5 / 22
5 勘違い
最初はポツリポツリと話していたけど、話している内に次第に颯真くんの俺に対する扱いのぞんざいさに腹が立ってきた。
「よく考えたら、随分と人のことを馬鹿にしたなめた態度だと思いません!?」
すっかり涙が引っ込んだ代わりに怒りを爆発させている俺に、パンクファッションに身を包んだ麗しの美女が大きく頷く。
「本当だよ! なんなんだよ、その彼氏! というか、もう元彼だな! マジで人として最低だと思う!」
「やっぱりそう思いますよね!? 人が信じて健気に追ってきたら実は浮気してましたとか、一体どういうつもりだって感じじゃないですか!」
拳を握り締めて怒り狂う俺に、彼女は賛同するように何度も大きく頷き返してくれた。滅茶苦茶心強い。
「うんうん! それにさ、君は浮気はされたけど振られちゃいないし! 振ったのは君! 向こうは今頃プライドがボロボロになって悔しがっていると思うよ、ざまあみろじゃん!」
あ、なるほど……! そういえば、振ったのって俺じゃないか、と言われて初めて思い至る。浮気された上に振られたら目も当てられない状態だったけど、これなら俺のなけなしのプライドもメンツを保つことができる気がした。
俺の顔に、笑みが戻って来る。
「言われてみればそうですよね! 颯真くんってすごい自信家で、考えてみたらいつも上からで人が折れるのが当たり前みたいな態度でした! すっかり騙されてたけどこれで目が覚めましたよ! あいつは大した人間じゃなかった!」
「お、開眼じゃん、いえーい!」
思わず目を奪われてしまうほど艶やかな満面の笑みを浮かべた彼女が、両手を翳す。ふは、この人って思ったよりもフランクっていうか面白い人なんだな。
「開眼って……でも確かに! いえーい!」
俺も満面の笑みになると、両手のハイタッチをした。パンッといい音が響く。
そうだ、まだこれがあったんだと前のめり気味に話を続けた。
「そうそう、それでなんですけどね!」
「うんうん!」
彼女がキラキラした目で熱心に聞いてくれるお陰で、先程まで俺の中を占めていた消えてしまいたいと願うほどの悲しみは、もう消え去っていた。
「持ち歩いていた誕プレがあったんで、颯真くんに投げつけて立ち去ってやったんです! どうも浮気相手はこっちの存在を知らなかったみたいなんで、今頃あっちは修羅場だからざまあみろですよ!」
「浮気相手に君の存在を黙ってたってこと!? マジで最低だなそいつ! でも本当よくやった! 偉い! ええと――」
彼女が言い淀んだので、名前を聞かれているのだと思い答える。
「あ、俺、行く来るの来るっていう漢字を書いてライっていいます! 幸原来がフルネームで、うちの親が『幸せ来い』って意味で付けてくれたんですよね!」
「何、めっちゃ素敵な由来じゃん! て……え、『俺』?」
彼女が大きくて印象的な目をパチクリとさせた。ここで俺は「あっ」と思い至る。さっき俺を勧誘してきた先輩たちが勘違いしていたアレがここでも起きたのだと。
右手をそーっと上げると、苦笑を浮かべる。
「あのぉー……。俺、男なんです……」
「えっ!? そうだったの!? 僕はてっきり……! ご、ごめん! 勘違いしてた!」
わー! やっぱりそうだったあ! 颯真くんの好みに合わせて男臭さと芋っぽさをできるだけ排除していった結果、俺の見た目はかなり脱・男になっていたらしい。化粧もしていないのにー!
俺は慌てて両手を顔の前でブンブン横に振った。
「さ、さっきも間違われたし、大丈夫ですからっ」
「いや、こっちこそごめん! ほら、彼氏がって言ってたからその、男同士だとは思わなくて……思い込みだった、本当にごめん!」
パン! と両手を勢いよく合わせて頭を下げられてしまう。
「ああっ、いや、謝らないで下さいってば! 俺、元々は普通に女の子が好きだったんですけど、颯真くんの猛アタックでたまたま陥落しちゃったってだけだし、そのっ」
途端、彼女が顔を上げて眉間に盛大な皺を寄せる。
「え、元彼の野郎、猛アタックして来の性癖歪ませた癖に浮気しやがったのかよ」
「へ? あ、うううううんっ、まあそうですけどっ」
意外なところに食いつかれた上にいきなり呼び捨てで呼ばれて、思わずキョドってしまった。恥ずかしすぎる。
「マジで信じられねえ最低な男だな、早くはないかもしれないけどさ、今日それが判明してよかったじゃん」
男同士で付き合っていたとか、俺の地元だったらまず噂されて指を差される案件だ。さすが東京は違うなあと懐の広さに感動しつつ、笑顔を彼女に向ける。
「う、うん……ありがとうございます! ええと……すみません、お名前は?」
「あ、そうだった」
彼女がペロリと舌を出す。か、格好可愛い……!
