【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石

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番外・【閲覧注意】教会の七つの秘宝

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こちらは閲覧注意とさせていただきます。

ハッピーエンドの雰囲気のまま終わり方は、閲覧はおやめください。

元々はお茶会(56話)の前の入れていたお話ですが、番外として最後に置いておきます。

審判で捉えられた3人の断罪になります

作者が言うのもなんですが、彼らの独白は本当に本当に本当に胸糞で、それに対しての「神の奇跡を読み解くための奉仕」も描写的にグロ……?厳しいかな?と思いますので、このお話の閲覧は個人の自由でお願い致します。

何度も言いますが、自己責任で。
「いや!むり!」と思われたら無理せず!直ぐに!バックをお願いします

*****





 ギラギラと、赤い宝玉は光っていた。

『女神の涙』と言われるその秘宝を最後に見たのはもう何日も前の事なのに、あの光が、今も焼き付いて離れない。

 神殿主は後悔していた。

 何故あの時、逃げ切れなかったのか。

 何故捕まった時、毒杯を願わなかったのか。

 後悔してももう遅いのに、そんなことばかりが頭に浮かぶ。

 ギラギラした赤い光。

 そしてその前に浮かぶ6人の女だった。

 それらは、自分が神殿主になってから転落するまでの間に呼び出した聖女の顔だった。

 一人目は、初めてだったこともあり、やり方を間違ったのだと思う。 現れたのは、小さな、本当に小さな女の子だった。 拙い喋りをする少女は、見るからに役に立たないと分かった。 最初の仕事でそんな聖女を呼びだしたことを、陛下に叱責されるのが怖くなった自分は、こっそりと闇に葬った。

 二人目は良かった。 のちに『聖女ハツネ』と呼ばれた彼女は、最初こそ戸惑いながらもその英知を使い、神殿に金と名誉を授けてくれた。 しかし愚かな王太子の手によって、彼女は心を壊した。 神殿にただ負担をかける存在になったため、湖に身を投げた事にしたのに、まさか、助かって、子を産んでいるとは思わなかった。

 三人目は、美しい女だった。 しかし一目でこの女は聖女でないと気が付いた。 なぜならその女は文献とは違う、金色の髪をしていて、それを見た自分は、失敗してしまった事を受け入れることが到底できなかったため、無我夢中でにした。

 四人目は乙女ではなかった。 自分よりも年嵩の言った女性だった。 これでは駄目だと一目でわかった。 どうして成功しないのだろう。 歴代の神殿主はこうして成り上がって来たのに。 何故だ、何故。 そんな気持ちを彼女にぶつけ、気が付いたら湖にいて、水面にはひどく疲れた顔の自分が映っていた。

 五人目は成功したと思った。 髪が長く、背の高い美しい聖女というに値する女性。 意志の強そうな黒曜石の瞳の乙女。 もう失敗は出来ないと思い、しっかりとこの世界の話を言い含めたはずだった。 そう思ったのに、突然、ふざけるなと、自分に刃を振りかざしてきた。 正当防衛だった。

 六人目は最悪だった。 可愛らしい少女で、英知らしきことを言うに言ったが、それらはこの国では使えない物ばかり。 どうしようかと悩んでいたら、こともあろうに王太子を篭絡した。 しかし好機だと思った。 このままいけば聖女を国母にできる。 王を、生まれる子を傀儡にすれば、この手にさらなる地位が手に入る。 だから聖女を唆した。 うまくやるように言って聞かせた。 しかし何を思ったのか、気が付いたら聖女とは呼べぬ阿婆擦れになり下がり、子を宿した上、恩知らずにも、自分たちを地獄に墜とすために帰ってきた。

