【完結済】婚約破棄されたので魔法使いになろうと思います【R18】

風待芒

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第六章「一角馬の角」

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 その眼差しは純粋なものだった。
「殿下はユリアさんのことは……」
「知っている」
 スカーレットの問の続きを制するようにレオナルドは答えを返す。
「思惑も全て聞いた」
 ユリアやその背景にいた帝国のことなど、レオナルドは既に聞かされていたらしい。
「自分がいかに不抜けていたか思い知らされた」
 いっそユリアが芯からの悪人であったなら楽だったのに。そう言いたげな横顔だ。
 帝国には帝国の思惑があり、彼女には彼女なりの信念があった。だが、そのためにレオナルドを騙し栄光を手にするはずだった人生を歪めた。ユリアはレオナルドのそばにいると決めたのは、罪滅ぼしのつもりもあるのだろう。
「だが、愚かにも心までは変わらなかった」
 出会いも惹かれあったことも仕組まれていた。それでもなお、と言えるほどレオナルドはユリアを愛しているのだ。
「それを聞いて安心しました」
「なんだ、嫌味か」
「それこそ心外です」
 スカーレットもユリアを憎む権利がある。だが、恨んで傷つけるより手を取り合って友人でいたい。そう思うからこそ、二人が手を取り合って進む未来を望んでいるのだ。
「殿下」
 あの頃を思いながらスカーレットはかつての婚約者の名を口にする。
「なんだ」
 相変わらず素っ気ない返事だ。今更、笑みを湛えながら優しくされても困ってしまうが。
 スカーレットはまぶたの裏に焼き付いたオズの姿を呼び起こす。ゆっくりと目を開き、レオナルドを見据えた。
「私、あなたのことをお慕いしておりました」
 語尾に力のこもった、過去形の告白。好きだったのはきっと本当なのだ。思い込もうとしたことも含めて。
 レオナルドは目を数度瞬かせたがやがて呆れたようにため息をつく。自分を見つめながら瞳に違う人物を映す瞳に。
「物好きな女だ」
 スカーレットが物好きなら、ユリアも物好きになってしまうのだが。あえてその言い回しを選ぶのであればそういうことなのだろう。
 ふ、とレオナルドの視線が落ちる。
「兄上とも話がしたい」
 スカーレットは頷き返すと腰を浮かせた。自分も、オズには一度レオナルドとちゃんと話をして欲しいと思っていた。オズはスカーレットの前でレオナルドを罵ることはしなかったのだ。少し扱いが雑に感じることはあったが、兄弟であることを考えたら得心がいく。心の底から憎んでいる訳では無いのだと、思う。
「ユリアのことを頼む」
「かしこまりました」
 軽くカーテシーをするとスカーレットは噴水へと足を運ぶ。
「話は終わった?」
「はい」
 オズは踵を返すとそのまま会場に戻ろうと移動を始める。スカーレットは咄嗟に翻された外套の裾を掴んだ。
「次はオズ様の番です」
 金色の瞳に様々な感情が浮かんでは消える。引き結んだ唇が拒絶を示していた。
 スカーレットも何も言わないまま、じっとオズを見つめる。
 無言の応酬のが続いた後、先に根負けしたのはオズの方だった。
「わかったよ………」
 ぱっと笑顔を咲かせたスカーレットを強引に抱き寄せ口づける。
 混乱しながらオズを見上げるとしたり顔で目を細めていた。
「行ってくるね」
 少し機嫌がなおったのか足取りがほんの少し軽くなっている。その背中を見送るとスカーレットはユリアを連れて会場に向かうのだった。
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