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24.自虐なんてするもんじゃない
しおりを挟むタンブラーもステッカーも、あそこに自然に置かれてるチャージャーも、ソファに馴染んであまり目立たないけどそのミニクッションも……
全部、ツアーグッズとか特典のグッズだ。そろそろ本気でお邪魔しないと、ボロが出る。まずい。
「夏木くん。僕そろそろお暇しようと思うんだけど。」
僕がそう言うと夏木くんは、何かを思い出したような表情をして話し出した。
「せやったわ!服な。4人分今持ってくるし待っといてやー。」
夏木くん!そうじゃない!僕はもう、君らとお出かけする勇気がないよーー!家に帰りたいんだよー。
僕の心の声は、僕の中だけでコダマした。嫌な予感しかない。
「夏木くん、僕のサイズの服なんて持ってるのかな。」
「俺はなんとなく予想着いた。」
春川くんと秋瀬くんが話をしているのを聞きながら、僕はもう、どうやって断ろうか言い訳の理由を一生懸命に考えていた。
しばらくすると、悪い意味で期待を全く裏切らずに、予想通りのものを夏木くんが持参し、僕たちに1つひとつ手渡した。
売れる前、お客さんに手渡しでグッズ売ってた時期があったけど、まさかその反対をされる時がくるとは、人生って分からないもんだね。
「お、懐かしい。これお前と出会った日にお揃いで買ったやつだ。」
「せやろ。これまだ手売りしてた頃、直接メンバーから手渡してもらったんだよなー。」
「だったよな。お前握手してもらって感激してたよな。あのあと急に売れて、あれがメンバーと話した最初で最後になった。」
「せやな。お前と出会ったんも、音楽と出会ったんもあのライブやった。俺の新しい世界が開いた日やったんや。」
あのライブの直前、僕をどん底に落としたやつが、遠い街に引っ越したらしいって兄貴から聞いた。嬉しいような悲しいような、不思議な感情の中、僕は演奏した。あのライブでのパフォーマンスを越えるライブは実はまだしたことがない。僕史上最高に演れたライブだった。
そして、その感情を僕は歌詞にぶつけた。
『dear』
この曲がきっかけで、僕たちのバンドは売れ出した。あのライブで僕たちが変われたように、別の誰かも何かが変わったというのは、めちゃくちゃ嬉しい。兄貴にもこれを今すぐ伝えたいくらいだった。
「春川と冬月にはこれやで。」
「これ、《sheep》とのコラボのやつだ。懐かしい。」
秋瀬くんも意外とガチファンなのでは?このTシャツ、完全にネタだから、数量限定で、期間もすごい短かったから知ってる人も少ないはず。
「ねぇ僕の赤色だけど。……ラーメン?の上に乗ってるの、唐辛子?」
「そうやで。このバンドって、ギターとベースが兄弟でな。ギターが兄貴なんやけど、異常なほどなんにでも一味をかけるんやて。」
ほんでな、はい冬月と渡されたのは、茶色のTシャツだった。そう、これ。僕の自虐ネタ……
「弟は、大の甘党。コーヒーにガムシロ8個入れて飲むらしい。さっき冬月が言ってたから、これしかないと思ったんや。」
夏木くんは、いいチョイスが出来たと喜んでいる。このネタTシャツは、女性向けに作ったもので、背の低い僕らにもピッタリのサイズだ。
おそらく夏木くんは、保存用に買って、ずっと取っていてくれたのかもしれない。そう思うと、嬉しい。
が!!!!
これは、俺と兄貴が周りから非難された甘党辛党についての自虐ネタ。一時期周りからやたらとからかわれた時期があって、半分ヤケクソになった僕が、ネタTシャツとしてグッズ化したんだよね!
まさか、それがこんな時を経て、また目の前に現れて、しかもそれを着るように促されるなんてな!!好意100%だから断るのは至難の業。
春川くんは、早速シャツを脱いでいる。え、夏木くんも、秋瀬くんまで!!
待って、みんなここで着替えるの?
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