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24.突然の訪問
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ダンスパーティーの後、週末をはさみ翌週も授業はある。
けれど、皆すっかり長期休暇の前の浮ついた気持ちに引っ張られているのか、授業に身が入らないようだった。
長期休暇は実家に帰る予定だ。
冬は暖房の問題もあって、寮には残れないと学院から予め言われていたから。管理人もいなのに私ひとりの為に寮を開けられないし。
でも一番の大きな理由は、婚約解消を父にお願いするため。
これがなかったら格安のホテルを探すとか、短期で住み込みの仕事を探すとか、王都に残れる他の方法を探していたと思う。冬の馬車移動は大変だから。
早く言えるならそうした方がもちろん良かっただろうけれど、遠方だから簡単に帰ることもできなかったし、大切なことだから手紙で終わらせるわけにもいかなくて、のびのびになってしまっていた。
彼も別に私の事を愛しているわけじゃないのはわかっているんだけれど、手紙のやり取りは相手をだましている気持ちになって嫌だった。
これが解消するまで続くのか、と憂鬱な気持ちになっていたのだけれど、実はここ数か月彼からの手紙がぱたりと途絶えていた。
私も何を書けばいいかわからなくなっていたところだから、手紙が来ないことにほっとしてしまっていたのだけれど少し気になっていた。
授業が終わり、教科書をしまいながら室内のざわめきを聞くともなく聞いていると、廊下から名前を呼ばれた。
「ヘルツォさん」
遠慮がちに手招きされる。
見たことはあるけれど関わりのない先生だったから、呼ばれる覚えがなくて私は内心首を傾げていた。
「面会の人が来ているんだけれど、ついてきてもらえるかな?」
「はい……?」
大股で歩く先生の後を小走りで着いていく。
廊下は暖房のついている教室と違ってひやりと寒かった。
「面会って誰でしょうか?」
私に王都の知り合いはいない。
会いに来るような人に覚えがなくて予想ができない。
「えぇと……。門の前にいるから会ってほしいんですが……」
「はい?」
「あなたの、身内を名乗ってる方です」
身内?
両親か弟が来てる?
「普通は面会人にこんな扱いはしないのですが、身分を証明できるものを持っていらっしゃらなかったので、申し訳ないのですが門の外で待ってもらっています……」
「えぇっ!」
こんなに寒いのに外にいるの⁉
私の声が批判に聞こえたのか、先生は眉を下げて弱々しい声で謝る。
「申し訳ないですが防犯の為に決まりがありまして……」
「あ、いえ……」
王族も通う学院だから、ホイホイ敷地内に入れるわけにいかないのは私もわかる。
私はほとんど走るようなスピードで廊下を歩くと、学院を飛び出した。
ぴゅぅっと吹き抜ける風が私の頬を撫でる。
広い前庭を通り過ぎ門が見える位置まで来ると、鉄格子越しに肩を落として所在なさげに立っている人影が見えた。
あれは。
「エンベル!」
声を張り上げて名前を呼ぶと、エンベルも私を見つめて安心したような顔をした。
家族の顔を見て、私の心が穏やかになる。
でもすぐにエンベルの様子がおかしい事に気が付いた。
「あなたその顔はどうしたの!」
ほとんど悲鳴のような声だったと思う。
久しぶりに見た弟の顔は、頬が大きく腫れて青紫色に変色していたから。
「姉さん……」
こもったような聞き取りにくい声。
門に近寄って来たエンベルが、私に向かってへにゃりと眉を下げる。
エンベルは上着こそ着ているけれど他に防寒具もないし、小さな鞄ひとつしか持っていなかった。
まるで家出でもしてきたような恰好に見える。
私とエンベルの様子を見た先生が、警備員さんに合図を出すと通用門を開けてエンベルを学院内へ入れてくれた。
「ええと、本当は部外者禁止なんだけどね。怪我しているみたいだから学院の医務室に行って手当してもらいなさい。それが終わったら面会者用の部屋があるからそこで話すといいよ」
「ありがとうございます」
ひどく腫れあがっている。
歩き方も遅いし、どこかほかにも怪我をしているのかしら。
私は恐る恐るエンベルの肩に手を置いた。
「他には怪我しているところあるの?」
「……ないよ」
ごまかしているけれど、きっと他のところも怪我してる。私はエンベルを連れて急いで医務室に向かったのだった。
「一度薬は塗ったんだよ」
「こっちへ来る前でしょう? お医者様もいらっしゃるのだから一応見てもらいましょう」
顔の治療の間は居させてもらったけれど、服を脱ぐ段階でエンベルが嫌がったのでその間は外で待っていた。
治療が終わって面会用の部屋に移動する。
ここに来るまでエンベルはずっと静かだった。
頬が痛いからだけじゃない。エンベルを落ち込ませる何かがあったんだ。
纏う空気が重く、思いつめているように見える。
私は床に膝をつき、ソファーに座ったエンベルの手を取って顔を見上げた。
両手が驚くほど冷たかった。
「怪我の具合はどうだった?」
「……見た目はひどいけど、大丈夫だよ」
こんな怪我を負ってまで会いに来るなんて。
