要らないって言ってるだろ」
「できれば皇宮へ行く時の服だけでも。ずっと私の服を貸しているわけにもいかないだろう? 大きさも合わないだろうし……」
「……嫌味か?」
先日オレが着た服は、ライオネルが子供の頃着ていた服らしい。体格の良いライオネルは成長期にすぐ服が合わなくなり、新しく仕立てる羽目になっていたという。それでゆとりのある形の似たような服がいくつもあった。その中のひとつが先日借りたアレだ。
今もライオネルが子供の頃の普段着を借りている。
子供の頃って……何歳の頃かは聞きたくねぇな。
「身体に合った服を着るのが一番良い、と私は思う」
不意に手首を掴まれ、嫌な予感がした。しまった、ベッドに転がってると逃げ場がない。
ライオネルはオレの左手を両手で包み、ベッドに乗り上げるようにして迫ってきた。待て待て、と片手で胸を押し返すがびくともしない。
あの馬車の一件から、遠慮がなくなったのかライオネルとの距離が近くなった。無駄にその綺麗な顔を近付けるな! と叫びたくなるほどだ。オレが渋るとぐいぐい近寄ってきて返事を迫るようになったのは本当にダメな傾向だった。
いつでも押し切れると思うなよてめぇ。
今日もオレが頷くまで退かない気だなと奥歯を噛み締めて睨み上げるが、ライオネルは目を細めて笑っていた。その嬉しそうな顔が余計にムカついた。
「なんだよ」
「い、いや。ネロはもうしばらくここにいるんだ。いるんだから、服は、仕立てて良いだろう? 一度寸法さえ測ればいくつでも作れるから、面倒なのは一回だけだ。それ以上の手間はかけさせないから」
いつもはハキハキと喋るライオネルの様子が、ちょっと変だ。気が急いているのか妙に早口だし、オレに口を挟む隙を与えない。いつもはこっちの発言を待つ余裕くらいあるのにな。
「何着作る気だよ」
「あっ、そういう意味ではなく!」
思わず突っ込んだら、また慌てたようにオレの肩を掴んで言い訳をしてくる。
本当に落ち着きがないな。どうしたんだ、何にそんな浮かれてるんだ? 散歩前の犬みたいなんだが。
オレはというと、ライオネルにベッドに押し倒されて完全に乗っかられてる状態だ。こいつ、自分の姿勢がどうなってるか分かっていないらしいな。
メイドが運悪く目撃したら真っ青になりそうな光景だ。
オレはライオネルがアタフタしている隙に、軸にしている手を払いくるりと身体の位置を入れ替えた。相手をベッドにうつ伏せにさせ、ニヤリと唇の端を上げて見下ろしてやる。
今度はオレがその背に乗っかって、悠々と頬杖をついてやった。柔らかそうな銀髪がベッドにふわりと広がる様子は、どこか艶っぽい。
オレなんかにしてやられて恥ずかしいのか、ライオネルの耳は薄赤く染まっていた。
「寝技でオレに勝とうと思うなよ?」
「ネ、ネロ……」
「書斎借りるからな。夕飯まで誰も入ってくるな」
ベッドから降りてそのまま廊下に向かうと、後ろで『分かった』と律儀に返事をするのが聞こえた。少し残念そうに聞こえたのは気のせいだろうか。いや、本物の犬じゃないんだから散歩はしないだろ?
この屋敷の中で、ライオネルが主に使っているのは執務室だ。書斎は、書庫のような扱いを受けている。蔵書がしまわれているだけでほとんど人の出入りがないらしい。
そこで先日、初級の魔術書をはじめ歴史書、教科書類などが積まれているのを発見した。おそらく昔ライオネルが学習に使ったものだろう。
ここにある本は自由に読んでいいと言われているから、これからちょっとお勉強の時間だ。
あの皇室の庭園で、皇帝や騎士団長たちと話していてオレが痛感したのは、己の知識不足だった。
何しろオレの教育は田舎の村に住む子ども、しかも五歳程度で止まっている。一般常識なんか教えてくれる奴は誰一人いなかった。
ゼファーは最低限の文字の読み書きと計算、魔法の基礎しか教えてくれなかったしな。仕事に必要だったからだろうし、その他には報復方法を仕込まれたくらいだ。
あとは実地で学んできたものばかり。教養としての知識が必要なら今からでも手に入れるしかない。これから国を出ることになっても絶対役に立つものだ。しかも自分の金は一銭もかけず学んでいけるなら、できるだけ吸収していこうと思った。幸い辞書もあったので分からない単語は調べながら読める。
「さて、今日は歴史書からいくか……」
分厚い本を開き昨日リボンを挟んでおいたページまで進む。
栞代わりの銀色のリボンを横に置き、そこから視線で文字を追いはじめた。辞書を片手に、オレは時間も忘れて読書に没頭した。
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