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宝船

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「はあ……またなの?」

 私はこの国の王太子妃なんだけど、もう何度も死に戻りのループを繰り返しているわ。

 夫の王太子にいつも冤罪で処刑されるのよ。

 しかも結構、どうでもいいことでね!

 前回の理由はなんだったかしら?

 確か友好国使節団の一員として来た王女さまに、醜い嫉妬をしたとかなんとか?

 そうそう、夜会で夫の王太子と続けて何曲も踊った王女さまを、怖い目で睨んだと因縁をつけられたんだったわ!

 そんなことしませんから!

 あんなクズ夫、熨斗をつけてくれてやるから!

 私がどうしてこんなにキレッキレなのかと言うと、また死んだと思って目が覚めたら初夜に巻き戻ってたからよ!

 もーうーいーやー!!!

 私の処女膜は何度アイツに破られればいいのよ!

 処女なのに……私は既にありとあらゆる体位を経験済みなのよ。

 そろそろ四十八手とかをコンプリートしそうなんだから!

 どうかしてるわ!!!

 キレ散らかしてるうちにアイツがやってくる。

 時間きっかりなのよ、毎回。

 そして言うセリフも一緒、『素敵な初夜にしよう』よ!

 と思ったら、なんだか様子が違ったわ。

「初夜は今日が最後だ」

「は?」

「もう巻き戻らない」

「え?」

「君が本当の王太子妃になるための試練だったんだ。最近は巻き戻り後に、妃が別人格になったりするらしくてね」

 なんですって!?

 王族の秘技とかでループしてたの!?

 しかも、どの時間に巻き戻すか細かく選べるって、うっかりこぼしたわ!

 最悪!!!

 コイツ、絶対に私の処女膜を破るの楽しんでたでしょ!

 変態! 変態!

 離婚よ離婚!

「最後の初夜は宝船にしよう。縁起が良さそうだろう?」

「知らない! 知らない! あんたみたいなクズ夫と結婚なんてゴメンだわ!」

「ほら、そう言わないで。体の相性が抜群なことは分かっているんだから」

「はーなーしーてー!」

 結局この夜、私はコイツと宝船とやらをキメて、四十八手をコンプリートしてしまったわ。



 ◇◆◇



「はあ……またなのか」

 俺はこの国の王太子だが、もう何度も妃を冤罪で処刑している。

 しかも結構、どうでもいいことで。

 今回の理由は何だったかな?

 確か友好国使節団の一員として来た王女が俺と仲良くしたことに、妃が醜い嫉妬をしたとかなんとか?

 そんな訳あるはずがないのに。

 何度目のループからか覚えていないが、俺を見る妃の目はナメクジを見る目と同じになった。

 ちなみにナメクジは妃がこの世で一番嫌いなものだ。

 分かるだろう?

 俺はナメクジと同率一位を競っているんだ。

 はあ……。

 そもそもの始まりは、王族に伝わる秘技のせいだ。

 時を巻き戻し、自分の選んだ時間からやり直せる。

 以前はもっと高尚なことに使われていたはずなんだが、いつからか伴侶を見定める試練に使われるようになってしまった。

 というのも、ループ後に別人格になる妃が続出したせいだ。

 正しく己の愛した妃と結ばれるかどうかは、48回のループの結果にかかっている。

 それで人格が変わらなければ合格だ。

 今回がその48回目、最後のループだ。

 俺は眠る妃に口移しで毒酒を飲ませると、いつものように残りの毒酒をあおった。

「君が俺のことを嫌いでも、俺は君を愛している。また初夜で会おう」

 まだ温かい妃を抱きしめ、俺は死出の旅に立つ。
 
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