私も心を決めると口を開いた。
「エンベル、話してくれるわよね?」
「姉さん……」
けれど、皆すっかり長期休暇の前の浮ついた気持ちに引っ張られているのか、授業に身が入らないようだった。
長期休暇は実家に帰る予定だ。
冬は暖房の問題もあって、寮には残れないと学院から予め言われていたから。管理人もいなのに私ひとりの為に寮を開けられないし。
でも一番の大きな理由は、婚約解消を父にお願いするため。
これがなかったら格安のホテルを探すとか、短期で住み込みの仕事を探すとか、王都に残れる他の方法を探していたと思う。冬の馬車移動は大変だから。
早く言えるならそうした方がもちろん良かっただろうけれど、遠方だから簡単に帰ることもできなかったし、大切なことだから手紙で終わらせるわけにもいかなくて、のびのびになってしまっていた。
彼も別に私の事を愛しているわけじゃないのはわかっているんだけれど、手紙のやり取りは相手をだましている気持ちになって嫌だった。
これが解消するまで続くのか、と憂鬱な気持ちになっていたのだけれど、実はここ数か月彼からの手紙がぱたりと途絶えていた。
私も何を書けばいいかわからなくなっていたところだから、手紙が来ないことにほっとしてしまっていたのだけれど少し気になっていた。
授業が終わり、教科書をしまいながら室内のざわめきを聞くともなく聞いていると、廊下から名前を呼ばれた。
「ヘルツォさん」
遠慮がちに手招きされる。
見たことはあるけれど関わりのない先生だったから、呼ばれる覚えがなくて私は内心首を傾げていた。
「面会の人が来ているんだけれど、ついてきてもらえるかな?」
「はい……?」
大股で歩く先生の後を小走りで着いていく。
廊下は暖房のついている教室と違ってひやりと寒かった。
「面会って誰でしょうか?」
私に王都の知り合いはいない。
会いに来るような人に覚えがなくて予想ができない。
「えぇと……。門の前にいるから会ってほしいんですが……」
「はい?」
「あなたの、身内を名乗ってる方です」
身内?
両親か弟が来てる?
「普通は面会人にこんな扱いはしないのですが、身分を証明できるものを持っていらっしゃらなかったので、申し訳ないのですが門の外で待ってもらっています……」
「えぇっ!」
こんなに寒いのに外にいるの⁉
私の声が批判に聞こえたのか、先生は眉を下げて弱々しい声で謝る。
「申し訳ないですが防犯の為に決まりがありまして……」
「あ、いえ……」
王族も通う学院だから、ホイホイ敷地内に入れるわけにいかないのは私もわかる。
私はほとんど走るようなスピードで廊下を歩くと、学院を飛び出した。
ぴゅぅっと吹き抜ける風が私の頬を撫でる。
広い前庭を通り過ぎ門が見える位置まで来ると、鉄格子越しに肩を落として所在なさげに立っている人影が見えた。
あれは。
「エンベル!」
声を張り上げて名前を呼ぶと、エンベルも私を見つめて安心したような顔をした。
家族の顔を見て、私の心が穏やかになる。
でもすぐにエンベルの様子がおかしい事に気が付いた。
「あなたその顔はどうしたの!」
ほとんど悲鳴のような声だったと思う。
久しぶりに見た弟の顔は、頬が大きく腫れて青紫色に変色していたから。
「姉さん……」
こもったような聞き取りにくい声。
門に近寄って来たエンベルが、私に向かってへにゃりと眉を下げる。
エンベルは上着こそ着ているけれど他に防寒具もないし、小さな鞄ひとつしか持っていなかった。
まるで家出でもしてきたような恰好に見える。
私とエンベルの様子を見た先生が、警備員さんに合図を出すと通用門を開けてエンベルを学院内へ入れてくれた。
「ええと、本当は部外者禁止なんだけどね。怪我しているみたいだから学院の医務室に行って手当してもらいなさい。それが終わったら面会者用の部屋があるからそこで話すといいよ」
「ありがとうございます」
ひどく腫れあがっている。
歩き方も遅いし、どこかほかにも怪我をしているのかしら。
私は恐る恐るエンベルの肩に手を置いた。
「他には怪我しているところあるの?」
「……ないよ」
ごまかしているけれど、きっと他のところも怪我してる。私はエンベルを連れて急いで医務室に向かったのだった。
「一度薬は塗ったんだよ」
「こっちへ来る前でしょう? お医者様もいらっしゃるのだから一応見てもらいましょう」
顔の治療の間は居させてもらったけれど、服を脱ぐ段階でエンベルが嫌がったのでその間は外で待っていた。
治療が終わって面会用の部屋に移動する。
ここに来るまでエンベルはずっと静かだった。
頬が痛いからだけじゃない。エンベルを落ち込ませる何かがあったんだ。
纏う空気が重く、思いつめているように見える。
私は床に膝をつき、ソファーに座ったエンベルの手を取って顔を見上げた。
両手が驚くほど冷たかった。
「怪我の具合はどうだった?」
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「エンベル、話してくれるわよね?」
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