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隔世遺伝か生き写しか、伝説の彼等。
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朝ご飯を食べた後はしばらく休み、それから二人と二匹は森に向かって学校を出た。
なぜか興奮しているサフィラと、他に知らない先生にも見送られられながら校門を抜ける。そこから三キロメートルほど歩いたら森の入り口だ。
「なぁ、先生はなんであんな興奮してたんだ?」
「あぁ。知らないなら、知らなくていいと思う」
マールはサフィラのあの興奮の意味をなんとなく理解してしまったようで、若干恐怖に似た何かを覚えていた。
だがパデラは一切分からず「?」を浮かべながら、速足で歩くマールを追いかけた。
追いつくのは簡単だった。あまり見たことのない景色を興味深そうに眺めながら、マール隣を歩く。
パデラはずっと気になっていた。マールが魔力を使っている。歩いているだけなのに。
「お前はなんで少し歩くくらいで魔力使うんだ?」
訊くとマールは真顔のまま一言だけ返した。
「訊くな」
「まさか、魔力使わないと歩けない程体力ないのかぁ?」
冗談でそう言うと、マールは足を止めた。
「どした? まさか、ほんとに……」
パデラが言葉を続ける前に、マールは足に魔力を集め、走り出す。
いきなりなぜ走る。ディータは大きな声で主を呼び止める。
『ちょ! 主!』
数メートル先で動きを止め、マールは叫んだ。
「うるせぇ! 魔力使たって動けりゃいいんだよ!」
魔力を使い過ぎ? 使えるもん使ってなにが悪い。戦闘なんて滅多にしないのだから、日常でこの体力のなさを補う分にしたっていいじゃないか。言いたい事は色々あったが、それらを全部ひっくりめた叫びだ。
どおりで本を持つだけでも使っているわけだ。パデラは軽く息を吐き、使い魔二匹を小脇に抱えた。二匹合計で、六十キロはあるだろうが。これで使用している魔力はほんの少しだ。
「いくぞー!」
そして思いっきり走り出す。しかも、魔力を使わずに。
「どう? 凄いだろ」
パデラはマールの所につくと、涼しい顔で笑ってみせる。
何も言えなくなった。マジかお前……と、その時マールが向けていた視線は、驚きとちょっとした畏怖を含んでいた。
そんなマールに、抱えられたままの使い魔二匹が話しかける。
『主。言っちゃ悪いが、体力は付けた方が良いぞ』
『赤ちゃんの頃から魔力あったんだもんねー。素の力が無いのもしょうがねぇな。けど、このくらいは魔力なしで走れんと』
「まぁ、また今度やろうな。魔力なしの練習」
苦笑いでパデラが言うと、返ってきたセリフは非常に即答だった。
「無理」
「無理じゃない」
パデラはふと思い出した。魔法発育期が早ければ早いほど素の力が少ない傾向にあるというのはまさにマールの事だ。どおりで物を取るだけでも魔力を使うわけだ。
魔力は便利だが、それさえあれば何でも出来てしまうモノだからかマールのような人は少なくない。と言っても、こいつほどなのは珍しいが。
パデラはマールの、常時発動しても尚減らない魔力に驚きながらその隣を歩いていた。
「なぁ、森にあるあれなんだっけ。あの、マイナーイアンみたいな」
「マイナスイオンな」
「あ、それそれ」
二人がそんな事話しながら歩いている。使い魔二匹もその一歩後ろで付いて行っている。
ディータは人間の足の速さを羨みながら、スピードを落としてくれないかと声を掛けようとした。
したのだが、隣のピピルの魔力の流れが突然変化したことに気付き、そちらに意識をやった。
『ピピル、どうした』
ディータの声に気付き、二人も足を止めて振り返った。
ピピルは立ち止まったまま道の外れを見詰めている。なにかを受信したように、じっーと。しかし、そこには樹しかない。
『こっち、行こ』
