【完結】悪役令嬢だった僕は、蛮族の国で拳で人生を切り拓く(予定)

緑虫

文字の大きさ
4 / 69

4 王都に到着

しおりを挟む
 何故僕が「メインストーリーは問題なく進行できる」と結論付けたのか。

 それは、逃げた際に物語の『強制力』が働かなかったからだ。

 物語の『強制力』は、ストーリーに深く関わってくる部分に関しては確かにあったと思う。実際は何もしていないのに、パトリシアに起きた悲劇の全てが僕のせいになっていたこと。あれは、そうしないとアントン殿下がパトリシアと親密にならなかったからなんじゃないか。

 そして迎えた、断罪イベント。ここで必須だったのは、僕が物語からだ。

 そんな中、予期せぬエラーが起きた。

 唯一の心の支えだったアントン殿下に婚約破棄を言い渡されたショックで、元々限界だったユリアーネの心が壊れてしまった。あそこでユリアーネが停止してしまったら、ストーリーが先に進まない。

 そこで本来は一生出てくる筈のなかっただろう前世の人格――僕が出てきて懸命に開いた穴を塞いだ結果、ストーリーに従わず逃げ出すというイレギュラーを起こしたんじゃないか。

 つまり、僕はこの物語においてバグだ。バグは本来は排除すべきものだろうけど、今後メインストーリーに関わらない僕に起きたバグであれば放置しても問題ない、とこの世界に判断されたとしたら。

 そう考えると、本来は斬り掛かって捕まり断首刑に処される僕がするりと逃げられたことにも説明がつくんだよね。

 若干経緯に違う部分はあっても、あの二人が恋愛成就する為の障害物は取り除かれた。だから物語の『強制力』は働かず、僕は今もこうして小説に一切出てこなかった蛮族の国で生きることができている。

 もう物語に登場しない僕は、これ以上メインストーリーに関わらない――つまり祖国に近寄らなければ、この先は自由に生きられるんじゃないか。

 だから僕はこう考えた。アントン殿下に恋をしていたのも、きっと物語の『強制力』のせいだったんじゃないか――と。

 そもそも僕は男だ。なのに情報を遮断され洗脳されまくっていた当時は、同性の殿下に恋心を抱いていることに何の違和感も覚えていなかった。

 元々この世界では、貴族間での同性婚は一般的ではある。貴族は庶民と違い、家同士の繋がりを重視し、男同士で政略結婚させることも多い。その際、どうしても子供が必要な場合は、妾や愛人に産ませたり親戚の子を養子に迎えたりすることもあった。

 だけどさすがに王太子ともなると、ちゃんと血筋を残さないといけないから、男同士の結婚は基本ない筈なんだ。なのにどうしても僕をキープしておきたかった陛下は、僕に女装させることで世間を騙し、僕を無理矢理囲い込んだ。

 大方、僕の世界を狭めて殿下しか見えないようにすれば言いなりになるとでも考えていたんだろうな。実際、パトリシアが現れるまでは陛下の思惑通りに事は進められていたし。

 婚約破棄のせいで前世の記憶が蘇って以降、以前までのユリアーネの乙女思考と王家への盲信は僕の中から消え失せてしまった。

 だから未だに時折心臓を鷲掴みにされたかのような悲しみに襲われるのは、きっと物語の『強制力』の残り香みたいなものなんだと思う。メインストーリーから離れたから、その内この気持ちは薄れていく筈だから――。

 だから……この想いが消えてなくなるその日まで、痛む心からは目を背けておくんだ。

 首をぷるぷる振ると、両手で頬を強めにパンッと叩く。明るい笑顔を、護衛の双子に向けた。

「よーし、ウキョウ、サキョウ! 道案内を頼むよ!」
「まかせろ!」
「まずは何か腹ごしらえしましょうよ!」

 護衛であり友人の双子とはしゃぎながら、初めて見る異国の王都の中を進んでいった。



 お祖父様の「信頼できる古くからの友人」であるミカゲさんは、現在は王宮敷地内の宿舎に住んでいるそうだ。

 元々双子は、お祖父様のところで雇われる前はミカゲさんの元で修行していたんだって。「物凄く強いお師匠様なんだぞ」って嬉しそうに教えてくれた。二人がとても慕っているのが伝わってくる。

