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10話 交渉の下準備
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『ファビオラちゃん、元気だったかしら? 私を頼ってくれて、とっても嬉しいわ』
そんな気さくな挨拶で始まる手紙に、ファビオラは頬を緩ませる。
(叔母さま、あまり変わってないみたい。昔から大らかで、包容力があって――)
ファビオラは父トマスと交渉する下準備として、エルゲラ辺境伯リノの妻アルフィナに助力を乞うた。
アルフィナには、ヘルグレーン帝国に新たな商会を立ち上げて、ファビオラが商科で学んだ理論を実践し、国境を防衛するための軍資金を稼ぎたいと正直に打ち明けた。
アルフィナの歓びあふれる字を見るに、どうやら人選は間違っていなかったようだ。
ファビオラはホッと安堵して、手紙を読み進める。
『ヘルグレーン帝国内に関することなら、私に任せてちょうだい。なにしろ、素晴らしく頼れるお義兄さまがいるからね』
アルフィナは元々、ヘルグレーン帝国の出身だ。
エルゲラ辺境伯領と接している、ヘルグレーン帝国ヴィクトル辺境伯家の令嬢で、幼い頃から国境を跨いでパトリシアやリノとよく遊んだという。
(まだ少年だった叔父さまから熱烈な求婚をされて、飛び上がるほど嬉しかったって言ってたわ)
しかしアルフィナは、ヴィクトル辺境伯家の一人娘だった。
そしてエルゲラ辺境伯家の跡継ぎであるリノでは、入り婿になれない。
このままでは、愛しあう二人が引き割かれてしまう――。
(そんなときに、跡継ぎとしてヴィクトル辺境伯家へ養子に入ってくれたのが、これ以上ないほどの大物なのよね)
アルフィナが親しげにお義兄さまと呼ぶ相手は、ヘルグレーン帝国の現皇帝の弟イェルノだ。
とても頭の良い人だと、噂で聞いたことがある。
慣れない土地で起業するファビオラのため、アルフィナはイェルノの後援を取り付けてくれた。
「お父さまを説得するにあたって、最高の切り札になるわ」
これでファビオラの設立する商会は、由緒正しい皇族のお墨付きをもらったことになる。
カーサス王国では知れ渡っているグラナド侯爵家の名だが、ヘルグレーン帝国での認知度は低い。
そこを補うためにも、この縁は大事にしたかった。
『お義兄さまは優しいから、ヘルグレーン帝国で困ったことがあれば、いつでもヴィクトル辺境伯家に駆け込むといいわよ』
アルフィナの手紙はそう締めくくられていたが、さすがに身分が尊すぎて難易度が高い。
こうして見ず知らずのファビオラのために、一肌脱いでくれるだけで十分だった。
「なるべく早く、ヴィクトル辺境伯領へ、ご挨拶に行かないといけないわね」
ファビオラは丁寧に手紙を折りたたんだ。
「ヘルグレーン帝国内の根回しは、これで完璧だわ。次はアダンと打ち合わせをしなくちゃ。売るものがなければ、商会を立ち上げても意味がないもの」
腰を上げると、ファビオラはモニカを伴ってアダンの部屋を訪ねるのだった。
◇◆◇◆
「グラナド侯爵領で製造している人工薪を、お姉さまの商会が買う訳ではないんですね?」
「すでに領内では需要と供給のバランスが整っているから、それを乱したくないの」
ふむ、とアダンが腕組みをする。
「ボクはてっきり領地の工場で、販売分を追加で製造すると思っていました」
「人工薪の原料は、造船所で出る木くずだから、数にも上限があるでしょう?」
「お姉さまが欲している量は、もっと多いんですね?」
国境の防衛にあてる軍資金は、多ければ多いほどいい。
ファビオラはアダンの質問に頷いて返す。
「それにグラナド侯爵領内とは、違う価格帯をつけたいの。差別化を図るため、製造元は分ける必要があるでしょうね」
「元は廃棄物だからと、領地ではほぼ原価で販売していますからね。それでは確かに利益は出ませんよね」
「新たな製造元として、エルゲラ辺境伯領内に工場を建てるつもりよ。林業が盛んだから木くずに困ることもないし、ヘルグレーン帝国へ人工薪を運搬するための道も通っているし、おあつらえ向きなの」
「そこまで、叔母さまとは話をされたんですね」