パデラの足を引き、その樹々の生い茂る方に向かおうとする。
「え、そっちなんもねぇぞ」
『いいから』
有無を言わせずピピルはその道を突っ切っていった。流石に放っておくわけにもいかない。その後についていく事にした。
獣道としか言えない樹の間を進む。時間は数えていなかったが、大体五分程行った先。そこには二つの石碑があった。
魔力で護られているそれには見えづらい所に小さく文字が刻まれている。
「『いずれこの封印を解ける者を待つ』……封印か」
文字を読んでマールは少し考える。
この魔力は、間違いない、暗竜様のものだ。しかし、そうなると暗竜様がここになにかを封印したことになる。だが、一体何を封じたというのだ。
考えていると、ピピルが尻尾でパデラの背中を押した。
『パデラ。これに魔力を籠めて触ってみて』
「お、うん」
パデラは言われた通りに、手のひらに魔力を集め、左の石碑にふれる。すると、そこの石碑から光が溢れだし、辺りを包み込んだ。
徐々にそれが晴れていき、石碑の前には一人の男が立っていた。
男は周りの景色を見てそう声をあげ、はしゃいでいる。
「お、おぉ! すっげぇ! なんか分からんけど外出れた!」
「え……」
マールはそんな男を見て短く声をあげた。
「お、誰だと思った? 俺でーす!」
どこかで聞いたことのあるセリフを放ち、楽しそうに笑う男。そいつはパデラに瓜二つだったのだ。パデラ本人も戸惑っている様子。父親よりも自分に似ている奴がいるなんて。
『アサナト!』
そんなのはお構いなしに、ピピルはにぱぁっと笑みを漏らし、そいつに飛びつく。
「お、ピピルじゃん! おひさ~」
再会を喜ぶようにハイタッチをし、ピピルは奇妙な横揺れを見せる。
ピピルが放ったその名は、マールもパデラも聞き覚えがあった。
「え、アサナトって」
尋ねようとすると、アサナトはすぐさま反応した。
「あ、知ってる? その通り。俺はかの有名な最強の唯一の友達で、親友であるアサナト・パデラ様だ!」
誇らしげに胸を張り、すっげぇだろ? と。
色々可笑しい。まず、アサナト・パデラはエテルノと一緒に死んでいるはずだ。そして、そいつがこんなにもパデラと同じ顔というのも変な話。確かに、エレズ家にはパデラ家の血が入っているが……。双子レベルだ。
「ところで訊いていい? お前、俺に似てるけど名前は?」
「俺、パデラ・エレズだぜ」
「お、パデラ? 一緒じゃん! 俺から取ったんだよな?」
「そう言ってたぜ!」
「やっぱり? いぇーい」
二人は両手でタッチをし、すでに息がぴったりだ。
マールが内心物凄く戸惑っているが、アサナトは空気を読まない。
「にしても、そっちのお前を見てると、エテルノと会った時思い出すなぁ~。あいつったら無愛想でよー、同じ部屋になったから脅かしてやろうと箱から飛び出たらな、ため息ついて寝たんだぜ?」
「マジで? けど反応されただけマシだぜ、マールは無反応だったんだぞ!」
「それはきついなぁ~」
そんな事をパデラと話しながら、マールの目の前に来る。
「ほんと、そっくりだな……」
その顔に触れ、哀感を帯びた声で言った。
「そっくりそのまんまお返しする」
「ははっ、切り返しもそっくり」
「なぁ、お前。エテルノの封印解除、お願いしていいか?」
「この封印さ、ほぼ同じ魔力を持つものにしか解けないんだ。無茶言うよな。持つ魔力が同じだなんて、そんなの生まれるわけないのに」
「もう二度と会えないって思ってたけど。奇跡ってあるもんだなぁ」
パデラと同じ顔で悲しそうな顔をしないでほしい。マールは内に沸く感情を見なかったことにして、無言でもう一つの石碑に魔力を籠める。
先程と同じ反応が起こり、封印は解かれた。
石碑の前にいる、マールにそっくりな男。流れからして、この男がかの有名な最強魔法使い、エテルノなのだろう。
「……あぁ、やっとか」
エテルノはだるそうに頭を抱え、今の自分の状況を確認する。
