世界樹の贄の愛が重すぎる

緑虫

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62 ヨルちゃん

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 ラータが意気揚々と光に向かって喋り続ける。

『こいつら二人でひとつな! だから規則の変更登録にも二人の承認、いいな? 登録よろしくー!』

 ラータの言葉は分かるけど、言葉の意味が全く理解できない。規則の変更登録? え、どういうこと?

 中性的な声が、淡々と返す。

『変更登録の際は、登録者二名分の命の水を必要とする旨、今代規約に登録完了』

 今代規約……命の水? え、えええっ!? よく分からないけど、何かを変更する時には僕とユグの精液が必要ってこと!?

 ハッ! ユグが怯えてるんじゃ! と思いいつの間にか僕がしがみついていたユグを見上げると、ぽかんとしていた。そんな顔も凛々しくて可愛いなんて、さすが僕の恋人だ。

 ラータがふんぞり返りながら、笑う。

『こいつらさあ、オレ様が恥ずかしくなっちゃうくらい相思相愛だからよー! 引き離されるの可哀想じゃね? あーオレ様って優しい神獣! にしても、なっかなかいい考えだろー!? さっきダメ元でアーウィンに思念送っておいて大正解だな! ユグに名前教える時以来だったから久々すぎてできるかちょっと心配だったけど、大成功! オレ様天才! これなら守り人が絶対アーウィンを手放さないだろうからな! わっはっは!』

 ラータは非常に楽しそうにペラペラとよく喋っているけど、対する中性的な声はとても冷静そのものに聞こえた。

『……ラタトスクからの特記事項は以上でいいか』

 それはラータからみても同様だったらしい。

『ケッ! 相変わらず事務的だなあヨルちゃんよ!』
『我が名はヨルムンガンド。ヨルちゃんではない』
『数百年ぶりに会話できたっつーのにこれだよなあ、ったく』

 会話の内容が、やっぱりさっぱり理解できない。

『変更登録時はラタトスクの同席は不要と追記』
『おっまえなあ! 冷てえの!』

 ちえーっ! なんてぶつくさ言っているラータに、ヨルムンガンドと名乗った相手が語りかける。

『フレースヴェルグとニーズヘッグがお前の不甲斐なさを嘆いていた。早急に地上を平定せよ』

 ラータが怒った様子でぴょんぴょん跳ねた。

『うっせーな! 仕方ねえだろ!? こいつら子供の血ばっか寄越してくるしちゃんと登録する前に死んじゃうしさ、血だったせいであいつらおかしな具合にオレ様の声を聞き取ってたんだよ! オレ様のせいじゃねー! 何の為に守り人一族が全員男なんだか考えろっつんだよ、なあ!?』

 え。今、さらりと声が聞こえない理由を喋ってた? しかも更にさらりと守り人に女性がいない秘密まで暴露していたような。

「ラ、ラータ? 今のって一体……」

 ああん? みたいな目で、ラータが煩わしそうに僕を見上げる。

『今の? あー、お前が知りたがってた『世界樹の声が聞こえなくなってきている原因』だよ! 命の水が血だって勘違いした何世代か前から聞き間違いが多くなってよお! かといって、血の情報すらそろそろ消えそうになって、マジで焦ったぜ!』
「じゃ、じゃあ、十年前っていうのは……?」

 ラータがふんぞり返ったまま答えた。

『長老いるだろー? あいつ急に耳遠くなっちゃってさあ。丁度それくらいだよなー』

 うっそ。そんな理由だったのか。

 目を大きく見開いていると、それまでずっと静かに僕らのやり取りを聞いていたユグが尋ねる。

「ラータ……オレと一緒に居てくれたのは、どうして……?」

 ふん、と相変わらず偉そうに鼻息を吐いたラータが、ちょっぴり照れくさそうに答えた。

『ケッ! そ、そんなの……だってお前が死ぬ必要ないだろっ。それに誰もオレ様の声が聞けなくなってきてたし、オレ様だって話し相手は欲しかったし……。べ、別に一緒にいたって問題なかっただろ!?』
「――ッ、ラータ……!」

 ユグの頬を涙が伝うと同時に、ユグがラータをむんずと掴み頬擦りをする。

「ラータ、ありがと、一緒にいてくれてありがと……!」
『お、おう……。てお前、この手さっきまでお前らの精液持ってた手じゃねえか! やめろっ! わっ、臭う!』
「ラータ、ラータ……!」

 ユグは感動のあまりか、ラータの声が耳に届いていないみたいだった。ラータはユグの手の中で物凄い微妙な顔をしている。……まあ、気持ちは分かる。

『……我は去るぞ。久々に話したら疲れた』
『相変わらずヨルちゃんは図体でかいだけで体力ねーんだからよー。あ! 寝る前に教えろよ! あの噴火さ、何だったの?』

 ヨルちゃんことヨルムンガンドさんが、暫しの沈黙の後、ボソボソと答えた。

『……あれは、少々寝返りを打ったら……これに関しては申し訳ない』

 ……一体どういうこと? そういや、ヨルムンガンドって何? 身体の大きな何なのかな?

 僕の疑問が顔に出ていたんだろう。相変わらず頬擦りされているラータが、だらんと諦めた様子で教えてくれた。

『あー、こいつはヨルムンガンドっつってな、地上をぐるっと取り囲んでいるでっかい蛇なんだよ。動くのがめんどくせーっつーんで記録係になってるんだけどさー。でっかいから、身動きすると天変地異的なのが起こることがあって』
『では寝る。これ以上我について喋るな。不愉快だ』

 ヨルムンガンドさんは、もうこれ以上言われたくなかったんだろう。先程までとは違い、早口で締め括る。

『……変更登録の際は要求を簡素に伝えるように』
『へーへー、長くなって悪かったなあ。っとにものぐさなんだからよ。――じゃあまあ、こっちも凱旋しましょうかねー』

 またなヨルちゃーん! というラータの声が内部に響き渡った直後。

「おおお……っ」

 直前まで青白く発光していた床が色味を失い、僕らは再び闇の中に戻ってきたのだった。
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