歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る

綾森れん

文字の大きさ
23 / 191
Ⅱ、聖女になりたくない公爵令嬢

22、精神操作系ギフトを三つ授かったクロリンダ嬢

しおりを挟む
「おはようございますっ! 公爵夫人のご容態はいかがですか?」

 俺は翌朝、レモネッラ嬢の部屋の前に立つ魔術兵に元気な声で尋ねてみた。

 二人は困ったように顔を見合わせた。それから片方が毅然とした口調で、

「きみに答えることはできない」

 ま、そーだろーな。陽気なキャラにだまされたりはしないよな。

「でも…… レモネッラ様が心配されてるんです――」

 俺は悲しそうにうつむいた。

「我々も分からないんだよ、竜人くん」

 もう一人が少しやわらかい口調で答えてくれた。

「そうなんですか…… 俺がお嬢様の代わりにお見舞いに行って差し上げることはできませんか?」

「だめだ」

 その憮然とした声はうしろから聞こえた。振り返ると執事のトンマーゾが近付いてくる。

「奥様にお会いできるのはアルバ公爵閣下とクロリンダ様、そして魔法医だけだ」

 公爵閣下? この屋敷にいたのかよ…… 影薄すぎだろ。長女に完全に実権にぎられて何してんだ?

「どうして?」

 俺は一応聞いてみる。ちょっと首をかしげてかわいらしく。大人ってぇのはかわいげのある若者が好きなのだ。俺調べ。

「クロリンダ様がお決めになったのだ」

 トンマーゾさんは疲れた顔で答えた。なぜ使用人がこうもクロリンダ嬢に従うのだろうか? その疑問を口にする前に、部屋の中からレモが顔を出した。

「ジュキエーレ様、侍女がホットチョコレートを入れてくれましたわ。一緒に召し上がりましょう」

 まさかの令嬢モードに俺が唖然としていると、

「レモネッラ様、配下の者に敬称は不要です」

 執事が小言を言う。そういえば俺の名前に様つけてたな。

「めんどくさっ」

 本音をもらすとレモは昨日と同じように俺の腕をつかんで、部屋の中に引っ張っていった。

 三階に位置するこの部屋の窓は中庭の木々より高いから、さんさんと朝の光が差し込んでくる。猫足の白いテーブルの上にチョコレートポットとカップ、それから昨日の魔術書が広げられていた。

 魔術書を指さしてレモがウインクする。意味を察した俺はすぐに印を結んで呪文を唱えた。

真空結界ヴオートバリア!」

 空間がざわめいて結界が完成する。無音になった室内で、

「ありがと!」

 レモがにっこりとほほ笑んだ。あたりがぱっと明るくなるような笑顔だった。

「手早く話すわね。魔術兵たちの魔力障壁に対抗して結界維持するの大変だと思うから」

 気をつかってくれる彼女に、

「あ、俺の魔力量むちゃくちゃ多いから平気だよ」

「そうなの!? いくつ?」

「多すぎて測定不能だからよく分かんねえ……」

 驚いて口をつぐんだレモの表情が輝きだした。

「私より魔力量の多い人に出会えるなんて嬉しいわ!」

 レモの魔力量は三万くらいだっけ……。竜人族ならたまに見かけるが、人族だと異常扱いなんだろう。俺は魔力無しで苦労したが、多すぎても受け入れられないんだろうな。突出した個性を持って生まれると生きにくいのがこの世の中なのだ。

「――たとえ私を閉じ込めるために呼ばれた護衛だとしてもね」

 レモが自嘲気味に付け加えた。

「俺はあんたを閉じ込めたいなんて思ってねぇ」

 低い声でつぶやいて、あつあつのホットチョコレートに恐る恐る唇を近づける。生まれてはじめて口にする飲み物だ。

「あら、依頼料受け取れないわよ?」

「構わねえよ」

 換金した魔石は金貨五十枚ほどになった。二ヶ月くらいは働かなくても暮らして行けるだろう。大体俺は、この国に稼ぎに来たわけではない。

「んまっ」

 とろりとしたホットチョコレートとやらは、口に含んだ瞬間にふわっと魅力的な香りが広がって、甘いかと思えばほろ苦い不思議な飲み物だった。貴族ってのは朝食にこんなうめぇもん食ってんのか。