森の中、そこにいるのは自分と親友と、それに異様なほどそっくりな子ども。そして、二匹の使い魔だ。そのうち一匹は見た事がある。
「わぁ……そっくりだぁ」
バカみたいな感想を放つアサナト。エテルノはその顔を見て、少しだけ綻んだが、直ぐに無表情に戻った。
「その言葉そのまま返させてもらう」
前と変わらずバカらしいアサナトは一旦おいて、今話すべきはこの子どもだ。
「僕の子孫だろ。こんな森になぜ子どもだけでいるかはさておき、ありがとうな。お前、名前は?」
「マール・ルキラ」
なんだか、大人になった自分に会っているみたいで不思議だ。マールは変な気持ちになりそうだから、視線を逸らして一言だけで答えた。
「ルキラか……。なるほどな」
「隔世遺伝か。いや、それにしては似すぎだな」
顎に手をあてて考える。その言葉を聞いて、パデラが首を傾げた。
隔世遺伝の意味を知らないみたいだ。子どもだから仕方ないかと思い、教えてろうと。
「かくせーいでん?」
「あぁ、知らないか? 個体のもつ遺伝形質ってのがな」
説明をし始めると、今度はアサナトがエテルノの肩を叩いた。
「なぁ、エテルノ。いでんけーしつって何だ?」
どうやら、こちらも分かっていない。
「……頭脳も遺伝するみたいだな」
ため息を突き、このバカにはどう言ったら伝わるか考える。
「まあ、つまりは似ているという事だ」
「なるほどな」
それで理解できたようだ。
このバカはさて置き、問題はこの子どもがなぜ森の中に、しかもこんな外れに来ているのかだ。みた所、ここまではピピルが連れてきたのだろうが。
この先には暗竜様の城くらいしかない。そう考えたら、この子達がしようとしている事は粗方わかる。
『なぁアサナト、エテルノ、どうせなら一緒に行こうよ!』
無邪気にピピルが誘ってきた。
こいつも、昔から変わらないな。そんな事思いつつ、一応尋ねておこうとピピルに視線をあわせる。
「どこに行くんだ?」
『暗竜様のところ!』
予想通りの返答だった。
暗竜様の所に行って、何をするかは訊くまでもないだろう。
「そうか」
「やる事は一緒だな。流石僕の子孫」
マールに向かってそう言う。
マールは分かるのかと呟き、それから頷いて答えた。
自然現象で魔力がここまで似ることはほとんどない。そう考えると、マジカルなものに違いないのだろうが。となると、おそらく興味を抱くことも同じだろう。そして、そこから先どう行動するかも。
「マール。僕は大人として、そして同じ事をしようとした魔法使いとして言う。止めておけ」
「好奇心に狩られて行動すると良くない事が起こる。僕も昔にな、長として選ばれ、暗竜様の所に行った時に同じ事をした。その結果がこれだ。お前等が知りたいことは僕が教えるから、暗竜様にその事を尋ねるのはやめろ」
エテルノはここから先に行かせまいと必死だった。しかし、マールの答えは既に決まっている。
「やだ」
エテルノの事をまっすぐ見詰め、断言した。
やると決めたのだ、やらなきゃ気が済まない。それに、暗竜様から聴かないと好奇心が収まらないだろう。これは意地だ。それで死にそうになったら、その時はその時でどうにかする。
「だよな。僕がお前だったとしてもそう言う」
「覚悟はあると見た。だが、子どもだけで先に行くのは見逃せない」
大人として発するエテルノの言葉を聞いて、ピピルが体を持ち上げ反応した。
『じゃあエテルノ達も来るの?』
きらきらと期待した目で見詰める。
「あぁ、そうする。いいよな、アサナト」
「おう! いくいく~」
という事だ。エテルノとアサナトも一緒にきてくれると知って、ピピルは跳ねるように喜ぶ。
「じゃあ、付いてこい。面白い物見せてやる」
愉快そうに口角をあげると、エテルノは魔力を地面に打ち込んで、樹々の間に道を描いた。
おそらくここをたどれば、その面白い物とやらにたどり着くのだろう。
『面白い物というと?』
「言ったろ? 教えてやるって」
