世界樹の贄の愛が重すぎる

緑虫

文字の大きさ
53 / 66

53 親子

しおりを挟む
 ユグとの再会を喜んでいた僕だったけど、ここでとあることを思い出す。

 ユグに会えたのは嬉しいけど、三人を早く外に出してあげないとだ。それに、ユグには紹介したい人だっている。

 しがみついていた腕を緩めると、ユグの瞳が不安そうに揺れた。安心させる為に、にっこりと笑いかける。

「ユグ、一旦下ろしてくれる?」
「……うん」

 端正な顔を訝しげに歪めつつも、ユグは僕をその場に下ろしてくれた。

 一歩下がり、周囲を見渡す。守り人たちはまだ集会を開いているのか、東屋の方面の空が炎の明かりで明るい。ざわついた声が微かに耳に届く程度で、大きな変化はなさそうに思えた。

 うん、今なら大丈夫そうだ。中の三人に声を掛ける。

「みんな、今なら見張りもいません! 出てきて大丈夫ですよ!」

 僕の掛け声に、「では私から行きますね」とドルグがふわりと外へと出てきた。風のマナを使ったんだろう、空に舞う綿毛のような軽やかな着地に、思わず拍手する。ドルグが少し悲しそうに微笑み返した。僕の腰に回されたユグの腕に、少し力が込められる。絶賛警戒中らしい。

「では次は俺だな!」とヨルトが答えると、こちらは腕力でグワッと一気に登ってきた。身体が重そうなのに、さすがは巨人族だ。ドン! という重量感のある音と共に土煙が舞い、ドルグが「汚れるじゃないですか」と小声で文句を言っている。

 ヨルトも「細かいな」と小声で返しているところをみると、本当に僕が気付かなかっただけで、この二人はちっとも仲良くなさそうだ。共同戦線を張られていたから、僕には見えないところで攻防を繰り広げていたのかもしれない。本当にどちらかと二人きりにならなくてよかった。

 そして、最後にワドナンさんが助走してひらりと飛び、地面の上を一回転して着地した。だけど、片膝を地面についたまま俯いてしまって、なかなか顔を上げない。

「……あの、ワドナンさん?」

 僕が声を掛けると同時に、ユグがビクッと反応して一歩退いた。

 そうか、ユグは虚に入ってきた時、多分僕のことしか目に入っていない。守り人、しかも自分の父親が一緒に囚われていたなんて、思いもよらなかったのかもしれない。

 微動だにしなかったワドナンさんが、ユグの気配を察したのか、微かに身体を揺らす。

 どちらも無言のまま、動かない。

 ヨルトとドルグは事実を簡単に説明されただけなので、二人が抱えている複雑な心境までは知らされていない。気不味い雰囲気を払拭する為か、互いに肩を竦めてからワドナンさんに話しかけた。

「ワドナン殿、どうしたのだ?」
「どこか擦り剥きでもされましたか?」

 ワドナンさんが、静かに顔を上げる。

「――ッ!?」

 ユグと僕に向けられたワドナンさんの両頬には、太い涙の筋が伝っていた。唇は震え、幾度も瞬きしても涙が止まらないらしく、肩で瞼を拭う。

 苦しそうな涙声が、ユグによく似た唇から出てきた。

「ユグ……と名付けてもらったのだな」
「……っ」

 ユグがもう一歩下がろうとするのを、僕はその場に踏ん張ることで留める。ユグは躊躇いつつも、後ろに引っ張るのを止めた。

「……いい名だ。俺も、できることならお前に名前を付けてやりたかった」

 ハラハラとこぼれ落ちる涙には、ワドナンさんが自分に対して不甲斐なさを感じているように思えて仕方なかった。

「会いたかった。お前の息災を、ずっと祭壇で祈っていた……」
「父さま……?」

 ユグが不安そうに僕とワドナンさんを交互に見やる。僕は深くひとつ頷くと、ユグに伝えることにした。

「ユグ、ワドナンさんはね、最初からずっと君を如何に生き延びさせるかを考えながら行動していたんだよ」
「で、でも、」
「君を『守り人の村』に居続けさせることは、状況的に難しかったんだと思う。その中で、君が生きられるだろう道を、たとえ自分が嫌われることになろうが選んだんだ。――ワドナンさんは、君を大切に思っていたから」
「!」

 泣き顔のワドナンさんが、信じられないといった表情のユグに小さく微笑みかける。

「……許してくれとは、とても言えない。だが、これだけは言わせてくれ」
「な、何を、」

 スウ、と息を吸い込んだワドナンさんが、言った。

「俺の息子よ。生きていてくれてありがとう……!」

 直後にワドナンさんの瞳から大量の涙が更に溢れてきて、ワドナンさんは手のひらで両目を覆う。

 ユグはずっと驚いた顔のまま、ただワドナンさんを見下ろしていたけど。

「……父さまが教えてくれたこと、全部役に立った」

 ぽつりと返した言葉に許しが含まれていることに気が付いたワドナンさんは、そのまま泣き崩れてしまった。

「うう……っ、うああ……っ!」

 地面に額を付けて、男泣きに泣く姿は、子供との再会を喜ぶ親の姿そのものだ。

 ユグはやっぱり戸惑った風のままだったけど、僕がユグの背中をぽんと叩いて少し押すと、ふらりとワドナンさんの前に膝を突く。

「……父さま……」
「……!」

 額に土を付けたワドナンさんが、跳ねたように顔を上げた。

「良かった……! 良かった、俺の息子はちゃんと生きていたぞ……!」

 膝立ちになったかと思うと、腕でユグの身体を引き寄せて抱き締める。

「すまん、すまなかった……!」
「う、……うん」

 どうしたらいいんだろうとでもいうようにぷらんとしていた腕が、ゆっくりと上っていき、そして。

「ユグ、って呼んで、いい」
「! ユグ……ユグ!」

 二人は親子の絆を確かめ合うかの如く、暫くそのままきつく抱き締め合っていたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

処理中です...