最強魔王の死に戻り100回目!〜そろそろ生きるの諦めていいですか?〜

天城

文字の大きさ
23 / 42
一章

深淵の大穴・1

しおりを挟む






「……アーク様、アーク様、起きてください」

 意識がやけにゆっくりと覚醒する。
 ふとんの中がぽかぽかしていてまったく出る気になれない。

 小さな手がぐらぐらと魔王の身体を揺らしているが、瞼がくっついたまま開かなかった。
 ただ、魔王の名を呼ぶカーティスの声が不思議なほど近い気がする。

「約束でしょう、アーク様」

 んん、と小さく呻いて魔王は目を開けた。
 そうだ、約束だった。寝ぼけ眼を擦りつつ身体を起こそうとして、腕の中にフワフワした金髪がある事に気がつく。
 どうやらカーティスを抱きしめて寝ていたらしい。
 ふとんの中が温かかったのは、このせいか。さすが子ども体温だ。



 ……月日が経つのは早いもので、人間のカーティスは着々と成長し6歳になった。

 前世で養い親をしていた魔王はしっかりカーティスの誕生日も記憶している。
 孤児であろうとも名前と生年月日は生まれた時に近くの教会で登録するので、失うことはないのだ。

 早速プレゼントは何が良いかと希望を聞いたら『魔王様の一日をください』と言われた。
 一日ってなんだ?と思ったが詳しく聞いてみると、髪を梳かす仕事の間だけではなく、魔王としての仕事を休んで一緒にいて欲しいという事だった。

 するとルカからも、ちょうど良いので休暇をとってくださいとショックな事を言われた。

 これでも魔王は、今世は働いてないつもりだった。
 自堕落人生まっしぐらだからだ。朝も遅く起きて朝昼兼用の食事をし、お茶を飲みながら午後も部屋から出ずにダラダラする。
 夜も好きな時間に入浴タイムを設けて、好きなタイミングで勝手に寝ていた。夜更かしだってし放題だ。この上なく自堕落なルーティンだろう。

 なんてはた迷惑な魔王だ。ワガママし放題である。魔王宮の使用人たちには自堕落魔王と噂されているだろう。

 得意げにそう言った魔王を、ルカは『食事が朝昼一緒なら厨房も配膳の手間も一度で済みますし、部屋着のままで着替えの世話も全くいらないし、夜も風呂を用意しておけば勝手に入って知らない内に寝ている、なんて手のかからない魔王様だと言われているのをご存知ないですか?』と一息で言って撃沈させた。

 しかもこのルカは、午後のお茶を飲む魔王になんとなく執務をさせている張本人でもある。

 魔王が部屋にいると、書類を持ってきたルカがそれを読み上げ、ぼんやり可否の返事をしているうちに書類がどんどん流れていく。

 判子はルカの部下が魔王の返事を聞いてしっかり押していた。
 元老院の力が削がれた今、魔族の統治に関しては自由に出来ることばかりだ。
 魔族からの陳情をまとめ、精査して魔王の元に持ってくるルカも相当なやり手だった。

 そんなわけで、夕方には毎日の執務が終わっている魔王である。

 ふと、そんなに不真面目にだらだらやった書類仕事でいいのかと不安になるが、『完璧です、なんの問題もありません』とルカにキッパリ言われてしまった。

 そんなラクラクな魔王のお仕事もお休みして、一日カーティスと過ごす。それが誕生日なら気合いも入るだろう。
 何をしたらいいかな?何処に行って何して遊ぶかな?というのを昨夜泊まりがけでやってきたカーティスとベッドで話しているうちに、眠ってしまったらしい。

 窓の外はまだ作り物の太陽が出始めた頃で、空も薄明るい程度だったが、カーティスは完全に覚醒していた。若草色の瞳が元気にキラキラしている。

「約束は、一緒にいること、だよね?……いっしょに二度寝しようよ」
「わっ、!!」
 
 幼いカーティスは魔王の腕の中にすっぽり入ってしまうほどちっちゃいのに、キリッとした顔でひとを起こすから、可愛いが過ぎる。
 魔王は蕩けるような笑みを浮かべてカーティスを抱き寄せた。

 もう孫を前にしたおじいちゃん並にめろめろだった。
 腕の中のカーティスを抱き締めて柔らかい金髪に顔を埋め、すりすりと頬ずりする。
 『んんっ』と心地よい吐息が漏れて、無意識に欠伸がでた。はふ、とまた息をつき魔王はそのままスウッと寝入りかける。

「おーきーてー!」
「んんんっ、んむっ」

 なんとカーティスがゴンゴン頭突きしてきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...