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Ⅲ、身分も種族も超えて二人は惹かれあう

29、なつかしのパーティメンバーと直接対決!

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「ハッ、誰かと思えばお前か、ジュキ」

 イーヴォが俺を見下した口調でのたまった。

「がっかりだぜ。クロリンダ様がSSSランクの竜人冒険者を雇ったなんて言っていたから、久し振りに互角の相手と戦えると思ったのによ、お前とはな」

 ああ、こいつはまだ俺の精霊力がよみがえったことを知らないんだったな。

「いったいどういう手を使ってランク偽装したのか知らないが、今ここで俺様がお前の化けの皮を剥いでやるよ!」

 イーヴォの言葉にうしろでクロリンダが、

「ランク偽装ですって!?」

 と甲高い声をあげたが、まあいい。イーヴォとニコと互角に戦って、俺がSSSランクだってこと証明してやるさ!

 クロリンダのひとりごとには答えず、イーヴォの挑発にも乗らず、

「あんたたち埃だらけじゃないか?」

 俺はイーヴォたち三人のくたびれた旅装に目をやった。

「フン! 節約のため宿に泊まらず歩き続けただけのことよ! 軟弱なお前とは違うからなっ」

 いちいち悪口言わなきゃ気がすまないのか、こいつは。

 うしろからティーカップ片手にレモが顔を出した。

「ジュキ、まさかこの人たちって――」

「ああ、さっき話した同じ村出身のパーティだよ」

「うふっ、じゃあご挨拶しなくちゃね」

「おいレモ――」

 俺の制止も聞かず、レモは左手にカップを持ったままイーヴォたちの前へ進み出た。一見、可憐な美少女に見えなくもないレモにイーヴォが鼻の下を伸ばす。

「うほっ、カワイ子ちゃん。俺様はSランクパーティ『グレイトドラゴンズ』のリーダー、イーヴォ・ロッシだ。そこのシロヘビ野郎と違って俺は強いぜ? このたくましい筋肉と熱いハートでやけどするなよ?」

 さすがグレイトドラゴンズの命名者だけあって、センスのかけらもない誘い文句だ。やけどすんのはあんたのほうだから楽しみにしてなよ。

「はじめまして、イーヴォさん。わたくしはアルバ公爵家の次女で、クロリンダお姉様の妹――」

 どごぉっ

 ぱしゃっ

「ぐわぁっ!」

「あちーっ 目にしみるーっ!」

 あろうことかレモは自己紹介の途中でイーヴォの顔面に右ストレートを繰り出し、同時に左手に持っていたカップからあつあつのハーブティーを、となりに突っ立っていたニコに引っかけたのだ。

「何しやがるこのアマぁ!」

 イーヴォは叫んでこぶしを握りしめると、部屋の中に逃げこんだレモを追おうとするが――

「熱湯」

「うぎょわぁぁぁっ! あぢーっ」

 俺の先制攻撃に飛びすさった。 

「どこに熱湯なんて隠し持っていやがった!」

 上半身を真っ赤にして声を荒らげた。そのうしろでニコは早々に戦線離脱し、サムエレに回復魔法をかけてもらっている。……こいつこんなに弱っちかったっけ?

 だがガキのころから俺をいじめてきたイーヴォは、さすがに熱湯ごときで逃げたりせず、今度は俺を殴ろうとこぶしを振り上げた。 

「氷の盾!」

 顔を守るようにかかげた俺の左手に、透き通る盾が出現した。

 ゴンっ!

 イーヴォのこぶしが氷の盾にめりこんだと思ったら――

「なっ、くっついて来やがった!」

 右手のこぶしに張り付いた盾をぶんぶん振り回す。

 部屋の中から観戦するレモが、

「うわ、なんだか間抜け」

 と、つぶやいたのが聞こえたのか、

聞け、火の精センティ・サラマンドラ!」

 イーヴォは右手に氷のかたまりをくっつけたまま印を結ぼうと頑張っている。

「水よ」

 俺は一言つぶやいて、イーヴォに冷水を浴びせてやった。そういえばガキのころ、冬の小川に突き落とされたっけ。こいつは土手から俺を指さして笑ってやがったんだ。

「雨漏りしてんのか、この屋敷」

 天井を見上げるイーヴォにクロリンダが憤慨した。

「なんて失礼なことを言うの!」

「くそっ、でかい火属性の術を使ってやるぜ!」  

 言うなり悠長に呪文を唱えだした。うーん、俺はぼけーっと立ってるだけのモンスターたちとは違うから、あんたの術が完成するまで待ったりはしないんだけどな。

「凍れ」

 ピシッ、パキッ……

 俺の声に従って、ちんたら呪文詠唱していたイーヴォが文字通り凍りつく。燃えるように赤い髪も土埃にまみれた衣服も、薄氷におおわれ彼の動きを封じた。

「うをを!? なにしやがった!」

「よくまあ俺をだましてダンジョンに置き去ってくれたな?」

 恨みつらみを並べようとした俺の言葉は、レモめがけて部屋へ飛び込んだニコにさえぎられた。

「水よ、かの者を守りたまえ!」

 とっさにレモのほうへ精霊力を飛ばす。彼女の身体を包むように水流のリボンが出現し、きらめきを放ちながら回り始めた。激しい水流にはばまれて、ニコのこぶしは届かない。

「それなら――」

 ニコは目に入った猫足の椅子を持ち上げた。

「氷のつぶてよ!」

 俺の声に従って、ダイヤモンドのきらめきをまき散らしながら無数のひょうがニコに降り注ぐ。

「うわぁ、いてぇっ!」

 たまらず椅子を放り投げて逃げようとしたニコ、絨毯にばらまかれた雹を踏み、すべってバランスを崩した。

「ぐぎゃあ!」

 自分で放り投げた椅子が、寸分たがわず頭上に落ちてくる。

 ニコも強かったのにおかしいな。首をかしげた俺はしかし、うしろからはがいじめにされた。

「悪く思わないでください、ジュキエーレくん!」

「サムエレ!」

 俺はその名を呼んだ。

「僕はきみをとらえろという、クロリンダ様の命令を遂行するだけです!」

「水よ、この者を包みたまえ!」

「うぐぅっ! ぼこぼこ……」

 サムエレの首から上が、大きな水滴に包まれた。俺をつかんでいた両腕から力が抜けていく。しかし――

壌塊斬エルデブレイド!」

 ニコが完成させた地属性の術をレモへ向かって放った!

「凍れる壁よ、かの者を守りたまえ――」

 俺はとっさに精霊力を放つが―― 間に合わない!?



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レモネッラ嬢の命運やいかに? 次話に続く!
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