112 / 114
最終章
下
しおりを挟む
ふと、そんな二人の傍に芝生を踏みしめる足音が近付く。
「私がこんな場所に来て良かったんでしょうか」
淡い色のドレスに身を包んだ少女が所在なさげに佇んでいる。
彼女の姿に声を上げたのはスカーレットだった。
「ローニャ!」
ローニャの隣には守るようなティムの姿があった。
オズが婿としてレグルス邸に入ることになった折、共に来ないかとの誘いにローニャは首を横に振ったのだ。この家も不要という訳では無いのなら管理する人間がいた方がいい。その主張は確かに筋が通っている。だが、自身の頭を気にしながら話す言葉は建前のようでもあった。話し合いの最中にティムも家に残ると言い出した。そこからレグルス邸まで通う。ローニャを一人にする訳ではないという折衷案に今は落ち着いている。
ちなみにこの場に招待し、ドレスを贈ったのはスカーレットだ。アンネリーゼの義娘でありオズの義兄妹のようなものなのだからと押し通したのである。オズ相手に。
「久し振りね」
「はい、ご無沙汰しております」
ローニャに似合うと思って選んだ品に間違いはなかった。 あどけなさはなりを潜め、立ち振る舞いは立派な淑女である。だが、なによりも、とスカーレットは笑みを深めた。
「元気そうで安心したわ」
「スカーレット様こそ!」
ローニャは思い出したように一歩下がって頭を下げる。
「おふたりともこの日のために日々身を粉にして奮闘されたと聞きます」
どうやらティムから話を聞いていたらしい。隠していたつもりは無いが、いざそう言われると面映ゆいものがある。スカーレットはオズと顔を見合わせてはにかんだ。
「お疲れ様でございました」
いたずらっぽい笑みを浮かべたオズが二人の間に顔を出す。
「でも、レティの野望はまだこんなものじゃないんでしょ?」
ティムもローニャも初耳だったようで二対の視線がスカーレットを射抜いた。
「野望だなんてとんでもない」
慌ててスカーレットは首を横に振る。だが、三者三様の瞳に観念したのか開き直るように胸を反らせた。
「私、魔王陛下とも和議を結びたいと思ってますの」
魔国が拠点とする北の果て、そこには瘴気の噴出口があるのだ。魔国、魔族とは言ってもその実、瘴気への体勢をもつ人間が獣の姿を真似することで生きながらえた人間だ。寒さの厳しい彼の地において民の生活の保証は難しい。魔族が戦いに明け暮れるのは豊かな土地を得るためなのだ。
「なら、互いに手を取り合うことも可能なはず」
魔族には先天的に秀でた魔力をもって生まれる。その人材と引き換えに物資で支援する。それなら共栄共存も可能だとスカーレットは考えた。
「だが、これまで互いに血を流しすぎた」
ティムの言葉に重々しく頷いて返す。
「だからこそ、これ以上誰かが誰かを失わないようにしなければ」
スカーレットの記憶の中では度重なる不運により人間側は壊滅寸前。南の果てに追い詰められる姿は今の魔族と重なる。つまるところは歴史の繰り返しだ。結果、勇者を盾に積年の恨みを晴らすべく魔王を撃つための組織が生まれた。
それを繰り返していてはイタチごっこだ。不出来な茶番劇は誰かが断ち切らねばならない。
「それに、まだ間に合うかもしれませんもの」
紅玉の瞳が滑った先にはローニャがいた。
「ローニャをコラン族最後の一人にする訳には参りません」
唐突に水を向けられ、混乱しながらローニャは自分を指さす。
「あ、たし………?」
笑みを湛えて頷き返すとスカーレットは話を続けた。
「コラン族は優れた頭脳をもつ種族です」
マニアも学者も垂涎の効果を持つ角を携えながらも非力な彼らが何故生き延びていたのか。それは彼らが高度な知能を有していたからに他ならない。かつて為政者を知識で支えたことすらある。だからこそ、魔王は彼らの助力を乞おうとしたのだ。
「彼らの損失は世界の損失」
真面目な顔が出来たのはそこまでだった。
「に、かこつけてあなたにいい顔したいというのもあるけれど」