ディータが尋ねて帰ってきた答えは、答えになっていない気がした。
首をかしげるディータはさておき、エテルノは描かれた道の上を進む。急いでそれに付いていった。
なぜか興奮しているサフィラと、他に知らない先生にも見送られられながら校門を抜ける。そこから三キロメートルほど歩いたら森の入り口だ。
「なぁ、先生はなんであんな興奮してたんだ?」
「あぁ。知らないなら、知らなくていいと思う」
マールはサフィラのあの興奮の意味をなんとなく理解してしまったようで、若干恐怖に似た何かを覚えていた。
だがパデラは一切分からず「?」を浮かべながら、速足で歩くマールを追いかけた。
追いつくのは簡単だった。あまり見たことのない景色を興味深そうに眺めながら、マール隣を歩く。
パデラはずっと気になっていた。マールが魔力を使っている。歩いているだけなのに。
「お前はなんで少し歩くくらいで魔力使うんだ?」
訊くとマールは真顔のまま一言だけ返した。
「訊くな」
「まさか、魔力使わないと歩けない程体力ないのかぁ?」
冗談でそう言うと、マールは足を止めた。
「どした? まさか、ほんとに……」
パデラが言葉を続ける前に、マールは足に魔力を集め、走り出す。
いきなりなぜ走る。ディータは大きな声で主を呼び止める。
『ちょ! 主!』
数メートル先で動きを止め、マールは叫んだ。
「うるせぇ! 魔力使たって動けりゃいいんだよ!」
魔力を使い過ぎ? 使えるもん使ってなにが悪い。戦闘なんて滅多にしないのだから、日常でこの体力のなさを補う分にしたっていいじゃないか。言いたい事は色々あったが、それらを全部ひっくりめた叫びだ。
どおりで本を持つだけでも使っているわけだ。パデラは軽く息を吐き、使い魔二匹を小脇に抱えた。二匹合計で、六十キロはあるだろうが。これで使用している魔力はほんの少しだ。
「いくぞー!」
そして思いっきり走り出す。しかも、魔力を使わずに。
「どう? 凄いだろ」
パデラはマールの所につくと、涼しい顔で笑ってみせる。
何も言えなくなった。マジかお前……と、その時マールが向けていた視線は、驚きとちょっとした畏怖を含んでいた。
そんなマールに、抱えられたままの使い魔二匹が話しかける。
『主。言っちゃ悪いが、体力は付けた方が良いぞ』
『赤ちゃんの頃から魔力あったんだもんねー。素の力が無いのもしょうがねぇな。けど、このくらいは魔力なしで走れんと』
「まぁ、また今度やろうな。魔力なしの練習」
苦笑いでパデラが言うと、返ってきたセリフは非常に即答だった。
「無理」
「無理じゃない」
パデラはふと思い出した。魔法発育期が早ければ早いほど素の力が少ない傾向にあるというのはまさにマールの事だ。どおりで物を取るだけでも魔力を使うわけだ。
魔力は便利だが、それさえあれば何でも出来てしまうモノだからかマールのような人は少なくない。と言っても、こいつほどなのは珍しいが。
パデラはマールの、常時発動しても尚減らない魔力に驚きながらその隣を歩いていた。
「なぁ、森にあるあれなんだっけ。あの、マイナーイアンみたいな」
「マイナスイオンな」
「あ、それそれ」
二人がそんな事話しながら歩いている。使い魔二匹もその一歩後ろで付いて行っている。
ディータは人間の足の速さを羨みながら、スピードを落としてくれないかと声を掛けようとした。
したのだが、隣のピピルの魔力の流れが突然変化したことに気付き、そちらに意識をやった。
『ピピル、どうした』
ディータの声に気付き、二人も足を止めて振り返った。
ピピルは立ち止まったまま道の外れを見詰めている。なにかを受信したように、じっーと。しかし、そこには樹しかない。
『こっち、行こ』
パデラの足を引き、その樹々の生い茂る方に向かおうとする。
「え、そっちなんもねぇぞ」
『いいから』
有無を言わせずピピルはその道を突っ切っていった。流石に放っておくわけにもいかない。その後についていく事にした。
