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【続編】ヨルゲンxオラフ
24 最初の夏季休暇
初めての夏季休暇が始まった。
勉強の合間に、掃除に洗濯、アイロン掛けの練習を行っていった。俺に必要なのは、身体に動作を覚え込ませる為の反復作業だ。ハンスに余計な仕事を増やしてしまうことにはなったけど、ハンスに協力を仰いだら大喜びで協力してくれたから、これも一種の孝行だと前向きに考えることにした。
ハンスの指導の下、俺は毎日ひたすら同じ作業を繰り返していった。焦ってもいい結果は生まないことを、俺は身を以て知っている。だから最初は全然うまくいかなくても、自分に「焦るんじゃない」と言い聞かせながら経験を重ねていった。
この地道な努力のお陰で、自分で寝具を整えたりシーツを交換するのも、何度もやっている内にゆっくりではあるけど徐々にできるようになっていった。
身体が動きを覚えてしまえば、後はこちらのものだ。そしてとうとうある日、一連の作業を自分だけの力でやり遂げることに成功する。ハンスに「坊っちゃま……! よくぞここまで成長されました……っ!」という泣き笑いの合格宣言を貰えたんだ。
……ほらあ! ヨルゲンがさっさとやっちゃうからいつまで経ってもやる機会がなかっただけで、俺だってやればその内できるようになるんだからなー!
今は隣にいないヨルゲンに向かって、心の中で叫んだ。
制服や寝巻きは身体の成長に合わせて買い換えて、またハンスにお願いしてボタンの穴を少しだけ広げてもらった。これで二学年が始まってももう大丈夫。俺は自分の面倒を自分で見ることができるようになったんだ!
ここまでくれば、あとやるべきことは――二学年の範囲の予習だ。
それからの俺は、ひたすら机に齧り付いて、勉強の日々を送った。
時折ダニエラがやってきては「オラフ、また勉強しているの? ちょっと根を詰めすぎじゃない?」と心配そうに俺の顔を覗いてきた。でも俺は笑顔で言い返した。
「俺は全部が遅いから、みんなが始める前に先に行っているくらいで丁度いいんだよ。そうじゃないとあっという間に追いつかれちゃうから」
「オラフ……」
ダニエラは何か言いたげな様子だったけど、俺がすぐに机に向き直るとそれ以上は何も言わず、静かに部屋を出て行った。
◇
父様が本当にヨルゲンを俺の使用人として雇ったのか、尋ねようとも考えた。
だけど、ヨルゲンはもう奨学金があるから学費援助は必要なくなる。だったら過ぎたことは詮索せず、ただ「自分で自分の身の回りのことができるようになった」とだけ報告することにした。
ヨルゲンを俺につけてくれたお陰で生活面はかなり助かった部分はあったけど、その代わりヨルゲンとの友情はちっとも育めなかった。ヨルゲンの話を父様としたら、俺を心配してくれた父様にそのことを思わず責めてしまいそうだったこともあった。
俺は夏季休暇の最終日まで、必死で教科書の中身を詰め込み続けた。全部を完璧に網羅したとは正直言えないながらも、大体の内容は把握できたと思う。これなら授業の内容が復習になるから、基本は聞いておけばいい。
出発の日、みんなが俺とダニエラを見送りに玄関前に並ぶ。
「オラフ坊っちゃま、決してご無理はされませぬようお願い致します……っ」
「うん! ハンス、本当にありがとう!」
「坊っちゃま……っ、逞しくなられて……っ」
