1 / 1
乙女を幸せにするのは雄っぱいでしょう?
しおりを挟む
「この間、教えたでしょう? オスカー王子が食堂から立ち去ったら、すかさず使用済みスプーンを回収するの」
悪役令嬢エリザーベトに、私はストーカーの極意を熱血指導している。
それもこれも、うらやましすぎる隠しエンディング『雄っぱいルート』に、エリザーベトが最短で進むために必要なのだ。
「ライラさま、スプーンは学園の備品です。持ち帰るなど、してはいけませんわ」
「このスプーンを持ち帰らないと、ストーカー悪役令嬢としてのエリザーベトのポイントが上がらないのよ」
ライラというのが、ここでの私の名前よ。
マッスル愛好家の女子大生だった私は、どうやら死んだみたいで、死ぬ間際にプレイしていた学園系乙女ゲームの世界に転生してしまったの。
転生先がヒロインだと知ったときには、絶望したわ。
なにしろ私の推しはヒロインの攻略対象ではなく、悪役令嬢エリザーベトと結ばれる、隣国のイケオジ将軍アヒムだったのだから。
アヒムは全身が筋肉でバッキバキ、40歳にして国宝級の雄っぱいの持ち主なの。
乙女なら誰しも、その胸に顔を挟まれたいと思うでしょう?
だからこうして、エリザーベトの断罪後に始まる『雄っぱいルート』への案内役を、買ってでていると言うのに。
「さあ、このスプーンをオスカー王子コレクションに加えるのよ。コレクション数が10点を越えたら、また次のルート選択肢が現れるから」
「あの……実はこれまでに、ライラさまから渡されたスプーンは、全て食堂に返却していて……」
「な、なんですって……私のこれまでの努力が……」
「オスカーさまはこんなことをされたら嫌がりますわ。自分の使用済みのスプーンを持ち帰られるなんて、いい気持ちがしませんもの」
「それでいいのよ。そうやって粘着して嫌われて、オスカー王子から婚約破棄をされて、隣国に追放されるのがエリザーベトの『雄っぱいルート』への道なんだから」
頭を抱える私の背後から、件のオスカーの声がする。
「私の使用済みスプーンを回収していたのは、ライラ嬢だったのか。エリザーベトが困り顔で食堂へ返却しているから、何が起きているのかと調べさせてみれば……」
ヒロインの攻略対象者であるオスカーは、金髪緑眼の王子さまらしい外見の王子さまだけど、どう贔屓目に見ても細マッチョ。
これじゃ、胸筋の間に顔を挟むなんて無理。
やっぱりアヒムしか勝たん。
私がブツブツ呟いているのを、オスカーがいぶかしそうに聞き返す。
「アヒムというのは、隣国の将軍の名前だな。ライラ嬢はもしかして、隣国のスパイか何かなのか? それで私とエリザーベトの仲を、裂こうとしているとか?」
「オスカー王子は何も分かっていない! 乙女を幸せにするのは雄っぱいの力なのに! その薄い胸筋では、顔は挟めませんよ!」
これまでの孤軍奮闘を台無しにされた私は、王族への敬いなんてどこかへ放り投げて、オスカーを指さして糾弾する。
私の乱心ぶりに、エリザーベトが心配して駆け寄ってきた。
「ライラさま、どうしてしまわれたの? そんなことをしては、不敬罪に問われてしまうわ」
「私よりも先に、オスカー王子が筋肉に対して不敬罪を働いているの! メインヒーローなのに! シャツの第3ボタンも弾けさせられないなんて!」
「ライラ嬢、君の言動は私には理解しがたい。スパイではないというのなら、一体何が目的なのだ?」
人が好いオスカーは、私を気遣うエリザーベトの肩を抱き、話を聞こうとする。
だから私はぶっちゃけたのよ。
至高の『雄っぱいルート』へエリザーベトを導くために、どれだけ尽力してきたのか。
私は二人に筋肉愛を語りつくし、最後には感極まって涙ぐんでしまった。
ぐすぐすと洟をすする私に、オスカーとエリザーベトはお互いの顔を見合わせ、そして申し訳なさそうに告げる。
「私はエリザーベトを愛している。決して婚約破棄をするつもりはない」
「ライラさまが私の幸せを願ってくださったことは、とても嬉しく思います。ですが私も、オスカーさまとの結婚を心待ちにしているのです」
つまり私が熱く薦めていた『雄っぱいルート』は、余計なお世話だったということか。
ここにきて、ようやくその事実に気がつき、私はうなだれる。
そんな私が可哀そうに見えたのか、オスカーがこんな提案をしてきた。
「よければ、隣国への留学許可を出そう。乙女の幸せと信じて止まない『雄っぱいルート』とやらに、ライラ嬢が挑戦してみてはどうだ」
「な、なんですってっ?」
そんな簡単にシナリオからの逸脱が許されるの?