「僕は誠実の誠って書いてマコト。一色誠っていうんだ。よろしくー」
小首を傾げながら両手を小さく振られた俺は、心の中で「か、わ、い、いーっ!」と叫んだ。馬鹿颯真くんの不貞行為で傷つけられはしたけど、そのお陰でできたこの縁は是非とも大事にしていきたい!
「はい、こちらこそよろしくです! すみません、同性だと思っていたんですよね? 男なのにこんなに泣いて情けないって思わないでくれると嬉しいんですけど……っ!」
すると、パンクファッションの美女――誠が片眉を顰める。
「え? 同性?」
「え?」
「え?」
お互い、暫し見つめ合ったまま停止した。少しして、誠がおかしそうに頬を緩め――「プッ」と吹き出す。
「あははっマジで!? こんなことあるか!?」
「えっ!? な、何!? なんで笑ってるんですか!?」
訳がわからず焦って尋ねると、誠がケラケラ笑いながら笑いの原因を教えてくれた。
「あのさ、来。僕も男なんだけど」
「え」
誠はお腹から服の裾を持ち上げると、「ほら」とぺたんこの胸を見せてくれたのだった。
「よく考えたら、随分と人のことを馬鹿にしたなめた態度だと思いません!?」
すっかり涙が引っ込んだ代わりに怒りを爆発させている俺に、パンクファッションに身を包んだ麗しの美女が大きく頷く。
「本当だよ! なんなんだよ、その彼氏! というか、もう元彼だな! マジで人として最低だと思う!」
「やっぱりそう思いますよね!? 人が信じて健気に追ってきたら実は浮気してましたとか、一体どういうつもりだって感じじゃないですか!」
拳を握り締めて怒り狂う俺に、彼女は賛同するように何度も大きく頷き返してくれた。滅茶苦茶心強い。
「うんうん! それにさ、君は浮気はされたけど振られちゃいないし! 振ったのは君! 向こうは今頃プライドがボロボロになって悔しがっていると思うよ、ざまあみろじゃん!」
あ、なるほど……! そういえば、振ったのって俺じゃないか、と言われて初めて思い至る。浮気された上に振られたら目も当てられない状態だったけど、これなら俺のなけなしのプライドもメンツを保つことができる気がした。
俺の顔に、笑みが戻って来る。
「言われてみればそうですよね! 颯真くんってすごい自信家で、考えてみたらいつも上からで人が折れるのが当たり前みたいな態度でした! すっかり騙されてたけどこれで目が覚めましたよ! あいつは大した人間じゃなかった!」
「お、開眼じゃん、いえーい!」
思わず目を奪われてしまうほど艶やかな満面の笑みを浮かべた彼女が、両手を翳す。ふは、この人って思ったよりもフランクっていうか面白い人なんだな。
「開眼って……でも確かに! いえーい!」
俺も満面の笑みになると、両手のハイタッチをした。パンッといい音が響く。
そうだ、まだこれがあったんだと前のめり気味に話を続けた。
「そうそう、それでなんですけどね!」
「うんうん!」
彼女がキラキラした目で熱心に聞いてくれるお陰で、先程まで俺の中を占めていた消えてしまいたいと願うほどの悲しみは、もう消え去っていた。
「持ち歩いていた誕プレがあったんで、颯真くんに投げつけて立ち去ってやったんです! どうも浮気相手はこっちの存在を知らなかったみたいなんで、今頃あっちは修羅場だからざまあみろですよ!」
「浮気相手に君の存在を黙ってたってこと!? マジで最低だなそいつ! でも本当よくやった! 偉い! ええと――」
彼女が言い淀んだので、名前を聞かれているのだと思い答える。
「あ、俺、行く来るの来るっていう漢字を書いてライっていいます! 幸原来がフルネームで、うちの親が『幸せ来い』って意味で付けてくれたんですよね!」
「何、めっちゃ素敵な由来じゃん! て……え、『俺』?」
彼女が大きくて印象的な目をパチクリとさせた。ここで俺は「あっ」と思い至る。さっき俺を勧誘してきた先輩たちが勘違いしていたアレがここでも起きたのだと。
右手をそーっと上げると、苦笑を浮かべる。
「あのぉー……。俺、男なんです……」
「えっ!? そうだったの!? 僕はてっきり……! ご、ごめん! 勘違いしてた!」
わー! やっぱりそうだったあ! 颯真くんの好みに合わせて男臭さと芋っぽさをできるだけ排除していった結果、俺の見た目はかなり脱・男になっていたらしい。化粧もしていないのにー!
俺は慌てて両手を顔の前でブンブン横に振った。
「さ、さっきも間違われたし、大丈夫ですからっ」
「いや、こっちこそごめん! ほら、彼氏がって言ってたからその、男同士だとは思わなくて……思い込みだった、本当にごめん!」
パン! と両手を勢いよく合わせて頭を下げられてしまう。
「ああっ、いや、謝らないで下さいってば! 俺、元々は普通に女の子が好きだったんですけど、颯真くんの猛アタックでたまたま陥落しちゃったってだけだし、そのっ」
途端、彼女が顔を上げて眉間に盛大な皺を寄せる。
「え、元彼の野郎、猛アタックして来の性癖歪ませた癖に浮気しやがったのかよ」
「へ? あ、うううううんっ、まあそうですけどっ」
意外なところに食いつかれた上にいきなり呼び捨てで呼ばれて、思わずキョドってしまった。恥ずかしすぎる。
「マジで信じられねえ最低な男だな、早くはないかもしれないけどさ、今日それが判明してよかったじゃん」
男同士で付き合っていたとか、俺の地元だったらまず噂されて指を差される案件だ。さすが東京は違うなあと懐の広さに感動しつつ、笑顔を彼女に向ける。
「う、うん……ありがとうございます! ええと……すみません、お名前は?」
「あ、そうだった」
彼女がペロリと舌を出す。か、格好可愛い……!
「僕は誠実の誠って書いてマコト。一色誠っていうんだ。よろしくー」
小首を傾げながら両手を小さく振られた俺は、心の中で「か、わ、い、いーっ!」と叫んだ。馬鹿颯真くんの不貞行為で傷つけられはしたけど、そのお陰でできたこの縁は是非とも大事にしていきたい!
「はい、こちらこそよろしくです! すみません、同性だと思っていたんですよね? 男なのにこんなに泣いて情けないって思わないでくれると嬉しいんですけど……っ!」
すると、パンクファッションの美女――誠が片眉を顰める。
「え? 同性?」
「え?」
「え?」
お互い、暫し見つめ合ったまま停止した。少しして、誠がおかしそうに頬を緩め――「プッ」と吹き出す。
「あははっマジで!? こんなことあるか!?」
「えっ!? な、何!? なんで笑ってるんですか!?」
訳がわからず焦って尋ねると、誠がケラケラ笑いながら笑いの原因を教えてくれた。
「あのさ、来。僕も男なんだけど」
「え」
誠はお腹から服の裾を持ち上げると、「ほら」とぺたんこの胸を見せてくれたのだった。
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
別れたはずの元彼に口説かれています
水無月にいち
BL
高三の佐倉天は一歳下の松橋和馬に一目惚れをして告白をする。お世話をするという条件の元、付き合えることになった。
なにかと世話を焼いていたが、和馬と距離が縮まらないことに焦っている。
キスを強請った以降和馬とギクシャクしてしまい、別れを告げる。
だが別れたのに和馬は何度も会いに来てーー?
「やっぱりアレがだめだった?」
アレってなに?
別れてから始まる二人の物語。
【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
付き合って一年マンネリ化してたから振られたと思っていたがどうやら違うようなので猛烈に引き止めた話
雨宮里玖
BL
恋人の神尾が突然連絡を経って二週間。神尾のことが諦められない樋口は神尾との思い出のカフェに行く。そこで神尾と一緒にいた山本から「神尾はお前と別れたって言ってたぞ」と言われ——。
樋口(27)サラリーマン。
神尾裕二(27)サラリーマン。
佐上果穂(26)社長令嬢。会社幹部。
山本(27)樋口と神尾の大学時代の同級生。
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。