【完結】悪役令嬢だった僕は、蛮族の国で拳で人生を切り拓く(予定)

緑虫

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25 ベニ再び

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 僕が使っているベッドの中央に丸くなって寝転んでいるベニが、僕の気配を察したのか閉じていた瞼を半分だけ開く。

「……ベニ、なにしてるの?」
「グルル」

 グーッと四肢を伸ばす様は気持ちよさそうだけど、そうじゃない。

「あのね、ベニ。さすがに一緒には寝られないよ。僕とベニとじゃ、ベッドからはみ出ちゃうだろ」

 だけどベニは瞼を眠そうに閉じると、大きな欠伸をひとつしてまた前足の上に顎を乗せてしまった。寝るんかい。言葉を理解してる筈だから、つまりこれはあえての見事なスルー。

「ベニ……うーん、困ったな」

 ベニの全体の大きさは、僕と同じくらいだ。肝心のベッドはというと、前世で散々寝た病院のベッドよりは幅広いけど、人間二人が横並びに寝られるほどのスペースはない。それこそ抱き枕状態で密着すればギリギリくらいだ。

 そのベッドの中心で、「ベニの場所ですけど?」くらいのふてぶてしさでベニがまん丸くなっているんだよね。いやさ、馴れてくれたのはすっごく嬉しいし可愛いけどさ? 僕の寝る場所が……。

 先ほど、普段のベニはこんなに自己主張しないとエンジが首を傾げていたけど、僕の何がそんなにベニのお気に召したのか。

「ベニ、僕と一緒に寝たいの?」

 ベニが薄目を開けると、カフ、と大きな欠伸をした。イエスってことなのか?

 ここでふと、今朝のエンジの様子を思い出した。ベニを抱き枕にしているエンジが見せた、あの涙のことを。

 エンジをひとりにしてはいけない気がしてきた。よし、ここはベニを説得だ!

「ベニ、あのさ。でもベニがここで寝ると、エンジが寂しがっちゃうよ」

 ……はい、反応ゼロ! 今朝エンジを起こしにいった時と似たものを感じてしまい、思わず心の中で声を上げてしまった。この主従、雰囲気似てるな!?

「うーん……なんでそんなに僕に懐いてくれたんだろうなあ」

 とりあえず夜着に着替えつつ、考えてみる。すぐにパッと思いつくことは、ひとつしかない。

 そう。僕が祖国ヘルム王国から恥も外聞もなくドレスの裾をたくし上げながら猛ダッシュした原因でもある、この多すぎる魔力だ。僕が人より優れているのなんて、魔力量くらいだもんな。

 着替え終わると、ベニの身体を踏まないようにベッドの端に腰掛ける。ベニは目を閉じたままなのに、すぐさま二本の尻尾が僕の腰に巻きついてきた。

 ベニの頭に手を置く。

「ねえベニ。もしかして僕の魔力が気に入ったの?」

 無反応。イエスでもノーでもいいから反応してほしい。
 
「なあってば、僕の魔力ってそんなにいいの?」

 だけどやっぱりベニは僕の質問に答えることなく、突然赤い瞳をパチッと開くと、しなやかな動きで立ち上がった。

「わ……っ!?」

 あれ、既視感――と思った次の瞬間、僕の身体も一緒に持ち上げられる。

 さっきも思ったけどさ、君の尻尾の強度ってどうなってんの?

 またもや宙ぶらりんだ。「言っても無駄、抵抗しても無駄」を既に熟知していた僕は、大人しく連れ去られるがままになった。ごめんねウキョウ、サキョウ。また探させちゃうんだろうなあ。

 遠い目になりながら、機嫌のよさそうなベニの後ろ姿を上から見下ろした。

 ベニは軽やかに床に飛び降りると、僕を掲げたままゆったりとした動きで部屋の外に出て行く。今度は前回とは違って窓の外に飛び出ることはなく、真っ直ぐ向かった先は、思った通りエンジの部屋だった。

「ベニ? さすがに夜は問題があるんじゃないかな?」

 重厚な扉が、どんどん近付いてくる。自分のせいじゃないのは分かっていても、何度もお邪魔しちゃう申し訳なさに溜息を吐きたくなった。今日この部屋に来るのは三度目だぞ。ちょっと来すぎじゃね?

 ベニは身体の側面を扉に押し付けて開くと、するりと暗い室内に入り込み、扉を閉めた。扉を閉められて偉いんだけど、そうじゃなくてね。

「ねえベニ、さすがにご主人様もいい加減怒るんじゃないかなー? やめておこうよ、ね?」

 ベニ、頼むから無視しないでほしい。

「ベニ、僕の話を聞いてよ」

 だけどベニは一切反応を示さない。ピョンとベッドの上に飛び乗ると、夕方の時と同じように、寝転んだ僕の身体を正面から抱き枕にしてしまった。

「クアア」と耳元で呑気に欠伸をする。僕の顎下に鼻先を付けて、ゆったりと瞼を閉じた。暗かった部屋で唯一の明かりだったベニの光る赤目が閉じてしまうと、辺りが途端に真っ暗闇に包まれる。

