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第3章 北ロマリア戦役

パドゥアの戦い 08

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 戦闘開始から約1時間―

 ロマリア侵攻艦隊主力部隊は1000隻まで、撃ち減らされていた。

 フラン艦隊の分艦隊1500隻が、天頂方向に陣取っていたロイク艦隊の位置まで移動してくるとスライドする形で、ロイク艦隊は主力部隊の左斜めに配置されている老朽艦艦隊に圧力を掛けるために移動を開始する。

 それに呼応する形で、それまで待機していた味方の拿捕艦艦隊も圧力を掛けるために前進を開始する。

 主力部隊が壊滅寸前の状態になった事で、動揺している所にガリアルム艦隊の圧力を受けた老朽艦艦隊の中から、その圧力に耐えきれなり投降信号を発する艦が現れる。

 その理由は、主力部隊が壊滅すれば次は自分達であることは明白で、その主力部隊が殲滅された後に投降しても戦力に余力の出来たガリアルムとしては、もう投降を受け入れる必要はなく自分達も撃破するとなるかもしれず、今のうちに投降することを決断したのであった。

 一隻投降艦が現れた事により、堰を切ったように投降信号を発する老朽艦が現れ、10分後に正式に老朽艦艦隊司令官より投降する旨を伝える通信が送られてくる。

「まあ、誰も好き好んで死にたがる者はいないということだな…」
 ロイクは投降艦の処理を行いながらそう呟いた。

「閣下、後方の老朽艦艦隊は全て敵に投降し、我が主力部隊は孤立しました。我が艦隊はどうなさいますか…?」

 後方の老朽艦艦隊が投降した為に、孤立した主力艦隊は殲滅を待つのみとなり、そのため
 参謀長のマイアー中将は司令官に選択を促す。

「現在の主力部隊の残り艦隊数は…?」
「残りは958隻です…」

 苦々しい顔で残り艦艇数を参謀に尋ねたアルデリアン大将は、それを聞くと苦々しい表情のまま次のような決断を下す。

「そうか…。なら、500隻になるまで攻撃を続けて、後のためにできるだけ敵に被害を与える!」

「閣下! これ以上犠牲者を出すのは…」
 参謀の反論に、司令官はこう言い返す。

「我々は軍人だ、このまま投降する事はできん。ここで、できるだけ敵に被害を与えれば、後の戦いで必ず我軍の有利になる!」

「そうかもしれませんが…」

 司令官の言うことも一理ある、ここで損害を与えればガリアルムはその分資金と時間と新たな人員を余計に要して補充を行わなければならない。

 犠牲になる者の事を無視すればだが…

 軍隊である以上、司令官の命令は絶対であり、ロマリア侵攻艦隊主力部隊は包囲を受けながら、ここから更に戦闘を続けることになる。

「敵主力部隊は投降しないようだな…」

 フランは表情を変えずにそう呟いたが、内心では焦っていた。

 何故ならば、包囲しているとはいえ最後の猛攻撃によって、こちらも物資不足になりかけており、素早く殲滅とはいかないからである。

 そうなれば、敵ほどではないがアルデリアン大将の目論見通り、こちらにもそれなりに被害が出てしまうからである。

 フランはある命令を下し、同じ頃ヨハンセンも同じ命令を下す。

「拿捕艦から手に入れた敵旗艦のデータを照合して、敵旗艦の位置を補足せよ。そこに一点集中攻撃を加えて敵旗艦を撃沈する」

 敵の数は少なくそのために旗艦を守る艦艇は少ない、それを見越しての命令であった。

「光学望遠の観測結果から艦の照合を開始… 照合終了、敵旗艦『ズリーニ』発見!」
「よし、そこに火力を一点集中せよ」

 コンピューターによる解析結果で、旗艦の位置を確認したヨハンセンはすぐさま攻撃命令を下す。

 同じ頃、敵旗艦の位置を把握したフランも攻撃命令を出していた。

 上下の艦隊から一斉に放たれたビームは、まるで一本の太い光の柱となって、旗艦の前に配置していた数隻の艦を一瞬で消滅させる。

 そして、今度は丸裸になった旗艦『ズリーニ』にビームの柱が放たれ、その攻撃の前にエネルギーシールドなど意味もなく船体を消滅させる。

 旗艦と戦闘継続を強行した司令官を失った事により、主力部隊の士気は大幅に落ちて投降する艦が現れ始めた。

 そして、数分後に指揮権を受け継いだ准将によって、投降する通信が送られてきた。

「終わったな…」
 フランは洋扇を広げると、戦闘で熱くなっていた頭を冷やすために仰ぎ始める。

 こうして、北ロマリア戦役最後の戦い『パドゥアの戦い』は集結した。

 ロマリア侵攻艦隊は、10000隻の内、拿捕が3126、撃沈5387隻、大破724隻、中破432隻、小破331隻。

 ガリアルム艦隊の被害は、11000隻の内、撃沈13隻、大破32隻、中破265隻、小破1753隻とそれなりの被害を出したが、完勝と言っていい内容であった。

 戦いが終わった1時間後―

 拿捕艦の処理と負傷兵の救護、損傷した艦艇の修理を行っている所に、【ロマリア王国】の追撃艦隊が戦場に現れる。

「ようやくおでましか…。随分と遅い到着だな」
「殿下、くれぐれも通信で、その態度を表に出さないでください」

「わかっている」

 クレールの忠告に、フランは子供じゃないんだぞバカにするなというような顔で答えた後に、すぐに冷静な表情をつくり通信を受ける。

 通信モニターに映し出された壮年の司令官は、フランに敬礼すると自己紹介を始める。

「フランソワーズ・ガリアルム殿下、お初にお目にかかります。ロマリア艦隊総司令官ジュヴァニ・ガルビアーティ大将であります」

「フランソワーズ・ガリアルムだ」

「戦闘に間に合わずに申し訳ありませんでした。我が艦隊も長期間の戦闘で、疲弊しておりまして、行軍に時間がかかりまして― 」

 ガルビアーティ大将はまず遅参の説明を行った後に、フランに今後の話をするために国王に会って欲しいと話を切り出すが、それに対してフランはこのように答えを返す。

「我軍も数ヶ月の遠征によって、疲弊しておりそのような余力はない。かくいう私も遠征で疲れているし、長期において本国を留守にしている。故に一度本国に帰還せねばならん。ロマリア王とは、落ち着いてから改めて話し合う場を設けるとお伝えして貰いたい」

 フランは足を組み、肘をついて頬杖をしながら、少し不遜な態度と威圧を込めた冷徹な瞳でそう答えた。

 彼女がその様な態度で答えたのは、相手は遅参してきたのにフランの方から会いに来いと言ってきた為で、それは年下の彼女のことを下に見ているのが透けて見えたからで、そのため対等であるとわからせるためである。

「わかりました、我が王にはそう伝えます」

 ガルビアーティ大将はフランの冷徹な目と漂わせている雰囲気を見て、瞬時に只者ではないと感じ取り、そう答えた後に宙域に留まってガリアルム艦隊が本国に進発するまで警護する事を申し出る。



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