 あぁ、失敗だった、失敗だった。

 何故、何故。

 考えても答えは出ない。

 真っ暗悩みの中、真紅の光、その前に立つ6人の聖女。

 その全員が、恨むような顔でこちらを見ている。

 静かに、静かに、静かに。

 やがて一人ずつ、顔を変える――最後に見た時のその顔に。




「うわぁぁぁぁぁあああぁぁっ!」




 目の前の女たちを払いのけようと必死に手を動かずが、真っ赤な光だけの世界は変わらなくて、6人の聖女は自分の前から消えてくれない。

「消えろ! 消えてくれ!!」

 必死に逃げて、それらから目を離したいのに、赤い光も、6人の聖女も、自分の前から消えてくれない。 ただ、顔を変えるだけで、じっと自分を見つめている。

「俺が、俺が悪いんじゃないんだ! 俺を恨むのかお門違いだ!」

 その時、目が、口が、焼けた火箸を入れられたように激しく痛んだ。

 身の内から、乱暴に掻きまわすような激痛に、悲鳴を上げる、体をばたつかせる。

 あぁ、痛い、痛い、痛い。

 なのに目の前の光は消えない、聖女たちもこちらを見ている。

 血のように赤い涙を流しながら、こちらを見て、笑って、いる。

 何故、何故、何故!?

 私が悪いわけではないのにっ!

「俺のせいじゃないんだぁぁぁぁぁ!」





「……取り除かれた部分はまったく復元していませんね。 『女神の涙』の奇跡はただの伝承だったんですかね?」

 手袋をつけて、虚となった部分を確認し、その様子を記録を付けてから、傍にいた奇跡鑑定人に尋ねた。

「もしくは『失われた部分を取り戻す』といわれる『女神の涙』の奇跡の発動条件が、まだ満たされていないという事かもしれないね。 伝承では同じ状態にされた敗戦国の国王の首にその宝玉をかけたところ、傷ひとつない健康な状態に戻したとしか書かれていなかったから……また、文献庫で、書き付けととにらめっこかな。」

 またですか……とため息をついた記録官の肩を叩き、鑑定人は言う。

「まぁ、何千年も沈黙し続けている秘宝ですから、そう簡単には解明できないのでしょう。 彼の観察はこのまま継続してください。」

「かしこまりました。」

 目の前にいる咎人は、首から真紅の雫型の宝玉をぶら下げて、今日も清潔なベッドの上で、その奇跡が発動するのを観察されている。





*****






 それを見た時、欲しいと思った。

 美しい美しい、青い色の大きな四角い宝石。

 それを見ていると、心が安らかになって、それから酷く安心した。

 自分と陛下との結婚は、愛も情もない、完全な政略結婚だった。

 しがない伯爵家の3女という、継ぐ者もないいるだけで厄介な、見目だけはいい令嬢だった自分は、後継の結婚に、姉2人の持参金。 私の分までは持参金が用意できないから、学園を卒業しだい、修道院に行くか、平民だが裕福な商家の息子と結婚するかを迫られていた。

 そんな時、王命で私は王太子妃にならないかと打診があった。

 なんでも、王太子殿下の有責で、婚約を破棄されたそうだ。

 最初の王太子殿下の婚約者は、お茶会では知識をひけらかし、人々の注目を浴びる、鼻持ちならない頭でっかちの侯爵令嬢だったのを知っている。

 後妻に入るより、平民に落ちるより。

 少し悪いくらいでも王太子殿下との結婚のほうが、断然いいに決まっている。

 お父さまの話に、私はすぐに飛びついた。

 すぐに始まった王子妃、王太子妃、王妃教育は本当に大変だったけれど、何故か、婚姻を果たした。

 きっと、私が優秀過ぎて、結婚してからでも大丈夫だと思ったのだろうと、優越感が胸から沸き上がった。

 盛大に行われた結婚式、皆に結合を確認されながら行われた初夜の儀も、これからの日々を考えれば恥ずかしくはあれ、苦痛ではなかった。

 一時の羞恥。 その先に待っているのは、ダイヤモンドをちりばめた重たいティアラが象徴する、この国で最も尊く美しい、最も優れた女という地位が待っていたのだから。

 一番良いものは、すべては私の物。

 地位も、名声も、ドレスも、宝飾品も、美しさも、称える声も、全て、全て。

 私にこそふさわしい。

 聖女の英知は、私を輝かせ続けるための、必要の犠牲だった。

 胸も痛まない。

 だって、私が最もこの国で、世界で、褒め称えられべき人間なのだから。

 だから。

 あの青い宝石も欲しい。

 周りを小さなダイヤモンドとプラチナで飾って、ネックレスにするのがいいか。

 今ある正妃のティアラを、あの石を中心に置いて作り直すのもいい。

 あぁ、美しい。 欲しい。

 なのに手に届かないのは何故かしら?

