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46話 為政者の威圧
「お義姉さま、なるべく手短かに済ませますわ」
アビゲイルの戸惑いを察し、シャノンが断りを入れる。
こうして事情聴取のため王城へ呼ばれたものの、そこに国王が臨席するとは聞いていなかった。
足組みしているランドルフの顔は、ホロウェイ王国の紙幣に印刷されている肖像画とそっくりだ。
(あの顔である限り、国王陛下という身分は隠せないわね)
そのランドルフが放つオーラに、どうしても緊張してしまうのを、アビゲイルは深呼吸でやり過ごす。
そして真正面にいるシャノンへ、先立って礼を述べた。
「このたびの事件の解決に、尽力してくださったシャノンさまには、感謝の念しかありませんわ」
アビゲイルは頭を下げると、用意された席へついた。
ランドルフの眼差しを感じるので、目は伏せたままだ。
うっかり視線が合ってしまえば、表情を取り繕うのに苦労する。
(ジスラン卿と一緒に、私も仮面をかぶる練習をするべきね)
これまで、社長代理を完璧に演じ続けているゴールドリッチに、指導してもらうのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、アビゲイルはシャノンの質問に答えていく。
多くは事実の再確認で、時系列に沿って、出来事を思い出すだけでよかった。
そして王都の大通りであった騒ぎについて、話しているときだった。
「飲んだ小瓶の中身は、本当に『ウラ』ではなかったのか?」
それまで黙っていたランドフルが、初めて口を開いた。
低すぎない声は、容姿よりも若々しく感じられる。
(国王陛下はこのために臨席していたのね)
『ウラ』について聞かれるだろうとは、予想していた。
だが、ランドルフ直々の尋問なのは想定外だ。
アビゲイルはこくりと唾を飲み込む。
(ヴィクトリア陛下との約束は、『ウラ』のレシピを公開しないことだったわ)
戦争を回避するためにも、そうするのが最適だと、アビゲイルも賛同している。
それ以外の裁量は、アビゲイルに任された。
しかし果たしてどこまで、『ウラ』の事情を隠していられるか。
アビゲイルは慎重に言葉を選んだ。
「違います。あれは『ユーラ』よりも強力な、滋養強壮の薬膳シロップでした」
「……『ウラ』について知っているのは、否定しないのだな」
探りを入れられたのがわかって、アビゲイルは顔を上げると、初めてランドルフと目を合わせる。
ホロウェイ王国の王族が持つ、赤紫色の瞳がそこにあった。
恐れ多い色だが、シャノンのおかげで耐性がある。
だから、アビゲイルはよどみなく答えられた。
「詳しかったのは、私の母です」
嘘ではない。
「その知識を、そなたは引き継いだのではないか?」
ランドルフの眼光は、鋭いままだ。
それに射貫かれているアビゲイルを、シャノンが心配している。
(これが為政者の、本気の威圧なのね)
ランドルフと比べれば、ヴィクトリアとの深夜の面会は、かわいいものだった。
ピリピリと肌にささる緊張感に、アビゲイルの頬が引きつりかける。
「私は……『ウラ』を作ったことはありません」
これも嘘ではない。
レシピは知っているから、作ろうと思えば作れる。
だが、これまでアビゲイルは、『ウラ』を調合したことはない。
(『エーテル』の効果を調べるには、『ウラ』がなくてもいい。お母さまが度重なる実験の末に見つけた、画期的な方法によってね)
ランドルフを警戒して、アビゲイルの受け答えは慎重を極めた。
その張りつめた間合いを、ランドルフ本人が崩す。
「なにやら、解釈の余地がある言葉だな」
ランドルフは腕組みをし、背もたれに身を任せる。
そして、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「さては……儂らより先に、ヴィクトリア女王が接触したか?」
とっさにアビゲイルは奥歯を噛み、表情筋が動くのをこらえるも、ランドルフには通用しない。
「そなたの母が、ヴァイツ王国の出身であることは、調べればわかる。まれにみる才能の持ち主であったそうだな」
それは確信に満ちた口調だった。
「そのような者を重用せず、どうして国外へ出したのか。不思議だったが、『ウラ』が絡んでいるのだろう?」
「っ……!」
「なんらかの使命を帯びて、そなたの母は我が国へやってきた。儂はそう睨んでいる」
身をひそめるのに、ホロウェイ王国は都合がいい。
どこの国とも対立していない中立国だし、ヴァイツ王国と隣接しているため、何かあればすぐに戻れるのだ。
「しかし……そなたの母は、若くして亡くなっている。志半ばでの死だったのではないか。とすると、使命を娘が継いだと考えるのが自然だ」
ランドルフの推察力に、アビゲイルは舌を巻く。
だが、すべてを暴かれるわけにはいかない。
(『ウラ』のレシピはもとより、お母さまの悲願だった『エーテル』も、切り札として隠しておきたい)
けれど黙ったままでは、この場をやり過ごせそうにない。
ある程度の情報は、犠牲にするしかなかった。
(お母さまが『命の伴侶』だったことを、明かしてしまう?)
