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アダム様の容態。
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全員が先生や憲兵からの事情聴取をされた後、学校からの知らせで迎えに来た保護者とともに帰る形で、パーティーはお開きとなった。
そして翌日。
私は父の執務室へ、呼び出された。
「エヴァ。 アダム君との婚約は、向こうの有責で破棄にする。」
「……さようでございますか。」
ソファに座らされた私は、正面に座った父からそう、聞かされた。
「まったく……。 6つの時から10年間、お前の母が亡くなってからは特に、二人で仲睦まじく過ごし、よく出かけてもいたから、お前たちは婚約者としてうまくやっていると思っていた。 しかし、そうではなかったのだな?」
問いかける、というよりも尋問に近いその問いに、私は深く頭を下げた。
「申し訳ございません。 実は、春にリリス嬢が編入してこられて以来、お手紙なども届かなくなっておりました。 周りの噂では、その令嬢と『運命の恋』に落ちた、と。 アダム様には私から何度かご忠告差し上げましたが聞いてはいただけず……。 卒業後は結婚と決まっておりましたので、このままお父様に心配かけぬよう、黙っているのが最良だろうと。 まさかこのようなことになるとは思わず……。」
正直にそう答えれば、父は深く溜息をついた。
「あぁ、よい、お前のせいでない事だけはわかった。 そもそも学園内とはいえ、全校生徒のいる場で、つるし上げの様な婚約破棄宣言と、その後のあの事故だ。 アダムの父親からは、お前には大変に申し訳なかったからと、それなりの慰謝料と、結婚を機に合意するはずだった契約を、こちら有利に見直しで手を打つ予定だ。 これらの手続きが終わり次第、年明けにも婚約破棄になるだろう。 すまなかったな。」
「いえ、私は、なにも……。」
小さく首を振った私は、静かに聞いてみた。
「お父様、アダム様のご容態は?」
すると、一瞬強く顔をしかめたお父様は、それでも私に教えてくれた。
「……頭を強く打ったことによる意識混濁。 それほど高くない場所ではあるが、打ち所が悪かったのだろう。 意識が戻るか戻らないか、それすら医者はわからないと言っているらしい。 この件では色々と噂も立つ。 お前には新しい婚約者を探さねばならないが、しばらく待ってほしい。」
「かしこまりました。 お父様には、ご迷惑をおかけいたしました。」
そう静かに謝罪して、私は執務室を出ると私室に戻った。
学校は、そのまま冬期休暇に入った。
友人たちからはお見舞いの打診や、お茶会の誘いのお手紙が来るが、冬季休暇の間は静かに過ごすようにとお父様からも言われていたため、すべてお断りした。
その手紙の中で、リリス嬢は、それまでの素行の悪さに加え、今回の騒動で、御実家から除籍され、修道院に入れられたという事が書かれていた。
そして皆一様に、私にはあんな馬鹿なことをする男よりも、良い相手が見つかるわ、と、励ましてくれていた。
(馬鹿なこと、ね……。)
それには私は、頷けずにいた。
どこか私にも非があったのではないか、あのようなことになったのは自分が受け答えを間違えたからではないかと悩んだ。
それでも時は進み。
年が明け、婚約破棄の手続きを始めるためにアダム様のお屋敷に向かった父から、アダム様が意識を取り戻したらしい、と私は聞いた。
「アダム様が意識を取り戻されたのですね、良かったでですわ。」
私は、その知らせに、服の上からでもわかる硬いものに触れると、ほっと息を吐いた。
しかし父の顔は未だ険しいまま。 良くない状況なのだろうか。
「どうかなさったのですか? お父様。」
「うむ……」
ため息交じりのお父様は、私を見て言った。
「実は、アダムが意識を取り戻したというのは医師は言葉を濁す状態なのだ。 現在、彼は首から下が動かない。喋ることも、笑ったりすることもできない。 ただ、目は開いていて、問いかけに対し、瞬きを繰り返すのみなのだ。」
「……え?」
私は顔をしかめてしまった。
「本当の話だ。 私自ら見舞ったのだから。」
父は腕を組み、ソファに深く腰掛けた。
「さて問題は、伯爵家に子供はアダム一人だけしかいないという事だ。 養子を迎える、という話も出てきている。 しかしアダムが意識を取り戻した、いずれ以前のようとは言わぬまでも、回復の見込みもあるかもしれない、と親は考える。 結果、伯爵は頭を抱えていた……。 我が家としては、没落したり、契約を破棄されぬのならば、次期当主など誰でもいいのだがな。」
見てきたことを、他人事のように鼻で笑ってそう言ったお父様に、私は膝の上に置いた手に力を込めた。
「……お父様、お願いがございます。」
深く深く頭を下げて、私はお願いをした。
「アダム様に、会わせてくださいませ。」
「今更会って何になる。」
「……お話が、したいのです。」
「無理だ、話など出来ん。 先ほども言った通り……」
「お父様!」
