25 / 29
25.姉と王都のお屋敷で
しおりを挟む
あれからエヴァは伯爵家の小間使いを辞めて、王都の姉夫婦の屋敷に滞在することになった。
エヴァにもいろいろ準備があったし、体裁を整える必要もあったから。
あの暖かく煌めく太陽と、古代からの歴史ある建造物が並ぶ南の保養地の景色を知った後では、なにもかも揃っている王都だとしても薄ぼんやりと色あせてみえるのだった。
二階の出窓から行き交う人々や馬車を見下ろしながら独り言ちる。
エヴァはウエストの細さを強調するようなお腹周りがキュッと絞られたデザインで、背面が腰の下あたりからドレープがたっぷりと施された水色のドレスを身に着けている。生地にはツヤがあり、窓からの光を受けてしっとりと光をはじいている。
濃い蜂蜜色の髪も、行き届いた手入れにより絹の糸のようだった。
窓枠にしな垂れかかるように憂いの表情を見せているエヴァを、誰も伯爵家の使用人だったとは思わないだろう。
「アルバートまだかしら」
エヴァが王都に戻ってきてから、しばらくしてアルバートも王都へやってきてくれた。
王都を飛び出した時には、まさか誰かを待ちわびながら窓の外を眺める日が来るとは思わなかった。
「エヴァ、こちらに来て一緒に珈琲でも飲みましょう」
暖炉の前にある長椅子でゆったりと寛ぐ姉のエミリー。
エヴァとよく似た容貌をしているがその瞳は知性の光で輝いている。
隣に腰を下ろすと、エミリーは「はい」とお菓子の載ったお皿を渡してきた。
その皿の上からチョコレートを摘まみ上げると口に放り込む。
「甘くて美味しいわ」
「ね、ホットチョコレートなら何度も飲んだことがあったけど、そのまま食べることも出来るなんてね。今大人気なのよ、今度お店へ買いに行きましょう」
「ええ。そういえばこちらにも百貨店が出来たって聞いたけど、もう行ったの?」
「もちろん! いろんな商品があって人もたくさんいてまるでお祭りでもしてるみたいだったわよ。でも百貨店なら昔一緒に行った隣国の方が良かったかも」
「あちらは、建物自体が芸術品のようだったわねぇ」と思案しながらこたえるエミリー。
エミリーはエヴァのいない間にすっかり王都を探検し尽くしたらしい。
今日行くアルバートとのデートの場所もエミリーおすすめの場所だ。
王都中心近くにある大きな公園を散歩してから、近くの動物園か植物園を見る予定だった。
エミリーととりとめのない話をする。
どちらかと言えば聞き役になる方が多いエミリーだったので、普段ならエヴァが自然と多く口を開いているのだが、そんなエヴァからこぼれた溜息にエミリーは首をかしげた。
「どうしたの? 落ち着かなさそうね。もうすぐ伯爵も来るわよ」
「ええ、そうね。ええとね、例えばよ。エミリーと子爵様は結婚する前から愛情を確信できたの?」
エミリーは眉を器用に片方だけあげると「難しい質問ね」と言った。
「私もあなたも、こちらで多くの殿方に会ったわよね。その前に母国でもいろいろな方に会ってたわ。でもね、その中の誰一人として同じ人はいなかった。似たような人はいたけどね」
「わかるわ」
くすっと笑うと珈琲を飲んで喉を潤す。
「ただ、彼はその出会った人達の中の誰とも違ったの。少なくとも私にはね、違って見えた」
エヴァは昨夜も食事の席で会った義兄の顔を思い浮かべたが、栗色の髪の毛と瞳を持つ凡庸そうな男性としか思い出せなかった。
ただ、その平凡な栗色の瞳がエミリーを見つめる時だけは、金色の星の輝きを宿して生き生きと煌めくのだ。
「だからきっとふたりで時を過ごせば、もっとお互い大切な存在になれるんじゃないかなって確信したの。まぁ、これを勘と呼ぶ人もいるだろうけど、どうなのかしら? わからないわ。でも世の中には出会った瞬間に強い衝撃が走って確信する人もいるらしいしね」
エミリーは珈琲のカップを置くと頬に手をあてた。
「一目ぼれもあるのかしら」
「あるんじゃない? 私は出会ったことがないけど。そういう事を言うならエヴァも一目ぼれじゃなかったのね。でも挨拶にいらした伯爵様は端正なお顔をしていらっしゃったから、エヴァは面食いなのねって思ったわ」
エヴァは顔を赤らめた。
アルバートの端正な顔もエミリーに言われたとおり気に入っていたからだ。
「でもね、初めて会った時は従僕の恰好をしていたのよ。私気が付かなくてずっと名前を呼んでいたの。無礼でしょ」
そう言うとエミリーは「まぁ!」と言って目をまんまるに見開いた。その顔を見てエヴァも笑いを誘われる。
エヴァはエミリーと話して気持ちが少し落ち着いていくのを感じた。
アルバートの心を知りたいという想いにとらわれていたけれど、エミリーの言う通りふたりで時を過ごせばお互いかけがえのない大切な存在になるんじゃないかと希望が持てたからだった。
そんな感じでしばらく過ごしていると、エヴァの待ち人が訪れた。
外から馬車の音がして、窓からのぞくと予想通りアルバートが来てくれていた。
エヴァはパッと窓から離れる。程なくして、アルバートの訪れを知らせに使用人がやってきた。
こういう場合、男性をたっぷり待たせるのがマナーらしいが、エヴァはさっと立ち上がると急いで身支度の為に自室に戻った。
後ろではエミリーがクスクスと笑っている声が聞こえてきたが、エヴァは気付かない振りをしたのだった。
エヴァにもいろいろ準備があったし、体裁を整える必要もあったから。
あの暖かく煌めく太陽と、古代からの歴史ある建造物が並ぶ南の保養地の景色を知った後では、なにもかも揃っている王都だとしても薄ぼんやりと色あせてみえるのだった。
