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第六章「一角馬の角」
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「でもあの方なりにこの国を守ろうとしていたのは分かってる」
アデーリア妃は魔法使いが大嫌いだった。聞けば、懇意にしていた叔母が市井の魔法使いにのめり込んでしまい騙されて大金をむしり取られたことがあるらしい。どうにか漕ぎ着けた王家との結婚もカルロスには既にアンネリーゼという恋人とその間に子供もいた。平民出身の魔法使いが身近にいる屈辱は相当なものだっただろう。
オズからしてみればほとんど言いがかりなのだが。
そんなアデーリアだが、十年前は今以上に影響力のあったアストラーエ家の出身だ。五大侯爵家、その筆頭家の娘が嫁いだことにより、心元なかったカルロスの後ろ盾は磐石なものとなった。当時、新参であったカルロスが大胆な施策がを行えたのは彼女がいてこそだ。
彼女が執り行った政策もその殆どは民を思えばこそであり、成功したものも多い。
オズから見れば悪女でも、聖女として認識している他人もいる。それだけだ。
「レティは?」
オズが指しているのはカインのことだろう。スカーレットは閉じたまぶたの裏で彼との思い出を振り返る。
「よく分からないんです」
困ったように眉を下げながらスカーレットは苦笑した。
「長らく母のことは事故だと信じておりましたし」
カインが仕組んだことでも、彼を憎んで両親が帰ってくることは無い。母は事故で死んだ、父は過労で死んだ。それ以上を考えようとしても上手くいかないのだ。
「いなくなって清々したと言えるほどの憎しみもないんです」
カインとはずっと疎遠だったのだ。どちらが関わりを持とうとしなければ会話ひとつない。兄妹らしい思い出もない。記憶の糸を手繰っても、たどり着く前に糸が切れてしまうような、そんな感覚ばかりが残る。
「私って薄情ですよね」
取り繕うように自嘲的な笑みを浮かべた。
そんなスカーレットを庇うようにオズが寄り添う。
「オズ様?」
「時に人は薄情にならざるを得ない時がある」
鈍い痛みがスカーレットの胸を刺した。
オズは言の葉をスカーレットの心に柔らかく落とす。
「いつか違う答えが出た時は聞かせて欲しい」
いつか、「分からない」以外の答えが出るだろうか。その答えが胸の内から転び出たとして平静で居られるだろうか。
スカーレットは自分を包む温もりを思い出して肩の力を抜いた。
「いつでもお伝えできるよう、そばに居てくださいね」
「もちろん」
すっかり弱くなってしまったと心の内で自嘲してスカーレットはオズにもたれ掛かる。
「オズ様、私、魔法省と魔導師団をこの国に復活させたいんです」
かつてこの国には魔法が強く根ざしていた。当たり前だ。この国はそもそも〝魔法使いの国〟なのだから。
「帝国の景色はとても好ましいものでした」
魔法を使えるもの、使えないものが共存する世界。互いに互いを頼りながら日々の営みを繋いでいくその光景はひどく眩しく映った。
「同じ景色を見たいんです」
帝国の魔導師団は皆が皆、魔法に向き合い楽しそうに研鑽を詰んでいた。あの景色の中にオズがいればいいのに。それが想いの発端だった。
「この国なりのあの景色を」
帝国には帝国のやり方があった。ならこの国にもこの国でしかできないやり方がある。
一朝一夕では叶うはずもない。だが、模索することは無駄ではないはずだし、オズとなら悩む時間すら楽しいと思ったのだ。
「力をお貸しいただけますか」
吐露されたスカーレットの心情にオズはひどく動揺していた。泣きたいような嬉しいような切ないような、込み上げる愛しさで薔薇色の頬に触れる。
「僕の全ては君のものだよ」
やがて、パーティは緩やかに幕を閉じた。
こうして始まりが終わったのだった。
アデーリア妃は魔法使いが大嫌いだった。聞けば、懇意にしていた叔母が市井の魔法使いにのめり込んでしまい騙されて大金をむしり取られたことがあるらしい。どうにか漕ぎ着けた王家との結婚もカルロスには既にアンネリーゼという恋人とその間に子供もいた。平民出身の魔法使いが身近にいる屈辱は相当なものだっただろう。
オズからしてみればほとんど言いがかりなのだが。
そんなアデーリアだが、十年前は今以上に影響力のあったアストラーエ家の出身だ。五大侯爵家、その筆頭家の娘が嫁いだことにより、心元なかったカルロスの後ろ盾は磐石なものとなった。当時、新参であったカルロスが大胆な施策がを行えたのは彼女がいてこそだ。
彼女が執り行った政策もその殆どは民を思えばこそであり、成功したものも多い。
オズから見れば悪女でも、聖女として認識している他人もいる。それだけだ。
「レティは?」
オズが指しているのはカインのことだろう。スカーレットは閉じたまぶたの裏で彼との思い出を振り返る。
「よく分からないんです」
困ったように眉を下げながらスカーレットは苦笑した。
「長らく母のことは事故だと信じておりましたし」
カインが仕組んだことでも、彼を憎んで両親が帰ってくることは無い。母は事故で死んだ、父は過労で死んだ。それ以上を考えようとしても上手くいかないのだ。
「いなくなって清々したと言えるほどの憎しみもないんです」
カインとはずっと疎遠だったのだ。どちらが関わりを持とうとしなければ会話ひとつない。兄妹らしい思い出もない。記憶の糸を手繰っても、たどり着く前に糸が切れてしまうような、そんな感覚ばかりが残る。
「私って薄情ですよね」
取り繕うように自嘲的な笑みを浮かべた。
そんなスカーレットを庇うようにオズが寄り添う。
「オズ様?」
「時に人は薄情にならざるを得ない時がある」
鈍い痛みがスカーレットの胸を刺した。
オズは言の葉をスカーレットの心に柔らかく落とす。
「いつか違う答えが出た時は聞かせて欲しい」
いつか、「分からない」以外の答えが出るだろうか。その答えが胸の内から転び出たとして平静で居られるだろうか。
スカーレットは自分を包む温もりを思い出して肩の力を抜いた。
「いつでもお伝えできるよう、そばに居てくださいね」
「もちろん」
すっかり弱くなってしまったと心の内で自嘲してスカーレットはオズにもたれ掛かる。
「オズ様、私、魔法省と魔導師団をこの国に復活させたいんです」
かつてこの国には魔法が強く根ざしていた。当たり前だ。この国はそもそも〝魔法使いの国〟なのだから。
「帝国の景色はとても好ましいものでした」
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「同じ景色を見たいんです」
帝国の魔導師団は皆が皆、魔法に向き合い楽しそうに研鑽を詰んでいた。あの景色の中にオズがいればいいのに。それが想いの発端だった。
「この国なりのあの景色を」
帝国には帝国のやり方があった。ならこの国にもこの国でしかできないやり方がある。
一朝一夕では叶うはずもない。だが、模索することは無駄ではないはずだし、オズとなら悩む時間すら楽しいと思ったのだ。
「力をお貸しいただけますか」
吐露されたスカーレットの心情にオズはひどく動揺していた。泣きたいような嬉しいような切ないような、込み上げる愛しさで薔薇色の頬に触れる。
「僕の全ては君のものだよ」
やがて、パーティは緩やかに幕を閉じた。
こうして始まりが終わったのだった。
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