ハンスが目の周りを真っ赤にして泣き始めてしまった。泣きたくなる気持ちは俺にもよーくわかる。できない俺にずっとついて見捨てずにいてくれたハンス。俺ができた時は手放しで褒めてくれた。ハンスの協力なしには、俺は今笑顔でここに立っていなかったと思う。
キュッと抱きつくと、少し前までは大きく感じていたハンスの身体が「あれ? こんなに小さかったっけ?」と感じた。その謎は、すぐにハンスの言葉によって判明する。
「坊っちゃま……っ、こんなに大きくなられて……っ」
「へへ……っ」
ヨルゲンに追いつくのはなかなか難しそうではあるけど、俺の身長もちゃんと伸びたみたいだ。
「ハンス、お手紙書くね」
「はい、はい……っ」
俺も少し瞳を涙で濡らしながら伝えると、ハンスは鼻を啜りながら幾度も頷き返してくれたのだった。
◇
昨夜遅くまで机に向かっていた俺に、馬車の揺れはゆりかごのように覿面に効いた。
グラグラと頭を揺らす俺を見かねたダニエラが、俺の腕を軽く引っ張る。
「ちょっとオラフ、やっぱり寝不足なんじゃないの?」
「いや、そんなことは……あふ……っ」
大きな欠伸を噛み殺している俺をジト目で見つめるダニエラが、「……はあぁー……」と長くて深い溜息を吐いた。そして膝をポンと叩く。
「仕方ないから膝を貸してあげるわ。着いたら起こしてあげるから、お願いだから寝て頂戴」
「ダニエラ……ありがとぉ……」
眠さが限界突破しそうだった俺は、倒れ込むようにダニエラの膝に頭を乗せた。ダニエラがそっとハンカチを俺の目元に落とす。ハンカチは薔薇のいい香りがしていた。
俺のものより遥かに華奢に感じるダニエラの手が、俺の髪の毛を優しく漉いていく。
「……無理はしないで。オラフはいつだって私の自慢の弟なんだから」
ダニエラがどういうつもりでそんなことを言ったのかは、俺には分からない。
眠くてもう反応できないでいた俺は、そのままストンと深い眠りに落ちていく。
髪を梳かれ続けているのが気持ちよかったからか。
夢の中で、何故か俺はヨルゲンの膝枕で寝ていることになっていた。
優しい笑みを浮かべながら頭を撫でてくるヨルゲンに向かって、「俺、頑張っただろ?」と話しかけていた俺だった。
勉強の合間に、掃除に洗濯、アイロン掛けの練習を行っていった。俺に必要なのは、身体に動作を覚え込ませる為の反復作業だ。ハンスに余計な仕事を増やしてしまうことにはなったけど、ハンスに協力を仰いだら大喜びで協力してくれたから、これも一種の孝行だと前向きに考えることにした。
ハンスの指導の下、俺は毎日ひたすら同じ作業を繰り返していった。焦ってもいい結果は生まないことを、俺は身を以て知っている。だから最初は全然うまくいかなくても、自分に「焦るんじゃない」と言い聞かせながら経験を重ねていった。
この地道な努力のお陰で、自分で寝具を整えたりシーツを交換するのも、何度もやっている内にゆっくりではあるけど徐々にできるようになっていった。
身体が動きを覚えてしまえば、後はこちらのものだ。そしてとうとうある日、一連の作業を自分だけの力でやり遂げることに成功する。ハンスに「坊っちゃま……! よくぞここまで成長されました……っ!」という泣き笑いの合格宣言を貰えたんだ。
……ほらあ! ヨルゲンがさっさとやっちゃうからいつまで経ってもやる機会がなかっただけで、俺だってやればその内できるようになるんだからなー!
今は隣にいないヨルゲンに向かって、心の中で叫んだ。
制服や寝巻きは身体の成長に合わせて買い換えて、またハンスにお願いしてボタンの穴を少しだけ広げてもらった。これで二学年が始まってももう大丈夫。俺は自分の面倒を自分で見ることができるようになったんだ!
