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15話 違和感
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理事長の何気にないその一言。それは二人の人物の人生を左右する物にもなり得る。それなのに簡単に面白く言っている。言葉の主はこれを一つの実験か、娯楽としか思っていない。
唐突な静寂が訪れる。難しい話しではない。もしボクが同じ立場ならば黙る。
ユウナさんも赤髪──ドルグアは唖然としていた。理事長の方にゆっくりと目を向ける。と笑みを浮かべていた。
そんなに人の人生が掛かってしまう事を言って、楽しいかよ。きっと楽しいという。
容易く言っている所が想像付く。
ドルグアは家系だけで考えれば、最弱の部類。魔力がないボクでも互角に戦えると言われてきた。ヒュウガでのドルグアは低い扱い。
稀に家系の歴史とか関係なしに、天才といわれる人材もでている。一概に勝てるとは言い切れないのかもしれない。
「もし……ボクが負ければお嬢様はどうなるんですか?」
「自信がないのか?」
「ただの確認です」
理事長のあの言葉をきいてから、一つの疑問がボクの頭の中を彷徨っていた。
もしボクが負ければユウナさんはどうなる? 今はもう底辺レベルのクラスにいる。これ以上の降格はない。だとしたら一体どうなる? そんな疑問を理事長は軽快に言った。
「決まっているだろ? 昇格はない。魔法師にはなれない」
その一言を聞き、顔が引き攣ってしまう。ボクのそんな表情を見てなのか、理事長は満面な笑みを浮かべている。
似ているな──ボクは大嫌いな男にそっくりだ。人の事も人の人生も何も思っていない所。
ヒュウガの現当主に似ている。
魔法師になれない、それはこの世界の腫れ物になる事を指す。
ボクらが生きている世界は、魔法が全てだ。その中で魔法師は必須だ。それになれないって事は、死を宣告されているのと一緒だ。
しかもそれがリステリの人間となると、尚更問題だ。
この勝負はユウナさんの人生を、背負うのとほぼ一緒だ。絶対に負けられない。負けてはダメな問題だ。物凄い重圧に重荷。それを今学園のトップから課された。
執事長の学園で最強になれが、可愛く思えてきた。
まぁどっち道、ボクには選択肢なんかない。ただこれは仕事だ。主人の邪魔になる物を排除する。
「どうした黙って? やらずに逃げて主人を底辺クラスにさせるか?」
「そういうの理事長が言ってはダメなのでは? 逃げる? ハッ、笑わせないで下さい。目の前の奴を叩き潰してやる」
「くっくくあっははは。面白い。ではその勝負はいつやる?」
「ボクはいつでも構わないです」
「俺は二時間後に魔技場で闘いたいです」
「魔技場かいいだろう。それでは二時間後に集合とする」
そこで解散となった。ドルグアも理事長も消えていた。残るのはボクとユウナさんだけだった。理事長と話している間。ユウナさんの顔は見れなかった。正確には見ようとしていなかった。
怖かったからだ、自分の主人がどんな顔をして、どう思っているのかを理解するのが怖い。
そんなボクの気持ちとは裏腹に、袖を引っ張られる。誰か確認するまでもない。そこで初めて、ボクはユウナさんに視線を向ける。
そこには、いつも元気で笑顔のユウナさんはいない。笑ってはいるだけど目が真っ赤だ。泣いた後なのだろ。
ユウナの泣く声もすすり声も聞こえなかった。静かに声を押し殺して泣いた。
「ごめんね情けない主人で、クロ君を決して信じてない訳ではない……それでも」
「それ以上は大丈夫です。理解しています」
ユウナさんの言葉を遮るように、ボクは言葉を重ねた。ユウナさんの目からポロポロと雫が流れている。頬につたり地面に滴れる。
「えっ?」
ユウナさんの情けない声が周囲に響いた。
「なんで抱き締めてくれるの? しなくていいんだよ」
「するなとは言われてません。それにこれはボクがしたくなかっただけです」
普通従者が主人に許可なし、または命令外で抱擁するのは禁句だろう。
だけど、今はこうでもしないと、目の前にいる可憐で凛々しい少女が、消えてしまうような気がした。
再び静寂は訪れるがユウナさんから、音が聞こえる。これは胸の鼓動音だろう。
スゥッとユウナさんを解放すると、少し寂しそうな表情が見えた気がする。
気のせいって思っとこ、取り敢えずここから離れた方がいい。
◇
「二人共集まったな」
二時間っていうのは長いようで短い。
あっという間に時間は経ち、学園が管理している魔技場に来ている。一見ただの闘技場。違うとすれば魔力での結界が張られているかの違い。
理事長に真ん中にまで集められ。ドルグアと対面している。
余裕そうにしている。その様子に妙に胸騒ぎがする。肉体の本能が何かを企んでいると、危険信号を出している。
そんなのは一切どうでもいい。
「……ルールは以上の通りだ。ここにて昇格戦を開催する」
理事長の言葉が終わると同時に、オォッと歓声の声が聞こえる。
視界には色んな人たちがいる。全員が生徒と教員だろう。
その中に勿論ユウナさんもいる。大事そうに刀剣袋を抱えている。
まさか魔道具の使用禁止とは、思わなかった。まぁあれを使えといわれても困るけど。
「始め!」
理事長は合図をすると、宙に浮き空高くまで行く。
おぉ凄いなと感心していると、火球が飛んできた。火球はボクを通り過ぎ、地面に着弾する。
わざと地面に向かって撃った。その行動に何の意味がある? 挑発? それとも単純に舐められているだけ。