家族にすら話せないという、秘匿性を利用しよう。
アビゲイルが『ウラ』のレシピを知ってしまったのは、偶然だ。
(お母さまは最期まで、私が巻き込まれるのを怖れていた)
アビゲイルは素早く頭の中で、情報の取捨選択をした。
そして、出してもいいと判断した手札で勝負する。
「母が背負っていた使命については、先日、ヴィクトリア陛下に教えてもらいました」
女王の名前が登場し、ランドルフが前のめりになる。
アビゲイルはもったいぶらず、さっさと白状した。
「『命の伴侶』と言うそうです。ですが私も、それまで知りませんでした」
本当のことを混ぜて話すと、真実っぽく聞こえるものだ。
アビゲイルは、『ウラ』を伝承し続けるための、『命の伴侶』の仕組みを解説した。
それを聞いて、ランドルフが納得したように頷く。
「なるほど。ハイデマリー王女は、そなたが『ウラ』の事情に精通している、と供述していたが――」
「母は『ウラ』のレシピについて、口外したことはありません。ただし、『ウラ』と『ユーラ』の味は似ているので、私が良からぬことに巻き込まれぬよう、ある程度の注意点を明かしてはくれました」
「そこに、『ウラ』の有害性に関する情報が含まれていた、というわけか」
ランドルフが思考を始める前に、シャノンが助け舟を出す。
「お父さま、お義姉さまは被害者なのよ。これ以上の尋問は――」
「……わかっておる。どうせ知っていたところで、女王に口止めされているはずだ。ここで『ウラ』のレシピが手に入るとは、儂も思っておらぬ」
いつの間に我が国に忍び込んだのやら、なかなか女王も侮れぬとランドルフは苦笑いをする。
シャノンがアビゲイルに向き直った。
「お義姉さま、だまし討ちのようなことをして、ごめんなさい。だけど今日の供述は、国王陛下の名のもとに記録に残されるわ。これでもう、狙われなくなるはずよ」
アビゲイルは何も知らない。
そう書き記されれば、身の安全が確保されるのではないか。
黒幕を追うな、と厳命されたシャノンにできる、精いっぱいの計らいだった。
「ありがとうございます。重ね重ね、シャノンさまにはお世話になって――」
「いいんです。だって私たち、家族ですもの」
はにかむシャノンの愛らしさは、殺伐としていた空気を和らげる。
アビゲイルも改めて、家族という言葉に温かみを感じた。
(血のつながりだけが、家族の証じゃない)
ロッティやジスランとの関係を、認められたようで嬉しい。
ふわふわした気持ちで王城を後にするアビゲイルを、誰かが背後から呼び止めた。
◇◆◇◆
「ロッティ! 会いたかったよ!」
アビゲイルたち一行が、ミストラル帝国の伯爵領にある湖に着くと、そこにはすでにカミーユが待ち構えていた。
相変わらずピンク色の髪と黄金の瞳が、眩いばかりに輝きを放っている。
「かみーゆ!」
新しいドラゴンの服を身につけたロッティは、カミーユ目掛けて駆けていく。
その姿を、アビゲイルとジスランは、微笑ましく見守った。
ロッティはカミーユと手をつなぎ、さっそく湖へ遊びに行く。
それにカミーユの侍女たちが付き添った。
「アビー、疲れてないか?」
ジスランが自然なしぐさで、手を差し伸べる。
「ええ、大丈夫です」
アビゲイルもまた、ためらうことなくジスランの手をとる。
