原作を知らないblゲーに転生したので生きるため必死で媚びを売る

ベポ田

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プロローグ

2

 

「今、生徒会長こっち見てた?」

 シエルの言葉に、リウーは足元から視線を上げる。
 汗に滑った手のひらをスラックスに擦りつけながら、唇をへの形に曲げた。

「お前が迂闊に名前なんて呼ぶからだろ」
「迂闊にって……聞こえるわけないでしょ。この騒ぎのなかで」
「じゃあ気のせいだ──」

 そこまで言いかけたところで、リウーの視界を丸いフォルムが横切る。
 でっぷりとした後ろ脚と、ピルピル揺れる短い尻尾が人々の足の隙間を縫って遠ざかっていく。

「レイ・ベーカー──!」
「は?どこ⁈」 

 半開きの目を溢れんばかりに見開いて、リウーはその背を追う。
 人波を掻き分けて、転げ落ちるように階段を駆け下りる。「危ねーだろ、モジャモジャ!」とリウーに向けられたであろう罵声に、シエルがヘコヘコ頭を下げる。

「捕……まえた!」
「ブギーーーーッ!」

 放り出された魔術書が、バサバサと音を立てて床に散らばった。
 滑り込むように飛びかかったリウーは、そのまま階段から転げ落ちる。それでもしかと腕に捕らえた犬を、聖杯よろしく高く掲げた。
 
「ようし!捕らえたぞ!手間取らせやがって、今度こそそのぶっとい首に首輪つけて、イヌ避け草が群生する花壇の柵に括り付けてェ!……あとはあとは、履行魔法でグルグル巻きにして、二度と逆らえないように調教してやる!」
「ちょ、ちょっとリウー……」
「皆まで言うな!虐待じゃない、これは愛のムチだ、俺たちの絆の形だ!分かったらシエル、俺のポッケに縄が入ってるからこの凶悪な猛獣をふん縛って──」
「………………」
「おいシエル、シエル!」

 ジタバタと暴れる犬の後ろ脚に蹴られ、引っかかれ。肉球の痕と引っ搔き傷だらけの相貌を擡げて。

「──シエル?」

 階段の踊り場から、顔色の悪いシエルが、激しい身振り手振りで何かを訴えてきていた。
 口パクで、『周り、周り』と言っている。
 指先に従うように、リウーは視線だけで周りの様子を伺う。
 右側に、新入生だろう青年。そして左側に、真っ白なローブに身を包んだ妙な集団。
 皆が皆、皿のように丸い目でリウーを見下していた。

「はぇ?」

 笑みのかたちのまま引き攣った口端から、素っ頓狂な声を漏らす。
 両者の間に割り込むかたちで転がるリウーに、白装束の先頭の青年は、にっこりと典麗な笑みを浮かべた。

「──あなたも、見学希望者ですか?」
「い、いえ……ぶぇ!」
「そうですか」

 ぱか、と開いたリウーの口に、犬の汚れた前脚が突っ込まれる。
 仰け反ったリウーを一瞥して、青年は慇懃な所作で銀縁の眼鏡を押し上げる。

「では勧誘の続きです。是非、私たちの会へ見学にいらしてください」

 眼鏡の奥の瞳は、リウー──正確には、リウーの隣の新入生をじっと見つめている。
 口いっぱいに獣と埃の風味を感じつつ振り返って、リウーは言葉を失った。
 肌は白磁。整えられた銀髪に、重い睫毛の下で瞬くアメジストの瞳。
 雪原を思わせる冷徹な美貌である。
 しかしそんな完璧な相貌に、今は狼狽が滲んでいるように見えた。

「───?」

 ここまでくると、さしものリウーにも状況が見えてくる。
 白いローブは、『聖典を読む会』の象徴。そして文脈からして、今は新入生勧誘の一場面なのだろうが。
 それにしては、いささか熱心すぎるように思える。
 重い前髪の下、陰気な碧眼をギョロギョロ動かして、結局リウーはシエルへと助けを求める。
 シエルが両手で大きなバッテンを作ったまま、ブンブン首を横に振っていた。役に立ちそうにない。

「さあ、パヴロフくん。私たちと一緒に───」

 その間にも、『聖典を読む会』の会員たちはにじり寄ってくる。
 冷や汗が止まらない。ぐるぐる、ぐるぐるとまだら模様が碧眼を渦巻いて。

「パパパパ、パ……ッ!パヴロヒュくん……っ!ぱびろふくんじゃないかッ!」
「!?」
「こんなところにいたのかぁ!探したぞ!さあ園芸部に行こう!すぐ行こう今行こう!」

 すみれ色の瞳が、丸く見開かれる。
 裏返った叫びを上げながら、リウーは新入生の腕を引き寄せていた。
 そして、

「ブギィッ!」

 犬の臀部を人差し指でズムとさす。
 目を剥いて走り出す犬。白装束の包囲網に、一部綻びが生まれる。

「行け!いいぞ!……じゃない!コラ、レイ・ベーカー!全くすみませんねうちの駄犬が!」

 犬のケツを追って、青年の手を引きながら一気に階段を駆け上がる。
 最後に一度、振り返って申し訳程度に頭を下げて。
 踊り場の窓から差し込んだ光が、銀縁メガネに一際鋭く反射する。
 戸惑う会員たちの中でただ一人。
 眼鏡の青年だけが、貼り付けたような穏やかな笑みでリウーたちを眺めていた。

「…………」

 背に感じる寒気に眉を顰め、リウーは前を向く。
 今度こそ、振り返ることはしなかった。
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