アダンの想像よりも、ファビオラの計画は進んでいるらしい。
よければ具体的な数字も聞かせて欲しいが、どこまで突っ込んでいいものか。
悩むアダンにファビオラが先んじる。
「アダンなら、分かってくれると思うから話すわ。カーサス王国の民は、ヘルグレーン帝国との友好を疑っていないけれど、私たちはそうじゃないと体験したわよね」
ファビオラの碧色の瞳に、強い光が宿る。
アダンの視線が、ちらりとファビオラの左胸へ向けられた。
服の下に隠されているのは星型の傷――ヘルグレーン帝国でしか使われない、矢じりの痕だ。
「あの襲撃は、ボクたちを狙ったものではなかったのでしょう。それでも……カーサス王国の中で問題を起こすのを躊躇わなかった一派がいるという点では、決してヘルグレーン帝国のすべてが友好的であるとは思えません」
「お父さまと叔父さまも同じ考えで、ずっと国境の防衛を強化したいと国王陛下へ訴えていたの」
「やすやすと国境を越えられる現状は、非常に危なっかしいですからね」
アダンは理解を示す。
「だけどその考えは賛同を得られず、親ヘルグレーン帝国派の宰相閣下に却下され続けたわ。だからね……私たちで護るしかないのよ、あの町を」
「あの町って、あの町ですか?」
「ヘルグレーン帝国が攻め込むと仮定して、あの町ほど適した場所はないわ。町の人々はのどかで温厚で、兵士の数よりも牛が多いんだもの」
「さらには、ヘルグレーン帝国から伸びる、真っすぐな街道と繋がっていますね」
ファビオラの想定しているものが、アダンにもだんだんと分かってきた。
どうして商科へ移動してまで、資金を稼ごうとしているのか。
己の身を飾る貴金属やドレスが欲しいのではないのだ。
ファビオラが心から望むのは、あの町の平和。
アダンはファビオラの献身に感服した。
「ボクにも、何か手伝わせてください!」
「もちろん、アダンの協力は欠かせないわ」
「出来ることは、何でもします」
こうしてファビオラは、アダンの言質も取り付けた。
(さて、お父さまを攻略するには、事実に基づく数字が一番。本当に難しいのは、お母さまよ。子熊を護る母熊みたいな気性を、どう宥めましょう)
◇◆◇◆
「それで? 最後の砦である私とパトリシアを、陥落させに来たという訳か」
「その通りですわ、お父さま。お母さまも、どうか聞いてください」
トマスとパトリシアを前にして、これからファビオラの交渉が始まる。
まだ学校も卒業していない15歳のファビオラが、商会を立ち上げるという無茶を通さねばならない。
トマスには『知っている』ことを伝えているが、それはパトリシアと共有されてはいないようだ。
長椅子に並んで腰かけた両親の表情は、まったく異なっていた。
片側の口角だけを持ち上げて、面白いことが始まるのを待っているトマス。
今から何が行われるのか分からず、きょとんとしているパトリシア。
「資料を用意しました。まずはあの町の護りを固めるために、必要な資金の額から――」
シトリンやクラスメイトと一緒に、これまで4年間、ファビオラは商科で必死に学んできた。
教育熱血な先生たちにしごかれたおかげで、お金を稼ぐことの難しさは理解しているつもりだ。
「初年度の利益目標値は、こちらです。三割を借入金の返済に回し、防衛設備への投資は残りの――」
並んだ数字の説明をしている間の、トマスの反応は悪くない。
計画倒れにならないよう、ファビオラはアダンと一緒に何度も計算をした。
そして授業が終わった放課後には、先生を捕まえて、予算繰りに無理はないかも見てもらった。
もちろん、そのときには軍資金なんて、物騒な言葉は隠したが。
「4年後に完璧な防衛体制を整えるには、3年目が鍵となります。だからこの年までに――」
まずはトマスに納得してもらわなくてはならない。
パトリシアを説得するのは、その後だ。
「突発的なアクシデントに対しての、予備費も設けます。それは基金として、別枠で積み立てて――」
笑みが深まるトマスと比べて、パトリシアの眉間には皺が深まる。
それでもファビオラは続けた。
「グラナド侯爵領の英知によって生み出された、人工薪という画期的な商品の力を――」
残りの資料も少なくなってくる。