誘拐事件があって以降、アビゲイルたちは多くの時間をともにした。
そのおかげでジスランは、アビゲイルを愛称で呼ぶのにも慣れたのだ。
「湖畔に、休憩する東屋がある」
ジスランに導かれ、アビゲイルは木漏れ日の中を歩く。
さくさくと下草を踏む感触が心地よかった。
「やっと穏やかな顔つきになったな」
「っ……!?」
指摘されて、アビゲイルは自分の頬に手をあてる。
「表情に出ていましたか?」
「なにか心配事があるのだろうな、と思っていた」
事情聴取から戻ったアビゲイルが、考え込んでいるのをジスランは察していた。
だがそれを、無理やり聞き出そうとはしなかった。
「アビーは強い。おそらく、多くのことを自分で解決できるだろう」
ロッティの保護者として頼もしいと言わんばかりに、ジスランがふわりと微笑む。
なぜかそれに、アビゲイルの心臓がとくんと跳ねた。
「でも、助けがいるときは、遠慮なく頼ってほしい。俺にアビーとロッティを、護らせてくれ」
じわり、と胸が熱くなった。
ジスランになら、打ち明けてしまっても、いいのかもしれない。
アビゲイルがひとりで抱え込むには、相手が大きすぎる。
(巻き込みたくなかった。ジスラン卿はミストラル帝国の貴族だし、知らずにいたほうがいいと思っていたけれど……)
アビゲイルの身に、万が一のことが起きれば、ロッティを任せる相手はジスランになる。
今から心構えをしていてもらえば、いざというときにも安心できる。
「……聞いてもらえますか?」
そしてアビゲイルは思い出す。
第三王子に呼び止められた、あの日の出来事を――。
アビゲイルの戸惑いを察し、シャノンが断りを入れる。
こうして事情聴取のため王城へ呼ばれたものの、そこに国王が臨席するとは聞いていなかった。
足組みしているランドルフの顔は、ホロウェイ王国の紙幣に印刷されている肖像画とそっくりだ。
(あの顔である限り、国王陛下という身分は隠せないわね)
そのランドルフが放つオーラに、どうしても緊張してしまうのを、アビゲイルは深呼吸でやり過ごす。
そして真正面にいるシャノンへ、先立って礼を述べた。
「このたびの事件の解決に、尽力してくださったシャノンさまには、感謝の念しかありませんわ」
アビゲイルは頭を下げると、用意された席へついた。
ランドルフの眼差しを感じるので、目は伏せたままだ。
うっかり視線が合ってしまえば、表情を取り繕うのに苦労する。
(ジスラン卿と一緒に、私も仮面をかぶる練習をするべきね)
これまで、社長代理を完璧に演じ続けているゴールドリッチに、指導してもらうのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、アビゲイルはシャノンの質問に答えていく。
多くは事実の再確認で、時系列に沿って、出来事を思い出すだけでよかった。
そして王都の大通りであった騒ぎについて、話しているときだった。
「飲んだ小瓶の中身は、本当に『ウラ』ではなかったのか?」
それまで黙っていたランドフルが、初めて口を開いた。
低すぎない声は、容姿よりも若々しく感じられる。
(国王陛下はこのために臨席していたのね)
『ウラ』について聞かれるだろうとは、予想していた。
だが、ランドルフ直々の尋問なのは想定外だ。
