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18.偶然の遭遇
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エヴァは使用人服の上から外套を着ると、買い物かごを持って街に出た。
今日は奥様に簡単なお使いを頼まれたのだ。
告白しようと決めると、エヴァはなんだか心がすがすがしいくらいにスッキリとしているのを感じた。
――ダメならダメだったときに考えればいいのよ。そうでしょ?
そもそも、まだアルバートにはエヴァの魅力を全く見せつけた気がしなかった。
ドレスを着て優雅にダンスをすれば、アルバートだってもしかしてエヴァを小間使いとしてじゃなく令嬢として見るかもしれない。
だが告白しようと思っても、アルバートとエヴァが二人きりになる時間は日曜日しかない。それだって、アルバートに用事が出来てしまえばなくなってしまうのだ。
エヴァは仕立て屋に顔を出すと、ウォートレット夫人の直しを依頼していた手袋を受け取る。
夜会用のものだったが、刺繍がほつれていたのだ。
ほころびがなおっているのを確認すると、受け取って店を出る。
まだ早い時間なので、エヴァは使用人仲間へお土産を買うべく菓子屋を目指した。
休みの日以外、屋敷から出る事の出来ない女中たちとは違い、エヴァはウォートレット夫人のお使いでちょくちょく外出が許されていた。こういうちょっとした用事の時に、皆へもお土産を買っていくととても喜ばれるのだった。
たくさん入っていて配りやすいお菓子を探して、陳列用の窓を道端から眺めていると道路を挟んで反対側を歩いている男性に目がいった。
背が高く、堂々とした筋肉質な体格だ。
上下揃いのスーツがとてもよく似合っている。
「あ……!」
――アスター!
エヴァは思わず、目の前の菓子屋の中に飛び込んだ。
菓子屋の陳列窓の隙間から様子を伺う。
どうやら友人だろうか? 他の男性と一緒に歩いているようだった。
アスターはエヴァが逃げてきた求婚者だった。
――他の街に移動したってお姉様が言ってたけれど、まさかこの街に来ていたなんて。
でもよく考えたらここは国内有数の観光地だった。彼が来ていてもおかしくないのだ。
――本当にもう王都に帰った方が良いのかもしれない。
ただ、とっさに隠れるように店に入ってしまったが、アスターの状況も昔とは変化しているかもしれない。つまり、もう結婚しているかもしれないとエヴァは思った。
それならアスターから逃げ回る必要もない。
エヴァはアスターが見えなくなってから、ほっと息を整えると店内のお菓子に目をむけた。
隠れるために利用させてもらった店だけど、店員さんの目もあって買わないと出にくい。
そこは、エヴァの予算よりもオーバーしそうな可愛らしいお菓子が多い店だった。予想外の出費にがっくりと肩を落としながらも、一番安くてたくさん入っているお菓子を選んだのだった。
お菓子屋さんから出ると、今度こそエヴァは屋敷に向かった。
まだアスターがうろついているかもしれないのだ。
さっさと帰りたい。
こうなると、お使いを頼まれるというのも不便なものだなと思うのだった。
エヴァがなんとなく、街並みを眺めながら歩いていると目の前から見たことのある人影が歩いてきた。
表情が勝手にほころぶ。
「だ……」
声を掛けようとしたところで、アルバートの側に他の人影があるのに気が付いた。慌てて口を閉じると、道路を挟んで反対の通りへ走って移動する。
貸本屋の前で立ち止まると、またウィンドウに反射する人影を確認する。
「やっぱり。旦那様だわ。それに……」
女性と一緒に歩いている。
見たことのない女性だった。
栗色の髪を結い上げて帽子を被っている。長いドレスは最近の流行のものだろう。
アルバートは女性側をむいていたので表情をみることはできなかったが、女性の表情は良く見えた。
はじけるような笑顔をしていた。
「……」
エヴァはふたりが通り過ぎるまでそこから動くことが出来なかった。
ふたりがすっかり見えなくなると、エヴァは屋敷に向かって歩き出した。
足が重くて自由にならない。
足だけじゃない。身体全体が重しを乗せられたようにままならない。
歩くのがやっとだった。
ようやく屋敷に着いた。
のろのろと外套を脱いで、使用人仲間へのお菓子も片づけておく。
絹の手袋を持って廊下を歩いている時に、ふと大きな鏡の前に映る自分を見た。
「なんて顔してるのよ……」
白い肌は青白く、眉も下がっている。
自分のこんな顔は今まで見たことがなかった。
「泣きそうじゃない」
エヴァは両手で自分の頬をバチンと叩く。
痛みで苦しみが一瞬だが飛んで行ったし、頬が赤くなり血色がよくなったように見える。
「よし、お仕事頑張らなきゃね」
落ち込んだままだなんて自分らしくない。
今日は奥様に簡単なお使いを頼まれたのだ。
告白しようと決めると、エヴァはなんだか心がすがすがしいくらいにスッキリとしているのを感じた。
――ダメならダメだったときに考えればいいのよ。そうでしょ?