 こんなに手を伸ばしているのに、私の手はあと一歩、それに届かない。

 もっと伸ばして。 伸ばして。 伸ばして……。

 ゴキン。

 何か大きな音がしたけれど、私は構わず手を伸ばす。

 手を伸ばして、爪先で立って、何とか、もう一歩、あと少し。

 その時、指先に冷たく硬い感覚が、触れた。

 あぁ、手に入った、手に入れたわ、私の、私の……。



「きいいぃぃぃぃ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 私の喉から、信じられないほどの大きな悲鳴が上がった。

 石に触れた指先から、足の先にかけて、激しい痛みが走った。

 たまらずに手を離すと、その痛みは嘘だったかのように消える。

 そう、嘘だったのだ。

 あまりにひんやりとしていたから、そう頭が勘違いしてしまったのだろう。

 あぁ、欲しい、あれが、あれが欲しい。

 私はもう一度、手を伸ばす。

 もう少し、もう少し、あとちょっと。






「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 室内に響いた悲鳴の後で、人が床に倒れ落ちた音がした。

 天井からぶら下げられているのは、戦前の戦士たちが、ひとたびそれを見れば、それがどのような戦況下であっても、彼らの士気を鼓舞し、国のために戦う心を授けたと言われる『戦乙女の瞳』と言われる宝玉だ。

「見れば士気を高め、戦に身を捧げる衝動に駆られるくせに、触れると全身に雷が走るんだよな? それでも何度も触ろうとするのはなんでだと思う?」

 書記役をしている青年の問いかけに、立派なひげを蓄えた男は首を振った。

「わからんよ。 それを含めて『奇跡』がどのようであるのか真実を調べるのが、我らの仕事だからな。」

「まぁ、そうなんですけどね……あれ、いつまで持ちますかね?」

「文献上は天寿まで持つさ。 身に着けている者を、病と怪我から守り抜くという『慈愛の宝玉』、つけられているのだから。」

「それも解析、なんですよね。」

「その通りだ。」

 あ~あ、と、溜息をついた書記役の青年は、鉄格子のついた美しい部屋で、肩が何度外れても、なお、天井から、欲しい欲しいと呟きながら、宝玉に手を伸ばす女を見てため息をついた。






***********





 屈辱。

 その言葉でしか、現在の状況は表現できない。

 今まで贅沢三昧で、一度袖を通した衣類には二度と袖を通さず、常に気品あふれていた姿でいた自分が、黄金の髪を短く切られ、衣類を剥がれ、一糸まとわぬ姿にされたのだ。

 罪人の服どころか、股間を隠す布さえない情けない姿のまま、彼が連れてこられたのは王宮の貴族牢を思わせる、質素な部屋だった。

「何だこの部屋は……。」

「これから先、貴方が過ごす部屋ですよ。」

 そう言いながら現れたのは、あの日、法王猊下の横で偉そうにしていた真紅の法衣の司祭だった。

「貴様! こんなことをして許されると思っているのか! 私はドルディット国王だぞ!」

「いいえ。」

 穏やかな表情を浮かべ、司祭は告げる。

「その国はすでに地図上から消滅しております。 貴方はすでに王ではありません。 法王猊下の身の内にある神具『神の天秤』に裁かれた、大罪人なのですよ。」

「何だ……とぉ……?!」

 叫び終わる前に、首に何かを着けられた。

 一瞬だった。

 触れてみれば、硬質な革の感触と、冷たい石の感触。

「何だこれは。 何をした! 私をこんなところに連れてきて何をするつもりだ!」

「それは神殿の『七つの宝玉』の一つ。 それをつけてここで暮らしていただく。 そして時折身体検査を受けていただく。 貴方が行うのは、ただ、それだけです。」

「……そ、それだけ……だと?」

 困惑した顔で、元王は司祭を見る。

「それだけとは何だ、あの時は、宝玉の研究に対し献身しろと言っていたではないか。」

「えぇ。 ここには最低限生活できる設備があります。 そして、他者と接するのは次の身体検査まで、これで最後になります。」

「なんだと?」

 訝し気に顔を顰めた元王に、司祭は静かに部屋の中を見渡した。 元王も、それにつられて部屋を見回す。

「な、何だ、この部屋は。 窓がないじゃないか。 それにトイレと風呂もむき出しだ!」

「えぇ、ここには窓がない。 そして扉も内側からは決して開かない。 私たちが立ち去った後は、外から鍵を掛けさせていただきます。 つまり、外界とのかかわりが途絶えるわけです。」

