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第2章 新米冒険者、異世界で奮闘する。

44話  オーク軍襲来

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(よし、私もこの戦いが終わったら、ミリアちゃん達にお菓子を作って餌付け―食べさせてあげよう!)

 白馬の王子様が、いつか自分の前に現れるかも知れないと思って、紫音は剣術修行の間に料理の練習をしており、彼女はそんな夢見る女の子だった。

 紫音がそんなことを考えていると、ユーウェインの戦いの前の激励が始まった。

「この場にいる、勇敢なる兵士及び有志の冒険者諸君! 共に命をかけて戦うことに感謝する。この戦いにはこの国の……いや、人類の未来が懸かっている! オークとの戦いは命をかけた死闘になるだろう。だが、敢えて言うおう”死ぬな”と!」

 ユーウェインの激励に、広場は緊迫した静けさに包まれる。

「君達と生きて勝利の喜びを分かち合うことを期待している、以上!」
 ユーウェインの激励が終わると、そこに居た者たちは、これから行われる死闘に挑むために自らを奮い立たせる雄叫びを上げる!

「オーーーーーーーー!」

 その雄叫びは広場中に響き、空気が激しく震えるぐらいの激しさだと紫音は感じた。

「熱気に当てられすぎないでね。戦闘は常に冷静さを保たなければならないわ」
「はい」

 紫音が雄叫びの熱気に飲み込まれかけているのを見て、クリスが彼女の肩を叩きアドバイスする。

「敵の襲来に備えて、各自持ち場に着け! 総員解散!」

 ユーウェインの激励が終わり戦闘準備の号令が出たことで、兵士や冒険者たちはそれぞれの持場に散らばっていく。

 戦闘準備の支持を出した後、ユーウェインは近くに整列していた四騎将に近づき声をかける。

「頼りにしているぞ、四騎将!」
「はっ!」

 ユーウェインの激励の言葉に、四騎将が声を合わせて、気合の入った返答をした。
 四騎将は王国騎士団の中から、ユーウェインによって選ばれた優秀な四人の騎士であり、全員【女神武器】を与えられた優秀な者たちだ。

 要塞防御側が、配置についてオーク達を待ち構えていると、遠くに魔物たちの影が砂煙を上げながら迫ってくる。

「オーク軍、襲来!」

 その報告の声に、要塞内の空気が一気に張り詰め緊張が走った。

「来たか! 各員、戦闘体勢!」

 ユーウェインが要塞の前で、近接戦闘部隊と戦闘態勢を取る。

 オーク達の先頭が500メートル先まで到達し、その場で隊列を整え始めた。
 屈強なオークの戦士達が、隊列を組んで人類側と対峙する。
 その後方ではオークの後方部隊が、攻城兵器である投石機を組み立て始めた。

 オーク軍団を率いるオーク四猛将の1人デュロックは、戦いの前に軍団を鼓舞する。

「ワレラ、オークノチカラヲ、ニンゲンドモニミセテヤレ! ミナゴロシニシロ!」
「ウォオオオオオ!」

 オーク達が一斉に雄叫びを上げ、武器を鳴らし戦意を高揚させる!

 要塞の10メートル前方にはワッフルのような堀、俗にいう障子堀が二重に掘ってあり、1つの堀は幅10メートル、深さ8メートル程で、要塞の前に六つ掘られており、合計の長さは要塞城壁の長さと同じである。

 堀の仕切りが通り道となっており、そこを侵攻してきた所を城壁の上から弓や魔法、バリスタで攻撃し、その遠距離攻撃を抜けてきた所を、通り道の出口を半包囲して待ち構えていた近接戦闘部隊で叩くのが基本戦法となっていた。

 要塞に立て籠もらず、打って出ているのは機を見て攻城兵器を破壊しに行かなければならないためである。

 要塞にも投石機はあるが、命中率が悪いため確実性にかけ、何よりこの世界ではスキルの高い人間のほうが兵器よりも、攻撃力があることが一番の理由であった。

「投石機、攻撃開始!」

 要塞の兵器指揮官が攻撃命令を降す。

 命令とともに城壁に設置された投石機が、一斉にオークに対し投石を開始する。
 だが、屈強な高レベルのオーク達の回避力の前では命中率は悪く最初の攻撃では一体しか倒す事ができなかった。

 デュロックは投石攻撃二射目の前に軍団を散開させ、さらに回避しやすくする。
 だが、当たらないとは言え鬱陶しい攻撃には変わらない。

 そのためデュロックは攻城兵器組み立てを待たずに、副官カゴシマに前衛部隊の突撃を命じる。

 彼が突撃を指示したのは、人間側の前衛部隊が堀の向こうとはいえ、要塞から出ており突撃すれば一気に蹴散らせると思っていたからだ。

 オーク前衛部隊は鬨の声を上げながら、突撃してくる。

「バリスタ、攻撃開始!」

 兵器指揮官が有効射程にオーク前衛部隊が入ったのを確認すると、防衛兵器に攻撃指示を出す。

 バリスタから、強力な矢が放たれオークを貫く。
 それを切り払い、頑丈な盾で防ぐ高レベルなオークもいる。

 堀の仕切りの部分は狭く、オークの体では一体しか通れないようになっており、そこを通ってくるオーク達を、城壁の上で待ち構えていた弓兵と魔法使いが攻撃を叩き込む。

 仕切りは五つありそこに遠距離部隊は攻撃を集中させる。
 四騎将の一人、リディアが弓部隊に攻撃を命じる。

「弓部隊、攻撃始め!」

 弓兵達が一斉にオークに狙いを定め、矢を雨のように放つ!