そう言ってスカーレットは片目を閉じる。一度懐に入れたものにはとことん甘い。どうやらオズの性分が伝染ってしまったようだ。
「私に出来ることがあったらなんでも言ってください!」
「頼りにしているわ」
それから近況のことなどで二人の話は盛り上がりを見せた。
すっかり蚊帳の外になったオズはティムにわざとらしく話しかける。
「仲良きことは美しきかな」
返ってきたのは沈黙だった。
オズは微動だにしないティムを肘でつつく。
「眉間にシワよってるぞ」
指摘されてようやく気づいたのか自分の眉間を手動で伸ばしているようだった。
「スカーレットはすごいな」
ティムの視線の先に居るのはローニャだ。楽しそうな横顔を眩しそうに眺めている。その碧はオズにも覚えのある色だった。
「お前も頑張れよ」
「そうだな」
ふと、それまで二人の世界をつくっていた花たちが片割れを振り返る。
「ティムは私のエスコート役じゃなかったんですかー!」
元気な不満声にやれやれと肩を竦めてティムが進み出た。
仲の良い二人の姿を見送ってスカーレットはオズに笑みを向ける。
「オズ様、皆様がお待ちですよ」
「そうだね」
当然とばかりに差し出された手を迷いなく取る。
「オズ様、知ってますか?」
何も知らないオズが言葉の続きを沈黙で促した。
スカーレットは身を乗り出してその耳に口を寄せる。
「私、あなたの隣にいられるだけでこれ以上ないくらい幸せなんですよ」
幸せだから、人に優しくしようと思えるだけのわがままな人間だ。わがままだからもっとその輪を広げたいと前を向くのだ。
オズの顔色が変わる。慌てたような、照れているような、恋をしているような表情。
「レティ、それは…………っ」
「さ、行きましょう!」
オズの言葉を制してスカーレットは強引に歓声の渦に飛び込んだ。
婚約破棄されましたが最終的に好きな人と結ばれたので、彼にとって最高の魔法使いになろうと思います。
「私がこんな場所に来て良かったんでしょうか」
淡い色のドレスに身を包んだ少女が所在なさげに佇んでいる。
彼女の姿に声を上げたのはスカーレットだった。
「ローニャ!」
ローニャの隣には守るようなティムの姿があった。
オズが婿としてレグルス邸に入ることになった折、共に来ないかとの誘いにローニャは首を横に振ったのだ。この家も不要という訳では無いのなら管理する人間がいた方がいい。その主張は確かに筋が通っている。だが、自身の頭を気にしながら話す言葉は建前のようでもあった。話し合いの最中にティムも家に残ると言い出した。そこからレグルス邸まで通う。ローニャを一人にする訳ではないという折衷案に今は落ち着いている。
ちなみにこの場に招待し、ドレスを贈ったのはスカーレットだ。アンネリーゼの義娘でありオズの義兄妹のようなものなのだからと押し通したのである。オズ相手に。
「久し振りね」
「はい、ご無沙汰しております」
ローニャに似合うと思って選んだ品に間違いはなかった。 あどけなさはなりを潜め、立ち振る舞いは立派な淑女である。だが、なによりも、とスカーレットは笑みを深めた。
「元気そうで安心したわ」
「スカーレット様こそ!」
ローニャは思い出したように一歩下がって頭を下げる。
「おふたりともこの日のために日々身を粉にして奮闘されたと聞きます」
どうやらティムから話を聞いていたらしい。隠していたつもりは無いが、いざそう言われると面映ゆいものがある。スカーレットはオズと顔を見合わせてはにかんだ。
「お疲れ様でございました」
いたずらっぽい笑みを浮かべたオズが二人の間に顔を出す。
「でも、レティの野望はまだこんなものじゃないんでしょ?」
ティムもローニャも初耳だったようで二対の視線がスカーレットを射抜いた。
「野望だなんてとんでもない」
慌ててスカーレットは首を横に振る。だが、三者三様の瞳に観念したのか開き直るように胸を反らせた。
