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18話 メモリクラッシュ

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※クロノ・スタシス視点

 ヒミツを暴かれたのに、カナちゃんは不幸にならなかった。
 逃げ出した【んぎ、g、ぷぅグ】のデータがどうしてこんな行動をしたのか分からない。
 システムをハックしてきた時は殺されるのかと思ったがそんなことはなく。

 帰ってきたら椅子がしまわれていたり、振動させて客のもちものをこぼしたり。
 でも、そのたびに彼がまだ宇宙船の中に留まっているとどこかほっとした。
 声を出してはこないけれどイタズラだけしてくる。

「お化けかぁ」
「もっと現実的なものだよ、データ」

 彼の説明をして用意していた地球人用のホテル部屋へ案内した。
 そこで秋田カナから感じる異様な雰囲気。
 別にトランス(性転換)すること自体は珍しくないが、どうにもこれは違うような。

 せっかく出てきてくれたんだ、時間はなければ作ればいい。
 時をとめて二人きりの世界にした。
 この力もまた、俺ちゃんを軍が手放せなかった理由。

「これは――さっきの?」
「いいや俺ちゃんの力、もっとお喋りしよ?」
「俺のことが聞きたいっていうんだろ」
「まぁね」
「……んー漢字でかくとこう進勇気」

 鞄からノートを出して書いていた。
 電子パッドぐらい持っているだろうが、彼なりの何か拘りだろうか。
 そういえば授業でも何故か紙を広げてメモっていた。

「へぇ」
「聞かれたことにはできるだけ答える」
「好物は?」
「チョコ」
「好きなタイプは?」
「そうさな、胸が大きい子だったかな」
「……そもそも男性?」
「『俺』でいうなら男だ、秋田カナは紛れもなく女だぞ」

1、 たとえば双子がひとつになってしまい男の人格もある
にしてはまるで受け答えが過去のことみたいで変

2、 実験体にされて人格を植え付けられた
この線は薄いかな、彼女と接触した宇宙人はキララぐらいだ。

3、 事故などでどこかの例えば【データ】が彼女に入ってしまった。

「君はカナちゃんの敵?」
「なりえないな、普段から秋田カナは俺の記憶を持ってる」
「……ふーむ」

持っているのが【記憶】ってことはどこかで過ごしてるはずだな。
それに口調からして地球人だろう。
彼は手の平を上に向けてこちらに出してきた。

「俺もきになっていること、聞いていいだろ?」
「……どうぞ」
「さっきのオカタピどこで買える?」

 思ってたのと違う質問きたな。

「あとで通信サイトのデータ渡してあげるよ」
「もう一つ」
「何?」
「あんた子供を人質にされてねぇか?」
「……何故そう思ったの?」
「子供を見せて来た時に【顔を見ながら喋る通信】でもなく写真だった時から」

 頭が中々にいいようだが、これを知って彼女がどう反応するか。
 悲しむといっても深く悲しまなければなんとかなる。
 今目の前にいる者はカナちゃんの何なのか分からん、どうするか。

「確信してる?」
「……ヒコ先生が俺、いやカナにクロノ・スタシスを旦那にしろって無茶苦茶な課題を出してきたからな」
「ああうん、だろうね」
「確かにゴド星人とやらはやべぇだろうけど、もしあんたがゴド星人を地球ごと消す気ならヒコ先生なら必ず自分で動くだろう」

 キララのことを分かり過ぎだな。
 確かにそうだ、そっちのほうが明らかに楽。
 疑問に思ってはいたけれどキララの頼みだから実行はしたのか。

「……そうだね、子供たちは【人質】らしいよ」
「らしい?」
「会わせてもらえないから、生きてるかも分からないんだよ」

 だから、俺は正直もう限界だった。
 キララがいる世界じゃあ滅ぼすわけにいかないよなぁ。
 煙草に火をつけた。

「それ俺にも一本くれよ」
「こんな原始的な火の煙草が欲しい?」
「ああ」

 渡したら手慣れた手つきで煙草を吸われた。
 ライターもちょっとクセのあるもので回転させないと火はつかない。
 地球でも結構な旧式なのに一発で点けた。

「キララは知ってるのか?」
「あとはヒコ先生から聞いてくれ、メモリクラッシュが合言葉だ」
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