私はもう一度、深く深く頭を下げた。
「お願いします、どうか、アダム様に会わせてください。」
父が目を丸くして、嫌そうに顔をしかめた。
そして翌日。
私は父の執務室へ、呼び出された。
「エヴァ。 アダム君との婚約は、向こうの有責で破棄にする。」
「……さようでございますか。」
ソファに座らされた私は、正面に座った父からそう、聞かされた。
「まったく……。 6つの時から10年間、お前の母が亡くなってからは特に、二人で仲睦まじく過ごし、よく出かけてもいたから、お前たちは婚約者としてうまくやっていると思っていた。 しかし、そうではなかったのだな?」
問いかける、というよりも尋問に近いその問いに、私は深く頭を下げた。
「申し訳ございません。 実は、春にリリス嬢が編入してこられて以来、お手紙なども届かなくなっておりました。 周りの噂では、その令嬢と『運命の恋』に落ちた、と。 アダム様には私から何度かご忠告差し上げましたが聞いてはいただけず……。 卒業後は結婚と決まっておりましたので、このままお父様に心配かけぬよう、黙っているのが最良だろうと。 まさかこのようなことになるとは思わず……。」
正直にそう答えれば、父は深く溜息をついた。
「あぁ、よい、お前のせいでない事だけはわかった。 そもそも学園内とはいえ、全校生徒のいる場で、つるし上げの様な婚約破棄宣言と、その後のあの事故だ。 アダムの父親からは、お前には大変に申し訳なかったからと、それなりの慰謝料と、結婚を機に合意するはずだった契約を、こちら有利に見直しで手を打つ予定だ。 これらの手続きが終わり次第、年明けにも婚約破棄になるだろう。 すまなかったな。」
「いえ、私は、なにも……。」
小さく首を振った私は、静かに聞いてみた。
「お父様、アダム様のご容態は?」
すると、一瞬強く顔をしかめたお父様は、それでも私に教えてくれた。
「……頭を強く打ったことによる意識混濁。 それほど高くない場所ではあるが、打ち所が悪かったのだろう。 意識が戻るか戻らないか、それすら医者はわからないと言っているらしい。 この件では色々と噂も立つ。 お前には新しい婚約者を探さねばならないが、しばらく待ってほしい。」
「かしこまりました。 お父様には、ご迷惑をおかけいたしました。」
そう静かに謝罪して、私は執務室を出ると私室に戻った。
学校は、そのまま冬期休暇に入った。
友人たちからはお見舞いの打診や、お茶会の誘いのお手紙が来るが、冬季休暇の間は静かに過ごすようにとお父様からも言われていたため、すべてお断りした。
その手紙の中で、リリス嬢は、それまでの素行の悪さに加え、今回の騒動で、御実家から除籍され、修道院に入れられたという事が書かれていた。
そして皆一様に、私にはあんな馬鹿なことをする男よりも、良い相手が見つかるわ、と、励ましてくれていた。
(馬鹿なこと、ね……。)
それには私は、頷けずにいた。
どこか私にも非があったのではないか、あのようなことになったのは自分が受け答えを間違えたからではないかと悩んだ。
それでも時は進み。
年が明け、婚約破棄の手続きを始めるためにアダム様のお屋敷に向かった父から、アダム様が意識を取り戻したらしい、と私は聞いた。
「アダム様が意識を取り戻されたのですね、良かったでですわ。」
私は、その知らせに、服の上からでもわかる硬いものに触れると、ほっと息を吐いた。
しかし父の顔は未だ険しいまま。 良くない状況なのだろうか。
「どうかなさったのですか? お父様。」
「うむ……」
ため息交じりのお父様は、私を見て言った。
「実は、アダムが意識を取り戻したというのは医師は言葉を濁す状態なのだ。 現在、彼は首から下が動かない。喋ることも、笑ったりすることもできない。 ただ、目は開いていて、問いかけに対し、瞬きを繰り返すのみなのだ。」
「……え?」
私は顔をしかめてしまった。
「本当の話だ。 私自ら見舞ったのだから。」
父は腕を組み、ソファに深く腰掛けた。
「さて問題は、伯爵家に子供はアダム一人だけしかいないという事だ。 養子を迎える、という話も出てきている。 しかしアダムが意識を取り戻した、いずれ以前のようとは言わぬまでも、回復の見込みもあるかもしれない、と親は考える。 結果、伯爵は頭を抱えていた……。 我が家としては、没落したり、契約を破棄されぬのならば、次期当主など誰でもいいのだがな。」
見てきたことを、他人事のように鼻で笑ってそう言ったお父様に、私は膝の上に置いた手に力を込めた。
「……お父様、お願いがございます。」
深く深く頭を下げて、私はお願いをした。
「アダム様に、会わせてくださいませ。」
「今更会って何になる。」
「……お話が、したいのです。」
「無理だ、話など出来ん。 先ほども言った通り……」
「お父様!」
私はもう一度、深く深く頭を下げた。
「お願いします、どうか、アダム様に会わせてください。」
父が目を丸くして、嫌そうに顔をしかめた。
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