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第1章 少女、冒険者目指して奮闘する。

23話  弓使いの少女

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 平原を暫く歩いていると、リズのイーグルアイが遠くにいる魔物を発見した。

「お姉さん、ゴブリン一体発見ッス!」

 その報告を聞いたミリアが、両手で杖をギュッと握りしめ怯え始める。

「ミリアちゃん、あんなに怯えて可哀想に! 今すぐ私があんな魔物、紅蓮の炎で消し炭にしてやりたい!」

 そう言葉を発したのは、はるか後方から心配のあまり、後ろからついて行こうとして秘書に仕事があるからと止められたが、武力制圧してマスクとサングラスで変装して結局ついてきたミレーヌだ。

 彼女は望遠鏡でその様子を見ながら、姪の安否を心配する。
 そして、その後ろには仕事に穴が空いてしまったことを心配しながら、ミレーヌの後を付いてくる秘書のエルフィの姿があった。

「ミリアちゃんに、近づく前に倒さないと!」

 紫音は、ミリアが怖がっているのを見てそう考えると、刀に手をかけてゴブリンに近づこうとする。すると、リズが弓を構えてこう言ってきた。

「お姉さん、ここは私にお任せッス!」

 そう言うとリズは、背中の矢筒から矢を取り出し弓に矢をつがえると、力いっぱい弓を引き絞りゴブリンに狙いを定めて矢を放つ。

 リズの放った矢は、ゴブリン近くで失速し胴体に命中する。
 ゴブリンは、こちらに気付くと胸に矢が刺さったまま、勢いよく紫音達めがけて走ってきた。

「支給品の弓と矢だと、こんなもんッスね」

 リズは今の自分の射撃をそう評価すると、冷静に二射目の体勢に入る。
 今度はゴブリンを有効射程まで引きつけると、今度は見事にゴブリンの額に命中させて魔石に変えた。

 魔物には弱点が有り、大抵の魔物は頭と心臓の位置が弱点となっている。
 その弱点を突くことで、魔物の耐久値を一気に削り魔石にすることができた。

「すごいね、リズちゃん」
「子供の頃からやっているので、これくらいなら簡単ッス」

 紫音がリズの冷静な射撃に感心すると、彼女は淡々と答える。

(この世界では、小さい頃から魔物と戦うのが当たり前なのかな? それともこの子が特別なのだろうか……?)

 リズの言葉を聞いた紫音は、このように考える。

「じゃあ、先に進もうか」

 だが、時間制限があるため気持ちを切り替えて、先を急ぐことにした。

 暫く歩くと目の前に森が現れる。
 森には人工的に切り開かれた道があり、ご丁寧に立てられた道標の矢印は、その道の奥を指していた。

「森の中は左右の見通しが悪いから、不意打ちに気をつけないと!」

 紫音の忠告に、二人は頷くと三人は森の中を慎重に歩みはじめる。

 先頭を紫音、二番目をミリア、最後尾にリズが腰の短剣に手を当てながら警戒して歩いていると 、森の中程あたりで突然一匹のゴブリンが森の中から、武器を振り上げ飛び出してきた。

 ゴブリンが飛び出してきた位置は、丁度真ん中のミリアの近くで、彼女は突然の敵に反応できずリズも反応が遅れる。

 だが、紫音だけはとっさに反応しており、ミリアと魔物の間に素早く入り込みながら、右手抜き打ちによる横薙ぎ、いわゆる「居合斬り」をゴブリンの胴に叩き込む。

 そして、さらに返す刀による袈裟斬りでダメ押しの斬撃を入れ、ゴブリンを一瞬の内に退治した。

 紫音が咄嗟に反応し斬撃できたのは、反射的に技が出るまで体に覚えさせた日々の鍛錬による賜物であり、反復練習により体に覚え込ませた技は、反射的にでも正確な斬撃を可能としたのだ。

 その体に覚え込ませた感覚が、転生直後の身体強化との齟齬を生み出し混乱を招いたが、今はこちらに来てからの日々の鍛錬によって問題はない。

「ミリアちゃん、大丈夫? 怪我はない?」

 紫音はミリアの無事を確認したが、正直内心はドキドキしていた。

 さっきの居合による斬撃が上手く決まったから良かったが、初めから刀を抜いていればもっと余裕を持って反撃できたかも知れない。

 実戦経験があれば、そういう事も気付いたかも知れない……

 リズとミリアは今の居合斬りによる攻撃を見て、紫音の強さを改めて実感した。

(このお姉さんなら……)