おそらく、トマスは認可してくれるだろう。
だが、その隣にいるパトリシアの顔は、噴火寸前の活火山のようだった。
そんな気さくな挨拶で始まる手紙に、ファビオラは頬を緩ませる。
(叔母さま、あまり変わってないみたい。昔から大らかで、包容力があって――)
ファビオラは父トマスと交渉する下準備として、エルゲラ辺境伯リノの妻アルフィナに助力を乞うた。
アルフィナには、ヘルグレーン帝国に新たな商会を立ち上げて、ファビオラが商科で学んだ理論を実践し、国境を防衛するための軍資金を稼ぎたいと正直に打ち明けた。
アルフィナの歓びあふれる字を見るに、どうやら人選は間違っていなかったようだ。
ファビオラはホッと安堵して、手紙を読み進める。
『ヘルグレーン帝国内に関することなら、私に任せてちょうだい。なにしろ、素晴らしく頼れるお義兄さまがいるからね』
アルフィナは元々、ヘルグレーン帝国の出身だ。
エルゲラ辺境伯領と接している、ヘルグレーン帝国ヴィクトル辺境伯家の令嬢で、幼い頃から国境を跨いでパトリシアやリノとよく遊んだという。
(まだ少年だった叔父さまから熱烈な求婚をされて、飛び上がるほど嬉しかったって言ってたわ)
しかしアルフィナは、ヴィクトル辺境伯家の一人娘だった。
そしてエルゲラ辺境伯家の跡継ぎであるリノでは、入り婿になれない。
このままでは、愛しあう二人が引き割かれてしまう――。
(そんなときに、跡継ぎとしてヴィクトル辺境伯家へ養子に入ってくれたのが、これ以上ないほどの大物なのよね)
アルフィナが親しげにお義兄さまと呼ぶ相手は、ヘルグレーン帝国の現皇帝の弟イェルノだ。
とても頭の良い人だと、噂で聞いたことがある。
慣れない土地で起業するファビオラのため、アルフィナはイェルノの後援を取り付けてくれた。
「お父さまを説得するにあたって、最高の切り札になるわ」
これでファビオラの設立する商会は、由緒正しい皇族のお墨付きをもらったことになる。
カーサス王国では知れ渡っているグラナド侯爵家の名だが、ヘルグレーン帝国での認知度は低い。
そこを補うためにも、この縁は大事にしたかった。
『お義兄さまは優しいから、ヘルグレーン帝国で困ったことがあれば、いつでもヴィクトル辺境伯家に駆け込むといいわよ』
アルフィナの手紙はそう締めくくられていたが、さすがに身分が尊すぎて難易度が高い。
こうして見ず知らずのファビオラのために、一肌脱いでくれるだけで十分だった。
「なるべく早く、ヴィクトル辺境伯領へ、ご挨拶に行かないといけないわね」
ファビオラは丁寧に手紙を折りたたんだ。
「ヘルグレーン帝国内の根回しは、これで完璧だわ。次はアダンと打ち合わせをしなくちゃ。売るものがなければ、商会を立ち上げても意味がないもの」
腰を上げると、ファビオラはモニカを伴ってアダンの部屋を訪ねるのだった。
◇◆◇◆
「グラナド侯爵領で製造している人工薪を、お姉さまの商会が買う訳ではないんですね?」
「すでに領内では需要と供給のバランスが整っているから、それを乱したくないの」
ふむ、とアダンが腕組みをする。
「ボクはてっきり領地の工場で、販売分を追加で製造すると思っていました」
「人工薪の原料は、造船所で出る木くずだから、数にも上限があるでしょう?」
「お姉さまが欲している量は、もっと多いんですね?」
国境の防衛にあてる軍資金は、多ければ多いほどいい。
ファビオラはアダンの質問に頷いて返す。
「それにグラナド侯爵領内とは、違う価格帯をつけたいの。差別化を図るため、製造元は分ける必要があるでしょうね」
「元は廃棄物だからと、領地ではほぼ原価で販売していますからね。それでは確かに利益は出ませんよね」
「新たな製造元として、エルゲラ辺境伯領内に工場を建てるつもりよ。林業が盛んだから木くずに困ることもないし、ヘルグレーン帝国へ人工薪を運搬するための道も通っているし、おあつらえ向きなの」
「そこまで、叔母さまとは話をされたんですね」
アダンの想像よりも、ファビオラの計画は進んでいるらしい。
よければ具体的な数字も聞かせて欲しいが、どこまで突っ込んでいいものか。
悩むアダンにファビオラが先んじる。