アビゲイルはこくりと唾を飲み込む。
(ヴィクトリア陛下との約束は、『ウラ』のレシピを公開しないことだったわ)
戦争を回避するためにも、そうするのが最適だと、アビゲイルも賛同している。
それ以外の裁量は、アビゲイルに任された。
しかし果たしてどこまで、『ウラ』の事情を隠していられるか。
アビゲイルは慎重に言葉を選んだ。
「違います。あれは『ユーラ』よりも強力な、滋養強壮の薬膳シロップでした」
「……『ウラ』について知っているのは、否定しないのだな」
探りを入れられたのがわかって、アビゲイルは顔を上げると、初めてランドルフと目を合わせる。
ホロウェイ王国の王族が持つ、赤紫色の瞳がそこにあった。
恐れ多い色だが、シャノンのおかげで耐性がある。
だから、アビゲイルはよどみなく答えられた。
「詳しかったのは、私の母です」
嘘ではない。
「その知識を、そなたは引き継いだのではないか?」
ランドルフの眼光は、鋭いままだ。
それに射貫かれているアビゲイルを、シャノンが心配している。
(これが為政者の、本気の威圧なのね)
ランドルフと比べれば、ヴィクトリアとの深夜の面会は、かわいいものだった。
ピリピリと肌にささる緊張感に、アビゲイルの頬が引きつりかける。
「私は……『ウラ』を作ったことはありません」
これも嘘ではない。
レシピは知っているから、作ろうと思えば作れる。
だが、これまでアビゲイルは、『ウラ』を調合したことはない。
(『エーテル』の効果を調べるには、『ウラ』がなくてもいい。お母さまが度重なる実験の末に見つけた、画期的な方法によってね)
ランドルフを警戒して、アビゲイルの受け答えは慎重を極めた。
その張りつめた間合いを、ランドルフ本人が崩す。
「なにやら、解釈の余地がある言葉だな」
ランドルフは腕組みをし、背もたれに身を任せる。
そして、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「さては……儂らより先に、ヴィクトリア女王が接触したか?」
とっさにアビゲイルは奥歯を噛み、表情筋が動くのをこらえるも、ランドルフには通用しない。
「そなたの母が、ヴァイツ王国の出身であることは、調べればわかる。まれにみる才能の持ち主であったそうだな」
それは確信に満ちた口調だった。
「そのような者を重用せず、どうして国外へ出したのか。不思議だったが、『ウラ』が絡んでいるのだろう?」
「っ……!」
「なんらかの使命を帯びて、そなたの母は我が国へやってきた。儂はそう睨んでいる」
身をひそめるのに、ホロウェイ王国は都合がいい。
どこの国とも対立していない中立国だし、ヴァイツ王国と隣接しているため、何かあればすぐに戻れるのだ。
「しかし……そなたの母は、若くして亡くなっている。志半ばでの死だったのではないか。とすると、使命を娘が継いだと考えるのが自然だ」
ランドルフの推察力に、アビゲイルは舌を巻く。
だが、すべてを暴かれるわけにはいかない。
(『ウラ』のレシピはもとより、お母さまの悲願だった『エーテル』も、切り札として隠しておきたい)
けれど黙ったままでは、この場をやり過ごせそうにない。
ある程度の情報は、犠牲にするしかなかった。
(お母さまが『命の伴侶』だったことを、明かしてしまう?)
