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【続編】ヨルゲンxオラフ
92 父様に起きていたこと
俺に嫌われるんじゃないかという恐怖から立ち直ったらしい父様が、実業家然とした雰囲気に戻ると教えてくれた。
「実は前回オラフの見舞いに来た直後、バドロス王国からの使いという者たちが屋敷を訪ねてきたんだ。とある高貴なお方が私に話があると言ってな」
「とある高貴なお方って、王家の人? この間ヨルゲンから、王家に呼び出されていたって聞いたんだけど」
「その通りだ」
父様が重々しく頷いた。
しかし「あれ?」と、違和感を覚える。
「でも父様がこっちに来た時は、俺の事情聴取はまだだったよね……?」
父様が見舞いに来てくれたのは、俺の足が腫れて高熱を出しうなされている時だった筈だ。腫れが引いて解熱してから騎士の人に事情聴取をされたから、俺がバドロス王国の刺客に襲われたことを知っているとすると時系列的におかしい。
それとも王家側は、とっくにあの刺客の男の情報を掴んでいたんだろうか。かといって、俺の怪我の原因が彼にあったことはそんなすぐに伝わるだろうか。
俺が首を傾げていると、父様が苦虫を噛み潰したような顔で続けた。
「ああ。私も不思議に思った。そもそもあの時点では、オラフを襲った男がおそらくバドロス王国の関係者だろうという推測しかできていなかったからな」
「だよね?」
バドロス王国は一日二日で行けるような距離じゃないことは、何度も買い付けで訪れている父様ならよく知っている事実だ。その父様が怪しむというなら、たまたま別の要件があったと考えたほうが自然かもしれない。
そう思いついた俺の脳裏に、褐色肌の親友の笑顔が浮かび上がった。……ほぼほぼそっちだろう。だけど、何故父様に――? 疑問は膨れ上がるばかりだ。
俺は父様の次の言葉を静かに待つことにした。
「他国とはいえ、一国の王太子が直々に呼んでいるのだ。さすがにこれは国王陛下にお窺いを立ててからと思ったのに、猶予すら与えられないまますぐさまバドロス王国行きの馬車に乗せられてしまった」
「えっ、それってほぼ連れ去りじゃ……」
父様が深々と頷く。先程からの渋面は、これが原因か。
「ほぼではなく連れ去りだな。拒絶は許されない物々しい雰囲気だったから」
ええ……。この話だけ聞くと、ルダが手配したとは思えない強引さだ。すると父様を呼び寄せたのはバドロス国王か、それとも――シャン殿下?
「事業はルイスに任せることにし、屋敷にいた数名の部下と共に向こうが手配した馬車で向かった。それがオラフを見舞った翌日の話だ」
「そんなすぐだったの!?」
「ああ。迎えの人間に要件を聞いてはみたが、直接彼らの主から聞いてくれの一点張りでな。部下たちもみな困惑していたよ。まあ突然降って湧いた長期休暇だと早々に酒盛りを始めていたが」
クリーガー商会の人たちは、みんな肝が据わってるなあ……。
こんなもの、何故連れて行かれるのかの理由もわからないまま、他国へ拉致されたようなものじゃないか。俺だったら怖くなって震えていたかもしれない。
「数日かけて到着すると、真っ直ぐ宮殿に連れて行かれて王太子殿下に謁見した」
「シャン殿下が? それで要件はなんだったの」
すると、ここで初めて父様が言い淀んだ。
「……ルダ殿下をその……説明が難しいな……」
「あ、やっぱりルダのことだったんだ。でもなんだって父様が呼び出されたんだよ」
「だからその……っ」
するとこれまで俺を守るように静かに俺の斜め後ろに立っていたヨルゲンが、両手を俺の肩の上に置いてくる。
「クリーガー子爵。ルダ殿下はオラフの親友ですので」
父様がヨルゲンを見て、口を真横に引き絞った。
「……そうか。ではご納得いただけたという理解でいいか」
「はい」
ヨルゲンが深々と頷く。俺もジョアンも二人がなんの話をしているかさっぱりわからなくて、目を合わせると瞬きを繰り返すだけだ。
父様がどこか力の抜けた雰囲気を漂わせながら、薄めの笑みを俺に向ける。
「……シャン殿下は、ルダ殿下が留学に熱中するがあまり、卒業後も国に戻られないことを懸念されていた」
ここまで言われて、ようやくピンときた。
「ルダはバドロス王国にいる時、かなり大変な目に遭っていたんだよ。年の近い友達もいなくて、かなり寂しい思いをしてきたみたいなんだ」