「私、魔王陛下とも和議を結びたいと思ってますの」
魔国が拠点とする北の果て、そこには瘴気の噴出口があるのだ。魔国、魔族とは言ってもその実、瘴気への体勢をもつ人間が獣の姿を真似することで生きながらえた人間だ。寒さの厳しい彼の地において民の生活の保証は難しい。魔族が戦いに明け暮れるのは豊かな土地を得るためなのだ。
「なら、互いに手を取り合うことも可能なはず」
魔族には先天的に秀でた魔力をもって生まれる。その人材と引き換えに物資で支援する。それなら共栄共存も可能だとスカーレットは考えた。
「だが、これまで互いに血を流しすぎた」
ティムの言葉に重々しく頷いて返す。
「だからこそ、これ以上誰かが誰かを失わないようにしなければ」
スカーレットの記憶の中では度重なる不運により人間側は壊滅寸前。南の果てに追い詰められる姿は今の魔族と重なる。つまるところは歴史の繰り返しだ。結果、勇者を盾に積年の恨みを晴らすべく魔王を撃つための組織が生まれた。
それを繰り返していてはイタチごっこだ。不出来な茶番劇は誰かが断ち切らねばならない。
「それに、まだ間に合うかもしれませんもの」
紅玉の瞳が滑った先にはローニャがいた。
「ローニャをコラン族最後の一人にする訳には参りません」
唐突に水を向けられ、混乱しながらローニャは自分を指さす。
「あ、たし………?」
笑みを湛えて頷き返すとスカーレットは話を続けた。
「コラン族は優れた頭脳をもつ種族です」
マニアも学者も垂涎の効果を持つ角を携えながらも非力な彼らが何故生き延びていたのか。それは彼らが高度な知能を有していたからに他ならない。かつて為政者を知識で支えたことすらある。だからこそ、魔王は彼らの助力を乞おうとしたのだ。
「彼らの損失は世界の損失」
真面目な顔が出来たのはそこまでだった。
「に、かこつけてあなたにいい顔したいというのもあるけれど」
そう言ってスカーレットは片目を閉じる。一度懐に入れたものにはとことん甘い。どうやらオズの性分が伝染ってしまったようだ。
「私に出来ることがあったらなんでも言ってください!」
「頼りにしているわ」
それから近況のことなどで二人の話は盛り上がりを見せた。
すっかり蚊帳の外になったオズはティムにわざとらしく話しかける。
「仲良きことは美しきかな」
返ってきたのは沈黙だった。
オズは微動だにしないティムを肘でつつく。
「眉間にシワよってるぞ」
指摘されてようやく気づいたのか自分の眉間を手動で伸ばしているようだった。
「スカーレットはすごいな」
ティムの視線の先に居るのはローニャだ。楽しそうな横顔を眩しそうに眺めている。その碧はオズにも覚えのある色だった。
「お前も頑張れよ」
「そうだな」
ふと、それまで二人の世界をつくっていた花たちが片割れを振り返る。
「ティムは私のエスコート役じゃなかったんですかー!」
元気な不満声にやれやれと肩を竦めてティムが進み出た。
仲の良い二人の姿を見送ってスカーレットはオズに笑みを向ける。
「オズ様、皆様がお待ちですよ」
「そうだね」
当然とばかりに差し出された手を迷いなく取る。
「オズ様、知ってますか?」
何も知らないオズが言葉の続きを沈黙で促した。
スカーレットは身を乗り出してその耳に口を寄せる。
「私、あなたの隣にいられるだけでこれ以上ないくらい幸せなんですよ」
幸せだから、人に優しくしようと思えるだけのわがままな人間だ。わがままだからもっとその輪を広げたいと前を向くのだ。
オズの顔色が変わる。慌てたような、照れているような、恋をしているような表情。
「レティ、それは…………っ」
「さ、行きましょう!」
オズの言葉を制してスカーレットは強引に歓声の渦に飛び込んだ。
婚約破棄されましたが最終的に好きな人と結ばれたので、彼にとって最高の魔法使いになろうと思います。
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる