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第二章「薔薇の朝露」
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夢を、見た。
夜の街の中を歩いている。月や星のあかりが辛うじて世界を支えているようなそんな夜。
ゆらゆらと揺れる視界が不安を駆り立てた。
その行き先を知っている。
たどり着いた先はアズロト地区。
何をするでもなく歩き続けるとやがて路地裏に引きずり込まれる。地面に倒れ込むと小汚い下卑た笑みを浮かべる男たちに見下ろされた。
ドレスの切れ端が宙を舞う。
悲鳴を上げて逃げるべき状況なのに、夢の中では素振りも見せず酷く冷静だった。
他人の記憶を覗き見ているようですらあった。
代わる代わるのしかかられる。やがて黒いタキシードを来た男たちに引き上げられる。連れていかれた先で何かを飲まされた。
先程よりずっと歪んだ視界でまた何度も犯される。
暗くて狭い、身動ぎのたびに軋むベッドの上。部屋に響き渡る甲高い声が自分のものだとはっきり分かる。
首を絞められて世界が暗転した。
次に鮮明になった視界では首を絞める男が変わっていた。枯れ木のような鹿の角に毛むくじゃらの猿そのものの姿の男は片手で首を掴み、もう片方の手で鞭を
持っていた。
鞭にはトゲがあった。薔薇の棘のような可愛らしいものでは無い。一振浴びるだけで死んでしまいそうな針だ。
それまで遠く感じていた景色に熱いくらいの色が宿った。
刹那、覚えのある感覚がした。
自分の中で何かが弾けて膨らむ音だ。
だが、ここにはオズがいない。膨らんだ力は際限なく燃え広がり眼前の男を建物ごと消し去った。
それからはずっと炎の中を歩いていた。
時折、炎の中から人が躍り出て目の前で恨み言を吐いては消えていく。
それがなんだかおかしくて笑っていた。
道草をくったおかげでこんなに強い力を手に入れた。この力で自分を虐げた人
を、裏切った人を燃やし尽くしたらきっと楽しい。なんにも知らずに平和に生きてきた人達の絶望の断末魔が酷く心地良い。
ふと炎が消えた。
そこは王城の謁見の間だった。
目の前の玉座には少し大人びた顔つきのレオナルドとユリアが座している。二人の目は落ちそうなくらいに見開かれ怯えきっていた。
臣下の列の隅にオズが居た。助けて、と手を伸ばす。
否、視界に映る自分の手と思しきそれは剥き出しの殺意を差し出した。
「燃えてしまえ!」
玉座ごと国王と皇后は燃え尽きた。火柱が一際大きく立ち上る。
オズは背中に女性を庇い結界を展開した。氷のように儚いそれがどうなったのかは知らない。
ただ轟々と燃え盛る炎が王都の人間を飲み込んでいく様を見ていた。
自分の力で人を傷つけるのは楽しい。確かにそう思ったのを覚えている。
しばらくして炎の竜が自分の前で恭しく平伏した。その背に乗って高く、高く飛んでいく。
振り返った私はその光景を見て笑っていた。
そして、王都は灰燼に帰したのだった
夜の街の中を歩いている。月や星のあかりが辛うじて世界を支えているようなそんな夜。
ゆらゆらと揺れる視界が不安を駆り立てた。
その行き先を知っている。
たどり着いた先はアズロト地区。
何をするでもなく歩き続けるとやがて路地裏に引きずり込まれる。地面に倒れ込むと小汚い下卑た笑みを浮かべる男たちに見下ろされた。
ドレスの切れ端が宙を舞う。
悲鳴を上げて逃げるべき状況なのに、夢の中では素振りも見せず酷く冷静だった。
他人の記憶を覗き見ているようですらあった。
代わる代わるのしかかられる。やがて黒いタキシードを来た男たちに引き上げられる。連れていかれた先で何かを飲まされた。
先程よりずっと歪んだ視界でまた何度も犯される。
暗くて狭い、身動ぎのたびに軋むベッドの上。部屋に響き渡る甲高い声が自分のものだとはっきり分かる。
首を絞められて世界が暗転した。
次に鮮明になった視界では首を絞める男が変わっていた。枯れ木のような鹿の角に毛むくじゃらの猿そのものの姿の男は片手で首を掴み、もう片方の手で鞭を
持っていた。
鞭にはトゲがあった。薔薇の棘のような可愛らしいものでは無い。一振浴びるだけで死んでしまいそうな針だ。
それまで遠く感じていた景色に熱いくらいの色が宿った。
刹那、覚えのある感覚がした。
自分の中で何かが弾けて膨らむ音だ。
だが、ここにはオズがいない。膨らんだ力は際限なく燃え広がり眼前の男を建物ごと消し去った。
それからはずっと炎の中を歩いていた。
時折、炎の中から人が躍り出て目の前で恨み言を吐いては消えていく。
それがなんだかおかしくて笑っていた。
道草をくったおかげでこんなに強い力を手に入れた。この力で自分を虐げた人
を、裏切った人を燃やし尽くしたらきっと楽しい。なんにも知らずに平和に生きてきた人達の絶望の断末魔が酷く心地良い。
ふと炎が消えた。
そこは王城の謁見の間だった。
目の前の玉座には少し大人びた顔つきのレオナルドとユリアが座している。二人の目は落ちそうなくらいに見開かれ怯えきっていた。
臣下の列の隅にオズが居た。助けて、と手を伸ばす。
否、視界に映る自分の手と思しきそれは剥き出しの殺意を差し出した。
「燃えてしまえ!」
玉座ごと国王と皇后は燃え尽きた。火柱が一際大きく立ち上る。
オズは背中に女性を庇い結界を展開した。氷のように儚いそれがどうなったのかは知らない。
ただ轟々と燃え盛る炎が王都の人間を飲み込んでいく様を見ていた。
自分の力で人を傷つけるのは楽しい。確かにそう思ったのを覚えている。
しばらくして炎の竜が自分の前で恭しく平伏した。その背に乗って高く、高く飛んでいく。
振り返った私はその光景を見て笑っていた。
そして、王都は灰燼に帰したのだった
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