ドルグアはニヤニヤと笑みを浮かべている。
この程度の火球ならば対処はできる。だが、やはり妙な胸騒ぎがして仕方ない。言葉に表すとすれば違和感。
唐突な静寂が訪れる。難しい話しではない。もしボクが同じ立場ならば黙る。
ユウナさんも赤髪──ドルグアは唖然としていた。理事長の方にゆっくりと目を向ける。と笑みを浮かべていた。
そんなに人の人生が掛かってしまう事を言って、楽しいかよ。きっと楽しいという。
容易く言っている所が想像付く。
ドルグアは家系だけで考えれば、最弱の部類。魔力がないボクでも互角に戦えると言われてきた。ヒュウガでのドルグアは低い扱い。
稀に家系の歴史とか関係なしに、天才といわれる人材もでている。一概に勝てるとは言い切れないのかもしれない。
「もし……ボクが負ければお嬢様はどうなるんですか?」
「自信がないのか?」
「ただの確認です」
理事長のあの言葉をきいてから、一つの疑問がボクの頭の中を彷徨っていた。
もしボクが負ければユウナさんはどうなる? 今はもう底辺レベルのクラスにいる。これ以上の降格はない。だとしたら一体どうなる? そんな疑問を理事長は軽快に言った。
「決まっているだろ? 昇格はない。魔法師にはなれない」
その一言を聞き、顔が引き攣ってしまう。ボクのそんな表情を見てなのか、理事長は満面な笑みを浮かべている。
似ているな──ボクは大嫌いな男にそっくりだ。人の事も人の人生も何も思っていない所。
ヒュウガの現当主に似ている。
魔法師になれない、それはこの世界の腫れ物になる事を指す。
ボクらが生きている世界は、魔法が全てだ。その中で魔法師は必須だ。それになれないって事は、死を宣告されているのと一緒だ。
しかもそれがリステリの人間となると、尚更問題だ。
この勝負はユウナさんの人生を、背負うのとほぼ一緒だ。絶対に負けられない。負けてはダメな問題だ。物凄い重圧に重荷。それを今学園のトップから課された。
執事長の学園で最強になれが、可愛く思えてきた。
まぁどっち道、ボクには選択肢なんかない。ただこれは仕事だ。主人の邪魔になる物を排除する。
「どうした黙って? やらずに逃げて主人を底辺クラスにさせるか?」
「そういうの理事長が言ってはダメなのでは? 逃げる? ハッ、笑わせないで下さい。目の前の奴を叩き潰してやる」
「くっくくあっははは。面白い。ではその勝負はいつやる?」
「ボクはいつでも構わないです」
「俺は二時間後に魔技場で闘いたいです」
「魔技場かいいだろう。それでは二時間後に集合とする」
そこで解散となった。ドルグアも理事長も消えていた。残るのはボクとユウナさんだけだった。理事長と話している間。ユウナさんの顔は見れなかった。正確には見ようとしていなかった。
怖かったからだ、自分の主人がどんな顔をして、どう思っているのかを理解するのが怖い。
そんなボクの気持ちとは裏腹に、袖を引っ張られる。誰か確認するまでもない。そこで初めて、ボクはユウナさんに視線を向ける。
そこには、いつも元気で笑顔のユウナさんはいない。笑ってはいるだけど目が真っ赤だ。泣いた後なのだろ。
ユウナの泣く声もすすり声も聞こえなかった。静かに声を押し殺して泣いた。
「ごめんね情けない主人で、クロ君を決して信じてない訳ではない……それでも」
「それ以上は大丈夫です。理解しています」
ユウナさんの言葉を遮るように、ボクは言葉を重ねた。ユウナさんの目からポロポロと雫が流れている。頬につたり地面に滴れる。
「えっ?」
ユウナさんの情けない声が周囲に響いた。
「なんで抱き締めてくれるの? しなくていいんだよ」
「するなとは言われてません。それにこれはボクがしたくなかっただけです」
普通従者が主人に許可なし、または命令外で抱擁するのは禁句だろう。
だけど、今はこうでもしないと、目の前にいる可憐で凛々しい少女が、消えてしまうような気がした。
再び静寂は訪れるがユウナさんから、音が聞こえる。これは胸の鼓動音だろう。
スゥッとユウナさんを解放すると、少し寂しそうな表情が見えた気がする。
気のせいって思っとこ、取り敢えずここから離れた方がいい。
◇
「二人共集まったな」
二時間っていうのは長いようで短い。
あっという間に時間は経ち、学園が管理している魔技場に来ている。一見ただの闘技場。違うとすれば魔力での結界が張られているかの違い。
理事長に真ん中にまで集められ。ドルグアと対面している。
余裕そうにしている。その様子に妙に胸騒ぎがする。肉体の本能が何かを企んでいると、危険信号を出している。
そんなのは一切どうでもいい。
「……ルールは以上の通りだ。ここにて昇格戦を開催する」
理事長の言葉が終わると同時に、オォッと歓声の声が聞こえる。
視界には色んな人たちがいる。全員が生徒と教員だろう。
その中に勿論ユウナさんもいる。大事そうに刀剣袋を抱えている。
まさか魔道具の使用禁止とは、思わなかった。まぁあれを使えといわれても困るけど。
「始め!」
理事長は合図をすると、宙に浮き空高くまで行く。
おぉ凄いなと感心していると、火球が飛んできた。火球はボクを通り過ぎ、地面に着弾する。
わざと地面に向かって撃った。その行動に何の意味がある? 挑発? それとも単純に舐められているだけ。
ドルグアはニヤニヤと笑みを浮かべている。
この程度の火球ならば対処はできる。だが、やはり妙な胸騒ぎがして仕方ない。言葉に表すとすれば違和感。
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