宝者来価の恋愛短編集

宝者来価

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電車に乗って

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いつも乗っている電車で、不思議と目が合う彼女

だが声をかける勇気がいつも無くて会釈だけ

少し恥ずかしい一目惚れの恋



「引越しする事になったの」



彼女は電話相手に確かにそう告げた

声をかけておけば良かったと後悔しても遅い

窓から見える景色が春の桜からトンネルの暗闇へ



「あっ……」



通信が切れてしまったのだろう

彼女は小さく声をあげた後に携帯電話をカバンへと仕舞う

小柄な彼女によく似合う素敵なものだ。



再び彼女と目があった、次の瞬間には彼女の瞳から涙が溢れているのだ

声を出そうとしたが空気すらうまく吸えない



「さよなら」



声を出せなくても、どうにか伝えたい

毎日この電車に乗っていた貴女が好きでした

新しい街での生活をどうか楽しんで下さい



いつも私と彼女が降りていた駅で、外に向かって手を振り続けた。










「さっきはごめんね、トンネルだったから切れちゃって」

『気にしないでいいよ、引越しで大変でしょう?』

「最後にさ、あの人が手を振っていたような気がしたの」







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