 それにしても、ゴウワン王国の人たちの名前は、みんなどことなく日本人には馴染みのある名前なんだよね。小説には如何にも西洋な名前の登場人物しかいなかったから、これも今僕がメインストーリーから外れたところにいるという証明にもなるかもしれない。

 早速、王宮の入り口に向かった。僕の手には、お祖父様から預かったミカゲさん宛の手紙がある。

 僕がミカゲさんの所に到着したら、ミカゲさんからとある特殊な方法で知らせを送るように、とこの手紙には書かれているんだって。

 逆にそれまでの期間は、「寂しいが誰が目を光らせているか分からんからのう。ユリアーネちゃんからは決して儂に連絡をせぬようにの」とお祖父様に口を酸っぱくして言われていたので、一度も連絡を取っていない。

 戦い方を覚えてまで王都にできるだけ急いだのは、これが一番の理由だった。

 どことなく和を感じる王宮の門の前で、逸る気持ちを抑えながら門番のおじさんに「宿舎に住んでいるミカゲさんに会いたい」と尋ねる。すると、申し訳なさそうに言われてしまった。

「悪いなあ、坊主。ミカゲ様は暫くの間不在にされているんだよ」
「――えっ、そうなんですか!?」
「ああ。予選期間中は、強い奴らが軒並み王都に集まるからな。国境付近は他所から怪しい奴が入り込みやすいんだよ。てことで、ミカゲ様率いる有志一同が国境付近の警戒にあたっているんだ。本選が始まる頃には戻って来られるとは思うんだが」
「そんな……っ」

 拳での戦い方を覚えてはるばるやってきたというのに、尋ね人が真逆の方面にいたなんて。ひょっとしたらどこかですれ違っている可能性もあるんじゃないかと考えたら、あまりに前ばかり見ていた自分が悲しくなった。

「まあ、またおいで」と言ってくれた人の良さそうな門番のおじさんに、ぺこりと頭を下げる。あからさまに落ち込む僕を、双子が両サイドから肩を叩いて慰めてきた。

「悪かった、アーネス。ミカゲ様は基本じっとしてない方だから、可能性は十分あったのに」
「仕方ないわよ。ミカゲ様が戻られるまで、王都で待つしかないわ。大会期間中に逆方面に向かうのは、大会辞退の意味があるみたいだし」
「え、じゃあ一旦王都の外に出たらもう入れないってこと?」
「大会期間はそうみたいね」

 あっさりとサキョウが頷く。なんと。そうしたら、王都に足止めはもう決定じゃないか。

 ウキョウがワシャワシャと僕の髪の毛を乱雑に撫でた。

「アーネス、落ち込んでも仕方ないって。ご隠居様には決して自分から連絡するなって言われてるし、分かってくれるよ!」
「ウキョウ……そうだよね……」

 サキョウが励ますように笑いかける。

「とりあえず、王都観光しましょうよ! 美味しい食べ物も一杯あるわよ!」

 そうだ、凹んでいたって何も変わらない。だったらせめて元気に楽しく過ごした方が、年々やせ細っていっていた僕を心配していたお祖父様もきっと喜ぶ筈だもんね!

 それぞれの腕を双子の腕に絡めると、「うん、じゃあ折角だから行こうか!」と気を取り直して笑いかけた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

【完結】ひかりのそばで、またあした

香澄京耶
BL
異世界に召喚された少年ヒナタ。 世界を救う存在として迎えられた彼は、王子セリアスをはじめとする人々との関わりの中で、少しずつ心を通わせていく。 ※「ep15.5 こころの温度」 は規約上、ムーンライトノベルズ様のみの投稿になります。(他媒体でも公開中です) ※完結いたしました。 ※ハッピーエンドを保証します。

処理中です...