家族にすら話せないという、秘匿性を利用しよう。
アビゲイルが『ウラ』のレシピを知ってしまったのは、偶然だ。
(お母さまは最期まで、私が巻き込まれるのを怖れていた)
アビゲイルは素早く頭の中で、情報の取捨選択をした。
そして、出してもいいと判断した手札で勝負する。
「母が背負っていた使命については、先日、ヴィクトリア陛下に教えてもらいました」
女王の名前が登場し、ランドルフが前のめりになる。
アビゲイルはもったいぶらず、さっさと白状した。
「『命の伴侶』と言うそうです。ですが私も、それまで知りませんでした」
本当のことを混ぜて話すと、真実っぽく聞こえるものだ。
アビゲイルは、『ウラ』を伝承し続けるための、『命の伴侶』の仕組みを解説した。
それを聞いて、ランドルフが納得したように頷く。
「なるほど。ハイデマリー王女は、そなたが『ウラ』の事情に精通している、と供述していたが――」
「母は『ウラ』のレシピについて、口外したことはありません。ただし、『ウラ』と『ユーラ』の味は似ているので、私が良からぬことに巻き込まれぬよう、ある程度の注意点を明かしてはくれました」
「そこに、『ウラ』の有害性に関する情報が含まれていた、というわけか」
ランドルフが思考を始める前に、シャノンが助け舟を出す。
「お父さま、お義姉さまは被害者なのよ。これ以上の尋問は――」
「……わかっておる。どうせ知っていたところで、女王に口止めされているはずだ。ここで『ウラ』のレシピが手に入るとは、儂も思っておらぬ」
いつの間に我が国に忍び込んだのやら、なかなか女王も侮れぬとランドルフは苦笑いをする。
シャノンがアビゲイルに向き直った。
「お義姉さま、だまし討ちのようなことをして、ごめんなさい。だけど今日の供述は、国王陛下の名のもとに記録に残されるわ。これでもう、狙われなくなるはずよ」
アビゲイルは何も知らない。
そう書き記されれば、身の安全が確保されるのではないか。
黒幕を追うな、と厳命されたシャノンにできる、精いっぱいの計らいだった。
「ありがとうございます。重ね重ね、シャノンさまにはお世話になって――」
「いいんです。だって私たち、家族ですもの」
はにかむシャノンの愛らしさは、殺伐としていた空気を和らげる。
アビゲイルも改めて、家族という言葉に温かみを感じた。
(血のつながりだけが、家族の証じゃない)
ロッティやジスランとの関係を、認められたようで嬉しい。
ふわふわした気持ちで王城を後にするアビゲイルを、誰かが背後から呼び止めた。
◇◆◇◆
「ロッティ! 会いたかったよ!」
アビゲイルたち一行が、ミストラル帝国の伯爵領にある湖に着くと、そこにはすでにカミーユが待ち構えていた。
相変わらずピンク色の髪と黄金の瞳が、眩いばかりに輝きを放っている。
「かみーゆ!」
新しいドラゴンの服を身につけたロッティは、カミーユ目掛けて駆けていく。
その姿を、アビゲイルとジスランは、微笑ましく見守った。
ロッティはカミーユと手をつなぎ、さっそく湖へ遊びに行く。
それにカミーユの侍女たちが付き添った。
「アビー、疲れてないか?」
ジスランが自然なしぐさで、手を差し伸べる。
「ええ、大丈夫です」
アビゲイルもまた、ためらうことなくジスランの手をとる。
誘拐事件があって以降、アビゲイルたちは多くの時間をともにした。
そのおかげでジスランは、アビゲイルを愛称で呼ぶのにも慣れたのだ。
「湖畔に、休憩する東屋がある」
ジスランに導かれ、アビゲイルは木漏れ日の中を歩く。
さくさくと下草を踏む感触が心地よかった。
「やっと穏やかな顔つきになったな」
「っ……!?」
指摘されて、アビゲイルは自分の頬に手をあてる。
「表情に出ていましたか?」
「なにか心配事があるのだろうな、と思っていた」
事情聴取から戻ったアビゲイルが、考え込んでいるのをジスランは察していた。
だがそれを、無理やり聞き出そうとはしなかった。
「アビーは強い。おそらく、多くのことを自分で解決できるだろう」
ロッティの保護者として頼もしいと言わんばかりに、ジスランがふわりと微笑む。
なぜかそれに、アビゲイルの心臓がとくんと跳ねた。
「でも、助けがいるときは、遠慮なく頼ってほしい。俺にアビーとロッティを、護らせてくれ」
じわり、と胸が熱くなった。
ジスランになら、打ち明けてしまっても、いいのかもしれない。
アビゲイルがひとりで抱え込むには、相手が大きすぎる。
(巻き込みたくなかった。ジスラン卿はミストラル帝国の貴族だし、知らずにいたほうがいいと思っていたけれど……)
アビゲイルの身に、万が一のことが起きれば、ロッティを任せる相手はジスランになる。
今から心構えをしていてもらえば、いざというときにも安心できる。
「……聞いてもらえますか?」
そしてアビゲイルは思い出す。
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