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【続編】ヨルゲンxオラフ
34 解熱
俺の熱が下がりきるまで、三日かかってしまった。
その間、ヨルゲンが何度か様子を見に来てくれていた。だけど「うつるといけないから」という理由で室内への立ち入りをジョアンに禁止されていたせいで、会うことは叶わなかった。
「オラフは本当に無事なんですか? 今の様子はどうなんですか!」
「大丈夫、良くなってきているから」
扉の向こう側から聞こえる、ジョアンとヨルゲンの話し声。久々に聞く低い声に、心臓が高鳴った。扉一枚を隔てた先にヨルゲンがいる。そう思うだけで、切なくなって胸が苦しくなった。
「ならひと目顔だけでも」
扉がガタガタと音を立てる。だけどすぐに音はやみ、代わりにジョアンの声を抑えた怒声が聞こえてきた。
「こら! 決まりは決まりだよ! 開けようとするんじゃない! オラフが寝ているんだから、起こすんじゃないよ!」
「ひと目だけでも無事を」
「無事だって言ってるだろうが! 全くもう!」
そんな二人のやり取りを扉越しに聞いて、思わずニヤけてしまった。ヨルゲンは一度こうと決めたら一直線なところがある。簡単に言ってしまうと頑固なんだけど、あのジョアンを困らせるほどの強情さを俺に会いたいがために見せてくれるのは――単純に嬉しかった。
だって、それってヨルゲンが俺のことで頭をいっぱいにして心配してくれているって意味にならないか?
勿論、仕事だからということはあるだろう。でもその間は俺のことしか考えていないだろうと思ったら、嬉しく思えてしまう。その人がちょっとでも自分のことを考えてくれていると思うだけで幸せを感じるものなんだと、俺は恋を知って初めて知った。
「そうか……恋を認識するってこういうことだったんだなぁ……えへへ」
ひとりきりの療養室内で、独りごちる。
これまでのもどかしい感情に恋心という名前がついて以降、俺の心は以前に比べて遥かに落ち着きを見せるようになっていた。
恋心に気付く前までは、ヨルゲンに心配されるのは嬉しくてもいけないことだと己を戒めていた。何故なら、気にかけさせることが迷惑だと思い込んでいたからだ。
だけど、好きなら気にかけてもらえたら嬉しいに決まっている。そう考えたら、これまでは頑なに「喜んじゃ駄目だ」と思っていたことも、素直に喜べるようになってきたんだ。
「ふふ……ヨルゲンてば、心配性なんだからなあ。仕方ないなあ、全く」
だったら、早く元気になってヨルゲンの元に帰らなくちゃだ。
それに。
ジョアンに話を聞いてもらい、自分が抱えていたモヤモヤが恋心だと知って以降。
俺が人と比べて駄目な奴なことは変わらないのに、何故か俺の心は軽くなり、暗闇の中で蔑まれながら逃げ惑う夢を見ることはなくなった。するとよく眠れるようになったこともあって、自然と食欲も増え、食べられるようになったことで体調も回復していったんだ。
熱が下がりきり起き上がれるようになったところで、ようやくジョアンから部屋に戻っていいという許可が下りる。
換気の為に窓を開け、汗まみれの寝具を丸めてくれているジョアンが、ニカッと笑いかけてきた。
「これでヨルゲンに毎日顔を見せろと言われ続けることもなくなってホッとするよ。まあしつこいね、あの子は」
「あは、ヨルゲンは頑固だから」
「そのようだね」
二人で顔を合わせて笑うと、俺はもう一度ジョアンに御礼を言う。
「ジョアン! 何から何まで、ありがとうございました!」
「ああ」
笑顔で軽く手を振ると、取っ手を掴み、扉を開けた。眩い光に、一瞬目が眩む。今日は休校日なので、日中だけど生徒が歩いている姿が見えた。
と、次の瞬間。
「オラフ!」
「わっ!?」
突然身体が宙に浮いたかと思うと、視界いっぱいに現れたのは、顔を強張らせたヨルゲンじゃないか。
「オラフ、体調は!?」
「え、も、もう大丈夫……っ」
「そうか……!」
ヨルゲンが、安堵したとばかりに、固かった表情を和らげる。こ、これってもしかして……かなり心配してくれていたってことなのか?
図々しいかな、烏滸がましいかなという考えが、一瞬脳裏を過った。だけどすぐその後に、ジョアンの助言が脳内に響いて。
俺は勇気を振り絞って、でもどこかに逃げ道がないと怖かったからへらりと笑いながら、尋ねた。
「ヨルゲン、もしかして俺のこと心配してくれていた……とか?」
「――当たり前だろう!」
噛み付くように即答された瞬間、歓喜が俺の中に溢れ返った。……ヤバい、嬉しい!