「食事は! 水はどうするのだ! 私に餓死しろというのか!」

 それには司祭は穏やかに微笑んだ。

「奇跡の論上、それらは必要ありません。」

「な、なんだと!?」

 意味が解らず目を見開いた元王に、司祭は穏やかな微笑みを浮かべたまま話を続けた。

「貴方の装着するその首輪。 石がはまっているのは解ったでしょうか。 それは貴方方が協会から隠し続けた『時の宝玉』と同じく教会に伝わる『7つの秘宝』の一つ『神の慈悲』。 その昔、異常な日照りから始まった飢饉によって小さな村や町が消えてしまった中、誰一人死者を出すことのなかった村で見つかった『宝玉』です。」

「か、神の、慈悲……」

 触れればひんやりとした石を、何度もまさぐる元王に、司祭は説明を続ける。

「えぇ。 畑はひび割れ、食べる物もなくなり、湧き水も枯れ果ててしまった村で見つかった『奇跡の秘宝』です。 貴方には、その宝玉の奇跡が実際に発動するのか、発動すればそれはどれだけ人を生き永らえさせるのか、その間に人体にどのような影響を与えるのか。 それらを調べるため、身を捧げることになったのですよ。」

 その言葉に、王は目を見開き、司祭に殴り掛からん勢いで、声を張り上げた。

「何だと!? 王たる私がなぜそのようなことを……「194。」……え?」

 騎士に抑え込まれた元王の言葉を遮るように、強く、静かに、司祭は言った。

「『始まりの聖女』から最後の聖女である『マミ・イトザワ』嬢まで、ドルディット国が呼び出したとされる聖女の数です。」

「はぁ!?」

 抑え込まれたままの王は、司祭を睨みつけた。

「そんなはずあるが! 王宮に知らされている聖女の数は、その10分の1だ!」

「えぇ。 歴代神殿主は王家にも隠していたようですね。 しかし神殿の資料にはしっかりとその数と、人生が、しっかりと書き記され、残っておりました。 貴方方が身勝手に行った召喚によって無理やり連れてこられた全ての聖女の生きた記録が。」

 その言葉に、元王は悲鳴の様に甲高い声を上げ、首を振った。

「しらん! そんな事は知らん! 神殿が勝手にやったことではないか! 王家に非はない!」

 自分じゃない、私だけじゃない。 そう繰り返す元王に、司祭は変わらず、淡々と伝える。

「そんな言い訳は通用しません。 確かに報告はされていなかったのかもしれない。 しかし神殿がそれを隠ぺいをするきっかけになったのは、聖女召喚に失敗したときに神殿主に対して王家が厳しい罰を与えたからだ。 罰を恐れた新神主は、呼び出した聖女をようになった。 だとすれば、隠ぺいした責任は王家にもあるでしょう。 そして、彼らは今、貴方がしたように、何かあった際には王家がその責任を神殿に押し付け、罪を逃れるための尻尾切りをされないように、記録に残すようにしたのでしょう。」

 姑息なことだ。 と、つぶやいた司祭に、元王は唾をまき散らしながら叫んだ。

「違う! 逆に神殿が! 王家に罪をかぶせるために偽装している可能性もあるっ! われらの方が被害者だ!」

「えぇ、その可能性もあるかと思い、しっかり調べました。 彼らは本気で王家に捨てらないように予防線を張っていた。 彼らは聖女召喚の儀式を行うたびに、『始まりの聖女』の体に『入れ墨』を入れていたんです。 貴方方に気付かれぬよう、様々な小さな刺青を入れ、その形と場所を、しっかりと記録に残した。 我々がそれに沿って調べた『始まりの聖女』の体には、きっちり194個の小さな刺青があった。 死者を冒涜する行為です。 しかしそのお陰で、偽装はされていなかったことが証明された。」

