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十話 その瞳に映る③
ゼファーが王弟殿下ゼフィールだということを、ライオネルが知ったのはほんの数ヶ月前だ。
失明したという噂のライオネルを気にしてわざと捕まったゼファーは、ライオネルの目の治癒状態を確認した。そして『魔力感知』の能力の調整をしてやったんだとか。
それまで、強くなりすぎた力のせいでライオネルは極彩色の世界を生きていたらしい。見たい色には精度を上げ、見たくない色は遮断する、その調整をゼファーはライオネルに教えた。
ゼファーは研究者なので、出力は弱くても調整はオレより上手い。モノを教えるのにも最適な、優れた『指導者』なんだよな。悔しいことに。
これのせいでライオネルの探知は精度が上がっていったのか、と後で知ったオレは舌打ちするしかなかった。余計なことしやがってこのクソジジイが。
だがオレがライオネルの失明を気にしてたから様子見に行ったと言われては、オレは黙るしかなかった。それに死にかけのオレを見つけてもらえたのもそのお陰だ。文句は言えなくなった。
ゼファーが闇魔法の使い手なのは、もちろん血筋だ。陛下の『お祖母様』とやらの血と才能は、ほぼ全て孫のゼフィールに受け継がれたらしい。それでも風魔法のほうが使い易いと、ゼファーは概要だけ理解してほとんど闇魔法を使わなかった。
そこで現れたのがオレだった。ゼファーはどことなくオレの雰囲気が祖母に似ていると思い、試しに基礎を教えてみたと言っていた。
『俺の勘は当たるんだ。ほぼ勘で人生勝ってきたからな』
得意げにしていたゼファーはとりあえず一発殴っておいた。腹いせだ。
まあそんなわけで、ゼファーは自分以外の闇魔法の継承者を探していて、オレを見つけて王都に連れ帰ったというわけ。しかし宝石箱の結界がゼファーでは解けずその間オレを放置し、地獄の数ヶ月を過ごさせたことに関しては土下座で謝られた。
ちなみにカキアを含め『夜の牙』の連中は鉱山へ送られて、模範囚ならそのうち帰って来るかも、と言っていた。戻ってきたら『御庭番』としての修行を一からやり直すってさ。別にもう立場逆転してるしあいつらのことはどうでもいいんだが。
これを聞いて騎士団長とライオネルは人を殺しそうな顔をしていたので、無事に帰ってくるのかは分からないし、帰ってきたらきたで地獄が待っていそうな気はする。
「……ん?」
コツン、と窓に小石がぶつかるような音がした。読んでいた本を置いて窓に近づくと、窓の目の前まで広がる大木の枝にライオネルがぶら下がっていた。片手で。
どういう筋力してるんだお前は! と驚いてガタガタと窓を開ける。ライオネルはそのまま窓枠に飛びついて中に入ってきた。
「ネロ!」
「お、わっ……ライオネル?」
三、四日ぶりくらいに顔を見るが、ライオネルは半年離れてたくらいの大げさな抱擁をしてきた。ぎゅうっときつく抱き締められて流石に苦しい。
「身体は大丈夫か。ゼフィール様のお怒りは解けないが君に逢いたくて」
「騎士が盗賊みたいな真似すんなよ」
笑いがこみ上げてきて、オレは肩を揺らして笑った。
ライオネルは『花束の代わりに』と青い花の栞を差し出してくる。流石は貴族だ、洒落ている。オレがリボンを栞にしてるとバージルあたりから聞いたのか。
ライオネルは見慣れた白銀の鎧に身を包んでいて、帯剣もしていた。騎士団に復帰して仕事をしてきた後なんだろう。
それで木登りって、どういうことだ。意外過ぎて笑いが止まらない。
「逢いたかった、ネロ」
頬と、額と、鼻先へ順に柔らかな口付けが落される。
オレはこれから闇魔法の使い手として、勉強を終えたら騎士団長の下につくように言われていた。職場が一緒になることは、ライオネルも知ってるはずだ。
それなのにもう我慢出来ず逢いに来てしまうとは堪え性のない奴め。
頭ではそう思うのに、オレも嬉しくて胸の奥がむず痒くなってしまうんだから始末に負えない。
視線を合わせ、アイスブルーと紫の瞳をじっと見上げる。
その中に滲む温かな愛情を受け取りながら、ライオネルを引き寄せて唇を合わせた。軽く触れたのは一瞬で、すぐに口付けは深くなる。
溢れるほどの愛情をこめて、オレを抱き締めてくれる腕がある。
その煌めく瞳にオレを映してくれる男がここにいる。それだけで良かった。オレが欲しかったのはライオネルだったんだと、今は正直に言える。
「ライオネル、オレも逢いたかった」
【了】
ここまで読んで頂きありがとうございました!
→おまけのラブイチャに続きます!(そっちはエロ度高め)
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