ここまでくれば、あとやるべきことは――二学年の範囲の予習だ。
それからの俺は、ひたすら机に齧り付いて、勉強の日々を送った。
時折ダニエラがやってきては「オラフ、また勉強しているの? ちょっと根を詰めすぎじゃない?」と心配そうに俺の顔を覗いてきた。でも俺は笑顔で言い返した。
「俺は全部が遅いから、みんなが始める前に先に行っているくらいで丁度いいんだよ。そうじゃないとあっという間に追いつかれちゃうから」
「オラフ……」
ダニエラは何か言いたげな様子だったけど、俺がすぐに机に向き直るとそれ以上は何も言わず、静かに部屋を出て行った。
◇
父様が本当にヨルゲンを俺の使用人として雇ったのか、尋ねようとも考えた。
だけど、ヨルゲンはもう奨学金があるから学費援助は必要なくなる。だったら過ぎたことは詮索せず、ただ「自分で自分の身の回りのことができるようになった」とだけ報告することにした。
ヨルゲンを俺につけてくれたお陰で生活面はかなり助かった部分はあったけど、その代わりヨルゲンとの友情はちっとも育めなかった。ヨルゲンの話を父様としたら、俺を心配してくれた父様にそのことを思わず責めてしまいそうだったこともあった。
俺は夏季休暇の最終日まで、必死で教科書の中身を詰め込み続けた。全部を完璧に網羅したとは正直言えないながらも、大体の内容は把握できたと思う。これなら授業の内容が復習になるから、基本は聞いておけばいい。
出発の日、みんなが俺とダニエラを見送りに玄関前に並ぶ。
「オラフ坊っちゃま、決してご無理はされませぬようお願い致します……っ」
「うん! ハンス、本当にありがとう!」
「坊っちゃま……っ、逞しくなられて……っ」
ハンスが目の周りを真っ赤にして泣き始めてしまった。泣きたくなる気持ちは俺にもよーくわかる。できない俺にずっとついて見捨てずにいてくれたハンス。俺ができた時は手放しで褒めてくれた。ハンスの協力なしには、俺は今笑顔でここに立っていなかったと思う。
キュッと抱きつくと、少し前までは大きく感じていたハンスの身体が「あれ? こんなに小さかったっけ?」と感じた。その謎は、すぐにハンスの言葉によって判明する。
「坊っちゃま……っ、こんなに大きくなられて……っ」
「へへ……っ」
ヨルゲンに追いつくのはなかなか難しそうではあるけど、俺の身長もちゃんと伸びたみたいだ。
「ハンス、お手紙書くね」
「はい、はい……っ」
俺も少し瞳を涙で濡らしながら伝えると、ハンスは鼻を啜りながら幾度も頷き返してくれたのだった。
◇
昨夜遅くまで机に向かっていた俺に、馬車の揺れはゆりかごのように覿面に効いた。
グラグラと頭を揺らす俺を見かねたダニエラが、俺の腕を軽く引っ張る。
「ちょっとオラフ、やっぱり寝不足なんじゃないの?」
「いや、そんなことは……あふ……っ」
大きな欠伸を噛み殺している俺をジト目で見つめるダニエラが、「……はあぁー……」と長くて深い溜息を吐いた。そして膝をポンと叩く。
「仕方ないから膝を貸してあげるわ。着いたら起こしてあげるから、お願いだから寝て頂戴」
「ダニエラ……ありがとぉ……」
眠さが限界突破しそうだった俺は、倒れ込むようにダニエラの膝に頭を乗せた。ダニエラがそっとハンカチを俺の目元に落とす。ハンカチは薔薇のいい香りがしていた。
俺のものより遥かに華奢に感じるダニエラの手が、俺の髪の毛を優しく漉いていく。
「……無理はしないで。オラフはいつだって私の自慢の弟なんだから」
ダニエラがどういうつもりでそんなことを言ったのかは、俺には分からない。
眠くてもう反応できないでいた俺は、そのままストンと深い眠りに落ちていく。
髪を梳かれ続けているのが気持ちよかったからか。
夢の中で、何故か俺はヨルゲンの膝枕で寝ていることになっていた。
優しい笑みを浮かべながら頭を撫でてくるヨルゲンに向かって、「俺、頑張っただろ?」と話しかけていた俺だった。
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