獣道としか言えない樹の間を進む。時間は数えていなかったが、大体五分程行った先。そこには二つの石碑があった。
魔力で護られているそれには見えづらい所に小さく文字が刻まれている。
「『いずれこの封印を解ける者を待つ』……封印か」
文字を読んでマールは少し考える。
この魔力は、間違いない、暗竜様のものだ。しかし、そうなると暗竜様がここになにかを封印したことになる。だが、一体何を封じたというのだ。
考えていると、ピピルが尻尾でパデラの背中を押した。
『パデラ。これに魔力を籠めて触ってみて』
「お、うん」
パデラは言われた通りに、手のひらに魔力を集め、左の石碑にふれる。すると、そこの石碑から光が溢れだし、辺りを包み込んだ。
徐々にそれが晴れていき、石碑の前には一人の男が立っていた。
男は周りの景色を見てそう声をあげ、はしゃいでいる。
「お、おぉ! すっげぇ! なんか分からんけど外出れた!」
「え……」
マールはそんな男を見て短く声をあげた。
「お、誰だと思った? 俺でーす!」
どこかで聞いたことのあるセリフを放ち、楽しそうに笑う男。そいつはパデラに瓜二つだったのだ。パデラ本人も戸惑っている様子。父親よりも自分に似ている奴がいるなんて。
『アサナト!』
そんなのはお構いなしに、ピピルはにぱぁっと笑みを漏らし、そいつに飛びつく。
「お、ピピルじゃん! おひさ~」
再会を喜ぶようにハイタッチをし、ピピルは奇妙な横揺れを見せる。
ピピルが放ったその名は、マールもパデラも聞き覚えがあった。
「え、アサナトって」
尋ねようとすると、アサナトはすぐさま反応した。
「あ、知ってる? その通り。俺はかの有名な最強の唯一の友達で、親友であるアサナト・パデラ様だ!」
誇らしげに胸を張り、すっげぇだろ? と。
色々可笑しい。まず、アサナト・パデラはエテルノと一緒に死んでいるはずだ。そして、そいつがこんなにもパデラと同じ顔というのも変な話。確かに、エレズ家にはパデラ家の血が入っているが……。双子レベルだ。
「ところで訊いていい? お前、俺に似てるけど名前は?」
「俺、パデラ・エレズだぜ」
「お、パデラ? 一緒じゃん! 俺から取ったんだよな?」
「そう言ってたぜ!」
「やっぱり? いぇーい」
二人は両手でタッチをし、すでに息がぴったりだ。
マールが内心物凄く戸惑っているが、アサナトは空気を読まない。
「にしても、そっちのお前を見てると、エテルノと会った時思い出すなぁ~。あいつったら無愛想でよー、同じ部屋になったから脅かしてやろうと箱から飛び出たらな、ため息ついて寝たんだぜ?」
「マジで? けど反応されただけマシだぜ、マールは無反応だったんだぞ!」
「それはきついなぁ~」
そんな事をパデラと話しながら、マールの目の前に来る。
「ほんと、そっくりだな……」
その顔に触れ、哀感を帯びた声で言った。
「そっくりそのまんまお返しする」
「ははっ、切り返しもそっくり」
「なぁ、お前。エテルノの封印解除、お願いしていいか?」
「この封印さ、ほぼ同じ魔力を持つものにしか解けないんだ。無茶言うよな。持つ魔力が同じだなんて、そんなの生まれるわけないのに」
「もう二度と会えないって思ってたけど。奇跡ってあるもんだなぁ」
パデラと同じ顔で悲しそうな顔をしないでほしい。マールは内に沸く感情を見なかったことにして、無言でもう一つの石碑に魔力を籠める。
先程と同じ反応が起こり、封印は解かれた。
石碑の前にいる、マールにそっくりな男。流れからして、この男がかの有名な最強魔法使い、エテルノなのだろう。
「……あぁ、やっとか」
エテルノはだるそうに頭を抱え、今の自分の状況を確認する。
森の中、そこにいるのは自分と親友と、それに異様なほどそっくりな子ども。そして、二匹の使い魔だ。そのうち一匹は見た事がある。
「わぁ……そっくりだぁ」
