半監禁結婚

にくだんご

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真っ直ぐな人間ほど扱いやすい。その上、何かを託したくなってしまう。

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「彼は、いい男だよ。」
「え?」
「大丈夫。君の家族は、愛情だけは一丁前だ。」
彼は何かを確信した目をしていた。


緊張で寝れなかったせいか、彼の肩で私は寝てしまっていた。そして目が覚めると、ふかふかの大きなベッドだった。彼は隣に座り、細い眼鏡をかけ、本を読んでいた。
「眼鏡、、、。」
「お、起きたかい?」
「ごめんなさい私、寝てしまって。」
「可愛い寝顔だったよ。」
そう言って細く、綺麗な手で頭を包まれる。まだデートも、キスもした事も無い彼の手は私の体に既に馴染んでいた。
時計を見る。17時を回っていた。
「お腹、空いた?」

ご飯は一緒に用意した。カップルみたい、そう思った。食べる時は黙っているタイプのようだ、一言も話さなかった。食器を片付けながら、彼が話を始める。
「明日婚姻届出そう。大学は通信の同じ学部もあるみたいだね。通ってもいいけど、通信に移動もありなんじゃ無いかな。教員になる人が多い学部なんだね。華は、卒業したら就活なんてしなくていいからね。」
「え、、?」
「家で好きな事しなよ。先生だって、お母さんが喜ぶからって目指したんじゃないの?」
そうなのだろうか。結婚が決まって、解放感を得ると同時に、自分の事がわからない不安があった。
「専業主婦になれって言ってるわけじゃなくてさ、家事だって代行に頼んでいいから。自分の好きな事をする時間を作ったほうがいいよ。」
「もう少し、考えます。私、自分のしたい事がわからなくて。」
彼の顔を窺ってしまう。相変わらず無表情だ。
「そうか。欲しい物があったら、なんでも言ってね?」
「ありがとう、ございます。あ、でも私家事したいです。」
「え?」
「こんなにいろいろしていただいて、何か返したくて。せめて本庄さんが帰ってくるのが楽しみになれるように家で待ってたいんです。料理とか、あんまりやって来なかったんですけど、努力します。」
洗った食器を並べる手が止まった。彼は真っ直ぐこっちを見ると、私の頬に手を当てた。キス、、、されちゃうのかな。そう思ったが、彼は頭を撫でて優しい表情で言った
「ありがとう。華がいるだけで早く帰りたいって思うけどね。でも嬉しい。」
「えへへ。」
「あと、本庄じゃなくて児江ね。華は、本庄華なんだから。」
「こ、、児江さん、、。」
顔が赤くなってしまう。
「華、、可愛い。」
そう言って抱き寄せられる。
「ちょっと仕事があるから、華は先お風呂入って寝ててね。」
「あ、、わかりました、、、。」
私が返事をすると彼はおでこにキスをして書斎のような部屋に入ってしまった。
広い家で1人になったような、寂しい気持ちになる。ここで暮らしていく。大学には1年半行っていないので、通信にしてもいいかも知れない。ブブッとスマホが振動する。ラインが来た。
「月一ご飯の時期が来ましたが、宣言が明けないので電話しましょう。」
高校からの友達の椿だ。突然起きた事を言ったら、きっと驚くだろうな。でも、しばらく会う事ができなさそうだ。文面で事情を伝えるのも申し訳ないと思った。話したい事があると送り、庭が見えるベランダに出て、電話をかける。
「もしもし?」
能天気な声、椿には自分を曝け出せる。ふざけあったり、家族事情について言いづらいことも、なんでも真剣に、場合によって笑って聞いてくれる。
「椿。あの、実は。」
「えー何ー!彼氏でもできたの?」
「あー近いっ。近いなあ。」
「えーセフレ?ちょっとあんたハメ外しすぎなんじゃないの。」
「ちがうわい~!」
この感じ、久しぶりだ。話し方も気にせず、面白おかしく話せる。椿は私のこの緩い話し方が好きだと言ってくれる。
「彼氏に近いでセフレ以外ないでしょ。」
「驚くと思うんだけど、、。」
「ぷはっ!めっちゃ溜めるじゃん!」
「結婚、するの。」
「、、、。」
沈黙。
「ふふっ。」
「へあっ?」
同時に声が漏れてしまう。
「あはっ!何それ!?」
「話すと長くなるんだけどね、、」
そう言って石段で出会ったところから順に話した。椿はツッコミを入れながら聞いていた。
「待ってやばいそれ、、。お茶かけられて無表情でいれる人いるん?」
「え、そこ?」
笑いが止まらなかった。自分が深刻に考えていたことも、椿に話すと笑い話になってしまう。だからいつも気持ちが救われるのだ。
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