有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫

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【続編】ヨルゲンxオラフ

43 三学年前期開始

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 三学年前期が始まった。

 現在俺は、部屋割についてジョアンに頭を下げてお願いしているところだ。

「壁に穴が空いていてもいいし、狭くても汚くても何だったらお化けが出る部屋でもなんでもいいから、俺をひとリ部屋にして下さい!」

 ぎょっとした表情のジョアンが、眉尻を下げながら尋ねる。

「ちょっとオラフ、どうしたんだい? なんで急にそんなことを」
「今年からヨルゲンとは部屋が分かれることになったんです!」
「ああ、それは聞いているが……」

 ジョアンは困り顔だ。もしかしたら、とっくに部屋割を決めていたのかもしれない。そうなるとジョアンには迷惑をかけてしまうけど、これは俺にとって死活問題だ。なんとしてでもひとリ部屋を勝ち取るしかなかった。

 ジョアンに更に一歩近付く。この夏の間に俺の身長は順調に伸びたらしく、以前は見上げていたジョアンの顔が、今はほぼ同じ位置にあった。ヨルゲンには到底及ばないけど、身長だけは人並みに育っているんだよな。数少ない救いのひとつだ。

「俺、同室になった人に迷惑をかけたくないんです!」
「迷惑って……」

 腰が引けているジョアンに、俺はこれまでヨルゲンが俺にしてくれていた補助について事細かに説明する。ジョアンは目を見開いたまま、俺が語る内容に耳を傾けていた。

「――ということで、俺はとろいから、同室の子が俺を見てイライラしてつい手伝ったりするのを避けたいんです!」

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして俺の話を聞いていたジョアンが、頬を引き攣らせる。

「あんたたち、そんなことをしていたのかい……」
「俺、本当にダメダメなんです! だけど練習したから、少しは上達しているんです! でも……やっぱり遅いから」

 しょんぼり項垂れて、自分のつま先を見た。足の大きさも変わったから、これも夏季休暇の間に新調して靴紐対策をしてきたものだ。

 実はあれから柔らかい革の需要は徐々に伸びてきて、子供向けの革靴などに加工して王都で販売されているんだよな。そう考えれば、俺も少しは家業の役に立って……うーん、どうなんだろうなあ。

 そんなことを考えていると、ポンと手が俺の頭の上に乗せられた。ジョアンの手だ。

「わかったわかった。そうしたら、私と約束できるなら特別にひとり部屋を割り振ろうじゃないか」
「約束、ですか?」

 なんだろう。わからないながらも、俺にはこの道以外残されていない。

「わかりました、約束しますから」

 深く頷きながら言った俺の言葉を聞いて、ジョアンがニヤリと笑う。

「よーし、言質は取ったからね? では、自分でうまくできない時は私に助けを求めにくること。困った時も私に相談しにくること。このふたつを守れるかい?」
「ジョアン……ありがとう!」

 あまりの嬉しさにジョアンに抱きつくと、ジョアンは「わっ、危ないだろうが!」と注意しながらも、俺のことをふんわり抱き締め返してくれた。

 ◇

 俺に割り当てられた部屋は、二階の220号室。二学年の時にヨルゲンが扉に穴を開けた部屋だ。

 ジョアンが持っていた鍵束から、220と刻まれた金属の札が紐に括られた鍵を渡される。

「ヨルゲンがあちこちに穴を開けまくるもんで壁の修繕を先にしていたら、扉の修繕が間に合わなくてねえ。軽く塞いだだけなんだよ」
「なんかすみません……」

 申し訳なさに、項垂れた。と、ジョアンが呆れ口調で返す。

「なんでオラフが謝るんだい」
「いや、穴を開けるきっかけは全て俺なので」

 上目遣いで答えると、ジョアンは吐き捨てるように「わざとじゃないことを自分のせいにして責めるのはやめな」と言ってきた。

「でも……!」

 ジョアンは片目だけ顰めると、俺の鼻を指で摘む。ふが。

「いいかいオラフ。人間、誰しも得手不得手というものがあるんだよ」
「ふぁい」
「それにね、生まれや育ち、身体的なこと――例えば容姿、体格なんかもね、本人にはどうしようもないことだってあるんだ」
「ふぁい」

 情けない返事しか出ないけど、鼻を摘まれているから許してほしい。

「それは決してその人のせいじゃない。努力してどうにかなるものなら努力すればいいが、努力して男が女になれるかい?」

 首を横に振る。鼻を摘まれているからちょっとしか振れなかったけど。

「努力して背の低い奴が高くなれるかい?」
「なれまふぇん」
「そうだよ。どうしたって特性というものはある。それを自分が悪いみたいに言うんじゃないよ。生まれ持ったものをああだこうだと言われたらね、言ってやるんだ。『余計なお世話だよ』ってね」

 俺は正直、驚いていた。だって、だって――そんなこと、今まで一度だって言われたことがなかったから。俺はできないことに対して、ずっと申し訳なさを覚えていた。なのにそれを、『余計なお世話だよ』と言ってもいいというのか?

 ニカッと歯を見せて、ジョアンが笑った。

「だからね、オラフ。オラフにどうしようもないことを過度に要求してくる奴のことは基本、無視していい。そいつらはオラフの人生には必要のない奴らだ」
「へ……」

 過度に要求してくる奴らと言われて、パッとダニエラの取り巻きたちの顔が思い浮かんだ。

「……確かにそうかも」

 ふは、と思わず笑いを零すと、ようやくジョアンが鼻を摘んでいた指を離す。

「だろう? だからやってしまったことに対し贖罪はしたとしても、不必要に自分を責めるんじゃないよ。次にしないよう策を練ればいい。そういった可能性を広げる為に、オラフたち生徒はこの学校で様々なことを学んでいるんだから」
「……はい、ありがとう、ジョアン」
「わかればいい。さ、行っておいで」
「はい!」

 ジョアンに背中を押され、階段に向かった。二学年の間はなるべく触れずにいた手すりを、力強く掴む。

 ――できないことは仕方ない。俺は俺にできることをやっていこう。

 そう思いながら、上を向いて進んでいった。
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