【女神武器】ガーンサルンヴァにミスリルの矢を番え、弓を引き絞り矢が耐えきれるギリギリのオーラを宿らせる。

 そして、狙いを定めると矢を放つ!

「ハイオーラアロー!」

 オーラを宿した矢はオークの頭を貫いて、魔石に姿を変化させる。

「さすがは四騎将、ミスリルの矢を惜しげもなく使うなんて大したブルジョワぶりッスね!」

 リズは姉がオークを倒したことより、そこに喰い付く。

「リズ! 無駄口叩いてないで、アナタも早く撃ちなさい!」

 リズは着弾予測眼を使うため、飴玉を口に放り込むと

「では、私も武器庫から頂いたこの恐らく自費では当分使わないであろう、ミスリルの矢を使うッス!」

 リズは同じく武器庫から頂戴してきた、高価な強力魔法スクロールに魔力を込める。
 強力魔法スクロールは少し大きいため、いつものように矢に刺すと空気抵抗が大きくなり邪魔になるため矢柄に巻きつける。

 リズの金色の瞳が、オークの頭に着弾予測マークを表示する。

「狙い撃つッス!」

 グシスナルタから放たれた矢は、着弾と同時に中級爆発魔法の効果を発動させオークの頭半分を吹き飛ばすが、オークはそのまま走っていく。

「おお、さすが高レベルオーク! あのダメージでも戦闘続行ッスか!?」

 だが、その後待ち構えていたユーウェインの魔法剣ファイアで一撃の元に斃す。

「やるな、リズ君。彼女のお陰で、一撃で斃すことができた」

 ユーウェインは盾を構えながら、次の魔法剣をグランリディルに掛ける。

「諸君! 我々大人も、あの少女に負けない戦いをしようではないか!」

 そして、彼は指揮官として、周りの兵士を鼓舞した。

「オーーーー!」

 ユーウェインの鼓舞を聞いた周りの兵士達は、声をあげ士気を上げる。

「向こうは、盛り上がってるな!」

 その隣の仕切りを受け持っていたスギハラが、その様子を見つつオークを斬り捨てながら言葉を口にする。

「団長も何か言って、士気を上げてくださいよ!」

 クランの団員が団長に鼓舞を求めると、スギハラは彼らしい激励をおこなう。

「よーし、お前ら立てるのは功績だけでいいからな! 別のモノは勃たてなくていいからな!」

「俺もユーウェインさんの下で戦いたかったな」
「ちゃんと鼓舞してくださいよ」

「団長……」

 だが、クランメンバーが上げたのは、士気では無く不評の声であった。

「何だ! オマエらが何か言えって、言ったんだろうが!」

 その団員の反応に、スギハラも反論の声をあげる。
 それをさらに隣の仕切りを担当している、クリスが呆れて見ていた。

 クリスと同じところを担当している紫音が、遠距離攻撃を潜り抜けてきたオークにオーラブレードで強化した刀で応戦する。

 オークの縦の斬撃に対し刀を斜めにし、刃で相手の剣を滑らせるように受け流す。
 するとオークは勢い余って前のめりの体勢になり、前へ無防備のまま進み紫音に背中を見せる形になる。

「やあっ!」

 紫音は相手が振り向く前に素早く、背中に力強く逆袈裟斬りを打ち込む。
 オーラブレードで強化された斬撃は、鎧ごとオークの体を切り裂き魔石にすることができた。

「遠距離攻撃でそれなりにダメージを受けているから、一撃でなんとか倒せるみたい」

 城壁の上から、四騎将のエドガー・グレンヴィルが堀の向こうにいるオークに対し最高位魔法を放っていた。

 彼は現在ミレーヌに次ぐ魔法使いで、最高位魔法も放つことができる。
 エドガーの見た目はメガネを掛け気難しいエリートのように見えるが、温厚な性格で魔法使いとしての冷静さも持つ。

 エドガーが【女神武器】ケーリュケウスの杖に魔力を込める。

「インフェルノ!」

 彼がそう詠唱すると堀の向こうで仕切りの前に集まっていたオーク達の足元に、魔法陣が現れ巨大な火柱が上がり、強烈な炎がオーク達を焼き払いながら天に向かって伸びていく。

 インフェルノを受け空まで舞い上がった数体のオークは燃え尽きたが、数体のオークは何とか着地して持ち直している。

「今回も楽にとは、いかないようですね……」

 その様子を見て今日三回目の最高位魔法を放ったエドガーが、高級魔法回復薬を飲みながらこう呟く。

 この言葉がこの戦いに出陣してきたオークが、どれほど精強でありこの戦いがどれほど過酷になるかを示していた。


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