「ほう、そうだったのか」
父様が俺を見て相好を崩す。こんな柔らかい絵顔を向けられたのなんて、いつぶりだろう。もしかしたら、俺が目にするのは初めてかもしれない。
「この国にきてから人生で初めて親友ができたって喜んでいたから、それで余計じゃないかな」
「なるほど、そういう経緯があったのか」
父様が納得したように頷いた。
「うん。俺の目には、自由を満喫しているように見えるかな」
「そうかそうか。いやな、シャン殿下には、オラフが無理にルダ殿下を卒業後も引き止めることがないよう約束してほしいと迫られてな。何分状況がわからなかったので判断に困ったが、必ず約束させることを条件に帰国を許してもらえたのだ」
なるほど。ルダはこの学校がすっかり気に入ったみたいだから、それでシャン殿下はルダが帰ってこないんじゃないか心配になったのか。
シャン殿下は半分しか血が繋がってないとはいえ、倒れたルダを自ら看病するほどルダのことを大事にしている人だもんな。なんだか納得だ。
それにしたって、父様を半ば拉致してまでして話すほどの内容じゃない気がするけど……王族の考えは、俺みたいな凡人には計り知れない何かがあるのかもしれない。
とにかく、今は父様の懸念を払拭するほうが先決だ。笑顔になって、頷いてみせた。
「わかったよ。ルダは卒業後、国に戻ってシャン殿下の補佐をしていくことになるんだもんね。寂しいけど、ルダを無理には引き留めないよう心がけるから、そこは安心してよ!」
「それを聞けて肩の荷が降りた。頼んだぞ、オラフ。万が一ルダ殿下が帰国されない場合、クリーガー商会は今後バドロス王国との取引ができなくなるからな」
「え……っ」
な、なんでそんな条件を付けられているんだ……? 聞きたいけど、聞いちゃまずいような気もする。
父様もあえて説明してやろうという気はないみたいだから、俺にはまだ理解できない政治的駆け引きか何かがあるんだろうと無理やり納得することにした。
「それでだ。これはオラフに関係あることなので伝えるが、機密事項であることを念頭に置いておいて欲しい」
父様が、真剣な表情に変わる。俺は気を引き締めると、こくりと頷いた。
「実は前回オラフの見舞いに来た直後、バドロス王国からの使いという者たちが屋敷を訪ねてきたんだ。とある高貴なお方が私に話があると言ってな」
「とある高貴なお方って、王家の人? この間ヨルゲンから、王家に呼び出されていたって聞いたんだけど」
「その通りだ」
父様が重々しく頷いた。
しかし「あれ?」と、違和感を覚える。
「でも父様がこっちに来た時は、俺の事情聴取はまだだったよね……?」
父様が見舞いに来てくれたのは、俺の足が腫れて高熱を出しうなされている時だった筈だ。腫れが引いて解熱してから騎士の人に事情聴取をされたから、俺がバドロス王国の刺客に襲われたことを知っているとすると時系列的におかしい。
それとも王家側は、とっくにあの刺客の男の情報を掴んでいたんだろうか。かといって、俺の怪我の原因が彼にあったことはそんなすぐに伝わるだろうか。
俺が首を傾げていると、父様が苦虫を噛み潰したような顔で続けた。
「ああ。私も不思議に思った。そもそもあの時点では、オラフを襲った男がおそらくバドロス王国の関係者だろうという推測しかできていなかったからな」
「だよね?」
バドロス王国は一日二日で行けるような距離じゃないことは、何度も買い付けで訪れている父様ならよく知っている事実だ。その父様が怪しむというなら、たまたま別の要件があったと考えたほうが自然かもしれない。
そう思いついた俺の脳裏に、褐色肌の親友の笑顔が浮かび上がった。……ほぼほぼそっちだろう。だけど、何故父様に――? 疑問は膨れ上がるばかりだ。
俺は父様の次の言葉を静かに待つことにした。
「他国とはいえ、一国の王太子が直々に呼んでいるのだ。さすがにこれは国王陛下にお窺いを立ててからと思ったのに、猶予すら与えられないまますぐさまバドロス王国行きの馬車に乗せられてしまった」
「えっ、それってほぼ連れ去りじゃ……」
父様が深々と頷く。先程からの渋面は、これが原因か。
「ほぼではなく連れ去りだな。拒絶は許されない物々しい雰囲気だったから」
ええ……。この話だけ聞くと、ルダが手配したとは思えない強引さだ。すると父様を呼び寄せたのはバドロス国王か、それとも――シャン殿下?
