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25 売り言葉に買い言葉
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俺の怒ったぞ宣言に、ここにいるみんなが息を呑む。
だけど、誰も口出しはしてこなかった。……おお、やっぱり神子の意見ってこんなに通るんだ! もっと早く気付けばよかった!
「俺はグイード――狼族の青年に保護されて、楽しく過ごしてたんですよ? それを突然説明もなしに拉致して、どうなってんですか獣国って」
獣王は何も答えない。代わりに、獣王の隣に立っている宰相が「チッ」と小さく舌打ちをして、慌てて口を押さえた。……見たぞ、聞こえたぞ。
「俺はここに来たいなんてひと言も言ってないし、このまま居たいとも思ってません」
獣王が、ピクリと小さく反応する。くっ、圧が強い……! でも負けないぞ!
「なのに帰りたいと思ったら、俺たちが暮らしていた場所を獣王様が壊しちゃってたんです。セドリックに見てきてもらったから本当ですよ。俺は無事だよって伝えたかったのに、獣王様のせいで狼族の彼が行方不明になっちゃったんです!」
すう、と息を吸ってから、とうとう俺は言った。
「だから俺は、これからここを出てグイードを探しに旅に出ますから!」
高らかに宣言した瞬間、宰相が一歩前に飛び出してくる。
「待たれよ! それでは、神子としての責任はどうされるおつもりか!」
「――宰相、待て」
獣王が止めに入ったけど、宰相は頭に血が上ってしまったのか、唾を撒き散らしながら俺に向かって怒鳴ってきた。
「神子が獣人と番い子を成すことがこの世界の定めですぞ! なのにその責務を放棄されるというのか! それとも神子様は、自分の願いの為なら我々に滅びよと仰るのか!」
突然の物凄い剣幕に、思わずどもる。
「え、あの、」
「こちらにおいでになられてからというもの、引きこもって顔すら見せず! 我々は御身の為に各種族で一番有能な者たちをよりすぐって顔合わせの準備も進めているというのに、どれだけの者に迷惑をかけているかお分かりになっておられぬではないかッ!」
「ひ……っ」
こ、怖いよこのじいさん! 口を挟む隙も与えられず浴びせられる怒声に、ひゅっと身が縮こまった。すると、温かい手が俺の肩にそっと触れる。
「――宰相。いい加減になさい。自分が誰に向かって仰っているかお分かりか」
セドリックが、萎縮して口をパクパクすることしかできなくなってしまった俺の代わりに宰相に言ってくれた。さすが騎士団長、頼りになる! 本当にセドリックがいてよかった……俺、怒鳴られるの苦手なんだよ。本当に嫌いだ、こういう奴。俺の中で、宰相の印象が最低レベルにまで落とされた。
だけど、宰相はちっとも堪えた様子もなく、怒鳴り続ける。
「邪魔立てをするなッ! 猫獣人風情が、獅子族に偉そうな口を叩くんじゃない!」
「――なんだとッ!」
あれ、セドリック? たった数秒前までの冷静な貴方はどこに行ったんですか?
こめかみに青筋を立てたセドリックが、牙を剥く。
「獅子族獅子族と仰るが、たまたま先代神子様に選ばれただけの一種族でしょう!」
「ああんっ!? 選ばれただけだとッ! お前らに至っては選ばれもしなかっただろうが、この劣等種が!」
ズカズカと前に出てきた宰相に負けじと、セドリックも前に出てきた。額が今にも付きそうなくらい顔を近付けて睨み合っている。わ、俺これ知ってる! メンチ切るってやつだよな! ていうかそうじゃねえ! 怖いからやめてー!
「劣等種は獅子族の方でしょう! 先代神子様がご短命であらせられたのも、獅子族の対応に問題があったのではないですか!」
「貴様あっ! 言っていいことと悪いことの区別もつかぬとは、やはり劣等種だなあッ!」
「なにを!」
真っ赤になってしまったセドリックが、腰に帯びた剣の柄をガッと掴む。うわああ! それだめ! 絶対駄目なやつ!
なのに、宰相は高らかに笑いながら煽る煽る。
「ああっ? ここでこの儂を斬るというのか! やってみよ! 儂の血が流れたその瞬間、全ての猫獣人はもう二度と帝都に入ることは叶わなくなるだろうよ! はーっはっはっはっ!」
「くっ! 私にできないと言うか、この老害がッ!」
「神子様を猫族で囲んだつもりだろうが、そうはいかぬ! すでに何名かの候補者は城に到着し待機しているからな、お前の失脚が分かれば手を叩いて喜ぶだろうよッ!」
「――くそッ!」
チャキ、と鞘から剣が少し抜かれた音がした瞬間、俺はセドリックの背中に飛びついた。
「わ、わ、分かった! 会うから! 候補者って人たちに会えばとりあえずいいんでしょっ? それから探しに行くから! それでいいでしょ!? だからほら、二人共言い争いは――!」
「……ふっ」
「えっ」
あ、しまった。
にやりとした宰相と驚き顔のセドリック、そして仮面に隠されていて分からないけど何となく呆れ顔になってるだろうなって雰囲気から分かる獣王の注目を浴びる中、俺は自分の失言に頭を抱えたくなった。
――もういや、このえせ平和主義。
だけど、誰も口出しはしてこなかった。……おお、やっぱり神子の意見ってこんなに通るんだ! もっと早く気付けばよかった!
