【完結済】婚約破棄されたので魔法使いになろうと思います【R18】

風待芒

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第六章「一角馬の角」

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 ◇ ◇ ◇ ◇

 視線を一身に受けたレオナルドが顔色を変え立ち上がる。
「何故です、父上!」
 突然の大声にサラスティア妃が目に見えて震え出した。エステルは気遣わしげに寄り添いながら冷静にレオナルドの動向を横目で見つめる。
 アデーリア妃は苦虫を噛み潰したような面持ちで奥扇を畳み肩を落とした。
「なぜあんな女と兄上が……!」
「レオナルド」
 冴え冴えとしたカルロスの一喝がレオナルドの次の句を封じる。
「この件において、お前に口を挟む権利などない」
 明確に突き放された。その事実にレオナルドの瞳が動揺に揺れる。なおも続けようとした唇を縫い止め、憤懣やるかたないと言った表情で椅子に座った。
 貴族たちはまだ騒然としているようだ。主に囁かれているのは第一王子が一体誰であるのかという犯人探しならぬ王子探し。
 頭痛の種にカルロスは額を押さえた。
「普段顔を出さぬからだぞ」
 独白に似た呻くような声。謝罪の代わりの靴音がその傍らで反響していた。
「オズワルド」
 ローブの下には王族としての衣装を身にまとっていたらしい。光の当たるところに姿を現したオズが口角を吊り上げた。
「人見知りなもので、申し訳ありません」
 近しい人でなくても分かる。微塵の罪悪感もない声色だった。
 迷いのない足取りでスカーレットの前まで来ると深深と頭を下げる。
「この度は我が弟レオナルドによる非礼の数々、まことに申し訳ない」
 打ち合わせで最初から決まっていた文句とはいえ、居心地が悪い。スカーレットが所在なさげに唇をへの字に曲げた。
 対するオズは何故か演技が板に着いている。
「再び王家の者と婚姻を結ぶなど快く思わないのは重々承知」
 ようやく目があったと思えばすぐに跪いて手を差し出した。
「その上でどうか私との婚約を受けてはもらえないだろうか」
 ずるい、と音もなくスカーレットの唇が動いた。答えなんてとっくに決まっている。それをオズだって知っているはずなのに、真に迫った瞳で見つめられて頬が紅潮する。
「オズワルド殿下」
 スカーレットは差し出された手に自分の手を重ねた。
 我慢の限界が来たのか咲きこぼれるような笑みを浮かべる。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 促されてオズが立ち上がる。寄り添い合う二人は誰が見ても仲睦まじい男女そのものだった。
「オズワルド」
 国王の発言に二人は揃って膝を折る。
「恙無くレグルス侯爵家を支えるように」
「は。 全身全霊で務めを果たす所存でございます」
 悪く言えば茶番劇、良く言えば予定調和な査問会はこれにて閉幕した。
 カインは力無く項垂れたまま一旦の預り場として牢に入れられるようだ。
 真っ先に渦中の人物であるスカーレットとオズが退室する。続いて王族の面々が部屋を後にした。
「陛下」
 雨の降る音のみが響く廊下でアデーリアは口を開いた。
「私、そろそろ身の振り方を考えようと思います」
 突然の申し出にカルロスは目を見開いて自分の妃を見つめる。
 今回のレオナルドの件、母親としても皇后としても責任を感じているようだった。
 下手な慰めや提案は悪手だろう。カルロスはたっぷり迷って言葉を絞り出す。
「お前には助けられている」
 ふ、と笑う気配がした。
「せめて、目を見て言ってくださいませんと」
 だが、それがカルロスなりの誠意の示し方であるとアデーリアは知っている。
 責め立てるような雷雨はいつの間にか包み込むような霧雨になっていた。
 
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