 リズは紫音のことを、寝ぼけ眼でじっと見つめた。

「お姉さんかっこいい……」

 ミリアは紫音に憧れの眼差しを向ける。紫音の華麗な剣技と特殊スキル「魅力++(特に年下同性効果大)」が絶賛発動中によって、ミリアにとってダメポニーは憧れのお姉さんとなっていた。

 さらに森を進むと、眼の前に岩壁が現れる。
 岩壁には洞窟の入り口らしきものが有り、先程と同じ用に道標が洞窟の方を指していた。

(今度は洞窟かぁ…… 洞窟の中での戦闘は初めてだな……)

 そう思いながら、紫音は洞窟の中に入るがミリアは少し入るのを躊躇する。

「中は暗いッスね、ミリアちゃんライトの魔法をお願いッス」
「ミリアちゃんお願い」

 二人にそう言われてミリアは、慌てて洞窟に入り二人と自分にライトの魔法を唱えた。

 ライトの魔法は、対象者の頭上の斜め上に辺りを照らす光源を作り出す魔法で、周辺を明るく照らしてくれる。照明魔法によって照らし出された洞窟内部は意外と広く、刀を振り回しても大丈夫そうだった。

「お姉さん、私は暗いところでも多少は目が効くッス。先頭を行ってライトの範囲外の暗闇からの魔物の襲撃に警戒するッス」

 そう言うとリズは先頭を歩き出す、真ん中をミリア、一番後ろを紫音が後方からの魔物の襲撃を警戒しながら歩く。

 ミリアは洞窟内が恐いのか歩みが遅く、先頭のリズと少し距離が空いてしまう。
 すると突然、洞窟の天井から粘液状の魔物が二体リズとミリアの間に落ちてきた。
 リズが叫ぶ!

「スライムッス!!」

 ミリアはその声を聞くと同時に、この前の試験での恐怖が蘇り紫音の後ろに素早く走ると、杖を両手で握ったまま震えながらその場でしゃがみ込んでしまった。

「お姉さん、スライムは魔法かオーラ技でないと効果的な攻撃ができないッス! お姉さん、オーラ技は使えるッスか? 私は使えないッス!」

「私は使えるのは使えるけど、武器にオーラを宿すのに時間がかかるの! リズちゃん、時間稼げる?」

 紫音のこの問いにリズはこう答える。

「効果的な攻撃ができないのに、注意を引くなんて無理ッス!」

(となると、残る方法はミリアちゃんの魔法だけ……)

 紫音は自分の後ろで怯えているミリアに、魔法攻撃をお願いすることにした。

「ミリアちゃん、スライムに魔法をお願い!」

 だが、紫音のこの願いに、ミリアはしゃがみ込んだまま頭を横に振って拒否する。
 スライムの一体はリズへ、もう一体は紫音に向かってゆっくりと動き始めた。

「お姉さん、スライムは魔法を唱えだすと魔法に反応して一斉に魔法使いに向かうッス。だからミリアちゃんは、魔法を使いたがらないッス!」

 紫音はミリアに近づくと、膝をついてミリアの両手を優しく包みミリアの眼をまっすぐに見つめると、フェミニース式説得法で説得することにする。

「ミリアちゃん、私とリズちゃんを信じて。私達が必ずミリアちゃんを守るから。だから勇気を出して魔法を使って欲しいの。でないと、このままでは、私はともかくリズちゃんまで魔物に傷付けられてしまう。このまま何もしないでお友達のリズちゃんが怪我をして、ミリアちゃんは、その後今まで通りリズちゃんと笑顔でお話できるの?」

 ミリアは紫音の説得を聞いて、ハッとして大事な親友であるリズの方を見ると、その彼女は矢を矢筒から取り出して、スライムの方に向けてブンブンと降りながら近づかないようにしているが、あまり効果はなさそうであった。

「お姉さん…… リズちゃん…… わたし…… がんばります…!」

 ミリアの声はまだ小さかったが、そう決意して立ち上がる。
 その瞳にはまだ涙が残っていたが、決意に満ちていた。


 次回、激闘スライム戦! スライムの酸性攻撃にポロリもあるかも……


「いやー、このメンバーでポロリできるほどの持ち主はいないッスよ。何がとは言わないッスが…」

 リズがジト目で冷静に突っ込んだ!
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