「あの、心配させて……悪かった」
「……驚いた。全然帰ってこなくて、怖かった」
「ヨルゲン……」
そんなにも心配してくれていたのか。俺のことをなのか、自分の仕事のことをなのかまでは、ヨルゲンの口調から察することはできなかったけど。
不意に、自分がヨルゲンに横抱きにされている状態のままなことに気付く。そうか! 俺が病み上がりで歩けないんじゃないかと思って……!
「あっ、あの、ヨルゲン!?」
「なんだ」
「俺、だからもう大丈夫だからっ! 自分の足で部屋に――!」
「断る」
ヨルゲンはにべもなく断ると、俺を睨むように見下ろしてきた。
「まだ病み上がりなんだぞ。部屋に連れ戻すまで安心できない」
「ヨルゲン……」
とくん、と俺の心臓が高鳴る。どうしよう、すごく嬉しい。
そんな時、再びジョアンの「ありがとうやごめんなさい、嬉しいや悲しいを口に素直に出して伝えることかな?」という言葉を不意に思い出した。
そ、そうだよ……! 俺は素直になるって決めたんだ! それに、寝ている間にこれまでのことを思い返していたけど、俺には一度だってヨルゲンに感謝を伝えた記憶がなかったんだ。気付いた時は、愕然とした。
すぐ目の前で俺を覆い隠すように抱き込んでいるヨルゲンの透き通るような水色の瞳を、じっと見つめる。
「ヨルゲン」
「なんだ」
「その……心配してくれて、あ、ありがと……」
すると、何故かヨルゲンが目玉が飛び落ちてきそうなくらいに目を見開いたじゃないか。
「え、よ、ヨルゲ――うわっ」
ヨルゲンはなんの前触れもなく突然俺を抱き寄せると、ぎゅうぎゅうに身体を密着させてきた。ぐ、ぐるじい……っ。
俺の肩に顔を埋めたヨルゲンが、消え入りそうな声で囁く。
「ああ……っ」
その声が、少し震えているように聞こえた俺は。
押し付けられた胸板に瞼を付けると、小さく微笑みながら目を閉じたのだった。
その間、ヨルゲンが何度か様子を見に来てくれていた。だけど「うつるといけないから」という理由で室内への立ち入りをジョアンに禁止されていたせいで、会うことは叶わなかった。
「オラフは本当に無事なんですか? 今の様子はどうなんですか!」
「大丈夫、良くなってきているから」
扉の向こう側から聞こえる、ジョアンとヨルゲンの話し声。久々に聞く低い声に、心臓が高鳴った。扉一枚を隔てた先にヨルゲンがいる。そう思うだけで、切なくなって胸が苦しくなった。
「ならひと目顔だけでも」
扉がガタガタと音を立てる。だけどすぐに音はやみ、代わりにジョアンの声を抑えた怒声が聞こえてきた。
「こら! 決まりは決まりだよ! 開けようとするんじゃない! オラフが寝ているんだから、起こすんじゃないよ!」
「ひと目だけでも無事を」
「無事だって言ってるだろうが! 全くもう!」
そんな二人のやり取りを扉越しに聞いて、思わずニヤけてしまった。ヨルゲンは一度こうと決めたら一直線なところがある。簡単に言ってしまうと頑固なんだけど、あのジョアンを困らせるほどの強情さを俺に会いたいがために見せてくれるのは――単純に嬉しかった。
だって、それってヨルゲンが俺のことで頭をいっぱいにして心配してくれているって意味にならないか?
