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25 史也の家族
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史也の家の家族構成は、お祖母さん、その家に嫁いだお母さんに、史也の五歳年下で現在高校二年生の妹に史也の、四人家族。
お祖父さんは史也が小学生の時に病気で亡くなった。お父さんは、史也が高校一年生の時に近所の川に流されていた子供を助けて、お父さんだけ亡くなったんだそうだ。
言わなかったけど、やっぱり人助けをしちゃうお人好しの遺伝子なんだなあと思ってしまった。
昏い方へと流されそうになっていた俺を岸に上げてくれたのは、史也だったから。
昔はもっと手を広げていた農業も、お父さんが亡くなると同時に縮小した。元々近所の会社で事務員もやっていたお母さんは、畑がなくなるのは寂しいと泣く義母の為、兼業農家の道を選んだんだそうだ。
「なんだけど、今妹が農業高校に通っててさ。継ぐ気満々で」
「へえー」
お父さんが亡くなった時は、史也はすでに地元からは少し離れた所にある高校の普通科に通っていた。そのことも、農地の一部を手放した理由のひとつだったそうだ。
当時、妹はまだ中学一年生。家の事情を押し付けるには幼いと判断した家族は、妹には何も言わなかった。家族が妹の決意を知ったのは、進路相談があった後、三者面談でのことだったらしい。
史也が、頭を掻きながら小さく微笑む。
「……まあそれ以外にも、俺は元々跡を継がなくてもいいよって言われててさ」
「何で?」
史也の笑顔に、少し困った表情が加わった。
「んー。それはその内」
言いにくいことなんだろう。嫌がるのを、無理して聞き出したくはない。それ以上聞くのは控えると、史也は元のほんわりした笑顔にすぐに戻った。
「いい家族なんだけど、なんせ女所帯だから会話がすごくてさ、あはは」
「そっか、男は史也ひとりだけだもんな」
史也の雰囲気が常に柔らかいのも、もしかしたら女所帯が理由のひとつかもしれない。
「そう。だから、正月に帰らないって言ったら、理由を答えるまで電話を切らせてくれなくてさ。陸のことを話しちゃった」
なるほど。それでようやく俺も納得できた。要は、問い詰められて、俺のことを話さざるを得なかったってことか。なら仕方ない。
なんで史也が照れくさそうになってるのかは知らないけど、この感じなら悪印象ではなかった……のかな。
でも、不安は不安だ。
「なあ、向こうは俺のこと、なんて?」
お人好しの家系なら、困った状況の俺のことを悪し様に言うことはないとは思ったけど。
史也が、チラチラと俺を見る。
「実は、なんで連れて来ないんだ、会わせろってうるさく言われてたんだけど」
なんだって? 何がどうなったら俺に会いたくなるんだ。史也は一体俺をなんて言って説明したんだよ。
「は? 俺に会いたいの?」
史也は、情けなく眉を垂らした。
「うん……でも絶対あの人たちさ、俺の子供の頃の馬鹿な話とか、俺が覚えてないような細かい恥ずかしいことまであれやこれや話すのは目に見えてるし、それに……っ」
まあ、女三人が集まれば確かに賑そうではあるけども。
「それに?」
史也は、またあの顔をしてしまってる。唇を全部口の中にしまっちゃうやつだ。この顔をしてる時は、一体どんな心境なんだろうか。まあ、可愛いけど。
「そ、それに……あのね……っ」
よく見ると、呼吸が小刻みになってきている。大丈夫かな。
「ええと、その……っ」
言いにくそうに絞り出すようにそれだけ言うと、ごくんと喉を鳴らす。家族に、何か弱みでも握られてるんだろうか。
「史也、言いにくかったら別に無理しなくていいし」
「う……あ、うん、ごめん……っ」
よく分からないけど、余裕がなくなってることだけは何となく分かった。……余程賑やかすぎる家族なのかもな、と気付き、それはそれで大変そうだなと少し同情する。
確かに、家に遊びに来る友人全てに対し、自分が覚えていないような恥ずかしい思い出を詳細に語られたら、いくら熱心に勧められてももう連れて行きたくなくなるかもしれない。
困った様子の史也は、身体の前で両手を懸命に振った。
「とっ、とにかく、今はまだ時期尚早だし、ここはじっくりとって何とか説得して勘弁してもらってさ!」
声がでかい。ていうか、時期尚早……てなんだっけ。それに、じっくりとって何をじっくりするんだろう。
「は? 時期尚早?」
史也が何を伝えようとしているのかが分からなさすぎて、思わず思い切り聞き返してしまった。
俺があまりにも訝しげな目で見ていたからか、史也が慌てたように大声で続ける。
「いや、あはは! まあ、うちの親は俺の理解者っていうか、だから自分で繋げた縁は大切にしなさいって言ってくれたしね!」
声大きいな。
でも、史也の家族がいい人たちだっていうのは分かった。
だからって訳じゃないけどさ。
「……うん、いつか連れて行ってほしいな。もうちょっと、電車に慣れてからになるけど」
俺の言葉に、史也の焦り顔にどんどん笑顔が広がっていき。