 その言葉を聴いた元王は、膝から崩れ落ち、床に頭を2度、3度と打ち付けた。

「……くそ……くそっ……くそぉぉぉっ! 小賢しい真似をしおって!」

「それはお互い様でしょう。 聖女からしてみれば、どちらも同様に恨むべき咎人ですよ。」

 静かに、司祭は言葉を続けた。

「今まで召喚された聖女194人分。 短い者は召喚直後に貴方方に身勝手に事にされ、長い者では30年以上、縁もゆかりもないこの世界に無理やり連れてこられ、見ず知らずの男に嫁にやられ……縫い留められるように国に縛り付けられ、あなた方にすべてを搾取され続けた。 それを考えれば、貴方は今何歳ですか? この世界の平均寿命は? あと何年で天寿を迎えるでしょうか。 それは、彼女たちの人生の何分の一ですか? ……どちらにせよ、これから先、天寿を全うするまでその身を献身し続けても、貴女が償い切れないほどの年月だ。」

「私は王だぞ!」

「いいえ。」

 床に膝をついたまま顔を上げて叫んだ元王に、今度はきっぱりと、司祭は言い切った。

「貴方は咎人です。 『神の天秤』は貴方をそう裁いた。 それとも……。」

 ギラリと、司祭の瞳が光った。

「もう一度、今度は世界中の王侯貴族に見守られ、生き恥を曝しますか? 多くの見届け人の前で、神の裁判を受けますか? この間は法王猊下の杖に落ちた裁きの雷が、貴方の頭上に落とされるかもしれませんよ。」

 そう言われ、ぐぅっと、王だった男は喉を鳴らして押し黙った。

「では、ごきげんよう。 次に会える日を、楽しみにしていますよ。」

 その一言を残し、元王を残して扉は閉められた。






「どうだ?」

「変わらないな。」

 部屋の全てを見渡せるのぞき穴からその部屋を定期的に観察する者は、メモを取りながら返答する。

「腹も減らない、喉も乾かない、時間もわからない、自分が立てる音以外は何も聞こえない。 そんな部屋の中でいつも通り、叫び、暴れ、壁に頭を打ち付け、寝て、悲鳴をあげて飛び起き、扉を殴り、また叫ぶ。 そんなことを繰り返しているよ。」

 やれやれと、肩を竦める。

「あぁ、また額が割れてるよ。 強く打ちつけ過ぎなんだよな、死ねるはずもないのに。」

 血が流れる額の傷は、瞬く間に閉じていく。

「まだあの元王様、気が付いてないんだ。 宝玉がもう一つついているのを。」

 彼らが言うもう一つの宝玉とは、死なない程度の傷や病気ならすぐに治してしまう奇跡を起こすと言われていた『癒しの手』と言われる小さな宝玉。 それは『神の慈悲』の隣につけられていた。

「すごい宝玉ですよね。 まぁそのおかげで、彼は自分が化物になってしまったんだと、時折叫んでいるんですが。 ……今さらですよね、そんなこと。 化け物になんて、のに。」

 今もまた、額を壁に、床に打ち付け、その傷が治っては悲鳴を上げて、許してくれと叫んでいる。

 壁に穴をあけよう、扉をこじ開けようと繰り返し剥がれた落ちた爪も見る見るうちに再生していく。

 それがまた、彼を自傷に走らせる。

 それの繰り返し、繰り返し。

「ところで最近気が付いたんだけど。」

 同じく観察していた男が、ぼそりと呟いた。

「あの男、若返ってないか?」

 その言葉に、びっくりしてのぞき穴を覗き込んだ。

「本当だ……なんとなくそんな気がする。 なんでだ?」

「報告するか。」

「そうだな、報告をして、指示を仰ごう。 身体検査の日程が早まるかもしれない。」

 何人かの男が上司に報告に走り、一人だけ残った記録官が、溜息をついてもう一度のぞき穴を覗き込んだ。

「……っ!」

 そして、悲鳴なく後ろに飛び退った。

「な、なんだ、あれは!?」

 深呼吸をし、もう一度穴を覗き込む。

 今、男はこちらに背を向けて、壁に頭を打ち付けている。

 その肩から背中、尻にかけて、しがみつくような真っ黒な人影が浮かび上がっていた。
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