勿論、仕事だからということはあるだろう。でもその間は俺のことしか考えていないだろうと思ったら、嬉しく思えてしまう。その人がちょっとでも自分のことを考えてくれていると思うだけで幸せを感じるものなんだと、俺は恋を知って初めて知った。
「そうか……恋を認識するってこういうことだったんだなぁ……えへへ」
ひとりきりの療養室内で、独りごちる。
これまでのもどかしい感情に恋心という名前がついて以降、俺の心は以前に比べて遥かに落ち着きを見せるようになっていた。
恋心に気付く前までは、ヨルゲンに心配されるのは嬉しくてもいけないことだと己を戒めていた。何故なら、気にかけさせることが迷惑だと思い込んでいたからだ。
だけど、好きなら気にかけてもらえたら嬉しいに決まっている。そう考えたら、これまでは頑なに「喜んじゃ駄目だ」と思っていたことも、素直に喜べるようになってきたんだ。
「ふふ……ヨルゲンてば、心配性なんだからなあ。仕方ないなあ、全く」
だったら、早く元気になってヨルゲンの元に帰らなくちゃだ。
それに。
ジョアンに話を聞いてもらい、自分が抱えていたモヤモヤが恋心だと知って以降。
俺が人と比べて駄目な奴なことは変わらないのに、何故か俺の心は軽くなり、暗闇の中で蔑まれながら逃げ惑う夢を見ることはなくなった。するとよく眠れるようになったこともあって、自然と食欲も増え、食べられるようになったことで体調も回復していったんだ。
熱が下がりきり起き上がれるようになったところで、ようやくジョアンから部屋に戻っていいという許可が下りる。
換気の為に窓を開け、汗まみれの寝具を丸めてくれているジョアンが、ニカッと笑いかけてきた。
「これでヨルゲンに毎日顔を見せろと言われ続けることもなくなってホッとするよ。まあしつこいね、あの子は」
「あは、ヨルゲンは頑固だから」
「そのようだね」
二人で顔を合わせて笑うと、俺はもう一度ジョアンに御礼を言う。
「ジョアン! 何から何まで、ありがとうございました!」
「ああ」
笑顔で軽く手を振ると、取っ手を掴み、扉を開けた。眩い光に、一瞬目が眩む。今日は休校日なので、日中だけど生徒が歩いている姿が見えた。
と、次の瞬間。
「オラフ!」
「わっ!?」
突然身体が宙に浮いたかと思うと、視界いっぱいに現れたのは、顔を強張らせたヨルゲンじゃないか。
「オラフ、体調は!?」
「え、も、もう大丈夫……っ」
「そうか……!」
ヨルゲンが、安堵したとばかりに、固かった表情を和らげる。こ、これってもしかして……かなり心配してくれていたってことなのか?
図々しいかな、烏滸がましいかなという考えが、一瞬脳裏を過った。だけどすぐその後に、ジョアンの助言が脳内に響いて。
俺は勇気を振り絞って、でもどこかに逃げ道がないと怖かったからへらりと笑いながら、尋ねた。
「ヨルゲン、もしかして俺のこと心配してくれていた……とか?」
「――当たり前だろう!」
噛み付くように即答された瞬間、歓喜が俺の中に溢れ返った。……ヤバい、嬉しい!
「あの、心配させて……悪かった」
「……驚いた。全然帰ってこなくて、怖かった」
「ヨルゲン……」
そんなにも心配してくれていたのか。俺のことをなのか、自分の仕事のことをなのかまでは、ヨルゲンの口調から察することはできなかったけど。
不意に、自分がヨルゲンに横抱きにされている状態のままなことに気付く。そうか! 俺が病み上がりで歩けないんじゃないかと思って……!
「あっ、あの、ヨルゲン!?」
「なんだ」
「俺、だからもう大丈夫だからっ! 自分の足で部屋に――!」
「断る」
ヨルゲンはにべもなく断ると、俺を睨むように見下ろしてきた。
「まだ病み上がりなんだぞ。部屋に連れ戻すまで安心できない」
「ヨルゲン……」
とくん、と俺の心臓が高鳴る。どうしよう、すごく嬉しい。
そんな時、再びジョアンの「ありがとうやごめんなさい、嬉しいや悲しいを口に素直に出して伝えることかな?」という言葉を不意に思い出した。
そ、そうだよ……! 俺は素直になるって決めたんだ! それに、寝ている間にこれまでのことを思い返していたけど、俺には一度だってヨルゲンに感謝を伝えた記憶がなかったんだ。気付いた時は、愕然とした。
すぐ目の前で俺を覆い隠すように抱き込んでいるヨルゲンの透き通るような水色の瞳を、じっと見つめる。
「ヨルゲン」
「なんだ」
「その……心配してくれて、あ、ありがと……」
すると、何故かヨルゲンが目玉が飛び落ちてきそうなくらいに目を見開いたじゃないか。
「え、よ、ヨルゲ――うわっ」
ヨルゲンはなんの前触れもなく突然俺を抱き寄せると、ぎゅうぎゅうに身体を密着させてきた。ぐ、ぐるじい……っ。
俺の肩に顔を埋めたヨルゲンが、消え入りそうな声で囁く。
「ああ……っ」
その声が、少し震えているように聞こえた俺は。
押し付けられた胸板に瞼を付けると、小さく微笑みながら目を閉じたのだった。
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└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。