二階の出窓から行き交う人々や馬車を見下ろしながら独り言ちる。
エヴァはウエストの細さを強調するようなお腹周りがキュッと絞られたデザインで、背面が腰の下あたりからドレープがたっぷりと施された水色のドレスを身に着けている。生地にはツヤがあり、窓からの光を受けてしっとりと光をはじいている。
濃い蜂蜜色の髪も、行き届いた手入れにより絹の糸のようだった。
窓枠にしな垂れかかるように憂いの表情を見せているエヴァを、誰も伯爵家の使用人だったとは思わないだろう。
「アルバートまだかしら」
エヴァが王都に戻ってきてから、しばらくしてアルバートも王都へやってきてくれた。
王都を飛び出した時には、まさか誰かを待ちわびながら窓の外を眺める日が来るとは思わなかった。
「エヴァ、こちらに来て一緒に珈琲でも飲みましょう」
暖炉の前にある長椅子でゆったりと寛ぐ姉のエミリー。
エヴァとよく似た容貌をしているがその瞳は知性の光で輝いている。
隣に腰を下ろすと、エミリーは「はい」とお菓子の載ったお皿を渡してきた。
その皿の上からチョコレートを摘まみ上げると口に放り込む。
「甘くて美味しいわ」
「ね、ホットチョコレートなら何度も飲んだことがあったけど、そのまま食べることも出来るなんてね。今大人気なのよ、今度お店へ買いに行きましょう」
「ええ。そういえばこちらにも百貨店が出来たって聞いたけど、もう行ったの?」
「もちろん! いろんな商品があって人もたくさんいてまるでお祭りでもしてるみたいだったわよ。でも百貨店なら昔一緒に行った隣国の方が良かったかも」
「あちらは、建物自体が芸術品のようだったわねぇ」と思案しながらこたえるエミリー。
エミリーはエヴァのいない間にすっかり王都を探検し尽くしたらしい。
今日行くアルバートとのデートの場所もエミリーおすすめの場所だ。
王都中心近くにある大きな公園を散歩してから、近くの動物園か植物園を見る予定だった。
エミリーととりとめのない話をする。
どちらかと言えば聞き役になる方が多いエミリーだったので、普段ならエヴァが自然と多く口を開いているのだが、そんなエヴァからこぼれた溜息にエミリーは首をかしげた。
「どうしたの? 落ち着かなさそうね。もうすぐ伯爵も来るわよ」
「ええ、そうね。ええとね、例えばよ。エミリーと子爵様は結婚する前から愛情を確信できたの?」
エミリーは眉を器用に片方だけあげると「難しい質問ね」と言った。
「私もあなたも、こちらで多くの殿方に会ったわよね。その前に母国でもいろいろな方に会ってたわ。でもね、その中の誰一人として同じ人はいなかった。似たような人はいたけどね」
「わかるわ」
くすっと笑うと珈琲を飲んで喉を潤す。
「ただ、彼はその出会った人達の中の誰とも違ったの。少なくとも私にはね、違って見えた」
エヴァは昨夜も食事の席で会った義兄の顔を思い浮かべたが、栗色の髪の毛と瞳を持つ凡庸そうな男性としか思い出せなかった。
ただ、その平凡な栗色の瞳がエミリーを見つめる時だけは、金色の星の輝きを宿して生き生きと煌めくのだ。
「だからきっとふたりで時を過ごせば、もっとお互い大切な存在になれるんじゃないかなって確信したの。まぁ、これを勘と呼ぶ人もいるだろうけど、どうなのかしら? わからないわ。でも世の中には出会った瞬間に強い衝撃が走って確信する人もいるらしいしね」
エミリーは珈琲のカップを置くと頬に手をあてた。
「一目ぼれもあるのかしら」
「あるんじゃない? 私は出会ったことがないけど。そういう事を言うならエヴァも一目ぼれじゃなかったのね。でも挨拶にいらした伯爵様は端正なお顔をしていらっしゃったから、エヴァは面食いなのねって思ったわ」
エヴァは顔を赤らめた。
アルバートの端正な顔もエミリーに言われたとおり気に入っていたからだ。
「でもね、初めて会った時は従僕の恰好をしていたのよ。私気が付かなくてずっと名前を呼んでいたの。無礼でしょ」
そう言うとエミリーは「まぁ!」と言って目をまんまるに見開いた。その顔を見てエヴァも笑いを誘われる。
エヴァはエミリーと話して気持ちが少し落ち着いていくのを感じた。
アルバートの心を知りたいという想いにとらわれていたけれど、エミリーの言う通りふたりで時を過ごせばお互いかけがえのない大切な存在になるんじゃないかと希望が持てたからだった。
そんな感じでしばらく過ごしていると、エヴァの待ち人が訪れた。
外から馬車の音がして、窓からのぞくと予想通りアルバートが来てくれていた。
エヴァはパッと窓から離れる。程なくして、アルバートの訪れを知らせに使用人がやってきた。
こういう場合、男性をたっぷり待たせるのがマナーらしいが、エヴァはさっと立ち上がると急いで身支度の為に自室に戻った。
後ろではエミリーがクスクスと笑っている声が聞こえてきたが、エヴァは気付かない振りをしたのだった。
37
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜
見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。
ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。
想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。