「事業はルイスに任せることにし、屋敷にいた数名の部下と共に向こうが手配した馬車で向かった。それがオラフを見舞った翌日の話だ」
「そんなすぐだったの!?」
「ああ。迎えの人間に要件を聞いてはみたが、直接彼らの主から聞いてくれの一点張りでな。部下たちもみな困惑していたよ。まあ突然降って湧いた長期休暇だと早々に酒盛りを始めていたが」
クリーガー商会の人たちは、みんな肝が据わってるなあ……。
こんなもの、何故連れて行かれるのかの理由もわからないまま、他国へ拉致されたようなものじゃないか。俺だったら怖くなって震えていたかもしれない。
「数日かけて到着すると、真っ直ぐ宮殿に連れて行かれて王太子殿下に謁見した」
「シャン殿下が? それで要件はなんだったの」
すると、ここで初めて父様が言い淀んだ。
「……ルダ殿下をその……説明が難しいな……」
「あ、やっぱりルダのことだったんだ。でもなんだって父様が呼び出されたんだよ」
「だからその……っ」
するとこれまで俺を守るように静かに俺の斜め後ろに立っていたヨルゲンが、両手を俺の肩の上に置いてくる。
「クリーガー子爵。ルダ殿下はオラフの親友ですので」
父様がヨルゲンを見て、口を真横に引き絞った。
「……そうか。ではご納得いただけたという理解でいいか」
「はい」
ヨルゲンが深々と頷く。俺もジョアンも二人がなんの話をしているかさっぱりわからなくて、目を合わせると瞬きを繰り返すだけだ。
父様がどこか力の抜けた雰囲気を漂わせながら、薄めの笑みを俺に向ける。
「……シャン殿下は、ルダ殿下が留学に熱中するがあまり、卒業後も国に戻られないことを懸念されていた」
ここまで言われて、ようやくピンときた。
「ルダはバドロス王国にいる時、かなり大変な目に遭っていたんだよ。年の近い友達もいなくて、かなり寂しい思いをしてきたみたいなんだ」
「ほう、そうだったのか」
父様が俺を見て相好を崩す。こんな柔らかい絵顔を向けられたのなんて、いつぶりだろう。もしかしたら、俺が目にするのは初めてかもしれない。
「この国にきてから人生で初めて親友ができたって喜んでいたから、それで余計じゃないかな」
「なるほど、そういう経緯があったのか」
父様が納得したように頷いた。
「うん。俺の目には、自由を満喫しているように見えるかな」
「そうかそうか。いやな、シャン殿下には、オラフが無理にルダ殿下を卒業後も引き止めることがないよう約束してほしいと迫られてな。何分状況がわからなかったので判断に困ったが、必ず約束させることを条件に帰国を許してもらえたのだ」
なるほど。ルダはこの学校がすっかり気に入ったみたいだから、それでシャン殿下はルダが帰ってこないんじゃないか心配になったのか。
シャン殿下は半分しか血が繋がってないとはいえ、倒れたルダを自ら看病するほどルダのことを大事にしている人だもんな。なんだか納得だ。
それにしたって、父様を半ば拉致してまでして話すほどの内容じゃない気がするけど……王族の考えは、俺みたいな凡人には計り知れない何かがあるのかもしれない。
とにかく、今は父様の懸念を払拭するほうが先決だ。笑顔になって、頷いてみせた。
「わかったよ。ルダは卒業後、国に戻ってシャン殿下の補佐をしていくことになるんだもんね。寂しいけど、ルダを無理には引き留めないよう心がけるから、そこは安心してよ!」
「それを聞けて肩の荷が降りた。頼んだぞ、オラフ。万が一ルダ殿下が帰国されない場合、クリーガー商会は今後バドロス王国との取引ができなくなるからな」
「え……っ」
な、なんでそんな条件を付けられているんだ……? 聞きたいけど、聞いちゃまずいような気もする。
父様もあえて説明してやろうという気はないみたいだから、俺にはまだ理解できない政治的駆け引きか何かがあるんだろうと無理やり納得することにした。
「それでだ。これはオラフに関係あることなので伝えるが、機密事項であることを念頭に置いておいて欲しい」
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