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あなたに贈るカタルシス
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ぽっかりと、空のような広い心の穴を、私は何で埋めていけばよいのかわからなかった。
幸せはつい昨日まであったはずなのに、どうして昨日までの幸せを大事にしなかったのかと思うだけで、悲しみの涙が溢れた。
今の私は力なく人に言う。
「ちょっとした幸せでも大事にしなければダメ。失ってからでは遅いのよ」
言い切る力もなく、言いたいことは心の中に消える。
バカらしくなって、その言葉を吐いた自分を嫌悪して、心がアリのように潰される。
ドラマや小説や誰かが、ありきたりのように吐く言葉のように思えた、「失ってからでは遅い幸せ」というものが、私にとって地球よりも重い言葉になるとは思ってはいなかった。人生で一生消えない、ただれた心の刺青になるとは思わなかった。愚かな女だと自分を呪った。
誰でも、次の瞬間に不幸が起こるなんて思ってはいない。自分の幸福は永遠に続くかのように感じ、しだいに慣れきって思い上がる。そんな私に与えられた罰。
「行っちゃダメ」「私を一人にしないで」
自分の声と冷たい肌。
本当の喪失を心が知ったとき、枯れるほどの叫びは、心の亀裂になって、そこにあった綺麗な湖の水をすべて吸い込んでしまった。
潤いに飢えた私は心を埋めるものを求めてさまよった。一歩一歩歩くごとに心は掻きむしられ、再生しないほどに乾いてきていた。
そんな心で引き寄せた男は、私を傷つけるだけだった。
私の体を求め、嘘の言葉を重ね、優しく残酷な偽善ですべてを傷つけて、嘲り笑っていった。体だけで、心は踏みにじられるだけだった。
過去のあの日を思い出したくなくても、何かの瞬間に思い出す。本当に思い出したくないのに、テーブルやドアや鏡や食器、乗り物から植物まで私の日常に存在するすべてが、失ったあなたに続く。
窓の外は冷たい雨が降っている。この時期の刺すように冷たい雨がガラスに落ちて、水滴を作る。私は水滴を心に重ねて指先でガラスをなぞる。
「ねえ、最後にしたエッチ、覚えてる?」
私はそうぽつりと独り言をつぶやき泣き崩れる。彼がどこからか浮かんできた湖の泡のように現れては消える。
彼が大好きだったシルクのブランケットを手に取る。彼がいなくなってしまってから、彼の匂いが染み付いているような気がして一度も洗うことができなかった。
私は彼の肌を感じたくてシルクを直接肌にまとうために服を脱ぎ捨て裸になる。座り込んでブランケットにくるまる。そんなことをしても、何にも届きはしないのに、私はいつもこうしてどこかで彼に繋がるものを探している。シルクのなめらかな肌触りに包まれ、窓を伝う雫を眺めながら、乳房を摘む。手を茂みの奥に 這わせ花びらを指で割く。こうしていれば、ほんの少しだけあなたのぬくもりを思い出せそうだから。
涙とともに体がどこまでも落ちていくようだった。苦痛も快楽も一緒になって心の中で抉るように渦を巻く。
私の花びらは歪み、蜜を垂らす。乳房の突起は硬く天を突くようになる。体はうねりをあげるように、もだえ、あえぐ。底知れぬ苦痛とともに。
私の頭は白くなる。そう、真っ白になって広がっていく。
私の指が赤く濡れていた。生理が、始まったみたい。
私の大事な、なくなって欲しくない命が途切れても、私の中の命を作る輪廻は続く。私の体は新しい命を作れると教えてくれる。こんなにも擦り切れてしまいそうな命にも、命が宿るのだと。
私は立ち上がり窓の外を見る。
重たい雨が天使の羽をまとっていた。
白い、やわらかな雪が舞っている。
あの真っ白い雪には、どんな意味があるのだろう。何も語らず、何も聞きはしない。ただ、今は白く染めてくれるような気がする。心に降り積もる気がする。