ヒロインの私が学園にいなくても、乙女ゲームは進行するってこと?
バグらないのだったら、最初から全力でアヒムに愛を伝えに行けばよかった。
「今すぐ旅立ちます!」
「いや、手続きをするまでは、待って欲しいのだが……」
オスカーとエリザーベトに宥められ、私はなんとか許可が出るまでは大人しくした。
しかし、許可が下りてからは即断即決、隣国のアヒム目指して一直線、幸せの雄っぱいルートへ突撃したのだった。
――かなり年が離れた私に求愛されて戸惑っていたアヒムを、3年かけて納得させ、無事にふわふわ雄っぱいに顔を挟まれたことを皆様に報告します。
「やっぱり、幸せはここにあったのよ」
「ライラは僕の雄っぱいだけが好きなの?」
「そんなことないわ! 乙女ゲームをプレイするだけでは分からなかった素敵なアヒムを、この3年間でたくさん見てきたもの」
「良かった。僕はこれから年を取って枯れていくだけだから、萎れた筋肉に用はないとライラに言われたら、どうしようかと思ったよ」
「ああああ、ギャップ萌えぇ……ガチムチの体に宿る傷つきやすいピュアな心……アヒム、愛してるわ!」
私はアヒムの逞しい体に抱き着き、それを軽々と抱き留めてくれるアヒムと、これからも二人の世界を繰り広げていくつもりだ。
このポジションを譲ってくれたエリザーベトには、感謝しかない!!!
悪役令嬢エリザーベトに、私はストーカーの極意を熱血指導している。
それもこれも、うらやましすぎる隠しエンディング『雄っぱいルート』に、エリザーベトが最短で進むために必要なのだ。
「ライラさま、スプーンは学園の備品です。持ち帰るなど、してはいけませんわ」
「このスプーンを持ち帰らないと、ストーカー悪役令嬢としてのエリザーベトのポイントが上がらないのよ」
ライラというのが、ここでの私の名前よ。
マッスル愛好家の女子大生だった私は、どうやら死んだみたいで、死ぬ間際にプレイしていた学園系乙女ゲームの世界に転生してしまったの。
転生先がヒロインだと知ったときには、絶望したわ。
なにしろ私の推しはヒロインの攻略対象ではなく、悪役令嬢エリザーベトと結ばれる、隣国のイケオジ将軍アヒムだったのだから。
アヒムは全身が筋肉でバッキバキ、40歳にして国宝級の雄っぱいの持ち主なの。
乙女なら誰しも、その胸に顔を挟まれたいと思うでしょう?
