平凡な僕らの、いつもの放課後。

たんさん

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32.本屋にて

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 のんびり歩いても、そんなに距離のない本屋は気付いたら目の前だった。夏木くんが買ってきてくれた薬のおかげが、春川くんもだいぶ復活してきている。

 本屋に入ると、夏木くんはまっすぐ音楽雑誌コーナを目指した。そして目当ての本を手に取ると、表紙を確認している。夏木くんの目線がDISTURBの文字をなぞると、頷き、そのままレジに向かう。会計を済ませると、後ろを着いていってる僕の存在に気づいて、「俺の用事済んだで。冬月も見たい本あれば見てきたらええよ。」と言う。僕は先程アニメショップでお目当ての本をゲットしたので、特に欲しいものはない。

 それよりも、あの雑誌。僕はインタビューになんて答えたんだったか。中身が気になった。家にも届いてたような気がしたが、基本中身を確認することは無い。夏木くんがその記事を読むことがわかってしまった今、中身を確認したくて仕方なくなった。

「えと……僕も、それ、買ってこようかなぁ。」

 家に帰ったらあるのはわかっていても、それまで待てない。僕は一人で音楽雑誌コーナーに戻ると、平積みにされている1冊を手に取るとレジに向かった。レジを終えて、今度は僕を待ってくれていた夏木くんの元に行く。

「冬月も音楽興味あるんやな。どのバンドが好きなん?」

 そう聞かれて、慌てた僕はこの前対バンしたバンドの名前を答えた。「あー。たまにDISTURBと対バンしとるよなー。ライブとか行くん?」そう聞かれて焦る。演奏中に裏で聴くことはあるけど、観客席では聴いたことない。勿論、他バンドのライブを見に行くことはない。

「まだニワカだから、売れてるやつしか知らないんだよねー。『明日に備えろ』だっけ?あれいいなぁって思った。」へへっと苦し紛れに答える。この前の対バンでやってた曲でこれだけ覚えてる。すると、夏木くんは少し上を向いて考え「その曲って、この前の対バンライブでしか披露してない未発表曲ちゃうん?」と言われる。

 えーーーーー未発表曲とか知らないんですけどーーーーーーーー。あの曲の編集を兄貴が手伝ってたから、タイトル知ってるだけなのに……。僕は苦し紛れの言い訳をする。

「えーーーそーなのーーー?僕なんかのラジオで聞いたのかなーーーー。」

 はははと乾いた笑いしか出ない。というか、なんで夏木くんはそこまで知っているんだ。ここはもう笑って誤魔化すしか出ない。時よ早く過ぎてくれ。

「『明日に備えろ』って、間奏のところのギターリフが瑠璃っぽくて俺も好きだな。」

 いつの間にか近くに来ていたのか、秋瀬くんが会話に加わった。「お、それわかるかも。」と夏木くんも返事し、二人で意気投合している。兄貴が編集で特に拘っていた箇所だった。

 僕ら以外に、兄貴の音を見つけてくれる人がいるんだ……。兄貴はやっぱり天才だ。僕は嬉しくて思わず余計なことを言ってしまった。

「その曲、瑠璃が編集手伝ってんですよ。」

 二人は同時に僕を見ると、「やっぱり!」「おうてたんや!」とテンションが上がっている。前回の対バンライブに二人で来ていて、明日に備えろにDISTURBというか瑠璃の空気を感じていたらしい。

「冬月すまん、二人で盛り上がってもうたわ。またDISTURBと対バンあったら、一緒にライブ行かへんか?」

 秋瀬くんも珍しく頬を少し紅潮させて、うんうんと頷いている。これはーーー!!夏木くんと秋瀬くんから誘われてるーー!?僕明日死ぬんじゃないかな?なにこのハーレム状態!そんなの行くに決まってるじゃないですか!!!

 僕は喉から是非の「是」が出る瞬間に気づく。

 僕がそのライブに行ったら、DISTURBのkaguraが不在ですけど、それでもこの二人は楽しんでくれるんだろうか。いや、その前に兄貴が許してくれるのか?僕は二人に「ちょっと兄さんに聞いてきます!」そう言って本屋から飛び出した。
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