有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫

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【続編】ヨルゲンxオラフ

64 変わってしまった日常

 四学年後期が始まった。

 俺の行動は常に一定だ。

 放課後は夕食を食堂でさっと食べ、ヨルゲンたち騎士科の生徒たちが食堂に来る時間には風呂に入っている。それからそのまま一階にある購買で、翌朝の朝食となる軽食を買う。

 部屋に戻った後はその日の復習と翌日の予習をして、夜の内に翌日必要な教科書類をきちんとまとめた上で早く就寝。朝は日の出と共に起き、朝の支度の時間に余裕を持って行動する。

 毎日同じ行動を取ることが、俺にとってはとても大事なことだ。違うことが突然起こると、つい慌ててしまう。慌てると碌なことにならないことは、これまでの人生で痛いほど理解している。だからこれを崩さないことを念頭に置いて行動していたんだ。

 ――なのに。

 同室の異国人は、俺が食堂に向かうと必ずついてきて、「オラフ、食事はそれだけか? あまりに少ないぞ、もっと食べろ」と自分の皿から料理を分けてくる。いらないし。

 お風呂はさっさと済ませたいのに、「オラフ、ここの風呂はすごいな!? うちの国では蒸し風呂が主流なんだ! ん? そんなすぐに出なくてもいいだろ! ほら、肩まで浸かれ!」と言って人の手首を容赦なく掴んで湯船に引っ張り戻してくる。余計なお世話だよ。

 購買に行けば、「オラフ、朝食をそれで済ますつもりか? なら俺もそうする!」と一緒に購買で軽食を買い込む。「これも食べたいけどひとりには多いから、オラフも食べてくれよ!」なんて言って、俺にあげる分まで買い込むなよ、いらないんだってば。

 部屋に戻っていざ勉強を始めると、すぐに「オラフ、ここなんだが、この文字はどういう意味だ?」なんて聞いてくる。言葉は不自由なく喋れても、文字の読み書きは苦手らしい。「オラフは教えるのがうまいな!」なんて褒められたって、べ、別に嬉しくないし!

 煩わしく思いながらも予習と復習、それに翌日の支度を終えて寝台に向かうと、「オラフ、もう寝るのか? 俺はもっとお前のことが知りたい! 話をしながら寝よう、な!」なんて言って、人が横になって目を瞑っているのに永遠に話しかけてくる。うるさい。寝させてくれよ。……なんで返事するとそんな嬉しそうにするんだってば。変な奴。

 日の出と共に起き上がると、「……オラフ、もう起きるのか……? 早くないか?」と眠そうに言いながらも起き上がってくる。放っておけよ、なんで全部合わせてくるんだよ。

 こんな感じで万事が万事、ルダが話しかけてきてうざったくて仕方がなかった。

 ……ジョアンに頼まれたから、それで仕方なく面倒を見てやってるだけなんだからな! 俺は別に親切でやってる訳じゃないし!

 イライラしながら姿見の鏡の前に立って服装を整えていると、俺のイライラの原因であるルダが、横からヒョイと顔を覗かせてきた。手には鮮やかな青色のスカーフと、琥珀色の大きな石がついたスカーフリングを持っている。

「オラフ、スカーフを巻いてやろう」

 そう言われたので、鏡越しに自分の首元を見る。あれから数日が経ち、痣はもう殆どわからない程度だ。なので俺は断ることにした。

 ……だって、母親の形見とか、さすがに怖くて貰えないし。早く返品したい。

 ツン、とそっぽを向いた。

「もういい」
「いや、まだ残っているぞ」

 強引に人の首にスカーフを巻こうとしてきたルダの腕を掻い潜って逃げようとしたら、後ろから抱き締められて掴まってしまった。

「ちょ、ちょっと!」
「何故嫌がる?」

 ルダはどこか楽しそうな表情だ。くっそ……! これ、絶対わかってきて聞いてるな!?

 俺がギッと睨むと、ルダが黄銅色の目を細めて弧を描かせる。

「その石は俺の色だと、周りの者に言われたか?」
「い、言われてはないけど、みんなの目がそう言ってるんだよ!」
「この国もその辺りはうちの国と一緒なんだな。自分の色を人に渡す意味は」

 ルダの言葉で、こいつはその意味をわかった上で俺に渡してきていたことに気付かされた。

「……お前、わざとだったな!」

 噛み付くように言うと、ルダは大袈裟に肩を竦める。

「まさか! この国の習慣は知らなかったぞ? 嘘じゃない」

 しれっとほざくルダを更に睨んだけど、本人はどこ吹く風だ。肩を竦めながら、結局はスカーフを巻いてきた。

「いいから消えるまではちゃんとつけておけ。周りが何を言おうが放っておけばいい。どうせ噂するような奴らは味方にはならないからな」
「え……?」

 味方にならない? どういう意味だろう。不思議に思って鏡越しに見つめ返すと、ルダがにやりと笑う。

「なんだ、俺に興味を覚えてきたか? オラフが俺に質問してきたら、俺は答えるつもりはあるぞ?」
「……べ、別に興味なんかないし!」
「そうか、それは残念だな」

 ルダはそう言うと、何故か機嫌がよさそうにスカーフリングの位置を微調整してきた。

 な、なんだよこいつ……! 変に余裕ぶっちゃって、嫌味ったらしいな!

 やっぱり腹が立って仕方なくて顎を引っ込めながら睨み続けていると、ルダが俺の視線に気付いてフ、と笑う。

「オラフが信じるかは別の話だが、俺にとってお前の真っ直ぐな感情は裏がなくて好感が持てる」
「へ」

 ぽかんとした俺に、ルドが今度はゆっくりめに重ねて言った。

「言ってる意味、わかってるか? 俺はオラフが好きと言っているんだ。お前が俺を嫌っていようがな」
「……っ」

 そんなことを面と向かって言われたのは初めてで――。

 ルダが俺の顔色を見て、ニヤリと笑う。

「なんだ、顔が赤いぞ?」
「う、うるさい!」

 揶揄ってくるルダにこれ以上顔を見られたくなかった俺は、ルダの腕を振り払うとドスドスと音を立てて部屋のトイレに向かったのだった。
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