「俺はグイード――狼族の青年に保護されて、楽しく過ごしてたんですよ? それを突然説明もなしに拉致して、どうなってんですか獣国って」
獣王は何も答えない。代わりに、獣王の隣に立っている宰相が「チッ」と小さく舌打ちをして、慌てて口を押さえた。……見たぞ、聞こえたぞ。
「俺はここに来たいなんてひと言も言ってないし、このまま居たいとも思ってません」
獣王が、ピクリと小さく反応する。くっ、圧が強い……! でも負けないぞ!
「なのに帰りたいと思ったら、俺たちが暮らしていた場所を獣王様が壊しちゃってたんです。セドリックに見てきてもらったから本当ですよ。俺は無事だよって伝えたかったのに、獣王様のせいで狼族の彼が行方不明になっちゃったんです!」
すう、と息を吸ってから、とうとう俺は言った。
「だから俺は、これからここを出てグイードを探しに旅に出ますから!」
高らかに宣言した瞬間、宰相が一歩前に飛び出してくる。
「待たれよ! それでは、神子としての責任はどうされるおつもりか!」
「――宰相、待て」
獣王が止めに入ったけど、宰相は頭に血が上ってしまったのか、唾を撒き散らしながら俺に向かって怒鳴ってきた。
「神子が獣人と番い子を成すことがこの世界の定めですぞ! なのにその責務を放棄されるというのか! それとも神子様は、自分の願いの為なら我々に滅びよと仰るのか!」
突然の物凄い剣幕に、思わずどもる。
「え、あの、」
「こちらにおいでになられてからというもの、引きこもって顔すら見せず! 我々は御身の為に各種族で一番有能な者たちをよりすぐって顔合わせの準備も進めているというのに、どれだけの者に迷惑をかけているかお分かりになっておられぬではないかッ!」
「ひ……っ」
こ、怖いよこのじいさん! 口を挟む隙も与えられず浴びせられる怒声に、ひゅっと身が縮こまった。すると、温かい手が俺の肩にそっと触れる。
「――宰相。いい加減になさい。自分が誰に向かって仰っているかお分かりか」
セドリックが、萎縮して口をパクパクすることしかできなくなってしまった俺の代わりに宰相に言ってくれた。さすが騎士団長、頼りになる! 本当にセドリックがいてよかった……俺、怒鳴られるの苦手なんだよ。本当に嫌いだ、こういう奴。俺の中で、宰相の印象が最低レベルにまで落とされた。
だけど、宰相はちっとも堪えた様子もなく、怒鳴り続ける。
「邪魔立てをするなッ! 猫獣人風情が、獅子族に偉そうな口を叩くんじゃない!」
「――なんだとッ!」
あれ、セドリック? たった数秒前までの冷静な貴方はどこに行ったんですか?
こめかみに青筋を立てたセドリックが、牙を剥く。
「獅子族獅子族と仰るが、たまたま先代神子様に選ばれただけの一種族でしょう!」
「ああんっ!? 選ばれただけだとッ! お前らに至っては選ばれもしなかっただろうが、この劣等種が!」
ズカズカと前に出てきた宰相に負けじと、セドリックも前に出てきた。額が今にも付きそうなくらい顔を近付けて睨み合っている。わ、俺これ知ってる! メンチ切るってやつだよな! ていうかそうじゃねえ! 怖いからやめてー!
「劣等種は獅子族の方でしょう! 先代神子様がご短命であらせられたのも、獅子族の対応に問題があったのではないですか!」
「貴様あっ! 言っていいことと悪いことの区別もつかぬとは、やはり劣等種だなあッ!」
「なにを!」
真っ赤になってしまったセドリックが、腰に帯びた剣の柄をガッと掴む。うわああ! それだめ! 絶対駄目なやつ!
なのに、宰相は高らかに笑いながら煽る煽る。
「ああっ? ここでこの儂を斬るというのか! やってみよ! 儂の血が流れたその瞬間、全ての猫獣人はもう二度と帝都に入ることは叶わなくなるだろうよ! はーっはっはっはっ!」
「くっ! 私にできないと言うか、この老害がッ!」
「神子様を猫族で囲んだつもりだろうが、そうはいかぬ! すでに何名かの候補者は城に到着し待機しているからな、お前の失脚が分かれば手を叩いて喜ぶだろうよッ!」
「――くそッ!」
チャキ、と鞘から剣が少し抜かれた音がした瞬間、俺はセドリックの背中に飛びついた。
「わ、わ、分かった! 会うから! 候補者って人たちに会えばとりあえずいいんでしょっ? それから探しに行くから! それでいいでしょ!? だからほら、二人共言い争いは――!」
「……ふっ」
「えっ」
あ、しまった。
にやりとした宰相と驚き顔のセドリック、そして仮面に隠されていて分からないけど何となく呆れ顔になってるだろうなって雰囲気から分かる獣王の注目を浴びる中、俺は自分の失言に頭を抱えたくなった。
――もういや、このえせ平和主義。
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