可愛くない猫でもいいですか

緑虫

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12 誤解

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 嘘だ……え、何してんのこいつ?

 驚きのあまり目を見開いていると、拓海がゆっくりと俺のちんこから口を離した。妖艶に舌で口元を舐める仕草は、ちょっと猫っぽい。……どっちかというと、もっと図体のでかい猫科の猛獣に近そうだけど。

「あー、にが。初めて飲んだ」
「ば……っ! うがいしろ! こんなの、お前馬鹿か!?」
「え、やだ。お前のものは俺のものだもん」

 絶句した。どこのガキ大将だよ。ちょっと待て、これまでの爽やかイケメンの拓海はどこへ行った。

「お前……性格変わってないか……?」
「ん? だって手懐け期間は大事でしょ? 間違っても下心に気付かれないように、毎日ひとりお前をオカズにオナって耐えたんだからな」

 そんな偉そうに言われても。……て、え? 俺をオカズにしてた? は?

 出してぐったりとしている俺の上から、ようやく拓海が降りる。ずっと上に乗られていたから、足に血が回ってなくて重い。そういえば、ずっと前と後ろを両方弄らないとイケなかったのに、前だけでイケた。……あれだけ焦らされたからか? 焦らされるのに感じちゃったのか俺……まじかよ。

「お、お前……男イケたの?」
「んー? 次郎に惚れる前は考えたこともなかったけど、お前のエロい身体付きをずっと隣で見てたから、今はイケるって確信してるよ。実際、お前のちんこ舐めてて、ほら」

 ベッドの上に膝立ちした拓海が、突然ジーンズの前をくつろげ始めた。

「こんなだし」
「へ……っ」

 拓海によく似合う赤いピタッとした股上が浅めのボクサーパンツの中心には、勃ち上がり切った雄の形がくっきりと見える。

 拓海がパンツを下ろすと、想像していたよりも長くて太い拓海のちんこがぶるんと振られて腹にぴたりとくっついた。

 鈴口からは透明な液体が漏れ出して、雫が今にも垂れ落ちそうになっている。

 拓海が笑う。

「お前がおあずけにされている間、俺もおあずけ状態だったからね? あー、両思いエッチ、滅茶苦茶楽しみ」

 拓海もおあずけ状態? え? 拓海、まさか本当に俺で欲情して……?

 しかも何て言った?

「りょ、両思いエッチ?」
「え、しないの?」

 拓海は意外そうに言うと、俺のズボンとパンツをずりずりと脱がしていった。下半身を剥かれた俺の腿裏をぐいっと押して、昨日自分で慰めていた後孔を目を細めながら見つめる。――明らかに欲情した雄の目だった。

「……えっろ」

 舌舐めずりをする拓海。拓海のちんこはバキバキに勃ったままだ。……え、まじで? 俺はこんなに男臭いのに?

「あ、男同士はこれが必要なんだろ?」

 拓海は思い出したようにサイドテーブルの引き出しに手を伸ばすと、中から出てきたのはゴムとアナルローション。……やけに用意がいいな。

 俺の疑いの目に気付いたのか、拓海がすぐに言い訳を始める。

「これさ、次郎と出会ってすぐに色々と調べて、ネットでポチったんだ。だから新品だよ、安心して」

 気になっていたのは新品かどうかじゃなかったけど、いつから用意していたかっていう疑問の答えは得られた。

 なんかおかしいけど。

「は? 俺と出会ってすぐってお前……嘘だろ」
「嘘じゃないよ! 次郎っていつもいい匂いしてるし、隣にいるだけでムラムラしちゃったから、すぐに調べちゃった」

 てへ、なんて顔でとんでもないことをのたまう拓海。俺の中の、爽やかイケメンのイメージがガラガラと崩れていく。

 ……まあさ、雄臭さ満載だと余計好みなだけなんだけど。

「でも、お前だってきっとこんな男臭いのやっぱないって絶対……」

 いくら好きって言われても、身体を否定される恐怖はどうしたって忘れられなかった。拓海は男と寝たことがないみたいだし、きっと抱いてみたら違ったってなる。

 だったら傷つく前にこいつを止めて、お互い離れた方が――。

「……俺のこと好きって顔をしてんのになんでそっぽ向くのか、ずっと不思議に思ってたんだよね」
「……」

 俺の好意、そんなバレバレだったのか? 嘘だろ……恥ずかしい……。

「加藤? に言ってたこととさっき聞いたことを合わせて、ようやく納得した」

 くるくるパチン、と拓海が自分のものにゴムを装着する。手にローションを出してから、それまでとは打って変わって真剣な眼差しで俺を見た。

「俺は次郎をずっと抱きたいと思ってた。格好いい次郎をぐちゃぐちゃに抱いて、俺の下で鳴かせてやりたいと思ってた」

 そんな顔で急に真剣に言うなよ。こっちは必死で踏み止まらせようとしてるのに――。

 そこで思い出した。そうだ、これがまだある。

「でも、昨日女とキスして」

 拓海は目をスッと細めると、俺の顔に顔を近付けてきた。

「……再現してあげるね」

 その、直後。

 これまで聞いたこともない、低くて唸ってるような声が、目の前の男から発せられる。

「……あんたさ、俺の次郎に手え出そうとしてるんだって?」

 眉間にとんでもない皺を寄せ、ビキキイッ! と音がしそうなほどの青筋をこめかみに浮かばせた拓海が、突然凄んできた。

「次郎が俺のもんだって分かっててどういう了見だゴラアッ!?」

 掴み掛かられんばかりの勢いに、思わず身が竦む。

「――ひっ」

 正しくこれぞ鬼の形相って顔の拓海が、恫喝した。

「二度とお前のその間抜け面を次郎に見せんな! 分かったな!」
「ご、ごめんなさい!」

 思わず目を閉じて謝ると。

「……ぷ、やだなあ次郎ってば。昨日のことを実演しただけだってば!」

 明るい声が、頭上から降ってくる。恐る恐る目を開くと、にこにこ顔の拓海が中心をおっ勃てながら言った。

「次郎のこと狙うって言ってた女をちょっと脅しただけだし、勿論手なんか一切出してないよ!」

 ちょっと? ちょっとってどういう意味だったっけ……?

 俺と拓海のちょっとの定義はもしかしたら大分違うんじゃないか、と思った瞬間だった。

「じゃあ、これで疑いは晴れたね?」
「ま、まあ……」

 というか、その子のメンタルは大丈夫なんだろうか。……大丈夫だったことを祈るしかない。

 ふふ、と拓海が微笑む。

「じゃあ両思いエッチしよっか」
「え……ま、待て、拓……んうっ」

 拓海は右手を俺の後孔に伸ばしつつ俺に覆い被さると、唐突に俺の唇を奪った。
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