銀に咲く

砂んど

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ー 目が覚めた時 視える世界は真っ黒だった。
 

 4月6日
 ピンク色が鮮やかな桜並木を、幾野 雪は横を歩く母と手を繋ぎながら歩いていた。今日は小学校の入学式だ。まだ身体に馴染まないピカピカのランドセルにぶかぶかの制服。正直1ヶ月前からソワソワしっぱなし。
「雪が小学生かー。入学式、ドキドキするね。」
ドキドキとは裏腹に笑顔で、いつもより高めのトーンで話す母。
「ボク、もうオトナだからへいきだもん!」
「ほんと~?大人ならもう一人でおトイレ行けるよね~?」
「…っ!いじわるー!!」
そんな他愛も無い様な会話を笑いながら校舎と続く道を風で舞い踊る花びらと歩いて行った。

学校に着き、初めてのクラスにちょっぴり浮き足立ちながら入学式に案内された。
幼稚園とは違う、『静かにしてなくちゃいけないオトナな世界』に踏み入った感じで雪はたまらなく嬉しかった。


4月7日
 昨日は入学式だけだったけど、今日からはちゃんとした学校が始まる。まずは自己紹介の時間。
「出席番号の順番で、立って自己紹介をしてもらいましょう。」
雪のクラスの担任、飯田は短く切られた髪に控えめな化粧で、やや男勝りな性格の女性教師だ。
「まずはー…『い』で幾野 雪さん」
「は、はじめまして!ぼくは、いくの ゆき です!すきなことは妖怪のゲームです。よ、よろしくおねがいします。」
少し照れながら着席すると皆から温かい拍手を送られ次に進む。
「では次は 上島 佳奈さん」
次々と自己紹介は軽やかに進み耳だけ傾けながら雪は窓の外の桜を見ていた。ピンク色の柔らかい世界が雪を包んでくれている様だ。
「…次は 永野 柚子奈さん」
気がつけばもう な行まで進んでいた。
「はい。」
 水色の風が突き抜けた気がした。きらきらしたビー玉みたいな透き通った声が雪の耳に響いた。
「ながの ゆずなです。好きな事は本を読む事です。よろしくおねがいします。」
皆と同じ様な自己紹介なのに…何故か雪は永野が気になった。

4月11日
 今日は土曜日。幾野家の家族サービスデーだ。家族で出かける日は雪の一イベントだ。生憎今日は小雨が降っている。桜も地面に身を落としていた。
「雪ー、出かけるぞー」
「いま行くー!」
父の呼び声に応え雪は居間から小走りに玄関に向かった。母も一緒に玄関で待っている。
「今日はどこいくの?」
ワクワクしながら雪は運転中の父に聞く。
「今日はな、お買い物に行くんだ。…お天気が良ければお花見したかったなあ。なあ、母さん。」
「残念だけど、また来年行けばいいじゃない。」
「ぼく毎日さくら見てるからお買い物たのしみっ!ねぇお父さん、ぼくおもちゃやさん行きたい!」
先日新しい妖怪ゲームのおもちゃが発売したらしく、雪はテレビCMが流れる度に目をキラキラさせていた。
「先にお昼ご飯食べてからゆっくり見ようか。時間も時間だし。雪、何食べたい?」
「えーっとねぇ、はんばーぐでしょ。かれーでしょ。それから…えっとー…」
指を折りながら食べたい物を挙げていく。しかしどれも魅力的だ。ぶつぶつと悩んでる雪を見て
「ふふ。じゃあファミレスにしましょうか。きっと雪の食べたいものがあるわよ?」
母の提案に全員賛成した。まだかな、まだかなとそわそわしながら雪は揺られていた。




ー気がつくと雪は車外にいた。正確には投げ出されていた。
しとしと降る雨の中  朦朧とする意識  響き渡る救急音と知らない人の慌てる声。少し遠くに見えたのは血塗れになった母の手ー

雪達が乗っていた車は大きくひしゃげていた。後ろにはトラック。追突した前の車もかなりヘコんでいた。玉突き事故の真ん中に挟まれて運転席と助手席は大破。後部座席にいた体の軽い雪は衝撃で開いたドアから投げ出されて、あちこちに傷が出来て出血していた。
トラック運転手の ながら運転が原因だった。
 傷だらけの雪は救急車に乗せられ病院に連れていかれた。 
「…お父さん…お母さん…は?」
掠れた声で救急隊員に聞く。救急隊員は困った顔をして無言で首を横に振った。やがて雪の意識は遠のき眠った。
この事故はニュースでも大きく取り上げられていた。


4月20日
 惨劇から9日経った日、ようやく雪は意識を取り戻した。
看護師や医師が安堵の声を雪にかけた
しかし雪は声とは違う方向を見ていた。その瞳はどこか淀んでいて
「ゆき…くん…?これ何本かな?」
3本立てられた指を雪は答えられなかった。
「そんな…」
雪はあの事故で視力を失い、その幼いキラキラの世界は黒く、黒く塗り潰された。
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