「――うん! 是非来てほしい!」
「あは、声でかいってば」
「あ、やだな、あははっ」
史也の顔に、満点の笑みが咲いた。
お祖父さんは史也が小学生の時に病気で亡くなった。お父さんは、史也が高校一年生の時に近所の川に流されていた子供を助けて、お父さんだけ亡くなったんだそうだ。
言わなかったけど、やっぱり人助けをしちゃうお人好しの遺伝子なんだなあと思ってしまった。
昏い方へと流されそうになっていた俺を岸に上げてくれたのは、史也だったから。
昔はもっと手を広げていた農業も、お父さんが亡くなると同時に縮小した。元々近所の会社で事務員もやっていたお母さんは、畑がなくなるのは寂しいと泣く義母の為、兼業農家の道を選んだんだそうだ。
「なんだけど、今妹が農業高校に通っててさ。継ぐ気満々で」
「へえー」
お父さんが亡くなった時は、史也はすでに地元からは少し離れた所にある高校の普通科に通っていた。そのことも、農地の一部を手放した理由のひとつだったそうだ。
当時、妹はまだ中学一年生。家の事情を押し付けるには幼いと判断した家族は、妹には何も言わなかった。家族が妹の決意を知ったのは、進路相談があった後、三者面談でのことだったらしい。
史也が、頭を掻きながら小さく微笑む。
「……まあそれ以外にも、俺は元々跡を継がなくてもいいよって言われててさ」
「何で?」
史也の笑顔に、少し困った表情が加わった。
「んー。それはその内」
言いにくいことなんだろう。嫌がるのを、無理して聞き出したくはない。それ以上聞くのは控えると、史也は元のほんわりした笑顔にすぐに戻った。
「いい家族なんだけど、なんせ女所帯だから会話がすごくてさ、あはは」
「そっか、男は史也ひとりだけだもんな」
史也の雰囲気が常に柔らかいのも、もしかしたら女所帯が理由のひとつかもしれない。
「そう。だから、正月に帰らないって言ったら、理由を答えるまで電話を切らせてくれなくてさ。陸のことを話しちゃった」
なるほど。それでようやく俺も納得できた。要は、問い詰められて、俺のことを話さざるを得なかったってことか。なら仕方ない。
なんで史也が照れくさそうになってるのかは知らないけど、この感じなら悪印象ではなかった……のかな。
でも、不安は不安だ。
「なあ、向こうは俺のこと、なんて?」
お人好しの家系なら、困った状況の俺のことを悪し様に言うことはないとは思ったけど。
史也が、チラチラと俺を見る。
「実は、なんで連れて来ないんだ、会わせろってうるさく言われてたんだけど」
なんだって? 何がどうなったら俺に会いたくなるんだ。史也は一体俺をなんて言って説明したんだよ。
「は? 俺に会いたいの?」
史也は、情けなく眉を垂らした。
「うん……でも絶対あの人たちさ、俺の子供の頃の馬鹿な話とか、俺が覚えてないような細かい恥ずかしいことまであれやこれや話すのは目に見えてるし、それに……っ」
まあ、女三人が集まれば確かに賑そうではあるけども。
「それに?」
史也は、またあの顔をしてしまってる。唇を全部口の中にしまっちゃうやつだ。この顔をしてる時は、一体どんな心境なんだろうか。まあ、可愛いけど。
「そ、それに……あのね……っ」
よく見ると、呼吸が小刻みになってきている。大丈夫かな。
「ええと、その……っ」
言いにくそうに絞り出すようにそれだけ言うと、ごくんと喉を鳴らす。家族に、何か弱みでも握られてるんだろうか。
「史也、言いにくかったら別に無理しなくていいし」
「う……あ、うん、ごめん……っ」
よく分からないけど、余裕がなくなってることだけは何となく分かった。……余程賑やかすぎる家族なのかもな、と気付き、それはそれで大変そうだなと少し同情する。
確かに、家に遊びに来る友人全てに対し、自分が覚えていないような恥ずかしい思い出を詳細に語られたら、いくら熱心に勧められてももう連れて行きたくなくなるかもしれない。
困った様子の史也は、身体の前で両手を懸命に振った。
「とっ、とにかく、今はまだ時期尚早だし、ここはじっくりとって何とか説得して勘弁してもらってさ!」
声がでかい。ていうか、時期尚早……てなんだっけ。それに、じっくりとって何をじっくりするんだろう。
「は? 時期尚早?」
史也が何を伝えようとしているのかが分からなさすぎて、思わず思い切り聞き返してしまった。
俺があまりにも訝しげな目で見ていたからか、史也が慌てたように大声で続ける。
「いや、あはは! まあ、うちの親は俺の理解者っていうか、だから自分で繋げた縁は大切にしなさいって言ってくれたしね!」
声大きいな。
でも、史也の家族がいい人たちだっていうのは分かった。
だからって訳じゃないけどさ。
「……うん、いつか連れて行ってほしいな。もうちょっと、電車に慣れてからになるけど」
俺の言葉に、史也の焦り顔にどんどん笑顔が広がっていき。
「――うん! 是非来てほしい!」
「あは、声でかいってば」
「あ、やだな、あははっ」
史也の顔に、満点の笑みが咲いた。
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