そもそも、まだアルバートにはエヴァの魅力を全く見せつけた気がしなかった。
ドレスを着て優雅にダンスをすれば、アルバートだってもしかしてエヴァを小間使いとしてじゃなく令嬢として見るかもしれない。
だが告白しようと思っても、アルバートとエヴァが二人きりになる時間は日曜日しかない。それだって、アルバートに用事が出来てしまえばなくなってしまうのだ。
エヴァは仕立て屋に顔を出すと、ウォートレット夫人の直しを依頼していた手袋を受け取る。
夜会用のものだったが、刺繍がほつれていたのだ。
ほころびがなおっているのを確認すると、受け取って店を出る。
まだ早い時間なので、エヴァは使用人仲間へお土産を買うべく菓子屋を目指した。
休みの日以外、屋敷から出る事の出来ない女中たちとは違い、エヴァはウォートレット夫人のお使いでちょくちょく外出が許されていた。こういうちょっとした用事の時に、皆へもお土産を買っていくととても喜ばれるのだった。
たくさん入っていて配りやすいお菓子を探して、陳列用の窓を道端から眺めていると道路を挟んで反対側を歩いている男性に目がいった。
背が高く、堂々とした筋肉質な体格だ。
上下揃いのスーツがとてもよく似合っている。
「あ……!」
――アスター!
エヴァは思わず、目の前の菓子屋の中に飛び込んだ。
菓子屋の陳列窓の隙間から様子を伺う。
どうやら友人だろうか? 他の男性と一緒に歩いているようだった。
アスターはエヴァが逃げてきた求婚者だった。
――他の街に移動したってお姉様が言ってたけれど、まさかこの街に来ていたなんて。
でもよく考えたらここは国内有数の観光地だった。彼が来ていてもおかしくないのだ。
――本当にもう王都に帰った方が良いのかもしれない。
ただ、とっさに隠れるように店に入ってしまったが、アスターの状況も昔とは変化しているかもしれない。つまり、もう結婚しているかもしれないとエヴァは思った。
それならアスターから逃げ回る必要もない。
エヴァはアスターが見えなくなってから、ほっと息を整えると店内のお菓子に目をむけた。
隠れるために利用させてもらった店だけど、店員さんの目もあって買わないと出にくい。
そこは、エヴァの予算よりもオーバーしそうな可愛らしいお菓子が多い店だった。予想外の出費にがっくりと肩を落としながらも、一番安くてたくさん入っているお菓子を選んだのだった。
お菓子屋さんから出ると、今度こそエヴァは屋敷に向かった。
まだアスターがうろついているかもしれないのだ。
さっさと帰りたい。
こうなると、お使いを頼まれるというのも不便なものだなと思うのだった。
エヴァがなんとなく、街並みを眺めながら歩いていると目の前から見たことのある人影が歩いてきた。
表情が勝手にほころぶ。
「だ……」
声を掛けようとしたところで、アルバートの側に他の人影があるのに気が付いた。慌てて口を閉じると、道路を挟んで反対の通りへ走って移動する。
貸本屋の前で立ち止まると、またウィンドウに反射する人影を確認する。
「やっぱり。旦那様だわ。それに……」
女性と一緒に歩いている。
見たことのない女性だった。
栗色の髪を結い上げて帽子を被っている。長いドレスは最近の流行のものだろう。
アルバートは女性側をむいていたので表情をみることはできなかったが、女性の表情は良く見えた。
はじけるような笑顔をしていた。
「……」
エヴァはふたりが通り過ぎるまでそこから動くことが出来なかった。
ふたりがすっかり見えなくなると、エヴァは屋敷に向かって歩き出した。
足が重くて自由にならない。
足だけじゃない。身体全体が重しを乗せられたようにままならない。
歩くのがやっとだった。
ようやく屋敷に着いた。
のろのろと外套を脱いで、使用人仲間へのお菓子も片づけておく。
絹の手袋を持って廊下を歩いている時に、ふと大きな鏡の前に映る自分を見た。
「なんて顔してるのよ……」
白い肌は青白く、眉も下がっている。
自分のこんな顔は今まで見たことがなかった。
「泣きそうじゃない」
エヴァは両手で自分の頬をバチンと叩く。
痛みで苦しみが一瞬だが飛んで行ったし、頬が赤くなり血色がよくなったように見える。
「よし、お仕事頑張らなきゃね」
落ち込んだままだなんて自分らしくない。
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