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第四章「月光苺」

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「それはそれで非常に面白そうだが」
 互いに戯れ七割本気三割といった空気だ。オズの方がやや本気度合い方が高そうである。
「ここを吹き飛ばされるのはかなわないからな」
 じっとりとマルセルを見つめていたオズだったが、諦めたのか疲れたのか張り詰めていた肩を落とす。
「話し合いの間、彼女に訓練の見学をさせて欲しい」
 顔見せはひとまず成った。もう一つの目的は帝国の魔導師団の見学だ。
「構わないとも」
 話し合いの間、ということはオズの同席は見込めないのだろうか。一人で見学するのは心細いのだが。
 そんなスカーレットの心情を知ってか知らずか、一人分の規則的な足音が近付いてきた。マルセルの手配なのだろう、やっと来たとばかりに首を巡らせる。
「ユリア」
「はいっ」
 ひょっこりと姿を見せたのは見覚えのある黒髪だった。どうやら彼女が案内役らしい。
「案内役を仰せつかりました。よろしくお願いします、スカーレット様」
 見知った人選にスカーレットの表情がほぐれる。
「また後でねレティ」
「はい」
 真っ先にユリアが案内したのは中庭だった。運動しやすい格好に着替えた兵士たちが走り込みや腕立て伏せなどに勤しんでいる。男女によってノルマに差はあれど、皆引き締まった体をしていた。
「魔法使いでも体術の訓練はあるのですね」
 魔法使いと言えば薄暗い場所を好む細身の姿を想像していたのだ。だからオズの体を見た時には酷く驚いた。
「接近された時の対処法ですね」
 メイジスの魔法使いと大きく異なる点は軍属であるという点だ。戦場に身を置く以上不足の事態への備えが必要。それから体力の有無は魔法の持続に多少なりとも影響するのだ、とユリアが簡単に解説する。
 教官らしき人物の笛の音が一際大きく響き渡る。どうやら休憩の時間らしい。
 先程からこちらを伺っていた兵士の何人かが近づいてくる。
「ハイレイン少尉、そちらの女性は?」
「メイジスの宮廷魔道士・オズワルド様のお弟子様です」
 紹介されたスカーレットはゆっくりと頭を垂れた。
「スカーレットと申します。以後お見知り置きを」
 名乗った瞬間、ざわりと空気が揺れる。
 訝って顔を上げるとこちらには無関心そうに見えた兵士たちも驚愕に染まった瞳でスカーレットを見つめていた。
「一人師団の弟子……?」
「あの謎多き御仁が……?」
 オズの実力はこちらでも認められているようだ。眉一つ動かさず魔族軍を屠り、味方に指示を出すその姿は憧憬と畏怖の対象らしい。そんな人物の傍にいて平気な人間は団長ぐらいのものだと言われている。弟子志願者も多いが、苦しそう、辛そう、怖い、命がいくつあっても足りなさそうとの偏見からあくまでも志願で止まっているらしい。

 ちなみにこれらの情報はユリアがこっそりと耳打ちしてくれたものだ。

 実際そんなことは無いのだが、とスカーレットは苦笑する。

 苦笑しているが、オズがスカーレットに優しいのはスカーレット自身が優秀だからである。真面目で勉強熱心、教えたことはすぐに吸収し訂正部分は素早く反映する。そこに好きな子フィルターが加わっての優しさなので、ただの志願者にはそれなりに塩対応だったりするのである。
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