だからこうして、エリザーベトの断罪後に始まる『雄っぱいルート』への案内役を、買ってでていると言うのに。
「さあ、このスプーンをオスカー王子コレクションに加えるのよ。コレクション数が10点を越えたら、また次のルート選択肢が現れるから」
「あの……実はこれまでに、ライラさまから渡されたスプーンは、全て食堂に返却していて……」
「な、なんですって……私のこれまでの努力が……」
「オスカーさまはこんなことをされたら嫌がりますわ。自分の使用済みのスプーンを持ち帰られるなんて、いい気持ちがしませんもの」
「それでいいのよ。そうやって粘着して嫌われて、オスカー王子から婚約破棄をされて、隣国に追放されるのがエリザーベトの『雄っぱいルート』への道なんだから」
頭を抱える私の背後から、件のオスカーの声がする。
「私の使用済みスプーンを回収していたのは、ライラ嬢だったのか。エリザーベトが困り顔で食堂へ返却しているから、何が起きているのかと調べさせてみれば……」
ヒロインの攻略対象者であるオスカーは、金髪緑眼の王子さまらしい外見の王子さまだけど、どう贔屓目に見ても細マッチョ。
これじゃ、胸筋の間に顔を挟むなんて無理。
やっぱりアヒムしか勝たん。
私がブツブツ呟いているのを、オスカーがいぶかしそうに聞き返す。
「アヒムというのは、隣国の将軍の名前だな。ライラ嬢はもしかして、隣国のスパイか何かなのか? それで私とエリザーベトの仲を、裂こうとしているとか?」
「オスカー王子は何も分かっていない! 乙女を幸せにするのは雄っぱいの力なのに! その薄い胸筋では、顔は挟めませんよ!」
これまでの孤軍奮闘を台無しにされた私は、王族への敬いなんてどこかへ放り投げて、オスカーを指さして糾弾する。
私の乱心ぶりに、エリザーベトが心配して駆け寄ってきた。
「ライラさま、どうしてしまわれたの? そんなことをしては、不敬罪に問われてしまうわ」
「私よりも先に、オスカー王子が筋肉に対して不敬罪を働いているの! メインヒーローなのに! シャツの第3ボタンも弾けさせられないなんて!」
「ライラ嬢、君の言動は私には理解しがたい。スパイではないというのなら、一体何が目的なのだ?」
人が好いオスカーは、私を気遣うエリザーベトの肩を抱き、話を聞こうとする。
だから私はぶっちゃけたのよ。
至高の『雄っぱいルート』へエリザーベトを導くために、どれだけ尽力してきたのか。
私は二人に筋肉愛を語りつくし、最後には感極まって涙ぐんでしまった。
ぐすぐすと洟をすする私に、オスカーとエリザーベトはお互いの顔を見合わせ、そして申し訳なさそうに告げる。
「私はエリザーベトを愛している。決して婚約破棄をするつもりはない」
「ライラさまが私の幸せを願ってくださったことは、とても嬉しく思います。ですが私も、オスカーさまとの結婚を心待ちにしているのです」
つまり私が熱く薦めていた『雄っぱいルート』は、余計なお世話だったということか。
ここにきて、ようやくその事実に気がつき、私はうなだれる。
そんな私が可哀そうに見えたのか、オスカーがこんな提案をしてきた。
「よければ、隣国への留学許可を出そう。乙女の幸せと信じて止まない『雄っぱいルート』とやらに、ライラ嬢が挑戦してみてはどうだ」
「な、なんですってっ?」
そんな簡単にシナリオからの逸脱が許されるの?
ヒロインの私が学園にいなくても、乙女ゲームは進行するってこと?
バグらないのだったら、最初から全力でアヒムに愛を伝えに行けばよかった。
「今すぐ旅立ちます!」
「いや、手続きをするまでは、待って欲しいのだが……」
オスカーとエリザーベトに宥められ、私はなんとか許可が出るまでは大人しくした。
しかし、許可が下りてからは即断即決、隣国のアヒム目指して一直線、幸せの雄っぱいルートへ突撃したのだった。
――かなり年が離れた私に求愛されて戸惑っていたアヒムを、3年かけて納得させ、無事にふわふわ雄っぱいに顔を挟まれたことを皆様に報告します。
「やっぱり、幸せはここにあったのよ」
「ライラは僕の雄っぱいだけが好きなの?」
「そんなことないわ! 乙女ゲームをプレイするだけでは分からなかった素敵なアヒムを、この3年間でたくさん見てきたもの」
「良かった。僕はこれから年を取って枯れていくだけだから、萎れた筋肉に用はないとライラに言われたら、どうしようかと思ったよ」
「ああああ、ギャップ萌えぇ……ガチムチの体に宿る傷つきやすいピュアな心……アヒム、愛してるわ!」
私はアヒムの逞しい体に抱き着き、それを軽々と抱き留めてくれるアヒムと、これからも二人の世界を繰り広げていくつもりだ。
このポジションを譲ってくれたエリザーベトには、感謝しかない!!!
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
「そうだ、結婚しよう!」悪役令嬢は断罪を回避した。
ミズメ
恋愛
ブラック企業で過労死(?)して目覚めると、そこはかつて熱中した乙女ゲームの世界だった。
しかも、自分は断罪エンドまっしぐらの悪役令嬢ロズニーヌ。そしてゲームもややこしい。
こんな謎運命、回避するしかない!
「そうだ、結婚しよう」
断罪回避のために動き出す悪役令嬢ロズニーヌと兄の友人である幼なじみの筋肉騎士のあれやこれや
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる