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30 神子降臨祝賀会
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先日通ったのと同じルートで進んで行くと、やがてこれでもかと花に彩られた王の間の入口が見え始めた。
執事風の熊っぽいフォルムの中年男性が、訪れる人に花を一輪ずつ手渡している。受け取った人は、各々胸元に花を挿して中に入っていった。見たところ、やってきてるのは殆どが男性みたいだ。俺に対する抜け駆け禁止とかで、女子チームは後から入ってくるのかな。どうせならそのまま来ないでいいよ、面倒臭くなくていいから。
「さ、ヨウタ様。私たちも中に入りましょう」
「ソウデスネ」
棒読みで応えたけど、セドリックの笑顔は消えないままだ。随分とご機嫌だなあ。
俺たちが熊おじさんに近付いた途端、周囲にいた人たちが一斉に俺たちに注目する。ひいっ! 突き刺さる視線が痛い。なんかねっとりしてる気がするのは俺の気のせいか? なに、政治的に利用してやるぜ的な? やっぱり帝都怖い!
「これは神子様! お待ちしておりました!」
熊おじさんが、緊張の面持ちで直立不動の姿勢になる。ごくんと唾を呑み込むと、いくつかの白い小さな花が花束みたいにまとめられた手のひら大の花飾りを、震える手で俺に差し出した。
「こ、こちらをお髪にどうぞっ」
「え、おぐし……あ、髪に挿すの?」
なんで俺だけ胸ポケットじゃないんだよと思ったけど、よく見たら俺の服だけ胸ポケットがなかった。ですよね。
「それでは僭越ながら私が」
セドリックが熊おじさんから花飾りを受け取ると、耳飾りが付いていない俺の左耳の上にスッと挿す。くん、とセドリックの鼻が小さく動いた。目を細め、微笑みながら俺を見下ろす。
「嗅いだことがないものですが、とても魅惑的な香りですね」
これに対し、熊おじさんが緊張気味に強張った笑顔で答えた。
「こ、こちらは獣王陛下が神子様に、とご用意されたものですからっ」
セドリックが、なるほどといった様子で頷く。
「そうですか。神子様自身の美しさを損なわず引き立てる素晴らしい出来ですね」
「よ、よかったです!」
熊おじさんの額の汗がやばい。おいおい大丈夫か? と熊おじさんの目を見ると、思い切り逸らされた。セドリックは先程から俺しか見てなくて、熊おじさんの挙動不審な様子にも気付いていないのか、それとも元々知り合いで熊おじさんはいつもこんな感じの人なのか、気にした様子はない。……ま、セドリックが気にならないならいっか。
「ヨウタ様、中へ入りましょうか」
「だな」
再びセドリックの腕に手を触れると、心なしかセドリックの全身から熱を感じた。
「セドリック、体調大丈夫? 実は無理してない?」
見た限りでは元気そうだけど、この間から俺が大分無理させてしまっている自覚はある。ついでに「セドリックが発熱したので早めに退散します」ってさっさと顔合わせだけして抜け出せないかな、なんてちょっと打算的なことも一瞬考えたりして。ごめんセドリック。
セドリックが、どことなく熱を帯びた目を向ける。
「いえ? どこも問題ございませんよ。何故です?」
「いや、なんか体温上がってないかなーって。ほら、この前びしょ濡れになってたしさ」
「全く問題ございませんよ。美しいヨウタ様の隣に私が立っているという事実に興奮しているのは認めますが」
「は、はは……」
やっぱり熱あるんじゃない?
王の間には、先日はなかった長テーブルがずらりと並び、その上には美味そうな料理がこれでもか! と並べられていた。全体的に肉が多い。候補者は肉食系獣人が多いのかな。やだなあ、肉を骨ごとバリバリ食う肉食系令嬢とかだったら。
草食系令嬢を押し除けて候補者のポジションを勝ち取ったかもと考えたら、ぶるりと悪寒が背筋を走り抜けていった。俺は女子慣れしてないから、女子に幻想を抱いてるんだよ。夢を壊さないでね、お願いだよ。
金属製の細長いグラスを載せた給仕の人を目配せで呼び寄せたセドリックが、グラスをふたつ取ってひとつを俺に渡す。中を覗き込むと、シュワシュワしてる液体が入っていた。
「こちらは王室御用達の果樹園の果実酒ですね。やはり香りが違う」
ちなみにセドリック曰く、金属製のグラスを使っているのは、毒が入れられたら変色して飲む前に気付ける為になんだって。こええよ。やっぱりそういう毒で暗殺とかあるってことだろ? 俺は多分毒を飲んでも自力で回復できるけど、苦しいのはやっぱり嫌だなあ。ていうか、どんだけ殺伐としてるんだよ、獣国の帝都。そりゃ神様も嘆くよ本当。
そうこうしている間にも、会場となっている王の間にはどんどん着飾った人が入場してくる。だけど、玉座はまだ空席のままだ。獣王が来たらパーティーが始まるのかもしれない。なら全員が揃うまでは獣王は入場しないのかもな、なんて気付いた。それよりも気になるのは、さっきから周りが男ばかりなことだ。こりゃ、後で候補者が登場説が有力だな。
今は歓談タイムってことなのか、着飾った人たちはみんな、少人数で固まって立ち話をしている。目が合うと逸らす人と、にやけながら不躾に見てくる人と半々だ。神子の存在が物珍しいんだろうけど、どちらもあまりいい気分はしない。
俺が嫌な気分になっていたのを察したのか、セドリックが周囲に冷たい目線を向けながら俺の耳元で囁く。
「ヨウタ様、麗しいお姿を不遜な輩に見せる必要はございません。こちらへ」
「うん、ありがと」
セドリックの陰に隠れるようにして立つと、ようやく周りの視線が気にならなくなった。
執事風の熊っぽいフォルムの中年男性が、訪れる人に花を一輪ずつ手渡している。受け取った人は、各々胸元に花を挿して中に入っていった。見たところ、やってきてるのは殆どが男性みたいだ。俺に対する抜け駆け禁止とかで、女子チームは後から入ってくるのかな。どうせならそのまま来ないでいいよ、面倒臭くなくていいから。
「さ、ヨウタ様。私たちも中に入りましょう」
「ソウデスネ」
棒読みで応えたけど、セドリックの笑顔は消えないままだ。随分とご機嫌だなあ。
俺たちが熊おじさんに近付いた途端、周囲にいた人たちが一斉に俺たちに注目する。ひいっ! 突き刺さる視線が痛い。なんかねっとりしてる気がするのは俺の気のせいか? なに、政治的に利用してやるぜ的な? やっぱり帝都怖い!