 主人不在の寝室、しかも天蓋付きベッドなんていう場所で真っ暗な中寝転んでいる僕。どう考えたっておかしいだろ。

「ちょっとベニってば、勘弁してよ……っ」

 返事は、スーッという寝息だけだった。エンジがお風呂から上がったら解放してくれることを願うしかないけど、一体どんな顔で挨拶したらいいのか。最後に泣き顔を見られて驚いた顔をされて以降はまともに会話も交わしてなかったので、余計に気不味いんだよなあ……。

「はあ……もう」

 だけど、ベニが尻尾と四肢を僕に絡ませている以上、どうしようもない。本当に魔獣のパワーって半端ないな。それにさっきみたいに抵抗しようものなら、どうせ上から押さえつけられて顔中またベロベロにされるんだろ。

 あれはかなりキツイ拷問だったので、できることならエンジが来るまでこのまま無となりやり過ごしたい。

「エンジ、早く戻ってきて……!」

 暗闇にほんのり浮かび上がる暗い扉を、ただひたすらに見つめて祈り続けるしかなかった。



 お腹にフワフワした感触があって、擽ったさを覚える。

「ん……」

 気になって瞼を開くと、目の前に大きな影があった。エンジ色の毛が、月明かりに照らされている。影から回された手足にガッチリ拘束されているのは、先ほどと何ら変わらなかった。

 ふと、違和感を覚える。

「あれ、ベニ大きくなった……?」

 寝起きの舌っ足らずな声でベニな筈の目の前の影に話しかけた。ベニの大きさは僕と同じ程度。なのに目の前の影はやけに大きいような。

 それにしても、ベニに抱き枕にされている間にいつの間にか寝てしまったらしい、と寝惚けた頭ながらに気付く。

「うわ……今朝の二の舞いじゃないか……またやっちゃった……」

 するとその時、僕の後頭部から「グルル」と小さく喉を鳴らす音が聞こえてきた。……ん? なんで声が後ろから聞こえるんだ? どういうこと?

 まだ働いていない脳みそを懸命に働かせていると、もしかしてと思いつく。

「ま、まさか……っ」

 お腹の中が焦りでヒヤリとした瞬間、頭が急激に覚醒していった。

 目を大きく見開きながら、状況を確認しようと頭を動かしてみる。

「んひゃっ!?」

 背後からペロンと耳裏を舐められてしまった。これはどう考えたってベニの仕業だ。夕方に「もう十分です」ってほど舐められたから、ベニの舌の感触はよく覚えてるんだよね。

 ということは、目の前にいるのはベニじゃなくて――。

「……エンジッ!?」

 飛び起きようとして、前からも後ろからも回された手足とついでに尻尾によって、ベッドに縫い付けられてしまった。顔面を、目の前の大きな影に押し付けられる。

「ブフッ」
「ガウ」
「まだ夜だぞ……スー……」

 ――この主従……!

 プハッと顔を出すと、暗くてよく見えていないけどエンジの顔があるであろう辺りに向かって話しかけた。

「あのっ、エンジッ!? そのっ、勝手にエンジのベッドで寝ちゃってすみません!」
「……んー」

 そこ、折角顔を上げたのに抱き寄せない! 後頭部を押さえつけないでーっ! あっ、エンジ側に引き寄せられたら、お腹に回されたベニの尻尾に引っ張られる!

 苦しくて、ジタバタ暴れる。

「こ、こらベニッ! 後ろに引っ張るなってば!」
「グルル」

 唸らないでくれよー! て、グエ……ッ! マジで苦しい……!

「ベニ、頼む……! 苦しい……っ」
「……フンッ」

 ベニは実に不服そうに鼻息を僕の首筋に吹きかけた後、お腹の拘束を少し緩めてくれた。ほ……じゃないから!

 とにかく、このまま人様のベッドにお邪魔し続けるのはどう考えたってよろしくない。そりゃあ友達なんて皆無だった僕にとっては、気心のしれた男同士で雑魚寝することに憧れがない訳じゃない。だけど、まだエンジとはそこまでの仲じゃないし! 第一、この密着度合いはさすがにどうかなあ!?

 腕ごと抱き竦められている形になっていたので、隙間を探して身体を捻り、何とか腕を一本エンジの拘束の外に出す。

 お仕事で疲れて寝ているところ申し訳ないと思いつつ、エンジの頬をペチペチ叩いていった。

「エンジ、エンジ……! あの、僕アーネスですよ、ベニじゃないですよ!」
「ああ……分かって……スー……」

 ――本当、寝起き悪いなこの人!?

「エンジ! エンジってば!」

 段々遠慮がなくなってきてペチペチ頬を叩き続けていると。

「――うわっ!?」

 エンジの腕に力が込められたかと思うと、腕の動きを押さえつけるように強く抱き締められてしまった。ぐ、ぐるじい……!

「うるさい……」

 ごく小さな声で囁くと、エンジはそのまま深い眠りへと入っていき。

「……くそう……っ! 筋肉に負けてなんか……っ、あ……弾力……」

 フワフワな胸筋に頬を押し当てられた僕は――不本意ながらも筋肉特有の柔らかさと張りに心奪われている内に、気付けば再び眠りの世界へといざなわれていたのだった。
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