 チョコレートポットの頭から生えたかき混ぜ棒をくるくる回しているレモに尋ねる。

「なあ、なんでどいつもこいつもあんたの姉さん――クロリンダ嬢に従っているんだ?」

 強力な聖魔法を使えるレモネッラ嬢を公爵夫人に会わせないのはおかしい。

「お姉様が持っているギフトのせいね」

「精神操作系のギフトなのか?」

「勘がいいわね」

 レモはにっと笑った。まあ俺もアンジェねえちゃんも精神操作系だしな。

「<支配コントロール><固執オスティナート><我儘エゴイズム>っていう三つを持ってるの」

「精神操作系ばかり三つも!?」

「そうよー」

 レモはけらけらと笑った。

「あの人、魔力量少ないから聖魔法すらほとんど使えないけど、周囲の人間を思い通りに動かせるから無敵よ」

「ギフトなのか、それ……」

「貴族――為政者の家系にはよくあらわれるんだって」

 レモはちょっとまじめな口調で言った。

「ジュキも姉と話したなら分かってるでしょうけど、なぜか言いたいことを言えなくなる圧を感じる、言わない方が面倒が起こらないんじゃないかと思ってしまう、とりあえず黙って引き下がる――」

 確かに……。でも俺の場合は相手が依頼主だったから、当然の行動だと思うのだが。レモは俺の思考を見透かしたように、

「それ以外になすすべはないと相手に思い込ませることができる。実際の身分の高さと相まって強力なギフトだと思うわ、支配コントロールって」

 なるほど。身分が下の者ほどかかりやすいのか。

固執オスティナートは?」

「定めた目標を決してあきらめず、初心を忘れずつねに情熱を燃やし続けられる――というのがポジティブな側面」

 多くのギフトには良い面と悪い面がある。使う人間次第というわけだ。

「姉の場合は復讐心や嫉妬心に固執して永遠に暗い炎を燃やし、偏見に満ちた思い込みを変えることはない。お父様ですらお姉様の考えを改めさせることはできないのよ」

「怖っ」

 アルバ公爵も長女に頭が上がらないってわけか。

「さらに我儘エゴイズムが発動して、とことん自分の幸せを追求するわ。支配コントロールとの相乗効果で、思い通りにならないときは癇癪を起こす、泣きわめく、閉じこもるなどあらゆる手段を使って自分の希望を通すの」

「そいつぁ手ごわいな」

 思わずもらした俺を、レモがじっと見つめる。

「へ?」

 綿のベールコットンボイルにさえぎられて俺の表情は見えないはずだが――

「そういうジュキも何か精神操作系のギフトを持ってるわよね?」

 俺は言葉を失った。この、めちゃくちゃ鋭いな……

「なんで、そんなこと――」

 まだ彼女に手の内は明かしたくない。警戒されると歌声魅了シンギングチャームは効きにくくなる。

「私昨日ちょっとしゃべりすぎたと思ってるの。姉の雇った護衛に心の内を語ってしまうなんて、なんだかおかしいなって気付いたのよ」

 レモは綿のベールコットンボイルごしに俺の目を見つめようとする。

「ジュキの落ち着いたやわらかい声を聞いていると、ついリラックスして心をひらいちゃうんだけど―― きみの声には何か秘密があるの?」

 やばいやばい。核心に迫って来やがった。

「俺のギフトは水魔法アクアともう一つ――」



-----------------



「おいおい、レモネッラ嬢にギフト明かしちまうのか?」
「どうやってごまかすんだろうな?」
「むしろ味方に引き入れられないのか、この公爵令嬢」

等々思っていただけたら、お気に入り追加して下さると更新の励みになります!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

処理中です...