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1.ある日の放課後
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温かい春の日差しが2つの影を照らす。
1人は、茶色のふわふわな栗毛をゆらしながら、落ち着きの無い様子でシャーペンを弄んでいる。目の前には、最初の数行にミミズが這ったような文字があるだけで、残りは真っ白なノート。その隣には、頬杖をつきながらチョコ菓子を摘んでいる青年がいる。目の前のノートは図や表が理路整然と並び、赤や蛍光ペンまでしっかりと書かれている。
「ねぇ秀才くん?」
「どしたのおバカさん。」
「……っ」
栗毛の青年は何か言いたいのを一瞬堪え、深呼吸をした後ため息をつきながら言葉を続ける。
はーー…
「楽して金持ちになる方法ってないかな」
頬杖をついていた青年はチョコ菓子に伸ばした手を一瞬止め、軽蔑の眼差しで栗毛の青年を見つめる。
「バカなこと言ってないでさっさと課題終わらせろよ。」
言われて視線を落とすと、真っ白なノートが残酷な現実を示してくる。
「あーあ、いいよなー、お前は。頭が良くて金持ちで?ズルい。」
涼しい顔で再びお菓子に手を伸ばしていた青年をじとっと睨む。睨まれた青年は口に放り込んだチョコを咀嚼しながら、考え事をしながら言葉を紡ぐ。
「金持ちになる方法ねー。ないこともないけど……」
その言葉を聞いて、さっきまでジト目で羨ましそうに見ていた青年の目は丸く見開かれた。
「教えて下さい!」
その言葉を聞いて満面の笑みを浮かべ、頬杖をついていた手を、まん丸に開かれた目の前に移動し親指を立てる。
「俺と結婚」
一瞬真顔になった栗毛の青年は、そのまま表情を曇らせ、机に突っ伏した。
「却下」
くぐもった声でそう一言放つと、
「えー、ショックだわー」
抑揚のない声が返ってきた。しばらく静寂が流れる。机に突っ伏している青年と、両手で頬杖をついている青年は、同時にため息をつく。
静寂を破ったのは栗毛の青年だった。
「もしかしなくても、……終わってるよね?」
突っ伏した体制はそのまま、顔だけを頬杖の青年に向ける。
「それ俺に聞く?」
そちらには視線すら移さず、返事だけする。
「見せて下さい!」
がばっと体を起こし、頬杖をつく青年のすぐ横で両手を合わせ懇願する栗毛の青年。
「やだ。」
先程と同じく真正面を向いたまま、言葉だけで応える。
「えーーなんでー!?お願いします!」
先程よりも更に近づき、拝むように手を擦り合わせて更に懇願する。
「嫁にしか見せない」
「よ……め……、、、」
再び目を大きく開きパチクリと瞬きを数回したあと、ストンと自分の椅子に座り直す栗毛の青年。その様子を横目でちらりと確認する。栗毛の青年はうーんと熟考している。しばらく経ったのち、
「やっぱ無理!」
少し泣きそうな栗毛の青年の様子に、目を細めて笑いながら
「じゃあ俺も無理」
そう言って目の前のノートや参考書を片付け始める。
「えーー嘘でしょ!?僕が可哀想だと思わないの?親友でしょ?」
横でギャンギャン喚く栗毛をよそに、立ち上がりカバンを肩に背負う。
「さー、どーだろう?俺終わったし先帰るわ。」
そう言い残すとさっさと教室を出ていく。残された栗毛の青年は慌てて荷物をまとめて、先に出ていった青年の後を追いかける。気づけば空はすっかり赤くなっていて、教室に1人残された青年は、心細さか胸がキューッと締め付けられたように感じた。
1人は、茶色のふわふわな栗毛をゆらしながら、落ち着きの無い様子でシャーペンを弄んでいる。目の前には、最初の数行にミミズが這ったような文字があるだけで、残りは真っ白なノート。その隣には、頬杖をつきながらチョコ菓子を摘んでいる青年がいる。目の前のノートは図や表が理路整然と並び、赤や蛍光ペンまでしっかりと書かれている。
「ねぇ秀才くん?」
「どしたのおバカさん。」
「……っ」
栗毛の青年は何か言いたいのを一瞬堪え、深呼吸をした後ため息をつきながら言葉を続ける。
はーー…
「楽して金持ちになる方法ってないかな」
頬杖をついていた青年はチョコ菓子に伸ばした手を一瞬止め、軽蔑の眼差しで栗毛の青年を見つめる。
「バカなこと言ってないでさっさと課題終わらせろよ。」
言われて視線を落とすと、真っ白なノートが残酷な現実を示してくる。
「あーあ、いいよなー、お前は。頭が良くて金持ちで?ズルい。」
涼しい顔で再びお菓子に手を伸ばしていた青年をじとっと睨む。睨まれた青年は口に放り込んだチョコを咀嚼しながら、考え事をしながら言葉を紡ぐ。
「金持ちになる方法ねー。ないこともないけど……」
その言葉を聞いて、さっきまでジト目で羨ましそうに見ていた青年の目は丸く見開かれた。
「教えて下さい!」
その言葉を聞いて満面の笑みを浮かべ、頬杖をついていた手を、まん丸に開かれた目の前に移動し親指を立てる。
「俺と結婚」
一瞬真顔になった栗毛の青年は、そのまま表情を曇らせ、机に突っ伏した。
「却下」
くぐもった声でそう一言放つと、
「えー、ショックだわー」
抑揚のない声が返ってきた。しばらく静寂が流れる。机に突っ伏している青年と、両手で頬杖をついている青年は、同時にため息をつく。
静寂を破ったのは栗毛の青年だった。
「もしかしなくても、……終わってるよね?」
突っ伏した体制はそのまま、顔だけを頬杖の青年に向ける。
「それ俺に聞く?」
そちらには視線すら移さず、返事だけする。
「見せて下さい!」
がばっと体を起こし、頬杖をつく青年のすぐ横で両手を合わせ懇願する栗毛の青年。
「やだ。」
先程と同じく真正面を向いたまま、言葉だけで応える。
「えーーなんでー!?お願いします!」
先程よりも更に近づき、拝むように手を擦り合わせて更に懇願する。
「嫁にしか見せない」
「よ……め……、、、」
再び目を大きく開きパチクリと瞬きを数回したあと、ストンと自分の椅子に座り直す栗毛の青年。その様子を横目でちらりと確認する。栗毛の青年はうーんと熟考している。しばらく経ったのち、
「やっぱ無理!」
少し泣きそうな栗毛の青年の様子に、目を細めて笑いながら
「じゃあ俺も無理」
そう言って目の前のノートや参考書を片付け始める。
「えーー嘘でしょ!?僕が可哀想だと思わないの?親友でしょ?」
横でギャンギャン喚く栗毛をよそに、立ち上がりカバンを肩に背負う。
「さー、どーだろう?俺終わったし先帰るわ。」
そう言い残すとさっさと教室を出ていく。残された栗毛の青年は慌てて荷物をまとめて、先に出ていった青年の後を追いかける。気づけば空はすっかり赤くなっていて、教室に1人残された青年は、心細さか胸がキューッと締め付けられたように感じた。
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