明日は明日

貴美月カムイ

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明日は明日2

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「それでさ、その夜眠れなくて、やっぱり彼女とうまくできるんじゃないかと思って電話かけたら、この番号は現在使われておりませんだとさ。メールもアドレスなくて返ってくるし、なにもかも切ないって」
 バーで強い酒を飲みながら、くだをまいているコウキはバーテンとマスターに散々成り行きを愚痴っていた。
「それで、びっくりしたのが、諦め切れなくて彼女のマンションに行ったら、もう引っ越したって。そこまでするのかって思ったよ。俺ってそんなにつまらない男なのかな」
 マスターはコウキの少し鬼気迫るような雰囲気を受け取り、ストーカーになるのではないかと内心思いながら、表向きは神妙そうな顔をして「人生しょうがないことってありますよ」と無難な言葉をかけて慰めていた。
「本当に大好きだったんだよ。最初で最後の惚れた女だったし。もう女なんていいわ。もう絶対恋愛しない。女なんて俺にはいらねえよ。どうでもいいわ」
 コウキがぐたりとカウンターにへたり込むと、同じくカウンターに一人で座っていた女の人が「その人はひどい人ですね」と、きりっとこちらを見つめながら言ってきた。コウキは「女の人に声をかけられた」と少々の嬉しさから顔を上げて声のしたほうへと振り向いた。
 ハルミがスレンダーだとしたらこちらの女の子はあどけなさが残るかわいい感じがした。服で隠れてよくわからないが、胸のふくらみに思わずコウキは目がいってしまった。脱ぐと手に余るほど大きいのではないかと思った。
 コウキは内心こういう子も悪くないなと、先ほどの言葉を完全に忘れていた。
 女の人は、うるると瞳をにじませて、うっとうつむきながらしゃべりだした。
「私、ホストに騙されました。あんなに優しくておもしろい人だったしプレゼントもいっぱいしてくれたのに。どうして信じてしまったんだろうって思います。一生懸命私も尽くしたのに、他の女の子のことうるさくいったら、もういいって言われてそれっきり…………」
 女の人が話し終えた後、一瞬長いかと思われる沈黙が流れたが、コウキは同士を得たようで安心していた。仲間がいた上に、その仲間はとてもかわいい。バーテンは二度も「しょうがない」の言葉を並べることでは済ませられず、「大変な目にあいましたね」と声をかけたが、この手の女性はあふれるほど眺めてきていたので、また被害者が一人、といった冷静な目で見ていた。
 それからしばらく、お互いに別れた恋人のことで盛り上がりに盛り上がっていた。もはや誰も寄せ付けない、互いの元恋人の罵詈雑言の嵐のようなもので、言葉もだんだんと酔いとともに暴力的で品がなくなってきていた。両者とも酒の杯がぐいぐいとすすみ、どれぐらい飲んだかわからぬほど、へべれけになって二人で寄りかかりながら店を出た。
 言うだけいって、心の鬱憤を晴らした二人は酔っ払いになると突っ込んだ下ネタも気にならなくなっていた。先ほどの会話の中でもエッチな話題というものが出ていたせいか、互いに露骨に話題に出している。二人で外の人ごみの中にいるにもかかわらず、陽気に笑いあいながら歩いていた。当然酔っ払っているので周囲の迷惑などおかまいなしだ。
「よし、今日は二人で慰めあうか。シックスナインで」
「うん。あたしの味わったら病み付きになるよ。あたしこう見えても凄いうまいんだから。バキュームで吸い上げちゃう」
「じゃあ俺も汁を余さず吸い上げて飲むから覚悟しろ」
「あたしに締め上げられたらどんな男だってイクんだから」
「俺だって奥まで突いてやるよ」
 冗談とも本気ともわからないまま、勢いとノリで二人の足はホテルに向かう。ホテル街に入ってくると雰囲気が変わるが、二人の陽気さはそのままでむしろ女性のほうが、「あそこがよさそう」「ここはセンス悪そう」と、どこに入るかを選んでいた。
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