【完結】顔が良ければそれでいいと思っていたけれど、気づけば彼に本気で恋していました。
朝日みらい
恋愛
魔物を討伐し国を救った若き魔術師アリア・フェルディナンド。
国王から「望むものを何でも与える」と言われた彼女が選んだ褒美は――
「国一番の美男子を、夫にください」
という前代未聞のひと言だった。
急遽開かれた婿候補サロンで、アリアが一目で心を奪われたのは、
“夜の街の帝王”と呼ばれる美貌の青年ルシアン・クロード。
女たらし、金遣いが荒い、家の恥――
そんな悪評だらけの彼を、アリアは迷わず指名する。
「顔が好きだからです」
直球すぎる理由に戸惑うルシアン。
だが彼には、誰にも言えない孤独と過去があった。
これは、
顔だけで選んだはずの英雄と、
誰にも本気で愛されたことのない美貌の青年が、
“契約婚”から始める恋の物語。
元婚約者に冷たく捨てられた令嬢、辺境で出会った無愛想な騎士に溺愛される ~今さら戻ってこないでください~
usako
恋愛
婚約者に「平民の娘と結婚する」と一方的に婚約破棄された名門令嬢レティシア。
心が傷ついた彼女はすべてを捨て、辺境の小領地へと旅立つ。
そこで出会ったのは、無口で不器用だが誰よりも誠実な騎士・エドガー。
彼の優しさに癒され、次第に芽生える信頼と恋心。
けれど元婚約者が後悔とともに彼女を探しに来て――「もう遅い」と彼女は微笑む。
ざまぁと溺愛の王道を詰め込んだ、胸キュン辺境ラブストーリー。
虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ
あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。
その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。
敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。
言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。
【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます
よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」
婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。
「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」
「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」
両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。
お姉様からは用が済んだからと捨てられます。
「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」
「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」
ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。
唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。
ここから私の人生が大きく変わっていきます。
「愛することはない」と言った冷徹公爵様、やり直しの人生は溺愛が重すぎます!~王宮が滅びるのは記憶を隠した旦那様と幸運な息子のせい?~
ソラ
恋愛
王宮の陰湿な包囲網、そして夫であるアリステア公爵の無関心。心身を削り取られたセラフィナは、孤独と絶望の中でその短い一生を終えた。
だが、彼女は知らなかった。
彼女の死を知ったアリステアが、復讐の鬼と化して王宮へ反乱を起こし、彼女を虐げた者たちを血の海に沈めたことを。そして彼もまた、非業の死を遂げたことを。
「……セラフィナ。二度と、君を離さない。この命、何度繰り返してでも」
気がつくと、そこは五年前――結婚三日目の朝。
セラフィナが「今度は期待せずに生きよう」と決意した矢先、飛び込んできたアリステアは泣きながら彼女を抱きしめた。
前世の冷淡さが嘘のように、甘く、重すぎるほどの愛を注いでくるアリステア。
さらに、前世には存在しなかった息子・ノエルまで現れ、セラフィナを苦しめるはずだった敵は、彼女が知らないうちに裏で次々と社会的に抹殺されていく。
アリステアは記憶がないふりをして、狂気的な執着を「優しさ」という仮面で隠し、今度こそ彼女を檻のような幸福の中に閉じ込めようと画策していた。
知っているのは、読者(あなた)だけ。
嘘から始まる、究極のやり直し溺愛ファンタジー!
(本作品はAIを活用して構成・執筆しています)
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
「やはり鍛えることは、大切だな」
イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
けれども……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる