【完結】シンデレラの次姉ですが、この世界でも私の仕事は他人の尻拭いですか?

鬼ヶ咲あちたん

文字の大きさ
4 / 13

四話 抗議するシンデレラ

しおりを挟む
 シンデレラが来ているとソフィアに教えてくれたのは、若くして騎士団長になったレオさんだった。

 レオさんはセオドアさまの護衛につくことがあるので、ソフィアとも顔合わせを済ませていた。

 筋骨隆々の体に、黒髪黒目の精悍な偉丈夫だ。

 セオドアさまの剣と護身術の訓練も担当しているのだとか。

 つまりセオドアさまの見事な逆三角形を作ったのは、レオさんだったのね。

 レオさんは一礼すると報告を始める。



「ソフィアさまに会うまでは帰らないと、シンデレラ嬢が門前で座り込みを始めてしまってね。世間体が悪いんじゃないかと伝えに来たんだ」



 アポなしの突撃だけでなく、座り込みまで……。

 グレイスがシンデレラを止めるはずがないし、こうなってしまってはあの子は梃子でも動かないでしょうね。



「私がシンデレラに会うことは可能でしょうか?」

「規則で、約束がない客をお城に入れてはいけないんだけど、話が出来る位置まで案内することはできるよ」



 レオさんの好意に甘え、ソフィアはシンデレラが座り込む門前の近くまで連れていってもらった。

 そこには――ラスボス装備のシンデレラが、胡坐をかいていた。

 胡坐?

 シンデレラが胡坐?

 どこまで私のシンデレライメージを破壊しつくす気なの!



「シンデレラ、そんな座り方をしてはいけないわ」

「来たわね、ソフィア! 私はグレイスと違ってすんなり諦めたりはしないわよ! さあ、私の王子さまを返しなさい!」



 ということは、グレイスはセオドアさまを諦めたのね。

 さっさと見切りをつけて別の人を狙うのは確かにグレイスらしい。

 グレイスは恋愛についてはサバサバ系なのだ。

 むしろ異様に根性があるシンデレラの方が厄介なのよ。



「シンデレラ、よく聞いて。王子さまが見染めてくれたのは、間違いなく私だったの。貴女ではなかったのよ」

「そんなの嘘よ! だって魔法使いが言っていたわ。魔法で願いを叶えてあげられるのは心のきれいな令嬢だけ。そしてそれは、将来のお妃さまにふさわしい人なんだって! つまり魔法のドレスと靴を持っている、私がお妃さまになるってことなのよ!」

「え? 本当に魔法使いがそんなことを言ったの?」



 魔法をかけるのにそんな前提条件があったなんて、全然知らなかったわ。



「間違いないわ! 本人の口からも証言させたいんだけど、魔力切れとかでずっと寝込んでいるみたいで、今は呼べないのよ!」



 間違いなくその魔力切れは、水色のドレスを何度も仕様変更させたラスボス装備のせいだろう。



「そういうことだから、ソフィアはさっさと家に戻って、私の代わりに家事をしてちょうだい! 私が今日から王子さまの隣に立つわ!」



 今にも門を乗り越えようとしているシンデレラを、レオさんが必死に押しとどめている。



「シンデレラ、どうしたら諦めてくれる?」

「諦めないわよ! 私がお妃さまになるんだから! 王子さまは私のものなのよ!」



 堂々巡りで埒が明かない。



「ソフィアさま、俺が責任を持って家に送り返してくるから。もうお城の中へ戻ってていいよ」



 レオさんが手を振って、ソフィアを下がらせる。

 シンデレラはレオさんによって肩に担がれ、叫び声とともに門から遠ざかっていった。



「シンデレラ、どこまで未知数なの」



 それからシンデレラは毎日のように門前にやってきては、レオさんに担がれ帰っていった。

 そろそろ10日目になるかという頃、レオさんがソフィアを訪ねてきた。



「ソフィアさま、シンデレラ嬢のことなんだけどさ。どうしてお妃さまになりたいか、知ってる?」



 どうしてお妃さまになりたいか?

 それは王子さまのことが好きだからではないの?

 ソフィアはそう返したが、思いもよらない答えがレオさんから返ってきた。



「家事をしたくないからなんだって。お妃さまになれば使用人が家事をしてくれるから、自分はしなくていいだろ?」

「え?」



 そんな理由で?

 そんな理由であの子は舞踏会の日にお城までガラスの靴で走ってきたの?

 あんな重たそうなラスボス装備のままで?

 実は、この武勇伝をソフィアに教えてくれたのもレオさんだった。

 どうやらこの10日間で、レオさんとシンデレラは忌憚なく話す仲になったようだ。

 シンデレラを担いで帰る道すがら、シンデレラの言い分を否定せず聞いてくれたレオさんに、シンデレラも色々ぶっちゃけたのだろう。

 あんなに苦労したのに無駄になったとシンデレラから聞いたとき、レオさんはふと思ったそうだ。



「もういっそのこと令嬢を辞めたらどうかな? 騎士見習いにでもなって、家から出たほうがいいと思ったんだよ」

「令嬢を……辞める?」

「シンデレラ嬢はすごく根性があるだろう? それに負けず嫌いだ。教育さえ間違えなければ、真っすぐないい騎士になると思うよ」



 ついにシンデレラが令嬢枠から飛び出すかもしれない状況に、私のシンデレライメージは粉砕した。

 シンデレラが騎士見習い?

 でも考えてみれば、ソフィアもシンデレラを噛み付き癖のある闘犬呼ばわりしていたじゃない。

 ガッツはあるのよ、闘魂も……。

 ソフィアはしばらく悩んで、もしシンデレラがそちらの道を選ぶならば、レオさんに後見をお願いしてもいいか聞いた。



「任せておきなよ、新人を教育するのはお手の物だ。嫌いな家事をいやいやするより、伸び伸び暴れたほうがいい。俺がつきっきりで見ていてやるから」



 レオさんの頼もしい言葉にソフィアは感謝の意を告げた。

 そうよ、シンデレラがなりたいというのなら、ソフィアは応援するわ。

 そんなにまで家事が嫌いだったとは……知らなかったけど。

 はあ。

 これまでシンデレラが壊した数々のものを思い出して、ソフィアは溜め息をついた。

 これであの家に残ったのはグレイスだけになったわね。

 きっとグレイスも家事を嫌がるわ。

 でも、ソフィアもシンデレラも家を出てしまうなら、自分でするしかないわよね?

 大丈夫かしらとグレイスを心配していたソフィアだったが、この後、シンデレラが騎士見習いになって家を出ると聞いたグレイスが、あっというまに裕福な貿易商を捕まえて結婚してしまうのは、たった1か月後のことだった。

 むしろ入団準備や、制服を新調してもらっていたシンデレラの方が、グレイスの後に家を出た。

 まんまと最後まで家事を押し付けられて、シンデレラは相当お冠だったようだ。



 シンデレラが騎士見習いになる日、ソフィアはレオさんに案内されて入団式を見に行った。

 真新しい制服に身を包み、ちょっと興奮に頬を染めて、嬉しそうに他の入団生と列へ並んだシンデレラがいた。

 ソフィアは、ずっと自分がシンデレラを『シンデレラ』という枠にはめていたことに気がつき、申し訳なく思った。

 家事が嫌いなシンデレラ。

 落ち着きのないシンデレラ。

 燃える闘魂のシンデレラ。

 どれもシンデレラの真実だ。

 私が勝手に童話シンデレラの世界だと思って、シンデレラにストーリー通りのことをさせようとしてしまった。

 ストーリーはすでに瓦解している。

 ソフィアがいい証拠だ。

 シンデレラにも、これからは好きに生きてもらいたい。

 ガラスの靴でお城まで完走しようが、ギラギラのドレスで胡坐をかこうが、それがシンデレラなのだ。

 ソフィアは並ぶシンデレラに近づき、お祝いの言葉を贈る。



「おめでとう、シンデレラ。制服がとても好く似合っているわ。あのドレスよりもね」

「なによ、私はなんでも着こなせるんだから! 騎士見習いになったら、身の回りのことは自分でしないといけないけど、家事はしてくれる人がいるんだって。レオが言ってた。こんなに簡単に家事から逃げられるなら、もっと早く騎士見習いになりたかったわ!」



 シンデレラは心底嬉しそうだった。

 良かった、本当に良かった。

 シンデレラの場所を奪ってしまったのではないかと、悩んだこともあった。

 セオドアさまから愛を囁かれるたび、嬉しさと反対の気持ちも、どこかに確かにあったのだ。

 罪悪感、申し訳なさ、ソフィアでいいのかという思い。

 だけどソフィアも、今はセオドアさまをお慕いするようになってしまって――。



「シンデレラ、私、王子さまと幸せになるね」

「そうね、お妃さまはすることがたくさんありそうで面倒だから、ソフィアに譲るわ! 頑張ってね!」



 シンデレラが太陽のように笑う。

 その笑顔が眩しくて、ソフィアは目を細めたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!

友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」 婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。 そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。 「君はバカか?」 あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。 ってちょっと待って。 いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!? ⭐︎⭐︎⭐︎ 「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」 貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。 あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。 「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」 「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」 と、声を張り上げたのです。 「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」 周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。 「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」 え? どういうこと? 二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。 彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。 とそんな濡れ衣を着せられたあたし。 漂う黒い陰湿な気配。 そんな黒いもやが見え。 ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。 「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」 あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。 背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。 ほんと、この先どうなっちゃうの?

処理中です...