「これは神子様! お待ちしておりました!」
熊おじさんが、緊張の面持ちで直立不動の姿勢になる。ごくんと唾を呑み込むと、いくつかの白い小さな花が花束みたいにまとめられた手のひら大の花飾りを、震える手で俺に差し出した。
「こ、こちらをお髪にどうぞっ」
「え、おぐし……あ、髪に挿すの?」
なんで俺だけ胸ポケットじゃないんだよと思ったけど、よく見たら俺の服だけ胸ポケットがなかった。ですよね。
「それでは僭越ながら私が」
セドリックが熊おじさんから花飾りを受け取ると、耳飾りが付いていない俺の左耳の上にスッと挿す。くん、とセドリックの鼻が小さく動いた。目を細め、微笑みながら俺を見下ろす。
「嗅いだことがないものですが、とても魅惑的な香りですね」
これに対し、熊おじさんが緊張気味に強張った笑顔で答えた。
「こ、こちらは獣王陛下が神子様に、とご用意されたものですからっ」
セドリックが、なるほどといった様子で頷く。
「そうですか。神子様自身の美しさを損なわず引き立てる素晴らしい出来ですね」
「よ、よかったです!」
熊おじさんの額の汗がやばい。おいおい大丈夫か? と熊おじさんの目を見ると、思い切り逸らされた。セドリックは先程から俺しか見てなくて、熊おじさんの挙動不審な様子にも気付いていないのか、それとも元々知り合いで熊おじさんはいつもこんな感じの人なのか、気にした様子はない。……ま、セドリックが気にならないならいっか。
「ヨウタ様、中へ入りましょうか」
「だな」
再びセドリックの腕に手を触れると、心なしかセドリックの全身から熱を感じた。
「セドリック、体調大丈夫? 実は無理してない?」
見た限りでは元気そうだけど、この間から俺が大分無理させてしまっている自覚はある。ついでに「セドリックが発熱したので早めに退散します」ってさっさと顔合わせだけして抜け出せないかな、なんてちょっと打算的なことも一瞬考えたりして。ごめんセドリック。
セドリックが、どことなく熱を帯びた目を向ける。
「いえ? どこも問題ございませんよ。何故です?」
「いや、なんか体温上がってないかなーって。ほら、この前びしょ濡れになってたしさ」
「全く問題ございませんよ。美しいヨウタ様の隣に私が立っているという事実に興奮しているのは認めますが」
「は、はは……」
やっぱり熱あるんじゃない?
王の間には、先日はなかった長テーブルがずらりと並び、その上には美味そうな料理がこれでもか! と並べられていた。全体的に肉が多い。候補者は肉食系獣人が多いのかな。やだなあ、肉を骨ごとバリバリ食う肉食系令嬢とかだったら。
草食系令嬢を押し除けて候補者のポジションを勝ち取ったかもと考えたら、ぶるりと悪寒が背筋を走り抜けていった。俺は女子慣れしてないから、女子に幻想を抱いてるんだよ。夢を壊さないでね、お願いだよ。
金属製の細長いグラスを載せた給仕の人を目配せで呼び寄せたセドリックが、グラスをふたつ取ってひとつを俺に渡す。中を覗き込むと、シュワシュワしてる液体が入っていた。
「こちらは王室御用達の果樹園の果実酒ですね。やはり香りが違う」
ちなみにセドリック曰く、金属製のグラスを使っているのは、毒が入れられたら変色して飲む前に気付ける為になんだって。こええよ。やっぱりそういう毒で暗殺とかあるってことだろ? 俺は多分毒を飲んでも自力で回復できるけど、苦しいのはやっぱり嫌だなあ。ていうか、どんだけ殺伐としてるんだよ、獣国の帝都。そりゃ神様も嘆くよ本当。
そうこうしている間にも、会場となっている王の間にはどんどん着飾った人が入場してくる。だけど、玉座はまだ空席のままだ。獣王が来たらパーティーが始まるのかもしれない。なら全員が揃うまでは獣王は入場しないのかもな、なんて気付いた。それよりも気になるのは、さっきから周りが男ばかりなことだ。こりゃ、後で候補者が登場説が有力だな。
今は歓談タイムってことなのか、着飾った人たちはみんな、少人数で固まって立ち話をしている。目が合うと逸らす人と、にやけながら不躾に見てくる人と半々だ。神子の存在が物珍しいんだろうけど、どちらもあまりいい気分はしない。
俺が嫌な気分になっていたのを察したのか、セドリックが周囲に冷たい目線を向けながら俺の耳元で囁く。
「ヨウタ様、麗しいお姿を不遜な輩に見せる必要はございません。こちらへ」
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