「アダンなら、分かってくれると思うから話すわ。カーサス王国の民は、ヘルグレーン帝国との友好を疑っていないけれど、私たちはそうじゃないと体験したわよね」
ファビオラの碧色の瞳に、強い光が宿る。
アダンの視線が、ちらりとファビオラの左胸へ向けられた。
服の下に隠されているのは星型の傷――ヘルグレーン帝国でしか使われない、矢じりの痕だ。
「あの襲撃は、ボクたちを狙ったものではなかったのでしょう。それでも……カーサス王国の中で問題を起こすのを躊躇わなかった一派がいるという点では、決してヘルグレーン帝国のすべてが友好的であるとは思えません」
「お父さまと叔父さまも同じ考えで、ずっと国境の防衛を強化したいと国王陛下へ訴えていたの」
「やすやすと国境を越えられる現状は、非常に危なっかしいですからね」
アダンは理解を示す。
「だけどその考えは賛同を得られず、親ヘルグレーン帝国派の宰相閣下に却下され続けたわ。だからね……私たちで護るしかないのよ、あの町を」
「あの町って、あの町ですか?」
「ヘルグレーン帝国が攻め込むと仮定して、あの町ほど適した場所はないわ。町の人々はのどかで温厚で、兵士の数よりも牛が多いんだもの」
「さらには、ヘルグレーン帝国から伸びる、真っすぐな街道と繋がっていますね」
ファビオラの想定しているものが、アダンにもだんだんと分かってきた。
どうして商科へ移動してまで、資金を稼ごうとしているのか。
己の身を飾る貴金属やドレスが欲しいのではないのだ。
ファビオラが心から望むのは、あの町の平和。
アダンはファビオラの献身に感服した。
「ボクにも、何か手伝わせてください!」
「もちろん、アダンの協力は欠かせないわ」
「出来ることは、何でもします」
こうしてファビオラは、アダンの言質も取り付けた。
(さて、お父さまを攻略するには、事実に基づく数字が一番。本当に難しいのは、お母さまよ。子熊を護る母熊みたいな気性を、どう宥めましょう)
◇◆◇◆
「それで? 最後の砦である私とパトリシアを、陥落させに来たという訳か」
「その通りですわ、お父さま。お母さまも、どうか聞いてください」
トマスとパトリシアを前にして、これからファビオラの交渉が始まる。
まだ学校も卒業していない15歳のファビオラが、商会を立ち上げるという無茶を通さねばならない。
トマスには『知っている』ことを伝えているが、それはパトリシアと共有されてはいないようだ。
長椅子に並んで腰かけた両親の表情は、まったく異なっていた。
片側の口角だけを持ち上げて、面白いことが始まるのを待っているトマス。
今から何が行われるのか分からず、きょとんとしているパトリシア。
「資料を用意しました。まずはあの町の護りを固めるために、必要な資金の額から――」
シトリンやクラスメイトと一緒に、これまで4年間、ファビオラは商科で必死に学んできた。
教育熱血な先生たちにしごかれたおかげで、お金を稼ぐことの難しさは理解しているつもりだ。
「初年度の利益目標値は、こちらです。三割を借入金の返済に回し、防衛設備への投資は残りの――」
並んだ数字の説明をしている間の、トマスの反応は悪くない。
計画倒れにならないよう、ファビオラはアダンと一緒に何度も計算をした。
そして授業が終わった放課後には、先生を捕まえて、予算繰りに無理はないかも見てもらった。
もちろん、そのときには軍資金なんて、物騒な言葉は隠したが。
「4年後に完璧な防衛体制を整えるには、3年目が鍵となります。だからこの年までに――」
まずはトマスに納得してもらわなくてはならない。
パトリシアを説得するのは、その後だ。
「突発的なアクシデントに対しての、予備費も設けます。それは基金として、別枠で積み立てて――」
笑みが深まるトマスと比べて、パトリシアの眉間には皺が深まる。
それでもファビオラは続けた。
「グラナド侯爵領の英知によって生み出された、人工薪という画期的な商品の力を――」
残りの資料も少なくなってくる。
おそらく、トマスは認可してくれるだろう。
だが、その隣にいるパトリシアの顔は、噴火寸前の活火山のようだった。
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