バカみたいな感想を放つアサナト。エテルノはその顔を見て、少しだけ綻んだが、直ぐに無表情に戻った。
「その言葉そのまま返させてもらう」
前と変わらずバカらしいアサナトは一旦おいて、今話すべきはこの子どもだ。
「僕の子孫だろ。こんな森になぜ子どもだけでいるかはさておき、ありがとうな。お前、名前は?」
「マール・ルキラ」
なんだか、大人になった自分に会っているみたいで不思議だ。マールは変な気持ちになりそうだから、視線を逸らして一言だけで答えた。
「ルキラか……。なるほどな」
「隔世遺伝か。いや、それにしては似すぎだな」
顎に手をあてて考える。その言葉を聞いて、パデラが首を傾げた。
隔世遺伝の意味を知らないみたいだ。子どもだから仕方ないかと思い、教えてろうと。
「かくせーいでん?」
「あぁ、知らないか? 個体のもつ遺伝形質ってのがな」
説明をし始めると、今度はアサナトがエテルノの肩を叩いた。
「なぁ、エテルノ。いでんけーしつって何だ?」
どうやら、こちらも分かっていない。
「……頭脳も遺伝するみたいだな」
ため息を突き、このバカにはどう言ったら伝わるか考える。
「まあ、つまりは似ているという事だ」
「なるほどな」
それで理解できたようだ。
このバカはさて置き、問題はこの子どもがなぜ森の中に、しかもこんな外れに来ているのかだ。みた所、ここまではピピルが連れてきたのだろうが。
この先には暗竜様の城くらいしかない。そう考えたら、この子達がしようとしている事は粗方わかる。
『なぁアサナト、エテルノ、どうせなら一緒に行こうよ!』
無邪気にピピルが誘ってきた。
こいつも、昔から変わらないな。そんな事思いつつ、一応尋ねておこうとピピルに視線をあわせる。
「どこに行くんだ?」
『暗竜様のところ!』
予想通りの返答だった。
暗竜様の所に行って、何をするかは訊くまでもないだろう。
「そうか」
「やる事は一緒だな。流石僕の子孫」
マールに向かってそう言う。
マールは分かるのかと呟き、それから頷いて答えた。
自然現象で魔力がここまで似ることはほとんどない。そう考えると、マジカルなものに違いないのだろうが。となると、おそらく興味を抱くことも同じだろう。そして、そこから先どう行動するかも。
「マール。僕は大人として、そして同じ事をしようとした魔法使いとして言う。止めておけ」
「好奇心に狩られて行動すると良くない事が起こる。僕も昔にな、長として選ばれ、暗竜様の所に行った時に同じ事をした。その結果がこれだ。お前等が知りたいことは僕が教えるから、暗竜様にその事を尋ねるのはやめろ」
エテルノはここから先に行かせまいと必死だった。しかし、マールの答えは既に決まっている。
「やだ」
エテルノの事をまっすぐ見詰め、断言した。
やると決めたのだ、やらなきゃ気が済まない。それに、暗竜様から聴かないと好奇心が収まらないだろう。これは意地だ。それで死にそうになったら、その時はその時でどうにかする。
「だよな。僕がお前だったとしてもそう言う」
「覚悟はあると見た。だが、子どもだけで先に行くのは見逃せない」
大人として発するエテルノの言葉を聞いて、ピピルが体を持ち上げ反応した。
『じゃあエテルノ達も来るの?』
きらきらと期待した目で見詰める。
「あぁ、そうする。いいよな、アサナト」
「おう! いくいく~」
という事だ。エテルノとアサナトも一緒にきてくれると知って、ピピルは跳ねるように喜ぶ。
「じゃあ、付いてこい。面白い物見せてやる」
愉快そうに口角をあげると、エテルノは魔力を地面に打ち込んで、樹々の間に道を描いた。
おそらくここをたどれば、その面白い物とやらにたどり着くのだろう。
『面白い物というと?』
「言ったろ? 教えてやるって」
ディータが尋ねて帰ってきた答えは、答えになっていない気がした。
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