血が線を描いて太ももを伝って落ちる。
私はそれがどこまでも透明で白いキャンパスに落ちていく気がした。
幸せはつい昨日まであったはずなのに、どうして昨日までの幸せを大事にしなかったのかと思うだけで、悲しみの涙が溢れた。
今の私は力なく人に言う。
「ちょっとした幸せでも大事にしなければダメ。失ってからでは遅いのよ」
言い切る力もなく、言いたいことは心の中に消える。
バカらしくなって、その言葉を吐いた自分を嫌悪して、心がアリのように潰される。
ドラマや小説や誰かが、ありきたりのように吐く言葉のように思えた、「失ってからでは遅い幸せ」というものが、私にとって地球よりも重い言葉になるとは思ってはいなかった。人生で一生消えない、ただれた心の刺青になるとは思わなかった。愚かな女だと自分を呪った。
誰でも、次の瞬間に不幸が起こるなんて思ってはいない。自分の幸福は永遠に続くかのように感じ、しだいに慣れきって思い上がる。そんな私に与えられた罰。
「行っちゃダメ」「私を一人にしないで」
自分の声と冷たい肌。
本当の喪失を心が知ったとき、枯れるほどの叫びは、心の亀裂になって、そこにあった綺麗な湖の水をすべて吸い込んでしまった。
潤いに飢えた私は心を埋めるものを求めてさまよった。一歩一歩歩くごとに心は掻きむしられ、再生しないほどに乾いてきていた。
そんな心で引き寄せた男は、私を傷つけるだけだった。
私の体を求め、嘘の言葉を重ね、優しく残酷な偽善ですべてを傷つけて、嘲り笑っていった。体だけで、心は踏みにじられるだけだった。
過去のあの日を思い出したくなくても、何かの瞬間に思い出す。本当に思い出したくないのに、テーブルやドアや鏡や食器、乗り物から植物まで私の日常に存在するすべてが、失ったあなたに続く。
窓の外は冷たい雨が降っている。この時期の刺すように冷たい雨がガラスに落ちて、水滴を作る。私は水滴を心に重ねて指先でガラスをなぞる。
「ねえ、最後にしたエッチ、覚えてる?」
私はそうぽつりと独り言をつぶやき泣き崩れる。彼がどこからか浮かんできた湖の泡のように現れては消える。
彼が大好きだったシルクのブランケットを手に取る。彼がいなくなってしまってから、彼の匂いが染み付いているような気がして一度も洗うことができなかった。
私は彼の肌を感じたくてシルクを直接肌にまとうために服を脱ぎ捨て裸になる。座り込んでブランケットにくるまる。そんなことをしても、何にも届きはしないのに、私はいつもこうしてどこかで彼に繋がるものを探している。シルクのなめらかな肌触りに包まれ、窓を伝う雫を眺めながら、乳房を摘む。手を茂みの奥に 這わせ花びらを指で割く。こうしていれば、ほんの少しだけあなたのぬくもりを思い出せそうだから。
涙とともに体がどこまでも落ちていくようだった。苦痛も快楽も一緒になって心の中で抉るように渦を巻く。
私の花びらは歪み、蜜を垂らす。乳房の突起は硬く天を突くようになる。体はうねりをあげるように、もだえ、あえぐ。底知れぬ苦痛とともに。
私の頭は白くなる。そう、真っ白になって広がっていく。
私の指が赤く濡れていた。生理が、始まったみたい。
私の大事な、なくなって欲しくない命が途切れても、私の中の命を作る輪廻は続く。私の体は新しい命を作れると教えてくれる。こんなにも擦り切れてしまいそうな命にも、命が宿るのだと。
私は立ち上がり窓の外を見る。
重たい雨が天使の羽をまとっていた。
白い、やわらかな雪が舞っている。
あの真っ白い雪には、どんな意味があるのだろう。何も語らず、何も聞きはしない。ただ、今は白く染めてくれるような気がする。心に降り積もる気がする。
血が線を描いて太ももを伝って落ちる。
私はそれがどこまでも透明で白いキャンパスに落ちていく気がした。
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